紫のオルフェ~何でもかんでも気になる音楽、名曲アルバム独り言

ジャズ、ラテン、クラシックを中心として、名曲、アルバム演奏者を紹介します。&私の独り言を…

最高のノリ、最高にファンキーな1枚…ザ・ケープ・ヴァーデン・ブルース~ホレス・シルヴァー

2007-10-29 23:51:24 | ジャズ・ピアノ・コンボ
今宵はお疲れの諸氏に飛切りファンキーで、元気が出るアルバムを紹介しましょう。
タイトル曲から、「ホレス節」全開で突っ走る、ノリノリのファンキー・チューンに元気溌剌しちゃって下さい。

アルバムタイトル…ザ・ケープ・ヴァーデン・ブルース

パーソネル…リーダー;ホレス・シルヴァー(p)
      J.J.ジョンソン(tb)
      ジョー・ヘンダーソン(ts)
      ウディ・ショウ(tp)
      ボブ・クランショウ(b)
      ロジャー・ハンフリーズ(ds)

曲目…1.ザ・ケープ・ヴァーデン・ブルース、2.ジ・アフリカン・クィーン、3.プリティ・アイズ、4.ナットヴィル、5.ボニータ、6.モー・ジョー

1965年10月1日、22日録音

原盤…BLUE NOTE 84220  発売…東芝EMI
CD番号…TOCJ-6619

演奏について…タイトル曲「ザ・ケープ~」では、のっけからエンジン全開で、「ホレス」が、カッ飛びゾーンのリミッター振り切りで、ガンガン行きます。
とにかくラテン・リズムが最高。
「クランショウ」と「ハンフリーズ」が皆を完璧にドライヴィングして行きます。
「ホレス」はラテン・タッチのブロック・コードと魅惑的なシングルトーンを上手く絡めて、聴いていて一気に「ホレス」の世界にタイム・トリップしますよ。
とにかく、メロディはマイナー・チューンでメロディアスながら、演奏を聴くだけで、元気が出てくるスタミナ・ミュージックです。
中間では「ヘンダーソン」が、エキゾチックに吹き切って……「ヘンダーソン」はラテン・ナンバーの演奏…まじに上手いね。
見事に壷を得てます。
私は大好きで、とにかく一押しの一曲で、アルバム・ベスト・ワンですよ。

2曲目「ジ・アフリカン~」は、オープニング曲は良くも悪くもコマーシャリズムに染まった一曲なのですが、(私はあえてその俗的な所にも魅力を感じている軽薄短小人間なんです。)この曲は、この時代に即したモード・ナンバーでセンス抜群です。
「ヘンダーソン」「ショウ」も自分のカラーを十二分に発揮しています。
特に「ヘンダーソン」のアドリブ・ソロは立派で、メロディアスな部分と、アヴァンギャルド&アグレッシヴな部分のバランスが見事で、とても魅惑溢れるソロですね。
「ショウ」は明るめの音色の「マイルス」に変身した様な、モード演奏の極地ですね。
しかし、それ以上に聴き物は、アフリカン・ポリリズムで、演奏空間を見事に演出する「ハンフリーズ」のドラムス演奏が、第一のお薦めポジションです。
「ホレス」はサイドメン的に、モード演奏をアシストしているのが良いのですが、中間時のソロが、とても思索的で、チラリとファンキーイズムもちらつかせますが、「ホレス」らしからぬ哲学的なピアノも別の魅力が発見できます。

3曲目「プリティ・アイズ」…ワルツ・リズムのモード・ナンバーです。
渋くリズムを決めるベースの「クランショウ」と、シンバルで皆を煽る「ハンフリーズ」がピシッと芯を決めると、「ヘンダーソン」「ショウ」が次々と、ハイ・センスなアドリブ・フレーズを連発して、聴いているこちらも、高揚して来ます。
その後で「ホレス」が、珍しくモード調で弾き続けてくれるのですが、所々にファンキー・テイストが散りばめられていて、思わず納得ですね。
最後は、2管で吹かれるユニゾン・テーマは、やはりブルーノートの十八番です。

4曲目「ナットヴィル」…ジス・イズ・ホレシーズ・ワールドです。
「JJ」が加わって3管になった物の、ラテン・リズムがガンガン響き、ファンキーで、皆、箱乗り状態で行っちゃってます。
「JJ」ってこんなに、陽気なトロンボーンを吹いたかなぁ?
「ショウ」は完璧に飛翔を始めて、宇宙へと飛んで行ってる。
「ヘンダーソン」…適度に遊びを持たせて、趣深いアドリブ・ソロですね。
渾然一体となった、「シルヴァー・セクステット」を「ハンフリーズ」がとにかくラテン・リズムで煽り捲る。
「ホレス」のピアノはもう、言うこと無しですね。
この演奏で、全員のノリは最高潮になりますよ。

5曲目「ボニータ」…この変速リズム…良いねぇ。
私の好きな世界です。
この演奏はベース「クランショウ」が単調ながら、渋く野太い音を構築する所が基礎になっている。
ホーンは3管でのユニゾンがメインだが、「ホレス」はシングルトーンで、プチ・ファンキーなアドリブをかまして、それがまたセンチメンタルなアドリブで、心を打つんです。
後半のブロックトーンもgoodな良い仕事をしています。
「ハンフリーズ」の実直なドラムも、やっぱり乙ですね。

ラストの「モー・ジョー」は、3管全員がユニゾンで、都会的なショウマン的な演奏をする。
この曲は「ヘンダーソン」の曲なんですね。
まず、「JJ」が走る。
ベテランらしからぬ、とても若々しいソロですね。
次いで「ヘンダーソン」が、渋めに決めながら続き、すぐさまカデンツァに入ります。
そして3走目に「ショウ」が走ります。
とても流麗なソロで、この曲のアーバナイズされた、カッコイイ部分を丸見せしてくれます。
「ホレス」はファンキー節全開で、このアルバムの〆に向かって、びんびんに突き進む。
「クランショウ」のソロ・ベースもカッコイイですよ。

天才アルパ奏者…今村夏海~NATSUMI

2007-10-28 23:33:46 | ラテン・インストゥルメンタル
正しく、地上に舞い降りたミューズ……。
このアルバムを発表した時は、「今村夏海」は若干15歳。
日本が生んだ天才アルパ奏者です。

ラテン好きな方はもとより、アコースティック系の楽器が好きな方(主にクラシックかな?)、それから癒し系音楽が好きな方には、是非お薦めしたいアルバムです。

アルバムタイトル…NATSUMI

パーソネル…今村夏海(arpa)
      チューチョ・デ・メヒコ(g、vo)
      他

曲目…1.NATSUMI、2.パハロ・カルピンテーロ、3.太陽の乙女たち、4.遥けき恋路、5.エストレジータ、6.ティリンゴ・リンゴ、7.ラ・ジョローナ、8.ビバ!フフイ、9.オディアメ、10.牛乳列車、11.ラ・ブルーハ、12.アディオス・ミ・チャパリータ

2004年9月15、17~19録音

原盤・発売…テイクオフ
CD番号…TKF-2922

演奏について…オープニング曲「NATSUMI」…は自分の名を冠した曲ですが、彼女の前途洋洋の未来を予見させる、魅力的なメロディの1曲ですね。
ものすごく乙女心が感じられる曲調で、はかない小花の様に可憐で、しおらしい正に「今村」のイメージピッタリです。
演奏も良いですよ。

5曲目「エストレジータ」…「今村」の幻想的なソロ・アルパ演奏がバッチリ堪能できる1曲。
可憐でいて、しかし少女から大人へと身も心も成長している彼女の音楽性が、見事に捕らえられていて、曲への感情移入、表現力も抜群です。
やっぱり、少女と言えどもしっかりしていて、女って恐ろしい生き物ですね。

7曲目「ラ・ジョローナ」…私が選ぶ、このアルバムのベスト1曲はこれです。
哀愁バッチリのマイナー・メロディにまず心を打たれます。
「今村」のトレモロ演奏や、緩急抜群の演奏に、味わいと音楽の深みを持たせる弾き方も抜群です。
「メヒコ」も彼女を立たせた演奏で、あえてバックに徹していて宜しい。

3曲目「太陽の乙女たち」、8曲目「ビバ!フライ」、も真にアルパの真髄の様な曲で、アルパと言う楽器の色々な演奏テクニックを味わえます。
勿論、それを完璧に弾きこなす「今村」の技術の高さに舌を巻くばかりです。

4曲目「遥けき恋路」、6曲目「ティリンゴ~」は、「チューチョ・デ・メヒコ」のヴォーカルがフューチャーされた陽気な曲で、「今村」は早弾きで、テクニックを見せ付ける。
「メヒコ」の味わい深い歌声は、渋さも加わって良い味を出していますね。

9曲目「オディアメ」…この曲も「メヒコ」のヴォーカルがメインですが、曲が哀愁タップリでとにかく良いんです。
「メヒコ」のヴォーカル…メジャー・コードの曲よりも、こう言ったマイナー調の語りっぽい曲の方が、より良い感じです。
バックの「今村」も出来は良いです。

12曲目「アディオス~」は、「メヒコ」が大ベテラン健在を実証する、goodな歌を歌います。
感情が充分に篭っていて、男の哀愁をバッチリ感じさせてくれます。
「今村」の伴奏も文句無いです。

10曲目「牛乳列車」は、アルパの演奏の究極に近いテクニックがこれでもか?と押し寄せて来ます。
「今村」の演奏はとにかく完璧で、全く非の打ち所が有りません。
アルパと言う楽器は、やっぱり魅力が有りますね。

11曲目「ラ・ブルーハ」もナイスなメロディで…何て良い曲だ。
いつまでも聴いていたい、センチメンタルな曲調で、涙が出そうだ。

このアルバム&ジャケット良いべぇ?…エンジェル・アイズ~デューク・ピアソン

2007-10-27 18:41:17 | ジャズ・ピアノ・ソロ~トリオ
まず、最初に一言、「パソコン環境復旧」しました。
皆様、長らくご迷惑をおかけして、すみませんでした。

結局、自分で埒が明かず、詳しい友人にやってもらいました。(トホホ。。。)
まぁ、治れば良いんです。
実はモデムの速度を速めただけなんだけど、設定がワイヤレス環境だったために、セキュリティが効いていて、中々インターネットにアクセス出来ない状況になっていました。

何とか出来る様になったので、まずは、めでたしめでたしです。

ところで、二日間、皆様のご期待に副えなかった?ので、今日は飛切りgoodなアルバム行っちゃいましょうかね?

