ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)放出ホルモン(GnRH):
GnRHの律動的な分泌により、卵胞成熟、排卵という協調的な一連の変化が周期的に起こります。視床下部で分泌されたGnRHは、下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞に働き、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)が分泌されます。
卵胞刺激ホルモン(FSH):
下垂体前葉からのFSH分泌は卵胞期前半に高くなり、卵胞発育が進むと低下し、排卵期に一過性の上昇を示しますが、黄体期前期になると低下し、黄体期後期に増加に転じます。FSHは卵巣に働き、卵胞を発育・成熟させる働きがあります。
黄体化ホルモン(LH):
LHには成熟した卵胞に働きかけて卵細胞を排卵させ、残った卵胞を黄体化させる働きがあります。LHは排卵期に急激で急峻に分泌されます(LHサージ)。
卵胞ホルモン(エストロゲン):
卵胞期前半ではエストロゲンは低値ですが、卵胞期後半になると急上昇します。このエストロゲンの急上昇がLHサージをもたらします。また、エストロゲンは子宮内膜を増殖させ、頸管粘液の分泌を高めます。
黄体ホルモン(プロゲステロン):
排卵後に卵胞が黄体化すると、この黄体からプロゲステロンが分泌され始めます。プロゲステロンは黄体期中期にピークに達します。妊娠が成立するとこのピークが持続しますが、妊娠が成立しなければ黄体の退縮に伴ってプロゲステロン値は低下します(一般に黄体の寿命は排卵後14日)。プロゲステロンは増殖した子宮内膜を分泌期に移行させる働きがあります。また、基礎体温を上昇させます。
参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016
超音波による卵胞径の計測:
卵胞径の計測には経腟超音波を使います。同時に子宮内膜厚も計測します。通常、卵胞径が18~22mm程度で排卵が起こります。人により排卵が起こる卵胞径や子宮内膜厚は同じくらいのことが多いです。卵胞径計測のみで排卵日のおおよその予測は可能ですが、尿中LHの簡易計測(排卵検査薬)を併用した方が確実です。
卵胞径の計測
子宮内膜厚の計測
尿中LH簡易計測(排卵検査薬):
排卵前の尿中LHサージをとらえるための検査キットです。超音波による卵胞径の計測で排卵が近づいたと判断されたら検査を開始します。卵胞径が16~17mmあたりを検査開始の目安としますが、超音波が行えない場合には、これまでの排卵日の2、3日前から開始します。1日1回の測定で尿中LHサージをとらえられることが多いですが、1日2回測定する方が確実です。尿中LHが陽性となった日に夫婦生活を持つよう指導します。
尿中LH陽性(スコア4)
尿中LH陽性(スコア3)
尿中LH陰性(スコア2)
LHサージは約48時間持続し、LHサージの開始から36~40時間後、LHサージのピークから10~12時間後に排卵が起こります。血中LHサージが起きてから尿中LHサージが起きるまでは数時間とされ、血中または尿中LH値が20mIU/mlを超えたところからLHサージの開始と推定できます。尿中LH>30mIU/mlで陽性となる排卵検査薬で、陽性1日後までに91.1%、2日後までに97.0%が排卵しています。妊娠成立の可能性が最も高い夫婦生活のタイミングは、排卵の1~2日前であり、排卵後は妊娠率が低下します。
参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016
基礎体温は、0.01℃刻みの婦人体温計で、朝目覚めたときの起床前の舌下で測定した体温で、1日のうち最も低い。
基礎体温表 (二相性)
正常な月経周期がある女性の基礎体温は低温相と高温相からなり二相性です。月経の始まりは低温相で、排卵後の黄体から分泌されるプロゲステロンの作用で体温が上昇し高温相となります。高温相の定義は低温相より0.3℃以上の体温の上昇が7日以上継続することです。高温相は11~16日持続します。高温相が10日以下の場合には、黄体機能不全と診断されます。排卵がないと基礎体温は低温相だけとなりこれを一相性といいます。
