毎年、秋になると医学系雑誌ではインフルエンザ関係の特集が組まれたり、書籍が出版されます。
知識をアップデートすべく、何冊か購入して読むことが私の中で年中行事化しています。
さて、「月刊薬事2018年10月号」に「流行シーズン目前! インフルエンザ予防から治療までのホント」という特集が目にとまりましたので購入して呼んでみました。
企画は菅谷憲夫Dr.(けいゆう病院)で、言わずと知れたインフルエンザのオピニオン・リーダーです。
菅谷先生の担当した「薬剤師が知るべきインフルエンザのポイント」は、とても役立つ内容でしたので、メモしておきます(緑字部分)。
究極のポイントは、成人に関しては
「ワクチンはA香港型には効きが悪いので、抗インフルエンザ薬の予防投与を積極的に検討すべきシーズンになる」
でしょうか。
しかし添付文書上、予防投与の対象は限定されているので、小児に関しては菅谷先生の言う通りにはなりません。
・インフルエンザは毎年冬季に流行を繰り返し、人工の5〜10%が罹患する。日本では600万〜1200万人の患者が出ていることになる。死亡者の大多数を高齢者が占め、毎年数千人〜数万人が死亡する。
あれだけマスコミが騒いでも、多くて国民の10%なのですね。
1918年に流行したスペイン風邪は5億人が罹患(その時の世界人口は20億人・・・つまり25%!)し、5000万人が死亡したと伝えられています。
・オセルタミビル(タミフル®)は「合併症のない発症後48時間以内のインフルエンザ患者」に適応が認められている薬であり、「合併症のある重症患者、発症後48時間以降の患者」は適応外である。
欧米では風邪を引いたときは“stay home”、つまり健康者は家庭で安静にして治るのを待つ、という考えが浸透しており、治療開始が発症後3〜6日と遅れるため著しく効果が低い。
日本ではインフルエンザ流行期には発熱するとすぐに医療機関を受診してインフルエンザ迅速診断を受け、陽性なら抗インフルエンザ薬を処方されることがふつうです。
しかし諸外国ではこのような医療は行われていません。
欧米では「熱が出たら自宅安静、よくならなかったら病院受診」がふつうとのこと。
ですから、病院を受診する頃にはすでに発症後48時間が過ぎてしまっており、タミフル®の使用タイミングを逃しているというのが現状であり、これが新型インフルエンザが流行した2009年に死亡率を上げた理由の一つであると指摘されています。
・タミフル®投与により、無治療のインフルエンザ患者では罹病期間5日のところ4日に短縮され、下気道感染症(気管支炎や肺炎)が40%減少し、入院も60%減ることが期待される。
タミフル®の効果と限界を知って正しく使うことが重要ですね。
・インフルエンザワクチンを接種すると、約50%の発症予防効果があるが、A香港型には効果が低い。現行不活化ワクチンの効果を小児・成人別に記すと・・・
<小児>
① 小児では全体的に50%程度の発病防止効果がある。A(H1N1)pdm09では高く、B型はやや低めであるが、変異したA香港型においても30〜40%の効果が期待できる。
② ワクチン接種により、50%以上の高い入院防止効果がみられた。
③ 1歳未満の乳児には効果がなかった。
<成人>
① A(H1N1)pdm09とB型には50%前後の発病防止効果があるが、A香港型には低い(特に高齢者)。
② 健康成人であっても、発病防止効果は30〜40%と高くはない。
インフルエンザワクチンの発症予防効果は、他のワクチンに比べると寂しいほど低いです。例えば、麻疹(はしか)や風疹(三日ばしか)のワクチン(MRワクチン)の発症予防効果は95%です。インフルエンザワクチンはこの半分位しかありません。
これは、「予防効果を高くすると副反応が強くなる」というワクチン共通の性質があるため、日本人が「効果が低くても副反応が少ないワクチン」を選択したという要素も指摘されています。
少し詳しく言うと、不活化ワクチンの効果を高めるためにはアジュバントと呼ばれる免疫賦活剤の添加が必要なのですが、現行の不活化ワクチンにはこれが含まれていないのです。
そのため、まだインフルエンザに罹ったことのないまっさらな状態の乳幼児に接種しても免疫を造ることができません。だから1歳未満の効果は期待できません。
一度自然感染して免疫がある人は、ワクチンを打つことによりそれが強くなるので効果があるというカラクリです。
・A香港型インフルエンザに対してワクチン効果が低い原因は、ワクチン製造の際の“鶏卵内での抗原変異”である。
