紫のオルフェ~何でもかんでも気になる音楽、名曲アルバム独り言

ジャズ、ラテン、クラシックを中心として、名曲、アルバム演奏者を紹介します。&私の独り言を…

生涯最高のレコードだと作者自身が言ったアルバム…タンゴ・ゼロ・アワー~アストル・ピアソラ

2008-06-01 23:03:48 | ラテン・インストゥルメンタル
表題がとても仰々しいが、嘘でも大袈裟でも無くて、生前、本人「アストル・ピアソラ」が言っていた事であり、演奏内容も実際その通りで素晴らしいです。

「ピアソラ」と言う、タンゴの鬼神…いや、もはやクラシックの現代曲作曲家とも言うべき、偉大なカリスマ・コンポーザー(&ミュージシャン)の、全身全霊を注いだこの作品は、彼の最高傑作との評価に全く異論はない。

とにかく何も考えずにアルバムに集中して聴いて欲しいです。

アルバムタイトル…タンゴ・ゼロ・アワー

パーソネル…アストル・ピアソラ・クインテット
      リーダー;アストル・ピアソラ(バンドネオン)
      フェルナンド・スアレス・パス(vl)
      パブロ・シーグレル(p)
      オラシマ・マルビチーノ(g)
      エクトル・コンソーレ(b)

曲目…1.タンゲディアⅢ、2.天使のミロンガ、3.キンテートのためのコンチェルト、4.ミロンガ・ロカ、5.ミケランジェロ’70、6.コントラバヒシモ、7.ムムキ

1986年5月ニューヨーク、サウンド・アイディアズ・スタジオにて録音

原盤…ワーナー・ミュージック?  発売…ワーナー・ミュージック・ジャパン
CD番号…WPCS-5100

それでは演奏について…今日はまず、お薦めの名演から行きましょう。

それは…3曲目の「キンテートのためのコンチェルト」です。
非常に劇的な曲で、序奏・イントロから興味を惹かれる魅惑的なメロディで始まります。
作品自体は1970年に書かれていて、約9分を超える大作です。
急小節においては「ピアソラ」のバンドネオンは、緊張感をビンビンに発していて、自身以外の4人のメンバーを統率します。
ピアノ「シーグレル」とヴァイオリン「スアレス・バス」の二人が、素晴らしい「ピアソラ」のサポートをします。
緩小節に入ると、「ピアソラ」は雄大で、まったりとした粘着系のバンドネオンを奏でて、非常に艶かしい演奏に仕上げてきます。
ピアノの「シーグレル」は低音域をメインに伴奏して、重厚感を増します。
ヴァイオリンの「スアレス・バス」とギターの「マルビチーノ」は、艶かしさを倍化する様なナイスなアシストを演ってくれます。
再度、急小節に入ると、「ピアソラ」、「スアレス・バス」、「シーグレル」のトリオがバトル形式で、応戦し合うと、「マルビチーノ」まで参戦して、劇的な作品は最高潮にヒートアップします。
「ピアソラ」の寸劇を見せつけられた、銀幕の様な逸品ですね。

1曲目「タンゲディアⅢ」…1985年の映画「タンゴーガルデルの亡命」のために書かれた作品で、冒頭から終始緊張感が張り詰めた衝撃作品で、これもいかにも「ピアソラ」らしいアグレッシヴな曲です。
悲劇のタンゴ曲であり、特にヴァイオリン「スアレス・バス」と「ピアソラ」との格闘技の様なバトルが最高の聴き所です。
ビシビシと唸りを上げるベース「コンソーレ」の威圧的な名演も見逃せませんね。

2曲目「天使のミロンガ」…1962年に書かれた「ピアソラ」の代表作の一つだが、非常にロマンティックで、スパイス的に一寸メランコリックで、影が憂いの有る美曲で…私は大好きです。
とにかく「ピアソラ」のバンドネオンの音色の切なさは、泣けますねぇ。
「ピアソラ」以上にこの曲で力が入っているのが「スアレス・バス」で、ヴァイオリンの物悲しい演奏が、深く心に染み入って来て…泣き叫びたくなりそうです。
心が痛くて…とても切ない曲です。
でも…でも…この曲と演奏は、とにかく清らかで美しくて…いつまでも聴いていたくなります。
渋い所では、ピアノ「シーグレル」のリフレイン伴奏が、曲に厚みを与えてくれます。

5曲目「ミケランジェロ’70」…1969年に書かれた「ピアソラ」の傑作。
とにかく疾走感に溢れていて、唸りを上げてドライヴィングをするベースの「コンソーレ」が最高に行けてます。
「コンソーレ」に引っ張られて、「ピアソラ」他3人もスポーツカーの様に疾風の如く駆け抜けて行く痛快なナンバーです。

6曲目「コントラバヒシモ」…その名の通りベース(ベーシスト)をフューチャーした曲で、序奏から「コンソーレ」のボーイングやスゴテクのアドリブ演奏に度肝を抜かれる。
ベース大好きな私は感涙物ですよ~!!
「コンソーレ」のアシストで「ピアソラ」や「シーグレル」が厳格な音色で、生真面目に演奏をして行く。
優しい調べでサポートする、ギターの「マルビチーノ」も、すごく渋くて良い仕事をしてます。
重厚さから徐々に軽やかに優しく曲調が変化して行く様は…深夜から朝日が立ち昇る情景が目に浮かびます。

