徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

入園前の予防接種実施を要請した私立保育園

2017年03月16日 10時09分11秒 | 小児科診療
 今、小児科医の間で話題になっている事例です。

 前項の「麻疹」をお読みになった方は、もしワクチンを接種しない集団があれば大変な目に遭うことが想像できると思います。現在の日本は定期接種で集団免疫率を高く保っているから、流行せずに済んでいるだけです。
 また罹ったとしても、医療が発達し国民皆保険というフリーアクセスで医療機関を受診できるシステムがあるので、なんとかなるだろうというイメージがあるのでしょう。

 つまり「平和ボケ」状態の日本。

 江戸時代には「麻疹は命定め」と言われて恐れられました。
 実際に現在でも発展途上国では麻疹に罹った子どもの4人に1人が命を落とす感染症であり続けています。
 それはあくまでも外国の話で日本は大丈夫、と言えるでしょうか。

 みなさん、東日本大震災を思い出してください。
 避難所にたくさんの人が押し込められ、水も十分に手に入らない状況。
 感染症が流行したら制圧困難です。

 しかし結果的にそうはならなかった。
 理由は「予防接種をしてあったから」に間違いありません。

 実際に東日本大震災後、破傷風が10例発生しました。
 すべて50歳以上で、小児例はゼロ。
 つまり、子どもは予防接種(3種混合/4種混合ワクチン)で守られたのです。
 50歳以上では、ワクチンの効果が経年で減衰したため、発症リスクが高まったのです。

 しかし現行の日本の定期接種は努力義務はありますが、強制ではありません。
 園の言い分も、保護者の言い分も間違いではないと思います。
 あなたは、どう考えますか?

□ 予防接種受けない園児受け入れ拒否 こども園 国は認めず新潟市に通知
2017.2.10:新潟日報
 新潟市の私立保育園が、4月から認定こども園に移行するのを機に定期予防接種を受けていない園児を受け入れない方針を打ち出していたことが9日、分かった。是非を巡って関係省庁が協議し「未接種を理由に受け入れ拒否はできない」とする見解をまとめた。9日、新潟市に通知した。
 新潟市や保育園などによると、この保育園は移行に伴い、保護者と直接契約を結ぶ際に「子どもや妊娠している保護者の健康を守るための独自の方針」として定期予防接種を盛り込むことを決め、昨年11月に保護者に説明した。
 園は「集団生活で適切な環境を確保するための健康面の配慮。他の子に病気をうつす可能性もあり、集団生活をする上でのマナーだ」とする。
 これに対し、園児に予防接種を受けさせていない保護者の一人は「予防接種は努力義務であって強制ではない。未接種を理由に、受け入れないのは許されない」と訴えた。
 保護者や園から相談・報告を受けた新潟市保育課は国に照会した。同課によると、厚生労働省は「未接種だけでは拒否する理由にならない」との立場。一方、認定こども園を管轄する内閣府は当初、公衆衛生面から、園独自の方針として条件を付けることもあり得るとの姿勢を示し、協議が続けられていたという。
 新潟日報社の取材に対し、内閣府の担当者は「原則として予防接種を受けていないことだけでは、入園を断る理由には当たらないとの結論になった」と説明した。
 保育園の園長は「国は予防接種を勧奨し、施設には園児の健康を守るよう求めているのに、今回の国の判断はおかしいのではないか」と語った。

□ 入園断る姿勢は変えず 予防接種受けない子を拒む新潟の私立保育園
2017.2.10:新潟日報
 新潟市の私立保育園が、4月の認定こども園移行を機に定期予防接種をしていない子どもの受け入れを拒否する方針を示していた問題で、園は10日、予防接種の未接種だけでは拒めないとする国の見解を受け、保護者と契約を交わす書面を修正する考えを明らかにした。予防接種を求める方針は変えず、来週にも新潟市と協議した上で決める。
 この問題で、園は園児らへの健康面の配慮から、保護者と契約を結ぶ際の「重要事項説明書」で定期予防接種を受けていないと契約できないと明記していた。だが、国は9日に「未接種だけでは入園を断る理由に当たらない」とする見解を新潟市に通知した。
 園は見解を踏まえ、説明書に新たに「予防接種を意図的に受けない方は当園の方針と考えが異なるため、トラブル関係になることが明白」と明記。「トラブル関係は(園が保護者の申し込みを拒んではならないとする)応諾義務を拒否する正当な理由となるので入園の契約はできない」とすることにした。
 園長は「国の見解が示されたのでやむなく内容は変えたが、子どもの健康を守るため園の方針を変えるつもりはない」と話す。
 内閣府は取材に対し「応諾義務は重く、判断は慎重になされるべきだ」としている。


 世界を見回すと、米国では規定の予防接種を済ませていないと小学校に入学できない、進級できないというルールがあるそうです。
 また、黄熱病のリスクが高い国々では、黄熱ワクチンの接種証明書(イエローカード)がなければ入国できません。