多分、このブログを閲覧されている、常連さんには絶好球のアルバムの一つだと、自負していますよ。

まず、ジャケットですが、非常に魅惑的なラベンダー色一色に映える美人の写真がとにかく目を惹きますね。

それは…

アルバムタイトル…エンジェル・アイズ

パーソネル…リーダー;デューク・ピアソン(p)
      トーマス・ハワード(b)
      レックス・ハンフリーズ(ds)

曲目…1.バグス・グルーヴ、2.ル・カルーセル、3.エンジェル・アイズ、4.アイム・アン・オールド・カウ・ハンド、5.ジニー、6.セイ・ユア・マイン、7.エクソダス、8.ル・カルーセル(別テイク)、9.アイム・アン・オールド・カウ・ハンド(別テイク)、10.セイ・ユア・マイン(別テイク)
 
1961年8月1日、1962年1月12日

原盤…JAZZ LINE 発売…徳間ジャパン・コミュニケーションズ
CD番号…TKCB-71289

演奏について…まず、全体的に言えることだが、「ピアソン」らしい、マイナーメインのシングルトーンと、的確なブロック・コードで、どの曲も仕上げており、ピアノ・トリオ好きには堪らない魅力盤になっています。

オープニング「バグス・グルーヴ」…「マイルス」よりも更にあっさりした感じで、泥臭くない演奏ですね。
とてもお洒落なピアノ・トリオでの演奏に、この曲の新たな魅力が発見できます。

2曲目「ル・カルーセル」…私大好きなラテン・リズムで、ドラムス「ハンフリーズ」が大活躍!
「ピアソン」も、ノリの良いブロック・コードを頻繁に駆使して、気持ち良い一曲に仕上げています。

3曲目「エンジェル・アイズ」では、「ピアソン」の魅惑的なソロ・ピアノ演奏が最高の聴き物。
あまり、アドリブを弾いてはいませんが、逆にセンスが良く、本当にピアノの音が、天使の眼で見つめられている様に、貴方を誘惑しますよ。

4曲目「アイム・アン~」は、「ピアソン」が軽快に、そう、「ガーランド」に似た感じの、チョイ、ファンキーで、ビ・バップで、ジャズピアノの王道的な演奏が心地良いです。

5曲目「ジニー」…冒頭のメロディから、惹き付ける魅力のフレーズが連発されて、聴いていると、ついつい乗っちゃうね。
締ったベースの「ハワード」が、早めの4ビートでグイグイとドライヴィングして行って、「ハンフリーズ」のシンバル・ワークも、皆を煽るのに一役買っています。
3人が一体となった、ピアノ・トリオ演奏の規範の様な演奏ですね。

6曲目「セイ・ユア~」…この曲もテーマがマイナー調の佳曲で、冒頭の演奏から「ピアソン」のピアノの魔術に縛られる。
もはや、これはピアノ演奏と言うより、「呪縛」ですね。
この魅力的な「呪縛」からは、逃げようにも逃げられない。
美人の詐欺師に引っ掛けられて、散財する男の気持ちが分かるようです。
ここでのシングルトーンから繰り出される、さりげないアドリブ・ソロは……「ピアソン」の真髄です。
このアルバム中でベスト・トラックですね。

7曲目「エクソダス」…この曲も良いんです。
ベース「ハワード」がカチっと引き締まった、漢ベースでリズムを作り、「ピアソン」は、正反対に女性的な、控えめのシングルトーン演奏がおしとやかで良い。
この「ハワード」は、ベスト・プレイでしょう。

8曲目「ル・カルーセル」の別トラですが、こちらの演奏の方が「ハンフリーズ」のノリは良いようですが、「ピアソン」のリリカルさが、採用トラックよりは、少し欠けているかなぁって感じでしょうか。

9曲目「アイム・オン」の別トラ、10曲目「セイ・ユア~」の別トラとも、採用トラックと、それ程遜色は無いんですが、どちらも採用トラックに比べると、若干演奏が華美過ぎるかなぁって思いますね。
普通のジャズ・ピアニストが演奏しているのであれば、この演奏も最初からGOなんですけど、「ピアソン」のピアノ・トリオ演奏と言う事を考慮すると、ナイーヴさや、慎ましさや、リリカルさが、ファンキーやノリの中にも、スパイスとして、より効いている方のトラックを、優先させたのかもしれません。

昨日、ネット環境を変更していまして、ブログ書けませんでした。

2007-10-26 09:03:50 | 独り言
昨日、モデムを含めネット環境の変更をした(している途中が正しい!)ので、ブログを書けませんでした。
しかも、帰宅がPM11時だったので、全く作業が出来ていません。
今日、帰宅が早めに出来たら、セット・アップしたいと思います。
(パソンコン音痴の私は、もしかすると、今日もブログ&アルバム紹介は出来ないかも…)
何とか頑張ってみます。


エラ・イン・ローマ(バースデイ・コンサート)~エラ・フィッツジェラルド

2007-10-24 23:08:51 | ジャズ・ヴォーカル
数多くのライヴアルバムで、絶唱、名唱を残している、「エラ・フィッツジェラルド」ですが、このライヴ・アルバムは彼女の誕生日にローマで行われたコンサートを捉えた貴重な録音なんです。

時は1958年、「エラ」絶頂期の40歳の時の録音で、真に素晴らしい歌唱に心を打たれますね。
バックのメンバーも名うての名手揃いで、かなり聴き応えあるアルバムです。

アルバムタイトル…エラ・イン・ローマ(バースデイ・コンサート)

パーソネル…エラ・フィッツジェラルド(vo)
      ルー・レヴィ(p)
      マックス・ベネット(b)
      ガス・ジョンソン(ds)

      ゲスト…オスカー・ピーターソン・トリオ
      オスカー・ピーターソン(p)
      ハーブ・エリス(g)
      レイ・ブラウン(b)
      ガス・ジョンソン(ds) ※サヴォイでストンプのみの録音

曲目…1.ノーマン・グランツによるイントロダクション、2.セント・ルイス・ブルース、3.ジーズ・フーリッシュ・シングス、4.ジャスト・スクイズ・ミー、5.エンジェル・アイズ、6.恋の魔術師、7.そんなことなの、8.アイ・ラヴズ・ユー・ポーギー、9.私は御満足、10.捧ぐるは愛のみ、11.ノーマン・グランツによるイントロダクション、12.君ほほえめば(CD追加曲)13.霧の日(CD追加曲)、14.真夜中の太陽、15.レディ・イズ・ア・トランプ(CD追加曲)、16.ソフィスティケイテッド・レディ(CD追加曲)、17.キャラヴァン、18.サヴォイでストンプ

1958年4月25日 ローマにてライヴ録音

原盤…Verve  発売…ポリドール
CD番号…POCJ-1913

演奏(歌唱)について…まず、「エラ」の超絶的な歌唱が聴けるのは、スキャット歌唱が洪水の様に、次から次へと繰り出される2曲目の「セント・ルイス・ブルース」です。
やはり、「エラ」は、ブルースを歌わせると半端じゃなく上手いし、バックの3人と見事に調和した歌と伴奏がオープニングから、フルスロットルで疾走し、会場を一気に盛り上げる事に、一役も二役も買っている。
とにかく、一発目から圧倒される名唱で、歌だけで言えば、ベスト歌唱でしょう。

3曲目「ジーズ・フーリッシュ~」は、「セント・ルイス~」とは、一転して、静かなバラードを聴かせる。
4曲目「ジャスト~」も、大人しめで、ジャジーな魅力に溢れていて、こう言った、アダルトで大人しい感じの「エラ」も有りですね。

5曲目「エンジェル・アイズ」…本来は作曲者「マット・デニス」の超名唱が有名で、いかにもダンディな歌でしたが、「エラ」も品位が高く、流石の歌唱力で、聴かす歌を決めています。
伴奏はピアノの「レヴィ」だけが音を出していて、とても落ち着いた曲調で、観衆も聞き惚れていますよ。

6曲目「恋の魔術師」は、ピアノ・トリオの演奏がお洒落で、それに同化して「エラ」が歌ってくれます。
典型的な「ピアノ・トリオ・プラス・シンガー」ですね。
全く、ヴォーカル物の王道ですから、聴いていて安心ですね。

8曲目「アイ・ラヴズ~」…この「エラ」のバラードもgoodです。
決して無理な声を出さず、抑制した歌唱の中に、ハートがタップリ詰まっています。
伴奏のピアノ「レヴィ」もとても品が良く、「エラ」の歌を際立たせています。
ブラシ・ワークでひっそり演奏する「ジョンソン」も可愛らしいですね。

9曲目「私は御満足」は、「コール・ポーター」作曲で、個人的に大好きな曲なんですが、ここでは「エラ」は序奏から、高速歌唱で、寸分狂いなく歌います。
そして、中間からとてもゆっくりと、聴かせる歌唱のテンポに落として、また高速に戻すと言う、劇的歌唱でKOされます。

10曲目「捧ぐるは愛のみ」…とにかく楽しい曲で、「エラ」が超一流ジャズ歌手であると同時に、一級のエンターテイナーである事を認識させられます。
序盤は余裕で歌うのは勿論なんですが、何と中間から歌まね(物真似)をしちゃうんですよ。
その歌手とは?…何と何と…「サッチモ」です。
女性の「エラ」が、見事にだみ声を真似して、「サッチモ」に変身するんです。

14曲目「真夜中の太陽」では、一寸「エラ」の本筋からはハズレるのでは?と思う、アンニュイな雰囲気の歌唱がなされ、「ベネット」のベースと「レヴィ」の抑えたピアノが、この気だるく歌う「エラ」を好アシストしてくれます。
こう言う「エラ」も結構来ますね。

CD追加曲の中では、15曲目「レディ・イズ~」なんかは面白い歌唱です。
そう、言うなればミュージカル風の歌唱で、高速の語り調で、「エラ」がぶいぶいと言わします。
今の時代なら、「エラ」…多分ラップの女性名人になっているんでしょう。

