ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

2020年06月22日 | 生殖内分泌

卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)は、主にゴナドトロピン療法後卵巣の嚢胞性腫大をきたし、全身の毛細血管透過性亢進により血漿成分がサードスペースへ漏出し、循環血液量減少、血液濃縮、胸・腹水貯留が生じた状態である。


OHSSの超音波像

OHSSは、多胎が減少している現在、生殖補助医療(ART)で最も懸念される医原性の副作用である。重症化すると血栓症などの重篤な後遺症も懸念されるため、その予防と初期対応が大切である。

OHSS重症度分類
現在のOHSS重症度分類は、一般診療所で行える検査で診断し、軽症は外来管理、中等症は週2回程度の再検、重症は入院を考慮することを原則としている。重症症例は、OHSS治療経験を有する医師が勤務する入院可能施設への紹介・搬送が前提である。



OHSS重症例の治療
重症例では大量の腹水が貯留して血管内脱水が生じ、循環血漿量の減少を生じることにより、急性腎不全、血栓症などの生命予後にかかわる重大な合併症に進展することがあるため、早期に発症を把握して治療を行うことが重要である。OHSSの治療には経験と慎重な対応が必要である。
厚生労働省・重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS):
https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm1104011.pdf

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ327 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症や重症化の予防は?
1. 軽症例には水分を十分に摂取させ、激しい運動や性交を控えさせる。(C)
2. 中等症以上ならびに妊娠例は厳重に管理し、症状や検査結果が改善しない場合は高次医療機関での管理を考慮する。(B)
3. 重症例では原則的に入院管理を勧める。(B)
4. PCOS症例とOHSS既往症例に対してゴナドトロピン療法を行う際は、低用量で緩徐に刺激する。(B)
5. 一般不妊治療の排卵誘発中にOHSSのリスクが高いと判断したら、hCG投与を中止する。(B)
6. 生殖補助医療を志向する場合にOHSSのリスクが高いと判断したら、以下のいずれかまたは複数の対策を施行する。
 卵巣刺激前
 1) GnRHアンタゴニスト法または低卵巣刺激法で排卵誘発する。(B)
 卵巣刺激中
 2) hCGの替わりにGnRHアンタゴニストを用いる。(B)
 3) hCG投与を減量または延期(coasting)する。(B)
 4) hCG投与を中止する。(B)
 採卵後
 5) 胚移植をキャンセルして全胚凍結する。(B)
 6) カルベルゴリンを投与する。(B)
 7) ルテアルサポートにhCGを使用しない。(A)

参考文献:
1) 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm1104011.pdf
2) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
3) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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