私の大好きな、愛すべき映画館「シアターN渋谷」が、来月12/2にその7年の歴史に幕を下ろし、閉館することになりました。
先週土曜日、最後の上映作品『トールマン』を観てきて、作品自体も、パスカル・ロジェ監督らしい多重構造が魅力のとても面白い作品だったのですが、
今日は、シアターNとの思い出を、ホームページに掲載された7年間の全上映作品リストを見ながら書きたいと思います。
シアターNは、もともと別のミニシアター「ユーロスペース」だった場所を日販(仕事でも大変お世話になっている大手出版取次会社)が買い取り、2005年にオープンした映画館。
ホラーや音楽系映画の良作を中心とした独自のラインナップが魅力で、日本では公開が難しいだろうと思われるホラー映画も、“シアターNならやってくれる!”とホラーファンから大変信頼度の高い、一部では“ホラーファンの聖地”とも呼ばれているシアターです。
オープン当初は、まだユーロスペース気分が抜けずに訪れていましたが、いまや言われないとユーロスペースだったと思い出さないほど、あの場所とシアターNはしっくりなじんでいます。
上映作品リストを見ると、私が最初にシアターNを訪れたのは意外に遅くて、たぶん2006年の『デビルズ・リジェクト』の時だと思います。
(しかも、ブログを見ると、楽しみなあまり前のめって公開の1週間前に間違って劇場に行っちゃってる…)
それから現在までにあの場所で観た作品は、これまた意外に少なくて、
おそらく45本くらい。
最初は、私にとってその他多数の映画館と同じ存在だったシアターN。
しかし、たくさんの黒Tシャツ&メガネ姿の男性客にまみれて、私のツボを突きまくるホラー映画を楽しむうちに、私の中で唯一無二の、心のホームグラウンド的存在になっていったのです。
私は、実はホラー映画好きだと自覚したのは社会人になってからで、本格的に観はじめたのもそれから。
なので、シアターNは、素晴らしい作品セレクションを通して私のこの趣味を育ててくれた存在でもあります。
また、とてもこじんまりとしたミニシアターながら、映画本のライブラリ設置、上映作品レビュー記事の掲示、関連本の販売、毛布の貸し出し、単品上映だけでなく映画祭や特集上映の実施、曜日ごとの割引デーの設定、そしてオリジナルな面白割引(ちなみに『トールマン』は、名前が「とおる」の人は1000円で観られます)…と観客が映画を楽しめるような仕掛けをきちんと考えてくださっている劇場でした。
2006年から現在に至るまで、たくさんの思い出ができました。
『パルス』のモーニングショーでは、観客ひとりの貸し切り状態で観ました。
客が男性だらけだったとき、女性だからと気を遣われたのか、ほぼ満席でも隣に誰も座ってくれなくて、ちょっと切ない気持ちになりました。
『ハロウィン2』のツイッターキャンペーンでは、『マーダーライドショー』のポスターが当たりました。
『セルビアン・フィルム』を見終わるタイミングで好きなひとが劇場前まで迎えに来てくれて、映画の凄惨さと現実の幸せ感のギャップにくらくらしました。
『悪魔のいけにえ』をはじめてスクリーンで観て震えました。
たくさんの場面を(恐ろしさのあまり)薄目で観ました。
『血の魔術師』を、パンを食べながら観て、ちょっと気分が悪くなりました。
ホラー映画のTシャツ、いろいろ買いました。
公開初日に行ったときの、関係者と思われる人たちが観客を見守っている感じが、なんだか好きでした。
…
デートでも行きましたが、相手を自分の部屋に初めて迎え入れるような、なんともいえないこそばゆい気分になり…デートはシネコンで、シアターNにはひとりで訪れるのが合っていたような気がします。
『孤独のグルメ』の五郎さんばりに「ここは…前のほうで迫力満点に観るべきか、それとも右ブロックに座って斜めから攻めべきるか…」なんて悩んだり、「うん、いいぞ、面白い! こういうの好きだな。骨太でゴア描写に手を抜いていなくて」とか頭の中でつぶやきながら観たり。
まさに「シアターNで映画を観る時はね 誰にも邪魔されず 自由で なんていうか、救われてなきゃあ だめなんだ」という感じ。
仕事で落ち込んだときも、プライベートで泣きそうな気分になったときも、シアターNでホラー映画を観ることで、元気をもらえました。
ホームページの今後のラインナップを見るだけで、いつもワクワクさせてもらえました。
シアターNに行って、自分が心から“好き”と思える作品に出合うことで、本当の自分を取り戻せる気がしました。
今年の誕生日をシアターNで過ごせてよかった。
支配人のインタビューを読むと、デジタル化への移行による新たなフォーマットの導入がネックになり、閉館に踏み切ったとのこと。
私のN好きを知っているお友達には「caviarさんが買い取ればいいじゃん! イニシャルもNなんだし!」なんて言われました。ほんと、できることなら買い取りたいです。
閉館までに、もう1回でも訪れることができればと思っています。
素敵な思い出、素敵な作品を、ほんとうにありがとうございました。
心からの感謝を、愛するNに。