デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

オレだってジャズをやれるさ、とドン・ランディはブルースを弾いた

2011-05-22 08:02:58 | Weblog
 「ベイクドポテト」から何を連想するだろうか。90%の方は表面がカリカリに焼き上がったジャガイモの料理を浮かべることだろう。欧米の料理だが、日本でも広く行き渡りレストランやご家庭の食卓で舌鼓を打ったことがあるかもしれない。9%の人は、ベイクドポテト派とも呼ばれるリー・リトナーをはじめとする70年代を席捲したフュージョンのサウンドが聴こえ、そして少数派の1%のへそ曲がりが挙げるのは・・・

 ロサンゼルスのジャズクラブ「ベイクドポテト」のオーナー、ドン・ランディだ、という何の根拠もない集計が出た。若い頃からドンと呼ばれたランディはジャズファンよりも、ロック史上屈指の名盤といわれるビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」や、ナンシー・シナトラのレコーディングでポップスファンにつとに有名なピアニストだ。そのランディが、オレだってジャズを弾けるさぁ、と言ってパシフィックに吹き込んだのが「Feelin' Like Blues」で、タイトル通り延々とブルースを弾きまくっている。自作のタイトル曲の何と気持ちの良いこと、泥臭くなく、重くなく、それでいてブルースのツボを押さえてスウィングするピアノは誰かに似てはいないか。

 そう、巧みなブロックコードはガーランドを思わせ、強力な右手のシングルトーンはジーン・ハリスを彷彿させる。録音は60年だが、もし70年代以降に初めて聴くと、あぁ、これは日本のピアニストだなぁ、と90%の人は思うだろう。それほど日本人の琴線に触れる演奏だ。「チーク・トゥ・チーク」の高揚するアドリブが素晴らしく、憧れの女性と頬寄せ踊る喜びにあふれ、聴いているこちらは、歌詞のようにまるで天国にいるような気分にさえなる。惜しむらくはジャズセンスのないサイドメンで、おそらく同僚のスタジオミュージシャンと思われる。もしスタジオの仲間でも抜群のテクニックを誇るキャロル・ケイとハル・ブレインがバックだったなら、ピアノトリオの名盤に数えられただろう。

 最近、あるホテルのレストランでベイクドポテトを食べる機会があった。料理は見た目の美しさも重要で、白い皿に盛り付けられたジャガイモの存在感と、中に詰められたベーコンとそれにアクセントを付けるバターとパセリの彩りが食欲を誘う。甘い香りと味はワインとの相性も良く、気分までリッチになったものだが、ホテルを出たあと、居酒屋の暖簾を見たとたん肉じゃがが恋しくなった。お袋の味はブルースに似ているかもしれない。
コメント (34)
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