犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国の国語教科書~外国文学の翻訳

2007-08-02 23:30:35 | 韓国の教科書
 韓国語の中に入り込んだ日本語の追放が叫ばれるなか,日本製の「倭製漢字語」の流入は,解放後も続いていたということを以前書きました(→リンク)。

 それは何も,解放直後の法律の直訳,世界文学全集の翻訳だけにとどまらない。現代もなお続いています。1980年代,まだ韓国が国際著作権条約(ベルヌ条約)を批准していなかったころ,日本を含めた外国書籍は翻訳し放題でした。小説,学術書,学参,百科事典…。

 私が90年代初めに入手した子供用百科事典も,日本の百科事典の翻訳でした。項目中,一部日本特有の事項だけを韓国のものに差し替えてありました。写真も日本のものがそのまま使われていた。
 動物だとか,自然科学方面のものは問題ありませんが,子どもの学校生活にかかわる項目も日本の記事の翻訳だった。そこに載っている教室の授業風景も日本の学校。ひらがなや漢字の掲示物がいかにもわざとらしくハングルに修正されていました。
「運動会」の写真が笑えた。日本では赤組と白組に分かれて競技しますが,韓国は「赤」は共産主義を思い起こさせるからか,青組と白組で対抗戦をします。そのため,日本の子どもたちの赤いはちまきが,すべて青に修正されていた…。

 英韓辞典も,日本の英和辞典の翻訳。

 あげくのはては,国語の教科書までも,日本の国語教科書に載っている外国作品を翻訳したものがあった。なぜそれがわかったかというと,日本語から重訳したとしか考えられない翻訳ミスを見つけたからです。

 一つは,ヘルマンヘッセの「少年の日の思い出」。
 一時代前の日本の中学校国語教科書にあったものです。ある老人が少年時代を回想する。チョウの蒐集に夢中だった少年は,友人が持っていた貴重なチョウの標本(クジャクヤママユ)を盗んでしまう。少年の心の葛藤,後悔,謝罪といった心理の変化を描いた小品です。
 その中で,チョウの標本を描写する部分があります。日本語版では「ぎざぎざの縁の羽根」となっていたところが,韓国語版では「ぎざぎざのミドリ色の羽根」となっている。訳者は「縁」を「緑」だと見誤って訳したのに違いありません。
 作者がドイツ語原文から訳したのではないことは,日本の国語教科書の出典解説からも類推できる。この作品はドイツの新聞に掲載されたもので,訳者高橋健二氏がヘッセ自身から作品が載っている新聞をもらい,訳出したものだそうです。しかしなぜかドイツのヘッセ全集から漏れていた。だから,韓国語版がドイツ語から訳されたということは考えられません。

 もう一つは,「小さい牛追い」というノルウェーの児童文学(マリー・ハムズン著)。たしか小学校6年生の国語教科書に載っていたと思います。
 お母さんが牛を連れていくエイナールに向かって,「がけの反対側を歩きなさい」と言った部分が,「ひかげではなく日向を歩きなさい」になっていた。「がけ(崖)」を「かげ(陰)」と見誤ったものと思われます。

 これらの外国語作品の翻訳には,原作者の名前はあるものの,訳者の名前が書かれていないのが怪しい。ドイツ語やノルウェー語の作品を,日本語訳者が訳しているんじゃさまにならないからでしょう。

 なお,90年代以降,韓国がベルヌ条約を批准したあと,やっと韓国の著作権意識も高まり,現在の国定国語教科書に載っている外国作品は,日本語からの重訳ではなく原典からの翻訳にあらためられているようです。

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2 コメント

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陸軍省『原価計算要綱』 (馬齢)
2007-08-04 21:27:59
国営浦項製鉄所の高炉が火入れ寸前の頃、昭和48年春だったと思いますが、こんなことありました。
POSCOの各部門の中堅課長級が、日本の高炉3社に一斉に研修に来たときのことであります。
日本流の【原価計算システム】を導入したい、就いては「鉄鋼業の原価計算」をレクチャーしてくれと頼まれて、会計課長を名乗る40歳前後の金某氏と会いました。

彼は、用意してやった日本語のレジメに熱心にメモをしていましたが、一応これでおしまいと席を立とうすると、
レジメをもう1セットくれと言う、
【出張報告】にしたいとのことでありました。

レジメを仕舞うついでに、彼は、鞄から、訪日に先立ち経理担当役員から読んでおくようにと渡されたという本を取り出しました。
【昭和15年陸軍省制定・軍需品工場事業場原価計算要綱】詳説でした。正直、その時はギョッとしました。

思わず、私の机上にあった黒澤清先生の「標準原価論」「原価計算論」などを彼の鞄に入れてやりました。
韓国ではこのような本は無く、日本の本も全く入手できないという。
彼は、上司は皆日本語が読めるのでこれは有難いと礼を言って帰りました。

今、こんな話を韓国人にしたら『捏造だ!妄言だ!』と噛み付かれそうですが。



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POSCO (犬鍋)
2007-08-06 06:13:44
「幻の三中井百貨店」という本の中で,POSCOの立ち上げに日本と日本企業の協力があったという事実が消されつつあるという話がありました。

日本企業の支援を受けた,韓国のデパート,自動車会社,ビール会社…。

これらの社史も書き換えられつつある。
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