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ダンスとか。

BABY-Q 『私はそそられる』

2008-01-27 | ダンスとか
中宮・大阪市立芸術創造館、昼。
東野祥子はどんどん巧い演出家になってきている。ダンステクニックを身につけた出演者が多く集まっているものの、振付の面白さよりも演出の面白さ。巨大な顔が映し出されたカーテンが落ちると、いきなり性別不詳の大柄な人物が佇んでおり、その周囲に、逆光とスモークの中を女たちが跳ね回るという冒頭から、アッ、と引きずり込まれてしまう。全体にデヴィッド・リンチっぽすぎるのが気になるといえばなるのだが(『インランドエンパイア』と『マルホランドドライヴ』)、ベッドや鏡、女性の集団、男性の集団、性別不詳の人物、そして東野のソロなど、限られた量の要素がヴァリエーションを伴いつつ世界観を見せていく構成に緊張感がずっと持続する。女性の集団に対して男性の集団が暴力を振るっているらしき光景が舞台奥の空間からのぞき見えたり、プロジェクターの文字が鏡を経由して反転したまま動き回ったり、演劇的なナラティヴがギリギリのところまで仄めかされたり、ダンスでは例外的ともいえるほど演出のアイディアは豊富で、なるほど、そんなこともできるのか、などと思いながら見ていた。唐突にウサギの着ぐるみと、酔っ払いのサラリーマンみたいなのが出てくる場面も、数年前の作品だったらたちまち空中分解していたと思うが、ここではシリアスな流れに挿入された異物としての効果を見事に生んでいる。東野のソロは主に二箇所。個人的には東野の踊りに引っかかったことはなかったのだけれども、中盤過ぎ、片足をスコンと払った瞬間に後からピアノの音が入って、バレエを基調とした固く壮絶な踊りが始まり、これは凄いダンサーがいるぞと思ってよく見たら東野だった。シャープな長い線で周囲を激しく切り裂きながら、危うく崩れかけるバランスで渡り歩いていく、新境地。演劇的な演出を排除した抽象的なソロダンスを見てみたい気がする。
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