検察蹂躙法案強行へ 造反が出なければ自民党はオシマイ
日刊ゲンダイDIGITAL
公開日:2020/05/16 17:00 更新日:2020/05/16 17:00
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/273253
それにしてもひどい悪相になってきた安倍首相。コロナの補正予算を人質に強行突破の算段だろうが、その薄汚さに国民の怒りは倍増。自爆に突き進んでいくだろう。
◇ ◇ ◇
これも国民が「おかしい」と声を上げた成果だ。国会外のデモの「反対」の叫びが委員会室に響く中、野党の抵抗もあって希代の悪法、検察庁法改正案の採決が来週以降に先送りとなった。
15日、ようやく衆院内閣委員会に森法相が出席。案の定、検察幹部の定年延長の特例要件に関し「現時点で具体的に全て示すのは困難」などとポンコツ答弁連発で、審議は紛糾した。その後、野党は国家公務員法改正案を担当する武田大臣の不信任決議案を提出。採決は持ち越されたが、政府・与党は懲りずに来週中の採決と、衆院通過を諦めていない。
松本文明衆院内閣委員長は不信任案提出について「委員会進行に大きな影響を与えるものが突如として出されるのは、委員長として良いことだとは思っていない」と野党を批判したが、どの口が言うのか。国家公務員法改正案との束ね法案化による“森隠し”などで、委員会進行に大きな影響を与えてきたのは、政府・与党の方である。
15日の審議のネット中継にはアクセスが集中。視聴しづらい状況になるほど人々の関心は高い。皆、政権のもくろみ通り悪法が成立するのを恐れている。最大の問題は、時の内閣の胸ひとつで検察幹部の定年を引き延ばすことが可能な点だ。
「検事総長は65歳、その他の検察官は63歳で退官」との規定は、1947年の検察庁法成立時から存在する。実はこんな法律は他にない。81年に国家公務員法が改正されるまで一般の国家公務員には定年がなかった。首相や大臣、国会議員には今も定年がない。
なぜか。検察官は時に最高権力者の逮捕も辞さないほど強い捜査権限があり、人を裁判にかける公訴権を持つ唯一の存在だ。そのため、強大な権力の“防波堤”として職に居座り続けないように定年を設け、自動的な退職を促してきたのだ。
政治からの一定の独立性も維持され、気に入らない検察官の罷免や、お気に入りの定年延長も免れてきた。しかし改正法案が成立すれば防波堤は一気に崩れる。検察官だって人の子だ。定年間際で本来は就けなかった検察トップにも、時の政権の覚えがめでたければ就任できるとなれば、その検察官は政権の顔色を一切気にせず、疑惑を捜査できるだろうか。
松尾邦弘元検事総長らロッキード事件の担当者を中心に大物OB14人がきのう、改正法案に反対する意見書を森宛てに提出。「検察組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きで看過できない」と非難したが、その通り。つまり検察に対するアメとムチを一方的に時の政権に与えるシロモノで、「検察蹂躙法案」にほかならない。
■目に見えないウイルスが可視化した政権の正体
〈これは検察を「政治検察」にする暴挙だ。旧ソ連の独裁者スターリンすら想起する〉
15日付の毎日新聞オピニオン面で、そう喝破したのは早大教授の水島朝穂氏(憲法学)だ。政権の意のままに動く政治検察の危険性について、〈捜査は野党など政権の反対者にばかり向かいかねない〉と指摘。ひどい悪相になってきた安倍首相の政治姿勢を皮肉って、こう批判した。
〈思えば安倍政権はNHKの会長や経営委員、日銀総裁に自分の思想や政策が重なる人物を据え、果ては自身の憲法解釈変更を認めてくれる人物を内閣法制局長官に据えた。最後に残ったのが検察庁ということなのだろう〉
騒動の発端は“官邸の守護神”の定年を閣議決定で勝手に延長したこと。
そのデタラメを指摘されると、慌てて無理筋の法解釈変更。それも批判されると、後付けで法律そのものを変えようとする。この政権はいつだってそうだ。その場しのぎのゴマカシが常套手段である。
安保法制でも見られた勝手な「解釈変更」、人事の「お友達優遇」、モリカケや桜を見る会の「公私混同」、官邸の意向に沿うよう、ツジツマ合わせの大臣と役所の「忖度」――。こうして逃げ切ってきた憲政史上最長政権。その全ての姑息さが検察蹂躙法案には凝縮されている。
「新たなコロナ対策を盛り込んだ2次補正予算案の審議を盾に取れば、野党も国会を長く空転させられないし、与党議員もおとなしく従う。そう見くびって強行突破の算段なのでしょうが、今回の不正義には、いつもの手口は通用しません」(政治評論家・森田実氏)
