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ユビセミキノンの機能(1)

2014-03-21 13:16:30 | ラジカル

705pxcomplex_i_svg(クリックで拡大)
図1 呼吸鎖複合体I内の電子伝達機構の模式図。図中Q はユビキノンを表す。

ユビキノン(UQ:図1)はミトコンドリア内膜や原核生物の細胞膜に存在する電子伝達体の1つで、呼吸鎖複合体I内の電子伝達の仲介を果たしている。ベンゾキノンの誘導体であり、比較的長いイソプレン側鎖を持つので、その疎水性のために膜中に保持される。酸化還元電位 (Eo') は+0.10V。ウシ心筋ミトコンドリア電子伝達系の構成成分として1957年に発見された。還元型のユビキノンは『ユビキノール』とも呼ばれる。また、補酵素Q、コエンザイムQ10、ビタミンQ、CoQ10、ユビデカレノン等と呼ぶこともある。

UQの酸化還元に関わるベンゾキノン誘導体部位はパラ型に酸素原子が結合しており、C2にはメチル基、C5,C6にはメトキシ基が結合している。C3にはイソプレン側鎖が結合しており、生体膜中に保持されるように長い炭素鎖を持つ。

Ubiquinone構造式

図1 ユビキノン(UQ)の構造。

イソプレン側鎖の数(n=)は高等動物では10、下等動物では6~9であり、イソプレン側鎖が長くなればなるほど黄橙色を呈するようになる。なおn=10のユビキノンは『UQ10』と略記される。ユビキノンは一電子還元を受けて中間型(ユビセミキノン)となる。中間型はプロトンキノンサイクル機構で機能している。ユビキノンの酸化還元様式を以下に示す。

Ubiquinoneredox.PNG

酸化型のユビキノンは275nmの波長の紫外光を吸収する。したがって、ユビキノンに電子伝達を行う酵素群の活性測定はこの波長に類する吸収帯を使用する。

ユビキノンはミトコンドリア内膜や原核生物の細胞膜から単離され、膜内の電子伝達に関与することが古くから知られており、特に、電子伝達系の呼吸鎖複合体I(NADH脱水素酵素)から呼吸鎖複合体III(シトクロムbc1複合体)への電子伝達に寄与している。

呼吸鎖複合体Iにおける反応

NADH + ユビキノン(UQox) → NAD+ + ユビキノール (UQred)

ユビキノンは日本では1970年代から医療用医薬品として軽度及び中等度のうっ血性心不全症状などに用いられてきた。また、複数の製薬メーカーが、一般用医薬品(OTC医薬品)・医薬部外品として、一般消費者向けの商品を発売している。安全性は比較的高く、米国ではコエンザイムQ10の名称でサプリメントとして広く用いられており、医師の処方箋なしに消費者が直接店頭などで購入できる。日本でも2001年に医薬品の範囲に関する基準(いわゆる「食薬区分」)が改正され、さらに2004年化粧品基準が改正されて、健康食品や化粧品への利用に道が開かれた。その結果、抗老化作用を訴求したユビキノン(コエンザイムQ10)含有の健康食品や化粧品がブームとなり、原材料の品薄で入手しにくいほどの人気を博していた時期があった。しかしながら、そのような薬効を臨床的に検討したデータはまだ乏しく、詳細な効果についてはまだ詳しくわかっていない。

2009年11月に、ユビキノンの抗酸化作用がマウスの老人性難聴の予防に効果があることを、東京大学が実験で明らかにした。それによると、人間にとっては1日20ミリグラムにあたる量のユビキノンを生後4ヶ月から与えられ続けてきたマウスは、人間の50歳に相当する生後15ヶ月の時点で、同じ月齢のマウスが45デシベル以上の音しか聞き取れないのに対し、12デシベルの小さい音を聞き取れるようになった。2013年7月16日に、小児性線維筋痛症発生の原因がユビキノンの欠乏にあることが、東京工科大学応用生物学部山本順寛教授らと、横浜市立大学医学部小児科との研究チームにより発見された。


ウシ心ミト複合体Ⅰのセミキノン信号(SEST原稿仮)

2014-01-15 15:39:10 | ラジカル

「呼吸鎖ミトコンドリア複合体Ⅰに生成消滅するユビセミキノンラジカルの機構(仮)」

ubiquinone はubique (あまねく)とquinone の合成語で、ミトコンドリアに存在し、広く生物に分布する為に名付けられた。古くから還元条件で、セミキノンラジカルのESRが観測されていたが、蛋白内での生成消滅の詳細が確認されたのは最近で、結晶構造解析が発表されるまで待たねばならなかった。2010年、Sazanov、等1)によって呼吸鎖ミトコンドリア複合体Ⅰの構造解析結果がNatureに発表され、再び、ラジカルの役割が華やかに議論され出した。複合体Ⅰは呼吸鎖の入り口に位置し、45のサブユニット(1メガダルトン)にも及ぶ巨大な蛋白質である(図1)。複合体IはNADHの2つの水素と2つの電子をubiquinoneに渡す役割を果たす。しかし、詳細な機構は不明であった。QバンドESR2)解析等により、その反応機構解明は大きく進歩した。

