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アイズ ワイド シャット

2013年04月23日 23時49分06秒 | 洋画2000年

 ◇アイズ ワイド シャット(1999年 アメリカ、イギリス 159分)

 原題 Eyes Wide Shut

 staff 原作/アルトゥール・シュニッツラー『夢小説』

     監督・製作/スタンリー・キューブリック 

     脚本/スタンリー・キューブリック フレデリック・ラファエル

     撮影/ラリー・スミス 美術/レスリー・トムキンズ ロイ・ウォーカー

     音楽/ジョスリン・プーク 衣装デザイン/マリット・アレン

 cast トム・クルーズ ニコール・キッドマン シドニー・ポラック ヴィネッサ・ショー

 

 ◇ファック

 のっけから困ったもんだけど、

 そもそも題名の「Eyes Wide Shut」の意味ってなんだろう?

 実は、そんなものは、ない。

 英語の慣用句で「eyes wide open」ってのは、ある。

「目ん玉、おっぴろげて、しっかり見ろい」

 てな意味になるらしく、これと反対に「eyes shut tight」ってのがあって、

「ぎゅっと目を瞑ってな」

 てな意味になる常套句も、ある。

 けど「Eyes Wide Shut」なんていう言葉は、ない。

「目を大きく瞑って」

 とか、いわないもんね。

 じゃ、なんでまたキューブリックは、こんなありえない言葉を題名にしたんだろ?

 ま、想像するに、

「ほんとは、目ん玉ひん剥いて見たいんだろうけど、見ないでちょーだいね」

 っていう意味になるんだろう、たぶん。

 世の中には見てもいいものと、決して見てはいけないものがある。

 それは、

 足を踏み入れてもいいところと、決して入ってはいけないところがある、

 っていうのと、ほぼおんなじだ。

 知りたいんだろうけど、知ったらあかんこと。

 ほんとはあるんだけど、あったらあかんもの。

 それって、誰もが本能的に、

 見たいし、知りたいし、入りたいし、触りたいし、体験したい。

 なにかっていえば、おとなだったら誰でも想像がつくとおり、

 性の深淵、だ。

 この映画でいえば、黒マント仮面乱交変態パーティ、となる。

 こんなふうに書くと、なんだかキワモノ作品みたいになるけど、

 宴に参加しているのは社会的にも経済的にも恵まれた紳士淑女で、

 もちろん、そこらの会員制秘密変態倶樂部なんぞとは比べ物にならない。

 ましてや、巷にあるカップル喫茶みたいに、誰でも会員になれるところじゃない。

 参加条件に満たない者は口にするのも憚られる、

 いや、存在してはならない宴なのだ。

 つまり、Eyes Wide Shut。

 だから、仮面ひとつにしても、そんじょそこらの意匠じゃないわけで、

 ニコール・キッドマンとの間で、倦怠期にさしかかったトム・クルーズが、

 偶然に彷徨いこんでしまったこと自体、罪になる。

 そういう、妖しくもおぞましいところが舞台になる作品の映像化なんだけど、

 まあ、さすがにキューブリックだから、非常に節度が保たれ、品が好い。

 内容が内容だけに、ぞくぞくするような緊迫感よりも好奇心の方が勝ってしまう分、

 ゆるい作品に仕上がってしまったのかもしれないね。

 ま、そんなところで、筋らしい筋があるわけではなくて、

 妻の不倫を妄想して娼婦を買い求めて深夜の街を彷徨い歩く男が、

 ふとしたことで紛れ込んでしまった仮面の宴を忘れられず、

 そこにふたたび潜入して咎められ、自宅で待っていた妻に、

 ふたりに必要なものはいったいなんなのか、

 世の男と女の絆とはなんなのかって、

 いちばん大切なあることを突きつけられるられる話なんだけど、

 最後のキッドマンのひと言が、このキューブリックの遺作を明解に物語ってる。

「Fuck」

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