国民は完全に気づいたのだ、安倍の薄汚い正体に。類似投稿も含め、1000万件を超えた「#検察庁法改正案に抗議します」のツイート。8日夜に最初に投稿した都内女性が朝日新聞に語った言葉が象徴的だ。
■捨て身になれば国民は拍手喝采する
もともと政権に不満があったわけではないが、新型コロナウイルス騒ぎが見方を変えた。〈みんなが困っているのに対応ができていない。そういう政府の思うままになったら危ないと思った〉と。
いまだにアベノマスクを引っ込めず、口から出まかせのPCR検査拡充、休業補償を願う声には耳を閉ざし続ける。「自分は政治と無関係」と思い込んでいた人々も、ずさんなコロナ対応を見て「政治判断が自分の生活に直接影響する」と実感した。この政権に任せていたらヤバい。国のため、国民のためじゃなく、首相自身のための政治なんだ。そう目覚めた結果、普段は政治的な発言を控えがちな芸能人にも「ツイッターデモ」が飛び火し、大きなうねりとなったのだ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。
「一致団結してコロナと対峙すべき時期に不要不急な法案を提出。野党と無用な対立をあおり、国民を分断する。ステイホームで政治の動きを知る機会が増えた私たちに、現政権はあり得ない姿を見せつけています。見えないウイルスのおかげで安倍政権の正体が可視化されるとは皮肉ですが、採決を強行すれば国民の怒りは倍増し、自爆に突き進むだけです」
検察蹂躙法案の採決には、自民からも造反者が出なければおかしい。自身のツイッターに「強行採決は自殺行為」と投稿した泉田裕彦衆院議員が内閣委の委員を外され、縮みあがっているのかも知れないが、世論の大勢は造反者の味方だ。
石破元幹事長も希代の悪法に「これを通すというのは政権どうのこうのって話じゃない。日本国の民主主義の問題」と語ったが、ならば民主主義を守る行動に移すべきだ。前出の森田実氏が言う。
「自民党議員は公認剥奪を恐れ、火事場泥棒の不正義を見過ごすのでしょうか。石破氏も離党を覚悟して自派閥議員を引き連れて造反すべきです。その覚悟がないなら、口先ばかりで現政権の暴走を止められなかったとの評価が後世に残るだけ。“身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ”ですよ」
捨て身で造反すれば国民は拍手喝采し、再起の目は必ず出てくる。逆に造反が出なけりゃ、自民党はもうオシマイだ。
日刊ゲンダイDIGITAL
公開日:2020/05/16 17:00 更新日:2020/05/16 17:00
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/273253
それにしてもひどい悪相になってきた安倍首相。コロナの補正予算を人質に強行突破の算段だろうが、その薄汚さに国民の怒りは倍増。自爆に突き進んでいくだろう。
◇ ◇ ◇
これも国民が「おかしい」と声を上げた成果だ。国会外のデモの「反対」の叫びが委員会室に響く中、野党の抵抗もあって希代の悪法、検察庁法改正案の採決が来週以降に先送りとなった。
15日、ようやく衆院内閣委員会に森法相が出席。案の定、検察幹部の定年延長の特例要件に関し「現時点で具体的に全て示すのは困難」などとポンコツ答弁連発で、審議は紛糾した。その後、野党は国家公務員法改正案を担当する武田大臣の不信任決議案を提出。採決は持ち越されたが、政府・与党は懲りずに来週中の採決と、衆院通過を諦めていない。
松本文明衆院内閣委員長は不信任案提出について「委員会進行に大きな影響を与えるものが突如として出されるのは、委員長として良いことだとは思っていない」と野党を批判したが、どの口が言うのか。国家公務員法改正案との束ね法案化による“森隠し”などで、委員会進行に大きな影響を与えてきたのは、政府・与党の方である。
15日の審議のネット中継にはアクセスが集中。視聴しづらい状況になるほど人々の関心は高い。皆、政権のもくろみ通り悪法が成立するのを恐れている。最大の問題は、時の内閣の胸ひとつで検察幹部の定年を引き延ばすことが可能な点だ。
「検事総長は65歳、その他の検察官は63歳で退官」との規定は、1947年の検察庁法成立時から存在する。実はこんな法律は他にない。81年に国家公務員法が改正されるまで一般の国家公務員には定年がなかった。首相や大臣、国会議員には今も定年がない。
なぜか。検察官は時に最高権力者の逮捕も辞さないほど強い捜査権限があり、人を裁判にかける公訴権を持つ唯一の存在だ。そのため、強大な権力の“防波堤”として職に居座り続けないように定年を設け、自動的な退職を促してきたのだ。
