義妹宅でトランプの ron (「ラム酒」、セブン・ブリッジのこと)をしたことは前回述べた。トランプのことは naipe または bajara(バラハ)ということも述べた。
今回はトランプ用語について紹介する。カードには4種類(スート、suit。スペイン語では palo というが、第一義は「棒」で、palo というと、もっぱらこの意味で使う)あるが、それぞれの名前を以下に記す。
スペード espada(剣、英 spade の関連語)
ハート copa (聖杯、英 cup に相当)。corazón(コラソン、「ハート」)ではない。
ダイヤ oro (金)。diamante 「ダイヤモンド」ではない。
クラブ basto (棍棒)
【字札は1~7まで。合計40枚。これはイタリア式。】
スート(suit)についてはウィキペディア「スート」をご覧いただきたい。中国語では「スペード」は「黒桃」、「ハート」は「紅桃」と呼ばれる、等の興味深い記述が見られる。
さて、上の写真のようなものが、もともとのデザインのようで、このころの言葉が今も残っているということだろう。筆者がコスタリカで見たのは日本でも使われているような一般的なもの(英米式)だった。
2から10までの字札の呼び方は、普通にスペイン語の数詞(基数)を使えばよい。
1はエース(ace)だが、スペイン語では as(アス)という。実は、英語でも昔は「アス」のように発音されていたようである。現在の英語で「アス」に聞こえるのは us をまず思い浮かべるだろうが、日本人に「アス」と聞こえる単語は他にもある。それは、arse だが、これは形を変えて ass になり、もっぱらこちらの方がよく使われているのではなかろうか(翻訳は差し控える)。
そういえば、シェークスピアのころの ace の発音は arse に近かったのだろう、ace と arse (ass)をかけたセリフが「夏の夜の夢」か何かに出てきたように記憶しているが、何せ40年以上も昔のことなので、定かではない。
義妹のアメリカ人の旦那が as(英 ace)という言葉で何を連想するか、聞いてみればよかった。
絵札に移る。
king はそのままスペイン語に直訳して rey である。queen は直訳すると reina である。女房殿もこれでいいと言っていた。一方、チェスのクイーンは dama(貴婦人、英 dame)ともいうらしいが、トランプでも dama でいいのだろうか。問題はジャックである。どう訳すのか、興味深々だったが、jota(ホタ)というので、拍子抜けしてしまった。jota とはアルファベットの J のスペイン語読みである。
もっと調べてみると、スペインのトランプは字札は1~9までで10はない。10 が sota (従者)、11 が caballo(カバージョ、オス馬)、12 が rey (王)とのことである。また、字札も8,9は使わないことが多いらしい。こうなると、イタリアのトランプと同じになる(詳しくはウィキペディアの「トランプ」を参照)。
【合計48枚。このタイプがポルトガル人によって日本に持ち込まれ、その後、これをもとに花札が発明されたとか。詳しくはウィキペディア「花札」を参照されたい。さらに、花札は韓国にも伝わり、花闘(ファトゥ)になった。デザインは日本のものとほとんど同じだが、梅にウグイスではなく、カササギになっていたり、柳に小野道風ではなく、韓国服を着た人物になったりしている。詳しくは「韓国花札」をご覧いただきたい。】
トランプに戻る。10 の sota が英米式の jack に当たるはずだが、jack の頭文字の j に引かれて、sota が jota になったということだろうか。
ちなみに、英語の jack は人名 Jack の転用で、「少年」という意味にもなっている。手元の辞書によると、トランプの「ジャック」は knave(独 Knab)ともいうらしい。そうすると、ジャックは muchacho と訳してもいいのではなかろうか。J の文字を生かすのならば、joven(ホベン、「若者」。英 juvenile は関連語)という手もある。
11 が「女王」ではなく、「メス馬」(yegua、ジェグア)でもなく、「オス馬」というのがとても興味深いが、絵札が全部男になってしまうので、ちょっと味気ない。
ジョーカー(joker)は comodín(コモディン、「必要なときに役立つもの、代用品」が原義。cómodo「快適、便利」の関連語。英語の commodity も関連語)というが、ron ではジョーカーは使わないので、なじみがない。今回、調べてみて、初めてわかった。
ちなみに joker は joke の関連語だが、スペイン語では jugar(フガール)が語源を同じくする。スペイン語の jugar は意味の上では英語の play に当たる。英語の joke は手元の辞書では「冗談」が第一義になっているが、第二義に「悪ふざけ」というのも載っている。英語の joke はスペイン語の jugar より、意味の範囲が狭いのである。
さて、現在コスタリカで使われているトランプは英米式のものだが、これは決して世界標準ではない、ということがわかった。スペインから移民がコスタリカにやってきたときは、スペイン式のトランプを携えてきたことだろう。それがいつの間にかアメリカナイズされて、英米式のものに取って代わられたということだろうが、スペイン式のトランプが駆逐されていったのはいつごろのことだったのだろうか。