最近、A香港型ウイルスは鶏卵内での増殖が悪くなり、流行ウイルスと抗原性の一致したA香港型ウイルスも、鶏卵で培養すると鶏卵内で増殖性の高いウイルスが選択されて、結果的に抗原性に変化を起こしてしまうことがわかってきた。
インフルエンザワクチンには4つのウイルス株が含まれています。その株選定は、WHOが流行しているウイルスを検討し、それに近い株を選択して推奨します。各国がそれを元に自国で使用可能な近似株を選択して鶏卵内で培養して造っています。
WHOの選択が誤り、流行株とワクチン株の差が大きいとワクチン効果が低くなります。
今まではこの「流行株とワクチン株が合っているかどうか」が議論の中心でした。
しかし近年、選択したワクチン株は流行株に合っているはずなのに、効果が低いと報告されるようになり、「?」と検討したところ、培養する鶏卵の内部で変異が起こっていることが判明したのです。
5年ほど前、初めてこれを知ったとき、衝撃を受けました。
ホントにインフルエンザ・ウイルスって、賢いというか、たくましいというか・・・。
・A香港型が流行した場合はワクチンによる効果が期待できないため、抗インフルエンザ薬による予防を積極的に検討すべきである。
昨シーズンは積極的にワクチンを接種している高齢者施設でも流行が報告されました。これはA香港型に対する効果が低い影響が考えられます。
ハイリスク患者と認定される高齢者に対しては、抗インフルエンザ薬の予防投与がより一般的になることが予想されます。
しかし、施設で小流行が繰り返されると、予防投与が長期間にわたる恐れも出てきますね。
・高齢者用のインフルエンザワクチンとして、最も期待されるのが「高用量不活化ワクチン」である。ウイルスたんぱく量がスタンダードの不活化ワクチンの4倍含まれている。
しかし現時点では日本で認可されておらず、流通していません。
・経鼻生ワクチン(Live Attenuated influenza vaccine: LAIV)は無効であり、アメリカでは2016-17、2017-18シーズンは使用中止となった。今シーズンも、アメリカ小児科学会は使用を勧めていない。
不活化ワクチンの効果不足を補うはずだった生ワクチンが苦戦しています。
こちらは、既に罹って免疫のあるヒトに対する上乗せ効果が少ない可能性等が指摘されていますが、まだその理由は正確に分析されていません。
知識をアップデートすべく、何冊か購入して読むことが私の中で年中行事化しています。
さて、「月刊薬事2018年10月号」に「流行シーズン目前! インフルエンザ予防から治療までのホント」という特集が目にとまりましたので購入して呼んでみました。
企画は菅谷憲夫Dr.(けいゆう病院)で、言わずと知れたインフルエンザのオピニオン・リーダーです。
菅谷先生の担当した「薬剤師が知るべきインフルエンザのポイント」は、とても役立つ内容でしたので、メモしておきます(緑字部分)。
究極のポイントは、成人に関しては
「ワクチンはA香港型には効きが悪いので、抗インフルエンザ薬の予防投与を積極的に検討すべきシーズンになる」
でしょうか。
しかし添付文書上、予防投与の対象は限定されているので、小児に関しては菅谷先生の言う通りにはなりません。
・インフルエンザは毎年冬季に流行を繰り返し、人工の5〜10%が罹患する。日本では600万〜1200万人の患者が出ていることになる。死亡者の大多数を高齢者が占め、毎年数千人〜数万人が死亡する。
あれだけマスコミが騒いでも、多くて国民の10%なのですね。
1918年に流行したスペイン風邪は5億人が罹患(その時の世界人口は20億人・・・つまり25%!)し、5000万人が死亡したと伝えられています。
・オセルタミビル(タミフル®)は「合併症のない発症後48時間以内のインフルエンザ患者」に適応が認められている薬であり、「合併症のある重症患者、発症後48時間以降の患者」は適応外である。
欧米では風邪を引いたときは“stay home”、つまり健康者は家庭で安静にして治るのを待つ、という考えが浸透しており、治療開始が発症後3〜6日と遅れるため著しく効果が低い。
日本ではインフルエンザ流行期には発熱するとすぐに医療機関を受診してインフルエンザ迅速診断を受け、陽性なら抗インフルエンザ薬を処方されることがふつうです。
しかし諸外国ではこのような医療は行われていません。
欧米では「熱が出たら自宅安静、よくならなかったら病院受診」がふつうとのこと。
ですから、病院を受診する頃にはすでに発症後48時間が過ぎてしまっており、タミフル®の使用タイミングを逃しているというのが現状であり、これが新型インフルエンザが流行した2009年に死亡率を上げた理由の一つであると指摘されています。
