犬鍋を囲む会～韓国バーＩ（アイ）

「８人なんだけど，入れますか」

　最近見つけた職安通りの韓国バーに電話してみました。

「あら，犬鍋さん。

　大丈夫ですよ。いらしてください。お待ちしてます。

　あ，そうそう，マッカランの１０年，入荷してますよ」

（！！！）

　実は，この前行ったとき，マッカラン１０年カスクストレングスの凄さについて懇々と説明し，ぜひ入れるように，そうしたら責任もって飲むからと言い含めておいたのでした。
　ネットでもプレミアムがつく酒ですから無理だろうと期待はしていなかったのに，嬉しいことです。

　この店，新大久保コリアンタウンの中心に位置し，客は韓国人駐在員，店のアガシも韓国人。店内の共通語は韓国語（日本語も通じる）。

　韓国駐在から帰任して以来，めっきり韓国語を使う機会が少なくなったので，韓国語力を維持するためにはうってつけです。

　しかも安い。

　テーブルチャージがつくのですが，たったの３００円。生ビール一杯６００円，つごう９００円で１時間ぐらい韓国語の練習ができると考えれば安いものです。

　さらに嬉しいのは，ダーツがあること。公式のものより小振りですが，ちゃんと点数計算もしてくれる。

　さて，狭い店内にわれわれ８人がどやどやと押し入ると，アガシがさっそくマッカランを持ってきた。

「これですよね」

「おおっ，ホントに１０年だ」

　ん？

　赤くない…

　ラベルが…

　アイゴー！

　これは「唯の１０年」ではないか。ぼくの飲みたかったのは「カスクストレングス」だったのにい～。

「……。

　これじゃなかったんだけど…」

「えっ，そうなんですか？」

　でも，せっかく探してきてくれた厚意を無にしてはいけない。

「いや，これもなかなかいけるよ」


　さて，われわれが韓国語でわけのわからない会話をしている間，テーブルではまだ酒も出ていないのにすでにして相当な盛り上がりをみせている。

「ここは韓国バーだから，やっぱり韓国式に飲まなくちゃ」

　ストレートグラスを出してもらいます。

「爆弾酒っていう飲み方もあるんだけど，やってみる？」

　私が説明すると，みな一様に尻込みします。

（やっぱり歳だなあ。みんな酒，弱くなったんだ）

　夜はどんどん更け，みな終電の時刻を気にし始める。

（やっぱり日本だなあ。タクシーで帰るなんてありえないもんなあ）

　ソウルではタクシーも安いし，家も市内なので，地下鉄やバスの最終を気にすることなく夜中まで飲み明かすのが常でした。

「今度はいつやろうか」

「年４回ぐらいは集まりたいね」

　春の再会を期して，みなそれぞれ，ＪＲ新宿へ，あるいは西武新宿へ，あるいは東新宿（大江戸線）へと向かったのでした。