また、一つ謎が深まったのである。
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今回はトランプ用語について紹介する。カードには4種類(スート、suit。スペイン語では palo というが、第一義は「棒」で、palo というと、もっぱらこの意味で使う)あるが、それぞれの名前を以下に記す。
スペード espada(剣、英 spade の関連語)
ハート copa (聖杯、英 cup に相当)。corazón(コラソン、「ハート」)ではない。
ダイヤ oro (金)。diamante 「ダイヤモンド」ではない。
クラブ basto (棍棒)
【字札は1~7まで。合計40枚。これはイタリア式。】
スート(suit)についてはウィキペディア「スート」をご覧いただきたい。中国語では「スペード」は「黒桃」、「ハート」は「紅桃」と呼ばれる、等の興味深い記述が見られる。
さて、上の写真のようなものが、もともとのデザインのようで、このころの言葉が今も残っているということだろう。筆者がコスタリカで見たのは日本でも使われているような一般的なもの(英米式)だった。
2から10までの字札の呼び方は、普通にスペイン語の数詞(基数)を使えばよい。
1はエース(ace)だが、スペイン語では as(アス)という。実は、英語でも昔は「アス」のように発音されていたようである。現在の英語で「アス」に聞こえるのは us をまず思い浮かべるだろうが、日本人に「アス」と聞こえる単語は他にもある。それは、arse だが、これは形を変えて ass になり、もっぱらこちらの方がよく使われているのではなかろうか(翻訳は差し控える)。
そういえば、シェークスピアのころの ace の発音は arse に近かったのだろう、ace と arse (ass)をかけたセリフが「夏の夜の夢」か何かに出てきたように記憶しているが、何せ40年以上も昔のことなので、定かではない。
義妹のアメリカ人の旦那が as(英 ace)という言葉で何を連想するか、聞いてみればよかった。
絵札に移る。
king はそのままスペイン語に直訳して rey である。queen は直訳すると reina である。女房殿もこれでいいと言っていた。一方、チェスのクイーンは dama(貴婦人、英 dame)ともいうらしいが、トランプでも dama でいいのだろうか。問題はジャックである。どう訳すのか、興味深々だったが、jota(ホタ)というので、拍子抜けしてしまった。jota とはアルファベットの J のスペイン語読みである。
もっと調べてみると、スペインのトランプは字札は1~9までで10はない。10 が sota (従者)、11 が caballo(カバージョ、オス馬)、12 が rey (王)とのことである。また、字札も8,9は使わないことが多いらしい。こうなると、イタリアのトランプと同じになる(詳しくはウィキペディアの「トランプ」を参照)。
【合計48枚。このタイプがポルトガル人によって日本に持ち込まれ、その後、これをもとに花札が発明されたとか。詳しくはウィキペディア「花札」を参照されたい。さらに、花札は韓国にも伝わり、花闘(ファトゥ)になった。デザインは日本のものとほとんど同じだが、梅にウグイスではなく、カササギになっていたり、柳に小野道風ではなく、韓国服を着た人物になったりしている。詳しくは「韓国花札」をご覧いただきたい。】
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ちなみに、英語の jack は人名 Jack の転用で、「少年」という意味にもなっている。手元の辞書によると、トランプの「ジャック」は knave(独 Knab)ともいうらしい。そうすると、ジャックは muchacho と訳してもいいのではなかろうか。J の文字を生かすのならば、joven(ホベン、「若者」。英 juvenile は関連語)という手もある。
11 が「女王」ではなく、「メス馬」(yegua、ジェグア)でもなく、「オス馬」というのがとても興味深いが、絵札が全部男になってしまうので、ちょっと味気ない。
ジョーカー(joker)は comodín(コモディン、「必要なときに役立つもの、代用品」が原義。cómodo「快適、便利」の関連語。英語の commodity も関連語)というが、ron ではジョーカーは使わないので、なじみがない。今回、調べてみて、初めてわかった。
ちなみに joker は joke の関連語だが、スペイン語では jugar(フガール)が語源を同じくする。スペイン語の jugar は意味の上では英語の play に当たる。英語の joke は手元の辞書では「冗談」が第一義になっているが、第二義に「悪ふざけ」というのも載っている。英語の joke はスペイン語の jugar より、意味の範囲が狭いのである。
さて、現在コスタリカで使われているトランプは英米式のものだが、これは決して世界標準ではない、ということがわかった。スペインから移民がコスタリカにやってきたときは、スペイン式のトランプを携えてきたことだろう。それがいつの間にかアメリカナイズされて、英米式のものに取って代わられたということだろうが、スペイン式のトランプが駆逐されていったのはいつごろのことだったのだろうか。
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