MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラル・フォー-3

2017-02-22 | オリジナル小説

       小惑星帯の若造

 

「Σ85rからの侵入は阻止しました。」
「そうか。」母船を管理する上位のニュートロンの一人がうなづく。
「Ωの穴は開けておくように。」
これは太陽系に重なる無数の次元と無数のワームホールのことである。

そこは木星の小惑星帯にある母船。
月と同じ大きさで中心に鎮座する360度の巨大な次元ボードがその船の全てと言ってもいい。
人間がイメージする居住空間、体と精神を休めるところなど、そこには全く存在しない。
球体の中心、あらゆる座標のゼロとなるところにコントロールスペース。そこに常時いるほんの数人の人間がボードを監視している。宇宙人類『ニュートロン』達。
原始星人だったらとても耐えられない長期の宇宙生活をなんの苦痛もなく、むしろ嬉々として乗り越えられる人間たちだ。彼らは宇宙で生まれ、宇宙で暮らし生き、死んでいく。
宇宙しか知らない人類たち。
しかし彼らにも時々、交代は有る。
果ての太陽系と呼ばれる辺境地帯の外側にある無数の小惑星帯。その星の1つが母船と同じく、星と見まごうほどの船であったとしても第3惑星の住人に到底見分けがつかない。
それは母船とは比べようもないほど巨大だ。大きさは太陽系にある木星と変わらないのだが、その質量は1/10にも及ばない。その中身のほとんどがびっしりと整然と積め込まれた無数の戦闘船と冷却されたホムンクルスの軍団だからだ。そこに交代要員がスリープするわずかな施設がある。
そして仕事がある。停止する巨大輸送船の照準は外宇宙に定められていた。
停戦しているカバナリオンとの間にいつでも起こりうる、あらゆる不測の事態に即座に対応するという仕事。交代要員にも真の休憩はない。
母船の主な任務が内向きであることとは対照的だ。
第3惑星への外部宇宙から、そしてあらゆる次元からの出入りに常に目を走らせるということ。
さらに、母船には表向きにはされてない仕事がある。
第3惑星、『果ての地球』に降り立った上陸部隊をサポートする。あるいは監視する。
特に部隊を率いる立場にいる特殊な人類、『臨界進化体』の逃亡を防ぐこと。
それは唯一無二の極秘任務であった。
そのことを把握しているのは連邦の極一部、中枢のみ。
敵であるリオンボイドは勿論、第3惑星にすでに入り込んでいる合法非合法な遊民組織もそのことはまだ知らない。連邦から派遣されている原始星人たちも一部を除き知らされてはいない。

「Ωの進入航路を開けておくのは連邦からの指示なのですか。」
まだ任期の浅いニュートロンが尋ねた。
「このことは質問しても良かったでしょうか。」
管理者はしばし沈黙の後、告げる。
「この母船は連邦にあるイリト・ヴェガの管轄下であるが。Ωの進入航路の指示は更なる上からの指示であると心得よ。このことはイリト・ヴェガも承知している。」
若いニュートロンはしばし頭を巡らせた。イリト・ヴェガは臨界進化体の逃亡を阻止した功績で今の地位に登りつめた高官だ。そのことを面白く思わない者たちも当然、存在する。
そういったことは後のちの己の処世術ために心に留めおく必要があった。
Ωの進入航路が連邦が『果ての地球』を発見し管理下に置いて以来、遊民の抜け道であること。
そしてそのたった1つの道以外から進入を試みるものは全て次元の狭間で破壊され消滅する。
これはどういうことであるか。

ついさっき、Ω5565の進入航路を通って1つの船が暗黙裡に惑星に侵入を許された。

つまり、それ以外は。
すなわち囮。

第3惑星への侵入を阻止しているという表向きの帳尻合わせ。
いったいどこへ向けてのパフォーマンスであるのか。
連邦とカバナリオン、その間を自由自在に行き来する合法非合法の遊民組織。
まさかそのパワーバランスに今、何かの変化が生じようとしているのだろうか。
若いニュートロンは強いて疑問を押し殺す努力をする。

彼はΣ85rから侵入を試み、ホムンクルスの次元監視船に追尾、攻撃された小型船もしくは航行カプセルを表していた点を無意識に次元ボードに探していた。
もうその痕跡は跡形もない。

 

 


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