政治からの一定の独立性も維持され、気に入らない検察官の罷免や、お気に入りの定年延長も免れてきた。しかし改正法案が成立すれば防波堤は一気に崩れる。検察官だって人の子だ。定年間際で本来は就けなかった検察トップにも、時の政権の覚えがめでたければ就任できるとなれば、その検察官は政権の顔色を一切気にせず、疑惑を捜査できるだろうか。
松尾邦弘元検事総長らロッキード事件の担当者を中心に大物OB14人がきのう、改正法案に反対する意見書を森宛てに提出。「検察組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きで看過できない」と非難したが、その通り。つまり検察に対するアメとムチを一方的に時の政権に与えるシロモノで、「検察蹂躙法案」にほかならない。
■目に見えないウイルスが可視化した政権の正体
〈これは検察を「政治検察」にする暴挙だ。旧ソ連の独裁者スターリンすら想起する〉
15日付の毎日新聞オピニオン面で、そう喝破したのは早大教授の水島朝穂氏(憲法学)だ。政権の意のままに動く政治検察の危険性について、〈捜査は野党など政権の反対者にばかり向かいかねない〉と指摘。ひどい悪相になってきた安倍首相の政治姿勢を皮肉って、こう批判した。
〈思えば安倍政権はNHKの会長や経営委員、日銀総裁に自分の思想や政策が重なる人物を据え、果ては自身の憲法解釈変更を認めてくれる人物を内閣法制局長官に据えた。最後に残ったのが検察庁ということなのだろう〉
騒動の発端は“官邸の守護神”の定年を閣議決定で勝手に延長したこと。
そのデタラメを指摘されると、慌てて無理筋の法解釈変更。それも批判されると、後付けで法律そのものを変えようとする。この政権はいつだってそうだ。その場しのぎのゴマカシが常套手段である。
安保法制でも見られた勝手な「解釈変更」、人事の「お友達優遇」、モリカケや桜を見る会の「公私混同」、官邸の意向に沿うよう、ツジツマ合わせの大臣と役所の「忖度」――。こうして逃げ切ってきた憲政史上最長政権。その全ての姑息さが検察蹂躙法案には凝縮されている。
「新たなコロナ対策を盛り込んだ2次補正予算案の審議を盾に取れば、野党も国会を長く空転させられないし、与党議員もおとなしく従う。そう見くびって強行突破の算段なのでしょうが、今回の不正義には、いつもの手口は通用しません」(政治評論家・森田実氏)
国民は完全に気づいたのだ、安倍の薄汚い正体に。類似投稿も含め、1000万件を超えた「#検察庁法改正案に抗議します」のツイート。8日夜に最初に投稿した都内女性が朝日新聞に語った言葉が象徴的だ。
■捨て身になれば国民は拍手喝采する
もともと政権に不満があったわけではないが、新型コロナウイルス騒ぎが見方を変えた。〈みんなが困っているのに対応ができていない。そういう政府の思うままになったら危ないと思った〉と。
いまだにアベノマスクを引っ込めず、口から出まかせのPCR検査拡充、休業補償を願う声には耳を閉ざし続ける。「自分は政治と無関係」と思い込んでいた人々も、ずさんなコロナ対応を見て「政治判断が自分の生活に直接影響する」と実感した。この政権に任せていたらヤバい。国のため、国民のためじゃなく、首相自身のための政治なんだ。そう目覚めた結果、普段は政治的な発言を控えがちな芸能人にも「ツイッターデモ」が飛び火し、大きなうねりとなったのだ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。
「一致団結してコロナと対峙すべき時期に不要不急な法案を提出。野党と無用な対立をあおり、国民を分断する。ステイホームで政治の動きを知る機会が増えた私たちに、現政権はあり得ない姿を見せつけています。見えないウイルスのおかげで安倍政権の正体が可視化されるとは皮肉ですが、採決を強行すれば国民の怒りは倍増し、自爆に突き進むだけです」
検察蹂躙法案の採決には、自民からも造反者が出なければおかしい。自身のツイッターに「強行採決は自殺行為」と投稿した泉田裕彦衆院議員が内閣委の委員を外され、縮みあがっているのかも知れないが、世論の大勢は造反者の味方だ。
石破元幹事長も希代の悪法に「これを通すというのは政権どうのこうのって話じゃない。日本国の民主主義の問題」と語ったが、ならば民主主義を守る行動に移すべきだ。前出の森田実氏が言う。
「自民党議員は公認剥奪を恐れ、火事場泥棒の不正義を見過ごすのでしょうか。石破氏も離党を覚悟して自派閥議員を引き連れて造反すべきです。その覚悟がないなら、口先ばかりで現政権の暴走を止められなかったとの評価が後世に残るだけ。“身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ”ですよ」
捨て身で造反すれば国民は拍手喝采し、再起の目は必ず出てくる。逆に造反が出なけりゃ、自民党はもうオシマイだ。