17曲目「キャラヴァン」では、「ガス・ジョンソン」の派手目のシンバル演奏と、ガッツリ重厚なベースを弾く「ベネット」、そしてセンス良いブロック・コードで「エラ」をサポートする「レヴィ」のピアノが素晴らしく、ジャズ演奏において、通常ヴォーカル物よりも、コンボ系が好きな私にとって、最高の聴き所の1曲となりました。
勿論、「エラ」の歌唱も最高潮です。

18曲目「サヴォイでストンプ」では、「オスカー・ピーターソン・トリオ+ワン」が「エラ」のバックを務めた唯一の曲がこれなんです。
「ピーターソン」が相変わらずテクニック抜群のピアノを弾き、「エラ」も負けじと圧倒的なスキャットで応戦します。
「ブラウン」「エリス」のセンス抜群の伴奏も良い味を出しています。
とにかく「エラ」のスキャットは完全に、コンボの一種と化して、声を楽器として使用した、言わば「オスカー・ピーターソン・クインテット」の演奏と言って良いでしょう。
アルバム中、最もジャジーな1曲です。

ジャズ・ピアノとフラメンコ・ギターの出会いに…ミシェル・カミロ&トマティート~スペイン

2007-10-23 23:20:17 | ジャズ・ピアノ・ソロ~トリオ
今日は、私の大好きなアルバムを紹介しましょう。
ジャズ・ピアノとフラメンコ・ギターの出会いに、何を思うでしょう。
何を聴くでしょう。
とにかく、素晴らしいんです。
ラテン好き、ジャズ好き、どちらかのジャンルが好きな方には、間違い無くお薦めできるアルバムです。
私にとっては、ど真中のストライク、所謂、ホームラン・ボール、絶好球です。

アルバムタイトル…スペイン

パーソネル…ミシェル・カミロ(p)
      トマティート(flamenco guitar)

曲目…1.スペイン・イントロ、2.スペイン、3.ベサメ・ムーチョ、4.わが息子ホセへ、5.「あなたに逢いたくて」より愛のテーマ、6.トロイとサルガンのために、7.ラ・ヴァシローナ、8.タンゴのムード

1999年8月 スタンフォード・キャリッジ・ハウス・スタジオにて録音

原盤…Verve  発売…ビクターエンターテインメント
CD番号…POCJ-1487

演奏について…まず、全部の曲が聴き応え充分であり、一つとて駄演は無い。
カリブの生んだ超絶技巧ピアニスト「ミシェル・カミロ」と、同じくフラメンコ・ギターの名人「トマティート」の奏でる音楽だけに、テクニックは言うに及ばず、情感、表現力も寸分の隙が無い。
ラテンの血が滾り、心も、演奏するお互いの運指も、全てが燃え上がっています。

まず、オープニング曲「スペイン・イントロ」は、言うなれば「アランフェス協奏曲」のメロディ演であり、この二人にとっては、正しくお手の物。
スペインの郷愁が、見事に表現されています。
ギター「トマティート」は、クラシックのスタンダードの様に弾き、オーケストラ・パートの部分を「カミロ」が華麗に、煌びやかに演奏するんです。

2曲目、タイトル曲の「スペイン」…「チック・コリア」の作品だが、見事にこの二人の掌中に曲が有ります。
高速調のリズムで曲は進むが、二人の高い演奏技術が、完璧なデュオ演奏として表裏一体の様に重なり合い、全く隙が有りません。
「カミロ」のペダルを随所に効果的に活かした音の広がりに、「トマティート」の締った、フラメンコ・ギターがペルシャ・ジュータンの様に紡がれます。
二人のアドリブ演奏、カデンツァのすごさに驚嘆します。
知情意全てのバランスも良い、超名演ですね。

3曲目「ベサメ・ムーチョ」…良いねぇ。
まず、序奏はラテン・メロディ、リズムながら、とても女性的だ。
まぁ、作曲者「ベラスケス」は女性なので、当然と言えば当然かもしれないが、ここで「トマティート」は、泣きのギター・ソロを展開し、「カミロ」は鍵盤の上から下まで全部使用したみたいに、ピアノの出せる音域を使いきって、泣きのギターを劇的に盛り上げる。
中間から、「カミロ」のアドリブに入るが、ここも女性的な可憐なピアノ・ソロで、この曲が愛らしさを、目一杯表現している。
最後の「トマティート」のギター・フレーズも、ごくスタンダードな解釈で、全く奇をてらってはいないが、そこがとても品が良く、聴かせ所になっています。
また、一つ「ベサメ・ムーチョ」の名演が完成したね。

4曲目「わが息子ホセへ」…ラテンの土着性を見事に演じきって、二人のパッションが燃える。
ギターのボディーを敲きながら、「トマティート」が、フラメンコ・ギターの真髄を見せれば、「カミロ」は割と低音重視の重厚な伴奏に務めて威厳を見せつける様に返す。
その後、「カミロ」が高音を華麗にさばき始めると、「トマティート」もギターを更にかき鳴らし、二人のバトルの様に、火花が散り演奏が進んでいく。
闘牛士の様な、熱い1曲です。

5曲目「あなたに逢いたくて~」…今までと一転して、静かな静かな1曲。
例の有名ドラマ「冬ソナ」に出て来そうな、透明感が有って、どちらかと言うと白いイメージの曲なんですが、ラテンなので寒々しくは無く、ほんのり温かい印象を持ちます。
しかし、何て優しいメロディに、優しい演奏なんでしょう。
このデュオ…激しいラテン気質丸出しの脳天気野郎達じゃないね。
こんな高貴なイマージの曲も、完全に自分達の物にしているんです。

6曲目「トロイとサルガンのために」…序奏は高速のボサ・ノヴァで始まり、その後、タンゴ風のリズムになると、「トマティート」、「カミロ」とも跳ねる様に、敲く様にパワフルに奏でる。
そして最後は、「トマティート」の哀愁タップリのソロに、重厚な「カミロ」の伴奏を絡ませながら、フィニッシュとなる。
緩急自在の「トマティート」のフラメンコ・ギターのバカテクに圧倒される事に異論は有りません。

7曲目「ラ・ヴァシローナ」…かなり早めのリズムに乗って、二人の紡ぐ音楽が目くるめく様に重なり合い、スーパー・デュオ演奏が形成される。
ここでは「カミロ」が、いつになくアグレッシブなピアノアドリブを決めてくる。
受ける「トマティート」は正しく、フラメンコ・ギターの王道的なソロを華麗に決め返します。
二人が洪水の様に、次々と魅惑的なアドリブを出してきて、ここでの音の絵巻は、本当にすごいんです。
演奏テクニックだけで言えば、いやスピリットを加味して、このアルバム屈指の名演と言えるでしょう。

8曲目「タンゴのムード」は、寛ぎ…うぅーん、どちらかと言うと哀愁のラテンかな?
「トマティート」のギター、「カミロ」のピアノとも、慈愛に溢れていて、聴いているだけで、うるうると来てしまう。
悲しいの?それとも優しいの?いや、両方なんだな。
優しすぎて、悲しくなる時ってあるよね?
幸せ過ぎて怖いって言うのも、ある意味同義語かなぁ?
曲の緩急の付け方、つまり劇的な表現が、嫌味にならないギリギリの線で演奏されていて、この辺りセンスと感性が抜群に良いんです。
ラストに相応しい演奏です。

昨日の続きです。サッチモ・アット・シンフォニー・ホール

2007-10-22 23:02:50 | ジャズ・トランペット
昨日の続きで、サッチモ・アット・シンフォニー・ホールのDISC2を解説しましょう。

まず、1曲目「マホガニー・~」ですが、典型的なデキシー・ランド&ニュー・オーリンズ・ジャズの演奏で、各人のノリノリのプレイが堪能できます。
特に「サッチモ」の長めのアドリブの出来が良いですね。

2曲目「明るい表通りで」では、ゆっくリズムの4ビートによって、「サッチモ」のペット、「ティーガーデン」のトロンボーン、「ビガード」のクラリネットがユニゾンとソロを上手く絡めた三位一体の様な序奏から、このバンドの世界にトリップして、その後の「サッチモ」の味わい深い、ヴォーカルも抜群です。
「サッチモ」を伴奏する「ティーガーデン」の伴奏も秀逸で、名コンビの名演奏に心を打たれるでしょう。
DISC2の中では屈指の名演奏です。

3曲目「ハイ・ソサイエティ」…非常に古典的なマーチ風の演奏で、ディズニーの行進曲を彷彿させる、とても楽しい演奏です。
ソロでは、前奏で頑張るドラムス「カトレット」と、クラルネット「ビガード」のアドリブが聴き物です。

4曲目「家へ帰らないか」…「ティーガーデン」がメインのヴォーカル&トロンボーン演奏と、DISC1と同様に、「ティーガーデン」の伴奏で、力演する「サッチモ」のビッグ2の演奏がgoodですよ。

5曲目「ザッツ・マイ~」では、情感たっぷりに「ヴェルマ」が歌い、聴いていると、とてもふくよかな気分になります。
続く「サッチモ」のヴォーカルも的を射た名唱で、ペーソスもたっぷりで、二人のユーモア溢れるヴォーカルに聴衆は笑いの渦に入ります。

6曲目「C・ジャム・ブルース」では、クラリネット「ビガード」の超絶的なカデンツァ・アドリブと、ベースの「ショウ」のガッツリ・ベースで、略デュオとも言える二人のバトル演奏が素晴らしい。
正に烈火の様な火花散る名演奏。

7曲目「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」でも、ベース「ショウ」の骨太なサウンドが核になって、重厚感に満ち溢れた演奏がなされる。
何やらバップの聖典とも言われる演奏との事で、賑やかな雰囲気が良い。
しかし、「ショウ」のピッチカート演奏の技巧はすごいね。
ベース好きな私には堪らん演奏です。

ラストナンバー「ボフ・ボフ」…ドラムス「カトレット」が、派手派手ドラミングで皆を煽り、強烈にドライヴして行く。
やはり、終曲にドラムが前面に出てくるのは、ノリが有って良いねぇ。
このスタイルは、人気物「バディ・リッチ」や、御大「A・ブレイキー」なんかに踏襲されて行ったのでしょう。
「カトレット」は、かなりのすご腕で、「サッチモ」「ティーガーデン」「ビガード」「ショウ」と、このアルバム(ライヴ)で、ソロを取るメンバーどれもが名人で、この「オールスターズ」が、「オールスターズ」と言われる所以ですね。
拍手喝采で幕が下ります。

