N君はその実績から、某地方の陶芸展の審査員を一回務めた。 展覧会についての会議上、彼は審査員の一人として意見を求められた。ここで素直なのか日本という国を判っていないのか、N君は入選作が、ある技法に偏っているのではないか、と正直に発言した。「だって思ったこといえっていうから」。(N君談) その技法というのは、この会を牛耳る某作家と同種の技法であり、入選基準にも、その権力が及んでいる、ということを示している。その一言で、彼が審査員を務めたのは一回きりということになってしまった。しかし彼の意見が風穴を開けたせいなのかどうか、定年後も会の重要ポストに居座ろうとした某作家は、おそらく相撲協会の物議をかもした選挙のような場で、勇気をもって立ち上がった会員のおかげで、引退を余儀なくされ、隠居的立場に置かれることになった。N君はというと、「あの時は良くいってくれた」。と他の会員に感謝されただけである。 もしかしたらしっかり者の奥さんには怒られたかもしれないが、N君の実力からすれば、どうということはない出来事であり、これだから彼と飲む酒は相も変わらず楽しい、と再認識した私である。 数は力なりとは、どの世界においても同様であり、担ぎ手が多く、また優秀な人材が増えれば担がれた御神輿も自動的に高く上がり、そのかわり御神輿の下にいれば雨風を避けられるようになっている。よって日本では先生を越えられないシステムになっていて、越えるとバランスが崩れ、不都合が起きるようにできている。おかげで先生の死を待つことになり、サスペンスドラマでは家元がよく殺されている。 私が家元ならパーティーの席では、飲み物に絶対口をつけない。
過去の雑記
HOME