ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

排卵誘発法

2020年06月21日 | 生殖内分泌

視床下部性排卵障害の治療法
体重減少性、ストレス性、高プロラクチン血症性など、排卵障害の原因が明らかな場合にはそれらの原因を取り除く必要がありますが、そうでない場合には以下の排卵誘発法を行います。

クロミフェン療法:
クエン酸クロミフェン(クロミッド®)は、視床下部に働いてゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の放出を促進する作用があります。GnRHは下垂体からの黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進し排卵を回復させます。月経周期の5日目から50mg~100mg(1錠~2錠)/日を5日間連続服用します。クロミッド®は自然周期の排卵とは異なり、卵胞径20~25mmまで発育してもLHサージが起こらないことがあり、その場合はhCGもしくはGnRHアゴニスト点鼻薬などで排卵誘起を行います。また、クロミッド®を長期にわたり使用すると子宮内膜が菲薄化し頸管粘液が少なくなり、かえって妊娠しにくくなります。したがって、クロミフェン療法で妊娠が成立しない場合には6カ月を目処として中止し、他の治療法(ゴナドトロピン療法、体外受精など)へと移行します。

アロマターゼ阻害薬(レトロゾール):
レトロゾール(フェマーラ®)は、抗エストロゲン作用による閉経後乳癌の治療薬です。アロマターゼを阻害し抹消・脂肪細胞でのエストロゲン産生が抑制され、ネガティブフィードバックによりFSH分泌が促進され卵胞が発育します。通常月経3~5日目より2.5mg/日を5日間連続服用します。排卵率は90%で単一卵胞発育の割合が高いです。クロミッド®と異なり頸管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化はほとんどありません。アロマターゼ阻害薬を排卵誘発剤として使用する際は、本来の治療薬としての適応外使用であり保険適用がありません。

ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)療法:
ゴナドトロピン療法は、FSH製剤ヒト閉経期性腺刺激ホルモン(hMG)製剤ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)製剤を用いて、直接的に卵巣に作用する治療法であり、強力な排卵誘発作用があります。従来のゴナドトロピン療法では、多胎と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いことが知られています。


ゴナドトロピン療法

FSH低用量漸増療法:
ゴナドトロピン療法は多胎と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いが、そのリスクを最小限に抑えた方法がFSH低用量漸増法です。FSH製剤を低用量で開始し、原則1週間ごとに診察し、主席卵胞の発育がみられるまで投与量を少しずつ増量する方法です。従来の方法と比較すると卵胞発育に時間がかかり、連日注射することによる肉体的な負担がありますが、副作用の発生率は減ってきてます。4個以上の排卵可能な発育卵胞を認める場合は、多胎やOHSSのリスクがあり、その周期のhCGもしくはGnRHアゴニスト点鼻薬などでの排卵誘起をキャンセルします。



ゴナドトロピン製剤

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016

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不育症・習慣流産

2020年06月21日 | 生殖内分泌

自然流産:
全妊娠の10~15%に起こります。自然流産の60~80%に胎児染色体異常が認められ、この偶発的に発生する染色体異常はどの妊娠においても発生する可能性があり、予防あるいは治療することはできません。

反復流産:
連続して2回流産を繰り返す状態をいいます。全妊娠の約5%に起こります。

習慣流産:
連続して流産を3回以上繰り返す状態をいいます。全妊娠の約1%に起こります。

不育症:
不育症は「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、妊娠は成立するが流産や早(死)産を繰り返して生児が得られない状態」と定義されます。



不育症のリスク因子:
一般的な流産率は10~15%なので、流産を3回繰り返す確率は計算上約0.1~0.3%となるはずですが、実際の頻度は不育症4.2%、習慣流産0.9%とこれよりかなり高い。従って、不育症・習慣流産では何らかのリスク因子が存在することが示唆され、以下のリスク因子の精査が必要です。リスク因子は多様化してますが、その半数以上は原因不明です。
①抗リン脂質抗体症候群
②子宮奇形
③染色体異常
④内分泌・代謝異常(甲状腺機能異常、糖尿病)
⑤血液凝固異常(凝固第Ⅻ因子、プロテインC、プロテインSなどの欠乏症)
⑥その他のリスク因子(感染症、同種免疫異常、多嚢胞性卵巣症候群など)

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
3) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016

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高プロラクチン血症

2020年06月21日 | 生殖内分泌

高PRL血症 乳汁漏出性無月経 
hyperprolactinemia galactorrhea-amenorrhea

プロラクチン(PRL)は下垂体前葉で分泌されるホルモンの一つで、乳汁分泌作用性腺抑制作用を持ちます。分娩後、乳児の母乳吸引刺激によりPRLの分泌量が増加し乳汁産生を増加させます。 また、卵巣機能を抑制することで産褥性無月経を誘発します。また、妊娠や分娩と関連のない時期に高PRL血症をきたすと乳汁が漏出し、排卵障害を伴う場合が多く、典型的な例では乳汁漏出性無月経となります。

測定系によって差異を認めるものの本邦女性における血中プロラクチン(PRL)値の正常値は約30ng/mL以下であり、それをこえるものを高PRL血症と称します。PRLは排卵期から黄体期にかけて分泌が盛んになるので月経期での採血が推奨されます。

高PRL血症の原因
①生理的な原因:
 ストレス、運動、妊娠、乳頭刺激など
②PRL産生下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)
③間脳障害:
 キアリ-フロンメル症候群
 アルゴンツ-デル・カスチロ症候群
 視床下部腫瘍
④薬剤性:
・中枢神経系薬剤
 クロルプロマジン、ハロペリドール、イミプラン、アミトリプチリンなど
・胃腸薬
 メトクロプラミド(プリンペラン)、スルピリド(ドグマチール)、シメチジンなど
・血圧降下剤
 メチルドパ、レセルピンなど
・ホルモン製剤
 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、エストロゲン製剤など
⑤内分泌疾患:
 原発性甲状腺機能低下症
 末端肥大症
 多嚢胞性卵巣症候群
⑥腎不全
⑦その他


プロラクチンに関する排卵障害の診断
(標準産科婦人科学、第4版、p77、医学書院)

高PRL血症の治療:
①薬剤性高PRL血症
 休薬ないしは薬剤変更を処方科と相談します。
②甲状腺機能低下症
 甲状腺の原因疾患の加療による甲状腺ホルモンのコントロールでPRL値も正常化します。
③下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)
 視機能障害がある場合、患者の手術希望が強い場合は脳神経外科との相談が必要となります。手術対象とならない場合は、カベルゴリン(カバサール)、ブロモクリプチン(パーロデル)、テルグリド(テルロン)などのドパミン作動薬の内服治療が行われます。
④機能性高PRL血症
 ドパミン作動薬の内服治療が行われます。挙児希望がない場合は積極的なドパミン作動薬の内服は必要とされません。挙児希望がある場合は、排卵が認められていても黄体機能不全を伴うこともあり、血中PRL値の正常化が考慮されます。


高PRL血症の治療法
(インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症、改訂3版、p55)

参考文献:
1)岡井崇・綾部琢哉(編)、標準産科婦人科学、第4版、医学書院
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
3) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016

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