ルイ・アームストロング&ザ・オール・スターズ~サッチモ・アット・シンフォニーホール

2007-10-21 23:15:57 | ジャズ・トランペット
ジャズ初期の歴史的なレコーディングであり、アルバムでもあるのが、今日紹介の「サッチモ・アット・シンフォニーホール」です。

言うまでも無く、ジャズの大巨人、「サッチモ」こと「ルイ・アームストロング」が率いる「ザ・オールスターズ」が、シンフォニー・ホールで演奏した、伝説的なライブ録音です。

録音は悪いですが、ビ・バップ、ハード・バップ、モード、フリーへと繋がっていく、ジャズの基本的な演奏は、この頃に確立されて行きました。
日頃、私が紹介している音楽に比べて、一寸、古臭い感じも否めませんが、それはそれで、古き良き時代の貴重な演奏を聴くのも、中々おつな物です。

アルバムタイトル…サッチモ・アット・シンフォニーホール

パーソネル…リーダー;ルイ・アームストロング(tp、vo)
      ジャック・ティーガーデン(tb、vo)
      バーニー・ビガード(cl)
      ディック・キャリー(p)
      アーヴェル・ショウ(b)
      シドニー・カトレット(ds)
      ヴェルマ・ミドルトン(vo)

曲目…DISC 1
   1.マスクラット・ランブル、2.ブラック・アンド・ブルー、3.ロイヤル・ガーデン・ブルース、4.ラヴァー、5.アラバマに星堕ちて、6.アイ・クライド・フォー・ユー、7.シンス・アイ・フェル・フォー・ユー、8.二人でお茶を、9.身も心も、10.ステイク・フェイス
   
   DISC 2
   1.マホガニー・ホール・ストンプ、2.明るい表通りで、3.ハイ・ソサイエティ、4.家へ帰らないか、5.ザッツ・マイ・ディザイア、6.C・ジャム・ブルース、7.ハウ・ハイ・ザ・ムーン、8.ボフ・ボフ

1947年11月30日 ボストン・シンフォニー・ホールにて録音

原盤…DECCA DL 8037 発売…MCAビクター
CD番号…MVCR-20015~16

演奏について…ライブ録音で、2枚組の超大作、それも古い演奏なので、曲数も多いと来たもんだ!
最初に言っておきます、正直、全曲の紹介なんて出来ないっぽいので、気になる曲とお薦め曲だけにしておこうかな。

まず、DISC1の方ですが、オープニング曲「マスクラット・ランブル」…いかにも「サッチモ・オールスターズ」のお出ましと言うのが如実に分かる1曲。
「サッチモ」のトランペット、「ティーガーデン」のトロンボーンの絡みもバッチリ、ピアノ「キャリー」のサロン風寛ぎ演奏も良いし、ベース「アーヴェル・ショウ」のソロもかっこいいです。

2曲目「ブラック・アンド・ブルー」…このDISC1で、一番のお薦め曲です。
哀愁たっぷりの「サッチモ」のトランペットがとにかく泣ける。
その後の、ご存知、だみ声での情感がこもったヴォーカルも最高です。
この曲は「黒い皮膚」の悲哀の歌であり、この時代、シンフォニー・ホールで演奏した事の誇りと、白人に対する揶揄も感情がこもった要因でしょう。

4曲目「ラヴァー」は「ティーガーデン」のトロンボーンをフューチャーした曲で、とにかく抜群のテクニックに目を見張るばかり。
時代が古くても、トロンボーンの演奏には、他のホーン楽器のよりも、技術的な差異は少ないみたいなので、今でも第一級の名演でしょう。

5曲目「アラバマに星堕ちて」では、前曲で技巧高きトロンボーンを吹いた「ティーガーデン」のバラッド・ヴォーカルが堪能できる。
バックの伴奏が終始「サッチモ」が吹くトランペットで、何と言う豪華な組合せでしょう。
中間での「ティーガーデン」のトロンボーン・ソロも、伸びやかで大らかな音色にうっとりします。
2曲目と双璧の名演・名唱です。

6曲目「アイ・クライド~」7曲目「シンス・アイ~」の2曲共、「女サッチモ」こと「ミドルトン」が、のびのびと歌うヴォーカル曲です。

8曲目「二人でお茶を」9曲目「見も心も」の2曲は、クラリネット「ビガード」が素晴らしいアドリブ・ソロを取ります。
8曲目では、後半にドラム「カレット」との、対話「合戦」が繰り広げられ、9曲目では、ベース「ショウ」が、かなりハードなベース・ワークをするのが聴き物です。
「ビガード」は、真面目に超絶テクニシャンで、今聴いても実力充分なアーティストですね。

10曲目「ステイク・フェイス」は、ドラムスの「シドニー・カトレット」のアドリブ・ソロが聴き物なのですが、「M・ローチ」「A・ブレイキー」「フィリー・ジョー」「エルヴィン」「T・ウィリアムス」モダン・ジャズのスーパー・ジャズ・ドラマー達と技巧を比べると、やはり名人と言えども、チョッチ古臭い感じがする。
しかし、この当時のドラム・ソロとすれば、画期的で超絶技巧だったのは、伺い知る事はできる。

DISC2の詳細、解説は、明日に続く…。。。

ノルウェーのコルトレーン…ヤン・ガルバレクのECMデヴュー盤~アフリック・ペッパー・バード

2007-10-20 16:54:48 | ジャズ・テナー・サックス
1963年にノルウェーのオスロで「コルトレーン」のライヴを聴いて、自己の音楽スタイルを「コルトレーン」に啓発された形で、磨いていったアーティストが、今日紹介する「ヤン・ガルバレク」である。

その「ガルバレク」が、ECMレコードにデヴューした、記念すべきアルバムが、この「アフリック・ペッパー・バード」なんです。

「コルトレーン」以上のマルチ・プレイヤーの世界を是非覗いて下さい。

アルバムタイトル…アフリック・ペッパー・バード

パーソネル…リーダー;ヤン・ガルバレク(ts、bs、cl、fl、per)
      テリエ・リピダル(g、bugle)
      アリルド・アンデルセン(b)
      ヨン・クリステンセン(per)

曲目…1.スカラビー、2.マージャン、3.ビースト・オブ・コドモ、4.ブロウ・アウェイ・ゾーン、5.MYB、6.コンセンタス、7.アフリック・ペッパー・バード、8.ブルップ

1970年9月 オスロにて録音

原盤…ECM 発売…ポリドール
CD番号…POCJ-2058

演奏について…まず、アルバム全体を通しての印象だが、演奏者が北欧の「コルトレーン」らしく、又、ECM録音と言う事もあってか、正しく白く透き通った世界が目に浮かぶ様な、クリアーな音の世界が表現されている。
演奏形態、演奏表現は、なるほど、「トレーン」後期の影響をかなり受けていて、似た部分があるのだが、「コルトレーン」の演奏は色で言えば、少なくとも「真っ白」や「透明」では無いんです。
さて、「コルトレーン」の演奏は何色なのかな?…考えると分からないなぁ。
多分、演奏している(聴いている)精神ステージが高すぎて、もはやこの世の音楽では無いんでしょう。
だから、「コルトレーン」の演奏からは、もはや色は見えない。
色がある世界から、遥かに超越しているんです。
言わば、神の音楽なんですね。

しかし、「ガルバレク」の演奏からは、ハッキリと白い世界が見える。
つまり「ガルバレク」の音楽は、人間が奏でている音楽なんです。

何を言いたいか?と言えば、「ガルバレク」を批判したい訳ではなく、全く逆で、「コルトレーン」の演奏形態を踏襲しつつ、「ガルバレク」の世界は、ちゃんと作っていると言う事で、自分のスタイルを持っていると言う事なんです。
極端ですが、演奏だけ「コルトレーン」ソックリで、色が全く出ていないミュージシャンがいる中で、色が見える「ガルバレク」が、優れたアーティストだとも言えるんです。

では詳細の説明をいくつか行きましょう。

個性的な編曲、楽器編成が売りのオープニング曲「スカラベ」…民族系打楽器をリズム・セクションに使用し、非常にアフリカンでエキゾチックな雰囲気の曲で、「ガルバレク」はアフリカ原住民族が吹く、角笛の様なホーン演奏をしている。
「スカラベ」とは、ふんころがしの事だが、エジプトでは神聖な神の使いの昆虫だったはず。
この雰囲気は、何か黒魔術の様なおどろおどろしさもあるが、とても神聖な感じのする曲で、オープニング曲としての掴みはOKです。

3曲目「ビースト・オブ・コドモ」は、重厚なベース「アンデルセン」の名演奏を軸に、渾然一体となったメンバーがハード・ボイルドに決める、かっこいい演奏です。
とにかく、ベースがズシン、ズシンと響き、この曲の大黒柱になって、「ガルバレク」が、最初は尺八の様に、静寂に木霊する様に、静かに吹いて、その後のアドリブでは、正しく後期「コルトレーン」の様に、テナーで絶叫し、のた打ち回る超絶演奏が聴きものです。
それから、この演奏の個性を際立たせているのは、ギター(エレキ)の「リピダル」が曲間に印象的に、エレキ伴奏を入れていて、「コルトレーン」に近い演奏プラス、「エレクトリック・マイルス」が融合されている所でしょう。
私は「エレクトリック・マイルス」が余り好きじゃないんですが、(このブログでも未だ一回も紹介していません。)不思議と、この演奏は嫌いではなく、逆に名演として、何回も聴きたい演奏です。
やはり、前述のアコースティック・ベース「アンデルセン」が、大黒柱の演奏なので、曲に浮いた所がなく、名演奏になったのでしょう。

このアルバムナンバー1の名演、4曲目「ブロウ・アウェイ・ゾーン」…「コルトレーン」後期の演奏が乗り移った様な名演奏です。
このアルバムのメンバー紹介にドラムスが記載されていないんだけど、ここでは前曲同様に「アンデルセン」のバチッっとくるベースに加えて、「エルヴィン」か「ラシッド・アリ」並に、曲を宇宙空間へと導く様な、ドラム演奏が良い味を出しています。
この二つのしっかりしたリズム・セクションをバックに「ガルバレク」がアグレッシヴなアドリブ・ソロを、思い切り良く吹き切ります。
汗と唾が飛び散るのが分かるくらい、アバンギャルドな熱演が、ハートにびんびんと迫って来ます。
フリー・ジャズ好きには堪えられない、バッチグーの名演奏です。

7曲目表題曲でもある「アフリック・ペッパー・バード」…不思議なテーマを掲示した後で、ベース、ドラムス、ギターの3者によって、ややラテン調のリズムがリフレインして演奏される。
その後「ガルバレク」が、またまた搾り出す様な音色のサックスを、カデンツァとして演奏する。

2曲目の「マージャン」…ベースの低音をメインに、ドラムのシンバルとギターが絡むフリー系ジャズの序奏的な短い演奏。
しかし、何故に曲名がマージャンなの?