 この事例を受けて、日本小児科医会が声明を出しました;

□ 「保育園等の集団生活入所予定児に対し入園・入学要件として予防接種実施を要請することへの日本小児科医会の見解(2017.3.15)
 今般新潟市の私立保育園が、定期予防接種を受けていない園児を受け入れない方針を表 明したことに対して関係省庁が協議し「未接種を理由に受け入れ拒否はできない」とする 見解を新潟市に伝えるというニュースが報道されました。VPD(vaccine preventable diseases:ワクチンにより予防可能な病気)予防の普及啓発を進める日本小児科医会として、 この見解が国民に子どもの予防接種の重要性に関して誤解を招くメッセージとならないよ う見解を公表することに致しました。
 我が国では定期予防接種の実施については予防接種法で規定されており、小児の年齢に 応じて実施される予防接種は、予防接種対象者あるいはその保護者に対して接種を受ける 努力義務規定として第 9 条に記されています。対象疾病は A 類疾病に分類され「人から人 に伝染することによるその発生及びまん延を予防するため、又はかかった場合の病状の程 度が重篤になり、若しくは重篤になるおそれがあることからその発生及びまん延を予防す るため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病」と定義されているものです。法 律内での表現は「努力義務」となっており、個人の判断で受けても受けなくても良いと解 釈できますが、日本小児科医会は免疫不全等の接種を受けることができない医学的理由や 定期接種年齢に達していない等の理由がない限り個人防衛の意味においても集団防衛の意 味においても接種を受ける必要があると考えています。
 また、厚生労働省が定める保育所保育指針の「5章.健康および安全」では、「子どもの 健康及び安全は、子どもの生命の保持と健やかな生活の基本であり、保育所においては、 一人一人の子どもの健康の保持及び増進並びに安全の確保とともに、保育所の子ども集団 全体の健康 及び安全の確保に努めなければならない。」とされています。さらにその解説 書には「感染症の集団発生予防 【予防接種の勧奨】」として、「予防接種は、子どもの感 染症予防にとって欠くことのできないものです。 特に保育所においては、嘱託医やかかり つけ医の指導のもとに、計画的に接種することを奨励することが望まれます。」と記載され ています。「子どもの健康の保持及び増進並びに安全の確保」の前提である定期予防接種は 「義務接種」ではなく「勧奨接種」にとなっており、前述の医学的、年齢的理由がない場 合においても、定期予防接種を受けさせないとの保護者の判断があればそれを保育所等は 受け入れざるを得ない状況となっています。
 欧米では就学前の予防接種を、例外規定を設けた上で義務付けているところが多くあり ます。日本の学校保健安全法では予防接種についての直接的な規定はないものの、第 4 節 「感染症の予防」の第 19 条(出席停止)に「校長は、感染症にかかっており、かかってい る疑いがあり、又はかかるおそれのある児童生徒等があるときは、政令で定めるところに より、出席を停止させることができる。」との規定があります。
 2008 年の麻しん流行時に秋田県では本規定を適用し、ワクチン未接種者に対して出席停 止とする措置が取られ、迅速な終息につながったことが、厚生労働省健康局が開催した平 2010 年 3 月 10 日の第 5 回麻しん対策推進会議でも報告されています。
幼保連携型認定こども園においても「校長」を「園長」と読み替えて準用することが、 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律施行令第 5 条に明記されています。
 1994 年の予防接種法改正に伴い義務接種が勧奨接種に変更され集団接種から個別接種へ移行し、ワクチンを受ける側に選択肢を与えることで、損なわれかけていた予防接種への 信頼はかなり取り戻されるにいたり、ここ数年ワクチンギャップが大きく解消されてきて いることについては高く評価しています。しかし、その運用にあたっては予防接種の必要 性について積極的な啓発を行い、広く国民の理解を深める必要があります。情報過多の時 代において偏らない情報を得ることが難しい状況下で予防接種を忌避する例は少なからず 存在し、今般の事例のような集団生活を営む子どもの健康や安全が脅かされる事態が各所 でおこっています。
 現在、定期予防接種の接種率は、多くが 90%を超える状況となっています。しかし一定 の割合で存在する、何らかの理由で予防接種を受けることができない児童個人を守るため の個人防衛の観点から、さらには疾病が発生した場合の周辺児童を守るための集団防衛の 観点から、できる限り多くの児童が予防接種を受けることにより、当該疾病に罹患する危 険性を低くすることは、安全な集団生活を営む上で極めて重要です。
 日本小児科医会は予防接種の意義、必要性、安全性について正しいメッセージを提供す る意味で、就園・就学の要件の一部として、「医学的、年齢的理由がある場合を除いて、 就園・就学までの間に必ず定期予防接種を受けておくこと」の一言を記載することは、き わめて重要な意味合いを持つものと考えられることから、ここに上記を見解として表明い たします。

 以上
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