7曲目「ムムキ」…序盤は哀愁感タップリに、センチメンタリックに感情を込めてメロディを弾くギターの「マルビチーノ」が曲の幕を開けてくれます。
それを受けてヴァイオリン「スアレス・バス」もジプシー的な哀愁の曲調を演じて展開して行きます。
その後、激しく煌びやかで、ヴィルトオーゾ的にピアノを弾く「シーグレル」が更に曲を色付けして行きます。
「ピアソラ」が加わり、哀愁さは極まり、その後はヴァイオリンの「スアレス・バス」、ベースの「コンソーレ」、そしてギターの「マルビチーノ」の弦楽器3人が室内楽的に、良く調和した格調高い演奏で纏めて行きます。
その後、曲はもうニ転三転するんです。
そう、非常に劇的で目まぐるしく変わるドラマティックな1曲なんです。
「ピアソラ」がリードを取るセンチメンタルな曲から厳しくて激しい小節へと変わるかと思えば、「マルビチーノ」と「スアレス・バス」が交代で哀愁のソロを演り返す緩小節へと、また激しく曲調が変わるのです。
特に哀愁の小節は聴いていgoodなのは勿論、更に終盤に来てから「シーグレル」が「ショパン」のバラードの様に美しくて…清々しいピアノ・ソロを決めてくれて…うっとりと聴き惚れてしまいます。
そしてフィニッシュはもう一回、「ピアソラ」を中心にした、心地良い優しさと、情熱的な激しさと、枯れて人生を達観した…そう…「ピアソラ」の人生そのものと言って良い一代絵巻が、この曲でなされているんですよ。
最後のサイレンの様な表現は???「ピアソラ」の死を意味しているのかなぁ?
この曲&演奏は、このアルバムの〆をするのに相応しい超名曲・超名演と言っても過言では有りませんね。
いや、タンゴ史に残る傑作でしょう。

4曲目「ミロンガ・ロカ」…やや不協和音的な音階で、「ピアソラ」は急速で演奏を進めて行きます。
しかし、ヴァイオリンの「スアレス・バス」の弾くメロディは、どことなくですが、「ピアソラ」の最高傑作「リベル・タンゴ」のメロディと似ていて、良いんですよ。
全員が激しくバウトして、スピーディに仕上げる演奏で、短曲ですが印象に残りますね。

もう、表題通り「ピアソラ」自身が生涯最高の録音(レコーディング)だと言った事に全く偽りは有りません。
聴いた方々には、現代タンゴの奇跡をこのアルバムに見る事が出来ますよ!きっと…!!!


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3 コメント

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ピアソラ最高! (garjyu)
2008-06-03 04:28:15
こんにちは。
これは、ピアソラ自身も最高傑作と自負したのも頷ける至高の音楽ですよね。
エリック$Φさん・・、僭越ですが、私と好みが、っとても似ていらっしゃるのではないかと・・。
これからも、こちらのブログで取り上げられているアルバムは、どんどん、ウィッシュリスト行きになりそうです。
経済的な問題もありますので、“お手柔らか”にお願いしますね。



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私が紹介するのは…まだまだ有ります(爆笑)!! (えりっく$Φ)
2008-06-03 22:55:20
garjyuさん、ジャズ地獄へのお供…ありがとうございます。
あっ!(失礼!!)このアルバムはジャズでは無かったですね。
しかし、garjyuさんと私の音楽の好みが被るのは、以前にも話したことが有りますが、音楽鑑賞の経緯が似ているからだと思います。
私が専門的に音楽を大好きになって、初めてコレクションしたのは、クラシック音楽からなんです。
中学生、高校生の5年間は、クラシック専門に聴いていました。
やがて、大学生になって、バイト等で経済的な余裕が一寸出来てきたからは、ジャズにも足を突っ込みました。
実はジャズは、クラシック専門に聴いている時から、非常に気になっていて、(多分、俺…ジャズを聴いたらクラシックよりもジャズを好きになっちまうんだろうなぁっ)て言う予感がビンビンにしていたんです。
そして案の定…やっぱり好きになっちまった。
それから、ん十年…ジャズをメインにして、クラシック、ひいてはラテン・ミュージックまで手を拡げて…今はそれ以上の守備範囲で音楽を楽しんでいる訳なんです。
ですから、私はgarjyuさんが、金欠病になりそうなぐらい興味深いアルバムを色々出しちゃおうかなぁ?なーんて、チョッピリ意地悪な考えも有ったりして…(冗談ですよ~大爆笑!!!)


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この記事に感謝します (lipton212)
2008-11-04 03:55:32
学生時代にこのレコードに出会って、たすきに
英語で、「私の人生でこれ以上の作品は残せないだろう」といった内容のコメントが書かれてありました。銀ジャケにバンドネオンが深い赤紫に印刷された印象深いデザインでした。映画「タンゴ・ガルデルの亡命」を観てピアソラを知り、このレコードに出会い、ライブにも行くことができました。今となっては幻のような記憶でしたが、この記事を見つけて当時の感動が蘇った気持ちです。
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