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コロナより不気味 強いリーダーへの渇望と同調圧力の蔓延

2020-05-11 20:08:03 | Web News
コロナより不気味 強いリーダーへの渇望と同調圧力の蔓延

日刊ゲンダイDIGITAL
公開日:2020/05/11 17:00 更新日:2020/05/11 17:00

新型コロナウイルス対策で、都道府県知事が脚光を浴びている。とりわけ評価を上げているのが、ボンクラ政府に先んじて自粛解除基準とする「大阪モデル」を発表した大阪府の吉村知事だ。テレビに出まくり、もてはやされている。

これまでも大阪のローカルメディアは、吉村が所属する日本維新の会を持ち上げるきらいがあったが、それが今は全国レベルで行われ、「吉村知事が総理になればいい」なんて声まで聞こえるようになってきた。

6日に実施された毎日新聞の世論調査でも、コロナ対応で「最も評価している政治家」の1位に吉村が躍り出た。2位の小池東京都知事に大差をつけるぶっちぎりだった。

「吉村知事も小池知事も、会見ではちゃんと数字を出して説明するし、自分の言葉で話す。何もできない政府との対比で、有能に見えるのでしょう。ただ、それは政治家として当たり前のことをやっているだけで、プロンプターの原稿を棒読みしているだけの安倍首相の方がおかしいのです。

テレビが連日、吉村知事や小池知事の会見を垂れ流し、目立ちたがり知事がテレビ出演で好感度を上げようとする。コロナ対応というなら、国の基準に従わずにPCR検査を徹底して早期に蔓延を封じこめた和歌山県知事や、1人の感染者も出していない岩手県知事がもっと評価されるべきでしょう。協力金など、リッチな自治体のパフォーマンス競争や、キャッチコピー合戦で危機対応が政治ショー化し、メディアのチェック機能が働いていないことは問題です」(政治ジャーナリスト・角谷浩一氏)

■世論に火をつけるスケープゴート

“吉村効果”で日本維新の会の政党支持率まで上昇しているが、そもそも、大阪の公的サービスを削減しまくってきたのが維新だ。橋下徹知事以後、救命救急センターへの補助金を削減したり、公立病院を閉院させたりと、「改革」の名のもとに医療機関や保健所を切り捨ててきた。つまり、大阪府民の命を軽視してきたのだ。病床を減らし、防護服の備蓄もなく、雨ガッパの寄付を呼び掛ける惨状を招いたのは自業自得と言っていい。

PCR検査も徹底できない状況にしておいて、孤軍奮闘のように持ち上げられている吉村の動きはマッチポンプみたいなもんだ。

「小池知事にしても、東京五輪の延期が決まった途端、コロナ対応の前面に出てリーダーシップをアピールしています。それまでダンマリを決め込んでいた吉村知事が休業要請に応じないパチンコ店を公表したことを評価する声もありますが、では、維新が推し進めるIRはどうなのか。カジノ誘致で、ギャンブル依存症は確実に増加するのではないですか? パチンコ店をやり玉に挙げた強権発動をやみくもに支持すれば、もっと悪い事態が待っている可能性もあるのです」(角谷浩一氏=前出) 

作家の適菜収氏も、2日付の日刊ゲンダイコラム「それでもバカとは戦え」で、こう書いていた。

<新型コロナ騒動で人々の不安や不満はたまりにたまっている。連中にとっては最大のチャンスだ。世論に火をつけるにはスケープゴートが必要になる。今回ならパチンコ屋だ>

<「社会の共通の敵」を設定し、さらしあげ、密告と私的制裁を奨励する。毛沢東の紅衛兵、ナチスのゲシュタポ、スターリンやポル・ポトがやったことも同じだ>

<異常ともいえる維新礼賛報道が続いているが、ボロボロの安倍政権に見切りをつけた売国壊国勢力は今度は維新を担ぐ可能性がある>――。

■安倍政権と維新の新自由主義がコロナ危機を招いた

安倍政権の無能ぶりを嘆いて見限り、吉村や維新を支持するのは何の問題解決にもならない。安倍政権と維新は一心同体だからだ。安倍首相は返り咲いた2012年の党総裁選で負けていたら、自民党を割って維新の代表になるつもりだったという話もある。

