ワクチンは人体の免疫システムに刺激を与えて、病原体に対抗する抗体を作らせる医薬品であることは皆さんよくご存知のこと。
しかし、作られる抗体にはたくさんの種類があり、感染症に有利に働く抗体(中和抗体など)だけを作るわけではないようです。
過去には感染を予防するのではなく、なんと感染を誘導して重症化したという記録が残っているのです。
医療関係者の間ではデング熱ワクチンが有名です。
熱帯地方で流行するウイルス感染症ですが、
このワクチンを接種された人々が実際にデング熱に罹った場合、
より重症化することが判明し、ワクチンは中止されました。
ちなみにデング熱において「二度目の感染が重症化する」現象は自然感染でも確認されています。
ワクチンだけが悪いわけではありません。
それから、完成には至りませんでしたが、
2003年から流行したSARSのワクチン開発の過程で、
動物実験レベルで同じ事象が観察されたと聞いています。
今回の新型コロナワクチンではADEは話題には上るものの、まだ結論めいた記述を目にしたことはありません。
現時点では現象としては観察されていないようです。
今後もアンテナを張り続けて情報収集する所存です。
参考になる記事を紹介します。
■ 副反応のADEは起きるのか?
千葉 雄登 BuzzFeed News Reporter, Japan
(BuzzFeed、2021年2月4日)より抜粋
よく話題となる副反応に、抗体依存性増強(現象)(ADE)というものがあります。一部の「専門家」とされる方がメディアでADEへの懸念をよく指摘しています。
ワクチンを打つことや感染することによって、体の中に中和能のない抗体である「非中和抗体」というものができると、これも中和抗体同様にウイルスにくっつきます。しかし中和能はないので、ウイルスの感染を防ぐわけではない状態となります。
すると、この抗体を足掛かりにして、ウイルスが細胞の中に入って増える。または、くっついた抗体の複合体などが炎症性細胞など炎症性のある物質を集めて、より強い炎症を引き起こす、そういったことが起こり得ます。
つまり、ワクチンを接種すること(場合によっては感染すること)で、感染したり発症した場合により強い症状が出ることがあるという現象のことを、ADEというのです。
このような現象は、デングウイルスへのワクチンの治験段階と承認後に問題になりましたし、今回の新型コロナウイルスに非常に似ているSARSコロナウイルスに対するワクチンの動物実験段階でも観察されていました。
しかし、今回の新型コロナウイルスのワクチンでは動物実験や治験含め全ての過程で、今のところこのような現象は確認されていません。
1つの目安となるT細胞(リンパ球の一種)のサブセット(T細胞を構成するTh1とTh2という細胞の集まり)における比率も全く問題ないことがわかっていますので、新型コロナウイルスのワクチンについてはADEについて懸念する必要は現状ではほぼないと考えています。
■ 新型コロナウイルスワクチンの米国における現状と今後
紙谷 聡(エモリー大学小児感染症科)
(2020.10.19、医学書院)より抜粋
・・・懸念される副反応とは
現在COVID-19ワクチンで最も懸念される副反応は,ワクチンによって逆に感染が悪化してしまう病態であるVaccine-enhanced diseaseであり,抗体依存性感染増強現象(Antibody-dependent enhancement:ADE)およびワクチン関連増強呼吸器疾患(Vaccine-associated enhanced respiratory disease:VAERD)の2つに分けられます。
ADEは,ワクチンによって産生された抗体がウイルスの感染を防ぐのではなく,逆にFc受容体を介してウイルスが人間の細胞に侵入するのを助長し,ウイルス感染を悪化させてしまう現象です。これは,ウイルスに対する中和作用の低い抗体が多く産生される場合に生じる現象で,デング熱に対するワクチンなどで報告されています。一方,VAERDは1960年代にRSウイルスや麻疹に対する不活化ワクチンで認めた現象ですが,やはりワクチンによって中和作用の低い抗体が産生され,その抗体がウイルスとの免疫複合体を形成し,補体活性化を惹起して気道の炎症を引き起こすものです。さらに,この不完全な抗体はTh 2細胞優位の免疫反応も惹起して気道内にアレルギー性の炎症を引き起こします。これらの病態によって,より重症なRSウイルス感染をワクチン接種者に認めたのです。
ADEやVAERDを防ぐには,高い中和作用を有する抗体を産生させ,かつTh 1細胞優位の免疫反応を惹起するワクチンの開発が必要だと考えられています。そのためには立体構造的に正しくかつ安定した,質の高いスパイク糖たんぱく質(抗原)をワクチンによって作りあげることが重要です。現時点で学術誌に報告されているワクチン(mRNA-1273, ChAdOx 1, Ad 5 vectored vaccine, BNT 162 b 1など)は,いずれも高い中和抗体反応を認め,一部はT細胞性免疫反応も確認できており(mRNA-1273はTh 1細胞優位の反応も確認),この基準を満たしている可能性があります。また,9月上旬までに医学誌に発表された報告では,接種部位の痛みや倦怠感,発熱などの反応はあるものの,深刻な有害事象は認めておらず,安全性に一定の期待が持てる結果となっています。しかし,ADEやVAERDの可能性を正しく評価するためには,ワクチン接種者が実際に新型コロナウイルスに感染したときにどのような反応が起きるかを対照群と比較する必要があり,今後の第III相試験を含めた安全性評価および後述するワクチン認可後の安全性モニタリングが鍵となります。