排卵日の予測として基礎体温を用いた方法では、低温相から高温相へ移行する際の基礎体温の低下(陥落日)、あるいは低温相最終日を用いますが、経腟超音波検査で排卵日を確認すると必ずしもその限りではなく、基礎体温表のみでの排卵日の予測は困難です。従って、排卵日の予測は、基礎体温、経腟超音波検査、頸管粘液所見、尿中LH簡易測定法などにより総合的に検討する必要があります。
参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合を不妊という。その一定期間については1年というのが一般的である。なお、妊娠のために医学的介入が必要な場合は期間を問わない。(日本産科婦人科学会、生殖内分泌委員会、2015)
性成熟期のカップルが避妊をせずに夫婦生活を続けた場合、月経周期ごとの妊娠率(MFR)は約20%です。その累積妊娠率は6か月で73.8%、12か月で93.1%であり、カップルの10~15%が不妊症であることから、1年間という期間は不妊症の定義として適正と考えられます。
そこで、1年程度夫婦生活を続けても妊娠しない場合、妊娠の希望があれば不妊の検査や治療を開始するのが適当であるとするのが現在の考え方です。ただし、カップルが高齢であったり、医学的介入が必要な不妊の原因が判明している場合には、夫婦生活が1年以内でも治療開始を考える必要があります。
参考文献:
データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
クラミジア・トラコマティス(CT)は、眼瞼結膜、尿道、子宮頚管、咽頭などに感染します。性器クラミジア感染症は我が国の性感染症の中で最も患者数が多く、男性では尿道炎と精巣上体炎を引き起こし、女性では子宮頸管炎、子宮付属器(卵管)炎、骨盤内炎症性疾患(PID)、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を引き起こします。男女とも無症候性の保菌者が多数存在し、女性では無症候のまま卵管障害、卵管周囲癒着、腹腔内癒着を引き起こし、卵管性不妊や異所性妊娠の原因となります。
クラミジア感染の検査法
①子宮頸管の核酸増幅法検査
診断は核酸増幅法(PCR法、SDA法、TMA法など)を用い子宮頸管擦過検体よりクラミジアを検出します。クラミジア陽性者の約10%が淋菌感染症を合併するため、特に有症状例では、クラミジアと淋菌の同時検査を行うことが推奨されます。
②クラミジア抗体検査
IgG、IgAが定量測定されます。クラミジア抗体検査は既往感染を反映し、治療後も陽性が一定期間持続します。クラミジア感染女性において、腹腔内に感染が及んでいても子宮頸管からクラミジアが検出されない場合があります。したがって、抗体が陽性で治療歴がなければ治療対象となります。
クラミジア感染の治療法
①軽症であれば経口抗菌薬で治療が可能です。
・ジスロマック錠250mg、1回4錠
・クラリス錠200mg、1回1錠、1日2回、7日間
・クラビット錠500mg、1回1錠、1日1回、7日間
②重症例では入院管理とし点滴静注を行います。
・ミノマイシン点滴静注用100mgを1日2回、3~5日間
・ジスロマック点滴静注用500mgを1~2日間、その後、ジスロマック錠250mgを1日1回投与、総投与期間7日
③治癒判定は、抗菌剤投与後3週間以上あけて、子宮頸管擦過検体の核酸増幅法で陰性を確認します。抗体検査では治癒判定できません。
④性感染症の特性としてパートナーが存在するので、治療行為はその双方に同時に行う必要があります。
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ101 クラミジア子宮頸管炎の診断と治療は?
1. 診断は、核酸増幅法(PCR法、SDA法、TMA法など)を用い子宮頸管擦過検体よりクラミジアを検出する。(A)
2. 核酸増幅法で、淋菌の同時検査を行う。(B)
3. 治療はマクロライド系またはキノロン系の経口抗菌薬により行う。(B)
4. 治療後3週間以上あけて治癒判定を行う。(B)
5. パートナーに検査・治療を勧める。(B)
参考文献:
1) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014