8日には、“官邸の守護神”と呼ばれる東京高検の黒川検事長の定年延長を正当化するための検察庁法改正案が野党の反対を押し切って衆院内閣委で審議入りしたが、これを強行採決しようとしているのも、自公の与党と維新だ。政権維持のためなら、三権分立も法の支配の原則も破壊する。安倍独裁政権の別動隊が維新だということを忘れてはいけない。

維新が大阪でやってきたことは、不採算を理由にした公共の切り捨てであり、新自由主義の権化だ。そして、国レベルでそれをやっているのが安倍なのである。政治ジャーナリストの山田厚俊氏が言う。

「伝統芸能や芸術を真っ先に切り捨てたところも似ています。アベノミクスで、日本の食や文化を海外に輸出する『クールジャパン』を掲げていましたが、今回のコロナ禍で、安倍首相が芸術・文化をカルチャーではなくビジネスの観点でしか見ていないことがハッキリした。ドイツのメルケル首相が『文化・芸術は人が生きていくための大切な生命線だから、アーティストを守る』と宣言したのと対照的です。

安倍首相は会見で医療従事者に対する感謝の辞を述べますが、あまりに表層的で、社会全体に目が向いていないように感じてしまう。もちろん、現場で懸命に働いている医療従事者には感謝していますし、頭が下がります。しかし、仕事を休みたくても休めず、命がけで働いている人は他にもたくさんいる。医療従事者だけを英雄視すれば、福祉関係の人たちやゴミ収集業者などは声を上げにくくなり、職を失った生活困窮者ら、光が当たらない人たちが取り残されかねません」

「ステイホーム」していたくても、生活のために働かざるを得ない人がいる。安倍政権は不安定な非正規雇用を増やし、社会保障をバッサバサと削ってきた。

■私刑で憂さ晴らしする負のスパイラル

緊急事態宣言下でスムーズにテレワークに切り替えられたのは、多くが大企業のホワイトカラーだ。いまも感染リスクに怯えながら満員電車に乗り込むしかない労働者や、東京都内に4000人もいるとされるネットカフェ難民は、過酷な状況に耐えるしかない。

国はコロナ対策でも大企業や業界団体への支援を優先し、休業要請は知事の権限だからと、補償はしない。丸裸でやれ、国民は自粛で耐えろというのである。それなのに、休業要請に応じない店には罰則を科すべきだなどと、さらなる強権を求める世論が湧き上がっていることが不気味だ。

「感染拡大の不安が強いリーダーを求めるのは当然かもしれませんが、強権発動を望み、それに従うことを美化する風潮は一種の思考停止状態です。政権に不満があるのに選挙を棄権して、結果的に政権に白紙委任する有権者と似ている。

みんなガマンしているんだから連帯して頑張ろうというメッセージは間違っていませんが、それで国民の生活と命を守る政策が小さなマスク2枚でいいのかという批判の声がなくなってしまうのは、問題の本質を見えなくする側面もあるのです。“自粛ポリス”と呼ばれる私刑が正当化され、お上の要請に従わなければリンチで憂さ晴らしする負のスパイラルに陥ってしまう。そうやって国民が監視し合う社会でいいのか。この国の民主主義は危機にひんしています」(山田厚俊氏=前出)

政府や知事の会見を垂れ流し、市民への行動自粛要請を広報するだけのメディアは、完全に大本営化している。同調を強要する装置と化しているのだ。それは畢竟、政治の失態を覆い隠し、責任逃れを許すことにつながる。その結果、無能なリーダーがズルズルと居座り、いつまで経っても危機から脱出できないことになりかねない。

コロナ終息を本気で願うのなら、一層の強権を求めるより、政権を代える方がずっと建設的だ。
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