デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

4月でなくても「パリの四月」を吹いたサド・ジョーンズ

2012-04-08 09:08:53 | Weblog
 ビッグバンドには毎晩演奏する十八番が何曲かある。そのほとんどは聴衆を沸かすアレンジの仕掛けがあり、たとえ1週間続けて聴いたとしても飽きないし、待ってましたとばかりに出てくソロイストが同じであっても愉しめるのがビッグバンドの魅力だろう。「ワン・モア・タイム」というカウント・ベイシーの威勢のいい掛け声で何度も繰り返されるエンディングが有名な「パリの四月」はベイシー楽団に欠かせないナンバーだ。

 そのバンドで9年間に亘り、この曲でソロを吹いたのはサド・ジョーンズである。「毎晩同じ曲ばかり吹いて飽きないのか」とまでお客に言われたそうだが、飽きるどころか益々この曲に魅力を感じたようで自身のリーダーアルバム「ザ・マグニフィセント」でもトップに持ってきたほどだ。ブルーノートには同タイトルの「Vol.3」があることから「鳩のサド・ジョーンズ」と呼ばれているアルバムである。因みに「Vol.3」はブルーノートでの3枚目の作品という意味でナンバーが振られたもので「Vol.2」は存在しない。その昔、「Vol.2」の存在を信じて探し回ったコレクターもいたそうだが、ややこしいナンバー付けはマニア泣かせである。

 ベイシー楽団のこの曲のアレンジはオルガン奏者のワイルド・ビル・デイヴィスだったが、このアルバムでは自身が編曲を施しており並々ならぬ意欲が窺えるし、この曲に対する愛情の深さを感じさせる演奏だ。サドの艶やかで張りのあるトランペットと、控えめながら一本筋の通ったビリー・ミッチェルのテナーが織り成すテーマは原曲に忠実で、基本を大事にしているのが分かる。そしてソロの冒頭でベイシーバンドで受けたイギリス民謡の「ポップ・ゴーズ・ザ・ウィーゼル」を敢えて引用しているのが面白い。ベイシー楽団のナンバーであってもサド・ジョーンズの存在がなければ十八番になりえないことを証明したといえよう。

 同楽団で一緒に仕事をしたフランク・フォスターは、「サドは基本に忠実なプレイをすることで有名だった。だからビッグバンドで優秀なトランペッターとして名を馳せることができた」と言った。この基本がのちにメル・ルイスと組んだビッグバンドの成功につながっているし、ベイシー亡き後のベイシー・オーケストラのリーダーとしての活躍にも結びついている。基本に忠実なプレイは毎晩聴いても新鮮だ。
コメント (12)
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