5曲目「MYB」も、「J・ギャリソン」の様ビシッとベースを弾く「アンデルセン」に「ガルバレク」がシュールに絡む短曲です。

6曲目「コンセンタス」…「ガルバレク」が北欧の朝もやを表現した様な、清々しい1分弱の1曲です。

「ガルバリク」の演奏…流石、ノルウェーの「コルトレーン」と思わせる演奏が随所に見られて、フリー好きな方にはお薦めですが、実はこのアルバムのもう一人の主役は、お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、間違い無くベースの「アンデルセン」にあります。
「アンデルセン」の「ジミー・ギャリソン」ばりの超絶技巧と、演奏に対するスピリットが、このアルバムを「後期コルトレーン」の世界観に押し上げている要因でしょう。


ファンキーなブルーノートの代表作…リー・モーガン~ザ・サイド・ワインダー

2007-10-19 23:14:50 | ジャズ・トランペット
今日は、ジャズ・ロックの走り云々等と、巷では言われる事が有りますが、ロックかどうかはともかく、ファンキーなノリのよさで、ブルー・ノートの60年代中期を代表する名盤の一つと言うのは間違い有りませんので、この盤を紹介します。
リーダーは天才トランペッター「リー・モーガン」
サイドメンには、「ジョー・ヘンダーソン」や「バリー・ハリス」等、好メンバーに恵まれて、演奏曲も名曲「ザ・サイドワインダー」が入っているので、言う事は有りません。

アルバムタイトル…ザ・サイド・ワインダー

パーソネル…リーダー;リー・モーガン(tp)
      ジョー・ヘンダーソン(ts)
      バリー・ハリス(p)
      ボブ・クランショー(b)
      ビリー・ヒギンズ(ds)

曲目…1.ザ・サイドワインダー、2.トーテム・ポール、3.ゲイリーズ・ノート・ブック、4.ボーイ・ホワット・ア・ナイト、5.ホーカス・ポーカス

1963年12月21日録音

原盤…BLUE NOTE 84157  発売…東芝EMI
CD番号…CP32-5236

演奏について…表題曲(名曲)「サイドワインダー」だが、ロック・リズムに乗って、「モーガン」がファンキーなアドリブを、いつも通りブリリアントな音色のトランペットで吹き切るのが最初の聴き所。
次いで「ヘンダーソン」も、このロック・リズムに合わせて、センスの良いフレーズを次々吹いて、コンボの高揚感が更に増す。
それから「ハリス」が、ノリノリのピアノ・プレイで止めをさしに来ます。
ファンキー度120%の演奏に、貴方の体はリズムを刻み、頭を振るでしょう。
サプライズは、「クランショウ」の渋いベース・ソロが最後に入るのも、編曲のエンターテインメントの素晴らしさが感じられる。

2曲目「トーテム・ポール」…実は、この曲がこのアルバムのベスト1演奏だと、私は信じて疑わない。
ラテン・リズムに合わせて、「モーガン」「ヘンダーソン」のとても都会的な雰囲気のメロディが、ニューヨークを颯爽と歩く、スーツ姿のニューヨーカーをイメージさせる。
「モーガン」のアドリブ・ソロも音色が輝かしく、逆に「ヘンダーソン」は渋く抑え目にソロを吹く。
バックはラテン・リズムと4ビートを随所に転調させて、曲のアクセントを付けて、聴衆を飽きさせない編曲に仕上げている。
この曲での「ハリス」のピアノ・アドリブが、「レッド・ガーランド」のシングル弾きの様にセンスが溢れていて魅力的です。
更に「クランショウ」と「ヒギンズ」のタイトなリズムが、個性的なソロ奏者3人のアドリブ演奏をカッチリ締めている。
最後にもう一度、「モーガン」がテーマを発展させたアドリブを吹いて、この曲の完成を見る。
誠にアーバナイズされた曲調で、(演奏が)終わっても、いつまでも曲が耳と心に残るんです。

3曲目「ゲイリーズ~」も変拍子のロック調リズムの曲で、この曲では、最初に「ヘンダーソン」がアドリブソロをとり、次に「モーガン」がアドリブを吹くのだが、この演奏では「モーガン」が「ヘンダーソン」に合わせたのか、かなり抑え目のトーンでアドリブを吹くのが、いつに無く個性的です。
「ハリス」のピアノも相変わらず冴えていて、「ヒギンズ」がパシンパシンとアクセントを付けて敲くドラムとの曲の対話が楽しいです。

4曲目「ボーイズ~」も変速リズムの曲で、且つファンキー節全開の曲調がアルバムのトータル・コンセプトを表明しています。
フロント二人のユニゾン演奏が長めに取られていて、演奏のパワーが山場に来たかなって思います。
3曲目まで、抑制気味に吹いていた、「ヘンダーソン」も、かなりフリーに大胆にアドリブ・ソロをとっていて、受ける「モーガン」も限定解除?になって、思い切り吹き捲ります。
ミュージシャン皆の心が、集中して燃えるのがすごいですね。

今日は久しぶりにベスト盤ですよ。ベスト・オブ・ファン・モサリーニ~新しいタンゴの世界~

2007-10-18 22:15:28 | ラテン・インストゥルメンタル
クラシックの現代曲が好きな方なら、極度のラテン好きでなくても、その名を聞いた事があるであろう、20世紀最高のタンゴ・コンポーザーにして、バンドネオン奏者と言えば「アストラ・ピアソラ」ですが、今日紹介する、現代タンゴのコンポーザーにして、バンドネオン奏者は「ファン・ホセ・モサリーニ」と言うミュージシャンなんです。

「ピアソラ」程、日本(世界)では、著名ではないが、実はそれに比肩しうるぐらい、ヨーロッパ(フランス)では、良く知られたマエストロ(巨匠)なのです。
演奏技術も本当に素晴らしく、「ピアソラ」と双璧か、実はそれ以上と言っても過言では有りません。

ただ、「ピアソラ」よりも、世間的評価が若干低いのは、「モサリーニ」の奏でる(作る)タンゴの方が、「ピアソラ」の音楽(タンゴ)に対してよりも、少し柔軟な考えを持っており、ネオ・クラシックとも言うべき、現代曲のタンゴ・ミュージックよりも、幾分ポピュラーやジャズよりな曲が多いのが、本格的派の現代タンゴよりも、色眼鏡で見られているからかも知れません。

私にとっては、「ピアソラ」よりも、ジャジーな「モサリーニ」の方が愛聴すべきミュージシャンなんですけどね。
また、1995年に、NHKドラマ「水辺の男」のサウンド・トラックを担当した事があり、多少は聞いた事が有る方が、いるかも知れません。

そう言った訳で、本日は「ファン・ホセ・モサリーニ」の世界へトリップしましょう。

アルバムタイトル…ベスト・オブ・ファン・モサリーニ~新しいタンゴの世界~

パーソネル…1曲目・モサリーニ&アントニオ・アグリ タンゴ五重奏団
      ファン・ホセ・モサリーニ(バンドネオン)
      アントニオ・アグリ(vl)
      オスワルド・カロ(p)
      ロベルト・トルモ(b)
      レオナルド・サンチェス(g)

      2、4、6曲目
      ファン・ホセ・モサリーニ(バンドネオン)
      グスタボ・ベイテルマン(p)
      パトリス・カラティーニ(b)

      5曲目
      ファン・ホセ・モサリーニ(バンドネオン・ソロ)

曲目…1.水辺の男(12:26)
     ①水辺の男Ⅰ
     ②水辺の男Ⅱ
     ③主人公のテーマ
     ④愛のテーマ
     ⑤死のテーマ
   2.ヴィオレント(6:47)
   3.酔いどれたち(5:55)
   4.パロミータ・ブランカ(3:00)
   5.ペドロ・イ・ペドロ(5:37)
   6.ナオミ(8:52)
   7.アレ・エ・ルトゥールⅠ(6:13)
   8.アレ・エ・ルトゥールⅡ(5:10)

原盤…MANNENBERG RECORDS
CD番号…CAC-0018

演奏について…まず、前述の通り、「NHKのドラマ」のサウンド・トラックに使用されたオープニングの組曲「水辺の男」が、流石とも言うべき名曲・名演です。
①水辺の男Ⅰのテーマから、胸が締め付けられる様な、甘く切ない美旋律のメロディが心に残る。
「モサリーニ」のバンドネオン…危険な恋に身を焦がす、危険な炎の様に妖艶です。
②のテーマに移ると、現代タンゴらしい不安げな曲調で展開される。
「モサリーニ」のバンドネオンを取り囲む様に、最も不安なテーマを弾く「アグリ」のヴァイオリンが聴き所。
低音域で曲を推し進める「カロ」の重厚な弾き具合も良いですぞ。
③主人公のテーマは②以上に不安を予期させる。この先にあるのは、やはり悲劇なのか?
僕は彼女の元へは戻れないのか?
④愛のテーマでは、前半はギターの「サンチェス」が主役…これは主人公を待つ恋人の曲なんでしょう。
彼女は、この先にあるのは決して悲劇では無い。…私の愛が、信念が強ければ、何も怖くないし、彼は無事に帰って来る。きっと帰ってくるわ。
後半のピアノのテーマは、主人公が彼女の愛を信じて、無事に帰れると。希望を見出すのだろうか?
⑤死のテーマ…しかし、やはり、貴方は帰って来ないのね…。
あの暗い海の底に沈んでしまったの?この物語は悲劇で幕を閉じた様です。
しかし、悲しくも美しいメロディは感動的な1曲になっています。

2曲目「ヴィオレント」…現代タンゴとジャズの融合がとても新鮮で、驚きの発見が多い曲で、かなり気に入りました。
ギター「カラティーニ」の殴る様な、ラテン・ギター演奏と、これまたアグレッシヴな「モサリーニ」のバンドネオンが、とても緊張感のある名演を作り上げています。
ベースとピアノの重厚な響きが、緊張感の維持に、より一層の効果をもたらしています。