・タミフル®投与により、無治療のインフルエンザ患者では罹病期間5日のところ4日に短縮され、下気道感染症(気管支炎や肺炎)が40%減少し、入院も60%減ることが期待される。
タミフル®の効果と限界を知って正しく使うことが重要ですね。
・インフルエンザワクチンを接種すると、約50%の発症予防効果があるが、A香港型には効果が低い。現行不活化ワクチンの効果を小児・成人別に記すと・・・
<小児>
① 小児では全体的に50%程度の発病防止効果がある。A(H1N1)pdm09では高く、B型はやや低めであるが、変異したA香港型においても30〜40%の効果が期待できる。
② ワクチン接種により、50%以上の高い入院防止効果がみられた。
③ 1歳未満の乳児には効果がなかった。
<成人>
① A(H1N1)pdm09とB型には50%前後の発病防止効果があるが、A香港型には低い(特に高齢者)。
② 健康成人であっても、発病防止効果は30〜40%と高くはない。
インフルエンザワクチンの発症予防効果は、他のワクチンに比べると寂しいほど低いです。例えば、麻疹(はしか)や風疹(三日ばしか)のワクチン(MRワクチン)の発症予防効果は95%です。インフルエンザワクチンはこの半分位しかありません。
これは、「予防効果を高くすると副反応が強くなる」というワクチン共通の性質があるため、日本人が「効果が低くても副反応が少ないワクチン」を選択したという要素も指摘されています。
少し詳しく言うと、不活化ワクチンの効果を高めるためにはアジュバントと呼ばれる免疫賦活剤の添加が必要なのですが、現行の不活化ワクチンにはこれが含まれていないのです。
そのため、まだインフルエンザに罹ったことのないまっさらな状態の乳幼児に接種しても免疫を造ることができません。だから1歳未満の効果は期待できません。
一度自然感染して免疫がある人は、ワクチンを打つことによりそれが強くなるので効果があるというカラクリです。
・A香港型インフルエンザに対してワクチン効果が低い原因は、ワクチン製造の際の“鶏卵内での抗原変異”である。
最近、A香港型ウイルスは鶏卵内での増殖が悪くなり、流行ウイルスと抗原性の一致したA香港型ウイルスも、鶏卵で培養すると鶏卵内で増殖性の高いウイルスが選択されて、結果的に抗原性に変化を起こしてしまうことがわかってきた。
インフルエンザワクチンには4つのウイルス株が含まれています。その株選定は、WHOが流行しているウイルスを検討し、それに近い株を選択して推奨します。各国がそれを元に自国で使用可能な近似株を選択して鶏卵内で培養して造っています。
WHOの選択が誤り、流行株とワクチン株の差が大きいとワクチン効果が低くなります。
今まではこの「流行株とワクチン株が合っているかどうか」が議論の中心でした。
しかし近年、選択したワクチン株は流行株に合っているはずなのに、効果が低いと報告されるようになり、「?」と検討したところ、培養する鶏卵の内部で変異が起こっていることが判明したのです。
5年ほど前、初めてこれを知ったとき、衝撃を受けました。
ホントにインフルエンザ・ウイルスって、賢いというか、たくましいというか・・・。
・A香港型が流行した場合はワクチンによる効果が期待できないため、抗インフルエンザ薬による予防を積極的に検討すべきである。
昨シーズンは積極的にワクチンを接種している高齢者施設でも流行が報告されました。これはA香港型に対する効果が低い影響が考えられます。
ハイリスク患者と認定される高齢者に対しては、抗インフルエンザ薬の予防投与がより一般的になることが予想されます。
しかし、施設で小流行が繰り返されると、予防投与が長期間にわたる恐れも出てきますね。
・高齢者用のインフルエンザワクチンとして、最も期待されるのが「高用量不活化ワクチン」である。ウイルスたんぱく量がスタンダードの不活化ワクチンの4倍含まれている。
しかし現時点では日本で認可されておらず、流通していません。
・経鼻生ワクチン(Live Attenuated influenza vaccine: LAIV)は無効であり、アメリカでは2016-17、2017-18シーズンは使用中止となった。今シーズンも、アメリカ小児科学会は使用を勧めていない。
不活化ワクチンの効果不足を補うはずだった生ワクチンが苦戦しています。
こちらは、既に罹って免疫のあるヒトに対する上乗せ効果が少ない可能性等が指摘されていますが、まだその理由は正確に分析されていません。