1歳未満の赤ちゃんにはハチミツを与えない、という小児科医の鉄則があります。
理由は「ボツリヌス中毒」のリスクがあるから。
しかし最近、成人のボツリヌス中毒例がニュースになりました。
「えっ、どういうこと?」
というのが私の正直な感想です。
ポイントは、「要冷蔵保存食品を常温保存していた」ためボツリヌス菌が繁殖&毒素を産生し、それを食べて中毒を発症した、ということのようです。
また、安全と思われる「瓶詰め」、自宅で作成したモノでは安全ではないという認識も必要です。
▢ ボツリヌス菌による食中毒 瓶詰や缶詰、真空パックがリスクに…呼吸筋が麻痺して死に至ることも
菊池賢:東京女子医科大学病院 感染症科教授・診療部長、感染制御部部長
(2025/2/19:読売新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);
新潟市で2月、ボツリヌス菌による食中毒が発生したことが判明しました。発症したのは50歳代の女性で、全身に麻痺(まひ)症状があり、人工呼吸器を装着しました。同市によると、女性は1月20日、自宅で常温保存していた要冷蔵食品を食べた後、目がチカチカしたり、ろれつが回らなくなったりしたといいます。ボツリヌス菌による食中毒とはどのようなものなのか、東京女子医科大学教授(感染症科)の菊池賢さんに聞きました。
▶ 吐き気、目に異常、脱力感
――ボツリヌス菌とは、どのようなものですか。
土の中や河川、湖の底などにいる細菌です。A~Gと七つのタイプがあり、食中毒を引き起こすのは、主にE、A、Bです。
ボツリヌス菌は「嫌気性菌」と言って、酸素があるところでは生きられません。飢餓状態になるなどストレスがかかると、植物の種にあたる「芽胞」を出して、生き延びようとします。芽胞は熱や乾燥に強く、100度で熱しても死にません。
――ボツリヌス菌が体内に入るとどうなりますか。
ボツリヌス菌が出すボツリヌス毒素は、神経伝達物質の「アセチルコリン」の働きを妨げてしまいます。この毒素で汚染された食べ物を口にして8~36時間くらいたつと、多くの場合、吐き気や嘔吐(おうと)、下痢などの症状が出ます。最初は、
(1)まぶたが下がる
(2)瞳孔が開いてまぶしく感じる
(3)ものが二重に見える
―など、目に特有の症状が表れます。その後、口の渇きや口の周りにしびれを感じ、ろれつが回らなくなることもあります。症状が進むと、脱力感があったり筋肉が弛緩(しかん)したりし、呼吸筋が麻痺すると、命にかかわります。
ボツリヌス菌が引き起こす病気は、ボツリヌス症と呼ばれています。感染症法上の「4類」に指定されていて、診断した医師による国への届け出が義務づけられています。
▶ 重症だと治療に1~2か月
――どのような食べ物に気をつければよいですか。
瓶詰や缶詰、真空パックの中などにはボツリヌス菌が増殖している可能性があります。これらの容器の中は、酸素が少ない状態になっています。ボツリヌス菌は酸素があると生きられないため、生き延びる環境が整っているといえます。
――瓶詰などは日持ちする食品というイメージが強く、リスクがあるとは意外です。
確かに、保存食としても使われるこうした食品は安全だというイメージがあるかもしれません。市販されているものの多くは、ボツリヌス菌が死滅するよう、120度で4分以上加熱されているため、封が開いていなければ問題ありません。気をつけたいのは、家庭で「保存用」に調理した瓶詰などです。加熱が不十分であることが多く、注意が必要です。
――感染してしまったら、どのように治療しますか。
診断するのは難しいのですが、呼吸不全になった場合は人工呼吸器を装着して、回復を待ちます。ボツリヌス菌が体内に入った可能性があれば、中和抗体薬を投与します。重症になると治療に時間がかかり、多くの場合、回復するのに1~2か月かかります。
――感染しないためにはどのようなことに注意が必要ですか。
容器の中でボツリヌス菌が増えると、「酪酸」を発生させ、独特の嫌な臭いがします。また、ガスが発生するので、ふたが盛り上がったり容器が膨らんだりします。そうした状態の時は、絶対に食べないようにしてください。
また、「冷蔵」「10℃以下で保存してください」といった表示がある食品は、常温保存をせず、必ず冷蔵庫に入れるようにしてほしいと思います。