3曲目「酔いどれたち」…ここでは恨み節や泥酔の酔いどれが集まったイメージは無く、とても陽気な酔っ払いたちが集まって、歌でも口ずさんでいるんだろう。
しかし、後半一人の男が…一番の御大(長老)だろうか?
人生のはかなさ、わびしさをヴァイオリンの調べで表現する。
人生とは…男とは…家族とは…生きる事とは…と静かな口調で語り、皆は黙って聞いている。
しみじみと聴かせる演奏です。

4曲目「パロミータ~」は、多分このアルバムで一押しのトラックだろう。
演奏されているのは、実はタンゴでは無く「シャンソン」です。
「モサリーニ」…やはりパリで腕を上げ、認められた男…。
本場シャンソンのテイストを散りばめた、「ネオ・タンゴ」に彼の真髄が見れる。

5曲目「ペドロ~」では、寛ぎと平穏のタンゴが、「モサリーニ」のバンドネオン・ソロで演じられる。
「モサリーニ」は明るめの音色で、前向きな曲調のアドリブ・メロディを弾き、
決して声には出さないが、強い心で希望を持って生き抜こうと決心している。
いつかは幸せに、きっと幸せになれるはず…私はまだまだ頑張らなくては…。

6曲目「ナオミ」…何で日本の女性の名が冠してあるのか?ちと疑問だが…
この曲の肝は、メロディを弓で弾くベースの「カラティーニ」で、これは男なのだろうか?
そうすると、流麗なピアノメロディを紡ぐ「ベイテルマン」がナオミだろう。
そして、この二人の心の揺れを表現するのは…「モサリーニ」のバンドネオン。
男と女(ナオミ)は、この先どうなるの?
私達、分かり合ってたはずなのに…今は貴方が分からない。
どうすれば良いの?別に好きな人が出来たの?知りたいけど、知るのが怖い…。
いや、僕は君を絶対に失いたくないんだ…。
でも、信じてもらえないけど、別の人も好きになってしまった…。
やはり、つらいが君との関係は終わりにしないと…僕はダメな男だね…ナオミ。
やっぱり…そうだったの。分かったわ…さようなら貴方。
そんなダメな男…私からサヨナラしてあげるわ…なんて上手く行くかな?

7曲目「アレ・エ~」、8曲目「アレ・エ~」…7曲目では、ヴァイオリン協奏曲の様な、激しい旋律のテーマと、伴奏なのだが煌びやかなメロディで飾りを付ける「バンドネオン」の見事なコラボレーションが素晴らしい。
8曲目では、ヴァオリンが打って変わり、ピッチカートを利かした不安げな演奏にチェンジする。
温かみの感じられるメジャー・コードと、絶望的なマイナー・コードが、交互に演奏されて、丁半賭博か白黒かの結論を迫られる様な雰囲気の曲です。
しかして、その結論は…最後はまた、ヴァイオリン協奏曲調なのですが、突然切れる様に終わるので…このイプセン的な解釈はどうなるんでしょう?
皆さんの心が決めるんでしょうね。

木住野佳子~フェアリー・テール

2007-10-17 22:21:38 | ジャズ・ピアノ・コンボ
今日は、またまた邦人女流ジャズ・ピアニストの才媛を紹介しましょう。
演奏しているアーティストは、「木住野佳子」…パワフルな「大西順子」やアクティヴな「上原ひろみ」等と異なって、いかにも女性ピアニストらしい、繊細で柔らかいピアノを弾きます。
このアルバムは、そんな彼女のデヴュー盤で、オーソドックスなピアノ・トリオ演奏や、今年突然の訃報が有ってショックを受けた人が多いと思われる「マイケル・ブレッカー」参加の演奏曲等、聴き所が満載です。
では、詳細を…。

アルバムタイトル…フェアリー・テール

パーソネル…リーダー;木住野佳子(p)
      エディ・ゴメス(b)
      ルイス・ナッシュ(ds)
      マーク・ジョンソン(b)
      ピーター・アスキン(ds)
      マイケル・ブレッカー(ts)

曲目…1.ビューティフル・ラヴ、2.フェアリー・テール、3.ジ・アイランド、4.いつか王子様が、5.ファンカレロ、6.星影のステラ、7.オンリー・トラスト・ユア・ハート、8.誓い、9.ラフィット’82、10.ゴーン、11.ウィズ・ア・リトル・ソング

1995年4月17、19、20日 NYにて録音

原盤…MCAビクター  発売…ビクター・エンタテインメント
CD番号…MVCR-30001

演奏について…私が大好きな演奏は、3曲目「ジ・アイランド」。
非常にロマンティック&センチメンタルな、女性美が満ち溢れた好演が、胸を討ちます。
バックはスローのラテン・リズムを終始キープして、それを背景に「木住野」がライトなボサ・ノヴァ的なお洒落なタッチで、次々に美しいフレーズのアドリブを作り出す。
いつまでも、本当にいつまでも聴いていたい、心地良いメロディです。
このアルバムの中で、ベスト1の名演ですね。

7曲目「オンリー・トラスト~」は、正に「木住野」の真骨頂。
とてもロマンティックで、叙情性にあふれた穏やかなアドリブ・ソロから、急速調に変調すると、粒立ちの良いピアノ・トーンで、華麗に鍵盤を走らせる。
バックのベース「ジョンソン」は、実直に弾き続け、ドラムス「アースキン」は、お洒落なタイム感覚で、チョコッと自己主張をするのがミソかなぁ。

オープニング「ビューティフル・ラヴ」…1曲目から「木住野」が駆ける!
チョット「ビル・エヴァンス」が入った感じの、クール・ビューティさが良いね。
「ゴメス」の推進力と、「ナッシュ」のきめ細やかなドラムが、「木住野」をより一層際立たせる。
その後の「ゴメス」のテクニック抜群のソロ・インプロビゼーションと、「ナッシュ」と繰り広げる、音の会話がものすごい。
二人は「木住野」親衛隊と化して、アルバムの1曲目を成功へと導く。
うーぅーん「木住野」はバックメンバーに恵まれているね。

2曲目「フェアリー・テイル」…アルバム・タイトル曲と言う事もあり、流石のサプライズ・ゲスト、「マイケル・ブレッカー」が参上して、音を合わせてくれるのだが、「ブレッカー」は完全にサイド・メン演奏に従事している。
「木住野」は雄大で、ゴージャスな雰囲気のソロを弾いて、「ブレッカー」のアシストも手伝って、大河の流れの様に落ち着いた、そしてデンと構えたピアノが大物の予感がします。

8曲目「誓い」も「木住野ワールド」全開で、ゆったりとした音空間を作って、繊細さと美しさが溢れ出るアドリブ・メロディを紡いで行く。
「木住野」の世界は住み心地(聴き心地)が良いのです。

5曲目の「ファンカレロ」は、彼女のこのアルバム中では、かなりハードで硬派な演奏ですね。
ピアノのタッチも粒立ちをかなり立たせた、言うなれば「尖った音」でプレイしているんです。
「ゴメス」も野太いベースをガッツりと弾いて、「ナッシュ」はとてもセンシティブで、クリアーなドラミングで、彼女をサポートします。

6曲目「星影のステラ」…ゲスト、「マイケル・ブレッカー」が、非常に男の色気を纏わせた音色のテナーの序奏から始めると、「木住野」も雄大なイメージのピアノで対抗する。
その後「ブレッカー」が限定解除して、バリバリと吹き始めるのだが、又、曲が緩小節にチェンジして、「ブレッカー」、「木住野」とも、落ち着きと余裕の有る、大人の演奏で曲を纏める。

4曲目「いつか王子~」では、「木住野」がローマン調のブロック・コードで、「ゴメス」のベースをしっかり、いや、やんわりアシストするのが良いんです。
「ゴメス」が、骨太ながら温かみのあるアドリブベースを気持ち良く弾いてくれます。

10曲目「ゴーン」…美しく哀愁調のテーマ・メロディからして、耳を傾けなくてはいけないね。
この曲のリズムはワルツなんだなぁ。
とても静寂な、静かな冬の湖の水面を眺めている時の雰囲気に感じが似ている。
静寂のバラッド演奏が、貴方の心に青白く燃え続けるでしょう。
最後に「ブレッカー」が一吹きしにやって来る。
そうだ、この水面に一羽の白鳥が舞い降りて、美麗な翼を拡げて求愛しているのでしょうか?

11曲目「ウィズ・ア・リトル~」も、10曲目に近い落ち着いた曲調のピアノ、バラードです。
その違いは…「ブレッカー」がいない事…だけじゃない。
この演奏はピアノ・ソロなんです。
クラシック畑出身の「木住野」にとっては、ソロ・ピアノ(アドリブ)はお手の物。
「ジョージ・ウィンストン」の様にとても美しいソロピアノ演奏で幕が閉じます。

キャノンボール・イン・ジャパン~キャノンボール・アダレイ

2007-10-16 22:42:16 | ジャズ・アルト・サックス
今日も名曲、名演の2拍子が揃ったライヴ・アルバムを行っちゃいましょうか?

「キャノンボール・アダレイ・クインテット」が、東京、サンケイ・ホールで興行した時の演奏を収めたアルバムがこれなんです。
まぁ、「キャノンボール・クインテット」の来日と言う事で、演奏している曲は、まんまこのコンボの代表曲ばかりで、実質ベスト盤みたいな物でしょう。
「アダレイ・ブラザース」のベスト・パフォーマンスはもとより、若き日のエレピやシンセでは無く、アコースティックなピアノを奏でる、「ザビヌル」の演奏なんか、とても興味が湧きますよね。

アルバムタイトル…キャノンボール・イン・ジャパン

パーソネル…リーダー;キャノンボール・アダレイ(as)
      ナット・アダレイ(cornet)
      ジョー・ザビヌル(p)
      ヴィクター・ガスキン(b)
      ロイ・マッカーディ(ds)

曲目…1.ワーク・ソング、2.マーシー・マーシー・マーシー、3.ジス・ヒヤー、4.マネイ・イン・ザ・ポケット、5.ザ・スティックス、6.ジャイヴ・サンバ

1966年8月26日 東京サンケイ・ホールにて ライヴ録音

原盤…Capitol 発売…東芝EMI
CD番号…CDP-7-93560-2 (輸入盤)

演奏について…コンボとしての演奏パフォーマンスが高いのは、まず3曲目の「ジス・ヒヤー」…「ボビー・ティモンズ」作曲のファンキーの王道曲ですが、序奏は「アダレイ・ブラザース」のユニゾンから始まって、その後の「キャノンボール」が思い切り良く吹き切るのと、「ナット・アダレイ」のブリリアントなコルネットを活かした快演のアドリブ比べが気持ち良いですね。
それに続く「ザビヌル」も、かなり「ファンキー」なアドリブ・ソロを弾いて、「アダレイ・ブラザース」に見事に同化した演奏をしています。

4曲目「マネー・イン・ポケット」…この曲も「ザビヌル」の作曲だが、変拍子から始まる、完璧なまでものファンキー・チューンです。
ラテン調&ファンキー節のこの演奏は、このグループに敵うバンド(コンボ)は皆無でしょう。
「ナット」がスタートから猛ダッシュを駆けたアドリブをかます。
アドリブの途中でまたまた「ワーク・ソング」の1小節を吹いちゃう所なんかが笑えます。
兄貴「キャノンボール」も、弟に触発されたのか、ぶいぶいアルトを吹き捲り、続く「ザビヌル」のピアノ・ソロ…抜群ですね。
この思索型にお人が、こんなにもファンキーに弾けるなんて…しかし、曲の後半では音を極力排除して、とても間を活かしたアドリブを弾いたりして、この曲にアクセントをつけています。
この辺は学者肌の「ザビヌル」らしい感じがします。
3曲目と並ぶ、ベスト・パフォーマンス演奏です。

そしてエンディング曲の「ジャイヴ・サンバ」…サンバのリズムに乗って、ベース「ガスキン」、ドラムス「マッカーディ」の二人は、フロントの2管の二人、そして「ザビヌル」に比べると幾分地味なアーティストだが、このライブの成功は、偏にこの二人のドライヴィング力から来ていると思程、素晴らしい推進力の演奏をしている。
曲の最後には、この二人のアドリブも有るので、嬉しいですね。
「キャノンボール」…素晴らしいフレーズを連発し、最後の盛り上げに集中力も最高潮に達したかな?
「ナット」は、前半は兄貴に合わせるイメージ演奏だが、ソロに入ってからは、とても輝かしい魅力的なコルネット演奏をする。
「ザビヌル」のラテンチックなアドリブ・ソロもとても魅力的で、ヨーロッパのゲルマン民族らしからぬ、(確かオーストリー出身だよね?)このノリはどこから来てるの?
この曲の演奏は、エンディングに相応しい、パワーと遊び心の両面が良く出された名演奏でしょう。

オープニング曲「ワーク・ソング」は、このコンボの代名詞的な曲で、「キャノンボール」が思い切りバウトしてぶいぶい言わせてます。
ファンキーな持ち味を保持しつつ、非常にフリーキーなトーンのアドリブを連発していて、「キャノンボール」に新たな魅力を発見できるでしょう。
他のメンバーは「キャノンボール」を引き立たせる演奏に従事しています。

2曲目「マーシー~」は、「ジョー・ザビヌル」作曲の名曲ですが、この演奏ではメロディに忠実に、AOR的な大人のブルースが展開されています。
誰でも口ずさめる、このメロディ良いですよねぇ。
但し、ジャズはアドリブ重視と考えると、一寸ポップスすぎるかなぁ、なんて老婆心がでちゃいますね。
「ザビヌル」のピアノをメインにしているので、ベース「ガスキン」とドラムス「マッカーディ」のリズム・セクションの二人も、自己主張を少しばかり見せてくれます。

アート・ペッパー・ウィズ・デューク・ジョーダン・イン・コペンハーゲン1981

2007-10-15 23:42:30 | ジャズ・アルト・サックス
復活した「アート・ペッパー」のヨーロッパでのライヴ・アルバムを聴いて下さい。
名ピアニスト「デューク・ジョーダン」のスペシャル参加も相成って、超ド級の演奏、ライヴ・パフォーマンスに感動を味わって欲しいですね。

変身後のハードな「ペッパー」ですが、時折、若い頃の感性豊かな「閃き」のフレーズも吹いてくれますので、その辺りは一番の聴き所です。

「ジョーダン」のお得意のフレーズ「ジョーダン節」も健在で、ファンには堪らない曲目&演奏でヘヴィーな2枚組ライヴ・アルバムを堪能して頂戴!

アルバムタイトル…アート・ペッパー・ウィズ・デューク・ジョーダン・イン・コペンハーゲン1981

パーソネル…アート・ペッパー(as、cl)
      デューク・ジョーダン(p)
      デヴィッド・ウィリアムス(b)
      カール・バーネット(ds)

曲目…DISC1…1.ブルース・モンマルトル、2.恋とは何でしょう、3.虹の彼方に、4.キャラバン、5.リズム・マ・ニング、6.ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド

   DISC2…1.ベサメムーチョ、2.チェロキー、3.レディオ・ブルース、4.グッド・バイト、5.オール・ザ・シングス・ユー・アー

1981年7月3日 デンマーク コペンハーゲン カフェ・モンマルトルにてライヴ録音

原盤…TOFREC 発売…トイズ・ファクトリー・レコード
CD番号…TFCL-88916/7 2枚組

演奏について…DISC1のオープニング曲は、この地にちなんで付けられたであろう曲目、「ブルース・モンマルトル」で、比較的ライトな感覚のブルース曲で演奏される。
「ペッパー」は、若い頃よりは、幾分渋みと言うか、くすんだ音色になってはいるが、エモーショナルで、煌きを持ったフレーズを随所に吹いて、健在ぶりを見せ付ける。
「ジョーダン」は、「ディス・イズ・ザ・ジョーダン」とも言うべき、「ジョーダン節」を全開して、素晴らしい哀愁を帯びたマイナー調のシングル・トーンを次々と連発!
いつまでも聴いていたい、ピアノ・アドリヴ・ソロです。
それから、ベースの「デヴィッド・ウィリアムス」が、実直ながら太目の音でベースを弾いて、皆を強烈にドライヴしているのは、好感が持てます。
大御所二人を前にして、全くひるむ事が無いし、中途のベース・ソロも「ロン・カーター」ばりで、中々の物ですよ。

2曲目「恋とは何でしょう」…言わずと知れた「コール・ポーター」作曲のスタンダードだが、ここでの「ペッパー」は、急速調でぐいぐいとこの曲を進めて行く。
2曲目と言う事もあり、1曲目よりは、大分遊びと言うか、シャウトする様な激しいフレーズを入れて吹く部分が、「新生ペッパー」らしい所です。
「ペッパー」の、この演奏形態はいつの時代でも賛否両論ですが、「コルトレーン」等、モード~フリー系が好きな人には、充分に理解して頂ける演奏です。
まじ、所々、「コルトレーン」がアルトで演奏している様に思えるぐらい、激しい演奏なんですよ。
「ジョーダン」は良い意味でのワンパターンで、決して自分のスタイルを崩さないで、期待通りにここでも哀愁調のアドリブを弾いてくれます。
この曲では、ドラムス「バーネット」が、派手目のドラム・ソロを対話の様に絡めて、二人の美味しいスパイスになっています。
最後に転調して、ラテンリズムで、フィニッシュして終わるのが、彼等コンボのセンスの良さでしょう。

3曲目「虹の彼方に」も、「ハロルド・アーレン」の書いたスタンダード・バラードで、「ペッパー」は、余り崩す事無く、かなりストレートにテーマを吹いて曲が始まります。
リズム・セクションの3人は、当初バックに徹していますが、その中で、音数を削って、間を取りながらリズムを弾く「ウィリアムス」のベースが聴き物です。
中間からは、「ジョーダン」「ウィリアムス」共、アドリブに入りますが、とても静寂な感覚の演奏で、「ペッパー」のリリシズムを、かなり強調した演奏に仕上げています。

4曲目「キャラバン」…当然の事ながら、ラテン・リズムで始まり、「バーネット」が派手に敲いて、「ウィリアムス」も廻りを鼓舞させる様な、ハードなベースラインを刻むと、「ペッパー」がアドリブの前奏から、いきなり「キャラバン」のメロディ:テーマに演奏を移し、それを聴いて、メンバーの皆も、一気にエキサイト・モードに突入する。
この後は、「ペッパー」は、かなりフリーキーなシャウトを多発し、ベース&ドラムスも全力で疾走し始める。
「ジョーダン」は、合間合間をブロック・コードで、敲きつける様に、音譜(楽譜?)の白い部分をうめていく。
その後も、間を活かしながら、お上品なフレーズをゆっくり弾いたりして、演奏にアクセントをつける所なんざぁ、ベテランがなせる、余裕の表れか?
しかし、この後の「ジョーダン」の、万華鏡の様に千変万化する、美フレーズのアドリブ・シャワーは最高の聴き所です。
まじにすごいです!
更に、続くドラムス「バーネット」の超絶的なドラム・ソロも見事です。
終盤の4人のスーパーバトル、アドリブ合戦は、取分けシャウトに吹き続ける「ペッパー」を筆頭に、このアルバム、ディスク1の頂点の演奏に有る事は間違い無い!

5曲目「リズム・マ・ニング」…4曲目で「ペッパー」は、頑張りすぎて、少し疲れたのか?、この曲では最初はかなり軽めに吹いていたが、やはり途中からは乗って来て、吹き捲って、触発されたのか廻りもすぐさま燃えて来る。
この中年親父は若い頃より、数倍パワーと体力、持久力が有るのとちゃうかい?
「ジョーダン」は、崩し調のアドリブ・フレーズで、「モンク」ワールドをしっかりと聴衆にアピールしてます。

6曲目「ユー・ゴー~」…「ペッパー」の、これぞ大人のバラッドだ!と主張する見事なアルト・サックスを一聴しただけで、胸を討たれる。
原曲のメロディをかなり活かして吹いているが、それでも素晴らしいアドリブ・フレーズを随所に吹いて、リリカルな「ペッパー」も、未だここにいると言う事を、自己主張しているかの様な演奏です。
「ジョーダン」もロマンティックなアドリブ演奏を展開して、「ペッパー」の名演奏に花を副えます。

DISC2の冒頭を飾る、名曲「ベサメ・ムーチョ」…個人的には、このアルバムの白眉と言いたい、超名演です。
「ペッパー」は序奏のアプローチから、アバンギャルドなアドリブを吹いて、「変身ペッパー」を、デンマークの方々にお披露目する。
メロディを吹けば十八番の曲なので、全くお手の物で、ラテン・リズムでバックアップする「バーネット」と「ウィリアムス」の真面目な仕事ぶりも、「ペッパー」を好アシストしている。
この後の「ペッパー」のアドリブが、好フレーズを尽きる事無く生み出して、感動物なのだが、それを受ける「ジョーダン」のピアノ・アドリブも、センチメンタルな哀愁メロディを次々に紡いで行き、二人のイマジネーションの見事さに唖然です。
この辺りのガチンコ勝負は「ベサメ・ムーチョ」大好きなおいらは、もはや失神寸前なぐらいに酔わされて、」KOされている。
終盤には、脇役「ウィリアムス」も重厚なベース・アドリブを見せてくれるし、これが又、最後期の「コルトレーン・クインテット」の「ジミー・ギャリソン」の様なフレーズですし、「バーネット」も最後におかずたっぷりのソロを見せてくれるし、全員が持ち味を出し切った名演奏に拍手喝采です。

2曲目「チェロキー」も「クリフォード・ブラウン」盤よりも、かなり高速のテンポで展開する。
最初から「ペッパー」が高速で、次から次へとアドリブを吹き捲り、「ウィリアムス」も負けじとベースで「ペッパー」に高速で追従する。
「ジョーダン」は、この曲では少しご休憩かな?
余り、ピアノを弾いてないんですよね。
逆にベースとドラムスは、完全に来てますね。
終盤に「バーネット」が、これでもか?と太鼓を敲き捲り、自らを更に高めようと鼓舞しています。

3曲目は「ペッパー」オリジナルの「レディオ・ブルース」なんですが、本日2度目の本格的なブルース演奏では有りますが、正直「ペッパー」の音色にブルースってあんまり合わない気がするね。
やはり。白人であり、音色から南部の香りがしないからなのかなぁ。
「ジョーダン」も黒人なんだが、ヨーロッパ在中が長いからか、あまりブルース向きなピアニストじゃないよね。
何の曲も聴いていない、オープニング曲ぐらいなら、ライトなブルーズも良いとは思うが、これだけ名演奏、好フレーズを聴かされた後での、「ペッパー」の(体質に合わない)ブルースを長時間聴くのはチョイきついね。
唯一、「ウィリアムス」のベース・ソロは、テクも抜群だし、黒い雰囲気を充分に出しているので、それはそれで、評価したいですね。

4曲目「グッド・バイト」では、「ペッパー」が何とクラリネットを吹くんです。
これだけでも、すごい事だよね。
しかし、「ペッパー」…クラリネットの演奏、思ったよりも良いねぇ。
何か若い頃に最大の持ち味だった、叙情性が呼び戻って来た様に思うのは俺だけですか?
クラリネットの木管楽器特有のソフトな音色が、「ペッパー」のリリカルさを全面に押し出すのに一役も二役も買っている事には、全く異論が有りません。
「ジョーダン」は、ハッピィなイメージのアドリブを弾いて、先ほどの「ペッパー」の叙情性を補うアシスト演奏が、本当に上手ですね。
チョコッと、映画「第三の男」のテーマを拝借していたりするのも、お洒落~。。

最後の曲「オール・ザ・シングス~」…「ペッパー」は、最後もスタンダードで纏める気でしょうか?
最後の最後まで、尽きないアドリブ・フレーズを演る所が「ペッパー」の、正にすごい所です。
更に言わせてもらえれば、ここではシャウト系のアドリブ・メロディが少なく、とてもメロディアスなフレーズのアドリブ演奏が多いのも特筆物。
堕ちた天才が、努力と研鑽で、正しく全盛期以上に「復活」した、素晴らしいアーティストの代表者と言えるでしょう。
「ジョーダン」も原曲を損なわない、メロディックなマイナー中心のフレーズを多発して、更にこの演奏のセンスと品を上げてます。
逆に余りにも、品が高すぎて、エンディングの盛り上がりに欠ける気がするのは、老婆心?でしょうか?
しかし、こう言う大人の演奏での〆も、やっぱり有りでしょうね。
いつも最後は、派手に劇的に…って言うのもナンセンスですから…。

今日はまじに長文になりました。
最後まで読んで下さった方、サンクスです。

ライヴ録音のオペラ名盤…アバド指揮/ウィーン・フィル~歌劇「ヴォツェック」

2007-10-14 22:57:37 | クラシック室内楽・器楽・オペラ・古楽
二十世紀オペラの最高峰、「アルバン・ベルク」作曲の歌劇「ヴォツェック」の素晴らしい演奏のアルバムを、今日は紹介しましょう。

「ヴォツェック」とは、まこと愚かな(精神的に弱い)兵士の名前(人)で、悪い医者に実験台まがいの事をされたり、上官と内縁の妻の不倫などでにより、精神的に思い悩んだ挙句、最後には内縁の妻を殺し、自らも気が狂って、池で溺れ死ぬと言う結末、一種排他的なオペラなんです。

しかし、この悲劇は「ベルク」が、キリスト教の「マグダラのマリア」についてのテーゼを追求している事も見逃せません。
また、人間の醜さ、弱さ、いじめ、愛と欲望、嫉妬、等、現代社会の病んでいる様を、20世紀の前半に、早くも抉り取って警鐘としている先見性にも驚くばかりです。
いや、先見性と言うより、「マグダラのマリア」のテーゼからすると、「イエス」の死後から、およそ2000年経った今でも、人間の精神構造の、特に弱い部分と言うのは、殆ど克服されていない、所謂「弱点」として、現代人もいまだ保持している事を改めて追求しているのだと思います。

余り小難しい事を長々述べても、皆様が飽きてしまうと思うので、「ベルク」のこの作品の作曲の意図、(あくまでも私、個人的なの解釈なんですが…)は、これで終わりにします。

さて、このアルバム(名盤)を作った方達ですが、指揮は「クラウディオ・アバド」…現存する指揮者の中では最高のオーソリティです。
受けるオケは、「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」…こちらも世界最高のオーケストラの一つです。

歌手陣について言えば、主役ヴォツェックの「グルントヘーバー」、妻マリーの「ベーレンス」、鼓手長の「ラファイナー」等、オール・キャストがはまり役と言って良いでしょう。

この難解な作品を演じるのには、指揮、オケ、歌手陣共申し分の無いメンバーです。 
難しい作品ですが、是非、皆様に聴いて欲しい(アルバム)です。

アルバムタイトル…歌劇「ヴォツェック」全曲

パーソネル…クラウディオ・アバド(指揮)
      ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
      ヘルムート・フロシャウワー(合唱指揮)
      ウィーン国立歌劇場合唱団 ウィーン少年合唱団
      フランツ・グルントヘーバー(バリトン)…ヴォツェック
      ヴァルター・ラファイナー(テノール)…鼓手長
      フィリップ・ラングリッジ(テノール)…アンドレス
      ハインツ・ツェドニク(テノール)…大尉
      オーゲ・ハウクランド(バス)…医者
      アルフレート・シュラメック(バス)…第一の徒弟職人
      アレクサンダー・マリー(バリトン)…第ニの徒弟職人
      ペーター・イエロジッツ(テノール)…白痴
      ヒルデガルト・ベーレンス(ソプラノ)…マリー
      アンナ・ゴンダ(アルト)…マルグレート
      ヴェルナー・カーメニク(テノール)…兵士

第1幕 第1場…「ゆっくり、ヴォツェック、ゆっくり!」 (8:13)
    第2場…「おい、ここは呪われているぞ」 (6:41)
    第3場…「チンブン、チンブン、聞こえる坊や?」 (8:11)
    第4場…「一体何てことだ、ヴォツェック?」 (7:35)
    第5場…「ちょっと歩いてごらんなさい」 (2:55)

第2幕 第1場…「何て光る石だろう!」 (5:30)
    第2場…「たいそうお急ぎで、どちらへ、棺桶釘先生?」 (8:53)
    第3場…「いらっしゃい、フランツ」 (4:15)
    第4場…「俺はシャツを着ているが、これは俺の物じゃない」(9:41)
    第5場…「ああ!ああ!アンドレス!俺は眠れん」 (4:26)

第3幕 第1場…「しかして、その口に虚偽なかりき」 (2:59)
        「御足許にひざまづき、泣き、御足に接吻し」 (2:03)
    第2場…「左へずうっと行けば町よ」 (4:30)
    第3場…「みんな、踊れ、踊りつづけろ!」 (3:27)
    第4場…「ナイフは?ナイフはどこだ?」 (7:50)
    第5場…「ぐるぐる、ぐるぐる、バラの冠、踊れ!」 (1:40)

1987年6月 ウィーン国立歌劇場にてライヴ録音

原盤…独グラモフォン  販売…ポリドール㈱
CD番号…F64G-20317/8 (2枚組)

演奏について…正直に言って、私は「ヴォツェック」は、このアルバムしか聴いた事が無いんです。

巷では、「カール・ベーム」指揮、ベルリン・ドイツ・オペラ・O、「フィッシャー=ディースカウ」(バリトン)、「ヴンダーリヒ」(テノール)の、夢の組合せ、超名盤が存在するのですが、私は聴いた事が無いんです。

ですから、この盤を他と比べての批評と言うか、感想を書く事は出来ませんので、あくまでもこの盤について、記述して行きます。

一言で言うと、「精緻で非常な緊張感に包まれた演奏」です。

実際は、かなり大編成のオーケストラなんですが、まるで室内楽の如く、締ったタイトな音質で、一糸乱れぬオーケストの統率を、「アバド」が魔法の如くの棒捌きでまとめ上げています。

しかしながら、曲そのものは、非常に緊張感の有る、20世紀クラシック独特のおどろおどろしい曲調で、それを「アバド」が不安感としてを見事に描ききってもいます。

歌唱について言えば、主役ヴォツェックの「グルントヘーバー」は、ノイローゼ男の狂乱ぶりを的確に歌い上げており、マリー役「ベーレンス」の出来も抜群です。

ライヴ録音とは思えぬ程、「完璧」な演奏と歌唱が融合された、この金字塔アルバムは、皆様に絶対にお薦めです。