1) R.G.Efremov, R.Baradaran, L.A.Sazanov, Nature, 465, Issue 7297, 27 May 2010, Pages 441-445. "The architecture of respiratory complex", 

2) T Ohnishi, S.T Ohnishi, K. Shinzawa-Itoh, S. Yoshikawa, R.T. Weber, Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Bioenergetics, Vol. 1817, Issue 10, October 2012, pp 1803?1809."EPR detection of two protein-associated ubiquinone components (SQNf and SQNs) in the membrane in situ and in proteoliposomes of isolated bovine heart complex I",

 

 

Photo(クリックで拡大)

 

図1 複合体Ⅰの結晶構造図。45のサブユニットからなる巨大蛋白質で、分子量は1メガダルトン。

複合体Iを電子が通過すると,4つのH+が膜間腔へ運ばれる。ウシ心筋の複合体Iは45のサブユニットから成る複雑な構成で、フラビン(FMN)や、少なくとも6~8個のFe-Sクラスターを含む。最近、ペンシルバニア大の大西グループが図1の構造を元に、ユビキノン(Q)研究の詳細な機構を発表した。機構を纏めると、Qは膜内を自由に動き回れるが二つのサイト(QNf  及び QNs)にそれぞれ緩く結合している。提案されている電子・プロトン移動モデルを図2に示す。図2(a?c) には 直接的ポンプ機構(2H+/2e)を示している。具体的には、(a) QNf は1個の電子を近くのFeSクラスター(N2)より受け入れてQNfradical dot<noscript>radical dot</noscript>-が生成する。常磁性のN2の近傍のために緩和時間の速い。(b) 負電荷のためにプロトンを引き付けてセミキノン(SQ)型<noscript>radical dot 

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(d) QNs は元来、酸化型で存在しており、 (e) 電子を受けとるとSQ型に還元され、キノンポケットに強く結合している。 (f) 2個目の取り込みにより、N-sideより2個目のプロトン受け取りが結果としてキノール(QNsH2)を生成することになる。 還元Qがポケットから開放されるとポケットには大きな構造変化がおきる。この構造変化は長いα‐へリックスを通して起こる(Sazanov’s group は“piston” と呼んでいる)。結果として、α‐へリックスはチャンネル蛋白の再配向を引き起こし、P-side (intermembrane space)にプロトンを開放する。

Ongoing EPR studies of the protein-associated SQNf and SQNs

 

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Fig. 8   ウシ心複合系に現れるラジカル:SQNf および SQNs のQバンドESRスペクトル。SQNfg 値 (gzz, gyy, gxx)  は(2.0045, 2.0036, 2.0005)、Line width (Lz,y,x) は 6.0 gauss: SQNs のg値は (2.0049, 2.0018, 1.9990). Line width (Lz,y,x)3.5 gauss。Measuring Condition 150 K, 0.2 mW microwave power, modulation amplitude 4 gauss, accumulation time 2 hours each。

 Currently, we are working to obtain our own experimental data that support the presence of two distinct protein-associated QNf?- and QNs?- species in ND1 and ND2 subunits, respectively.we have conducted the high frequency (33.9 GHz) well-resolved Q-band EPR recording of individual QNf?- and QNs?- molecules. We utilized tightly coupled reconstituted bovine heart complex I proteoliposomes, which shows the respiratory control ratio > 5. We have obtained preliminary data of significantly different g values (gzz, gyy, gxx) and line widths (Lz, y, x) for SQNf and SQNs molecules. The principal g values (gzz, gyy, gxx) of SQNf are (2.0045, 2.0036, 2.0005), and the counter part of SQNs are (2.0049, 2.0018, 1.9990). Line width (Lz,y,x) is 6.0 gauss for SQNf and 3.5 gauss for SQNs.

 

JBC 258, No. 1, January IO. pp. 352-358. I983.
"Evidence of an Ubisemiquinone Radical(s) from the NADH-Ubiquinone
Reductase of the Mitochondrial Respiratory Chain",
Hiroshi Suzuki and Tsoo E. King.

NADH-ubiquinone (Q) reductase isolated from beef heart mitochondria exhibited, upon reduction by NADH, a prominent EPR signal at room temperature attributable to stable ubisemiquinone radical(s). The
concentration of the ubisemiquinone radical reached as high as 40% of the total Q content in trheed uctase.The radical was virtuallya bolished by adding rotenone, whereas rotenone had no effect on the reduction of FMN by NADH. The radical showed an EPR signal of g= 2.0042 at -9.5 GHz with no resolved hyperfine structureand had a line width of 6.8 Gauss at 23 “C. The Q-band EPR spectra at 35 GHz showed well resolved g-anisotropy
and had a field separation between derivative extrema of 24 Gauss. These results substantiate the fact that this radical was bound to a protein; we call it ubiquinone protein-N (QP-N). The pH dependence of the EPR signals demonstrated that the species of the ubisemiquinone radical(s) consisted of not only an anionic form but also a neutral form. Only about half of the QP-N radical formed by NADH reduction was abolished by p-chloromercuric sulfonate. The microwave power saturation curveo f the radical was biphasic; the first phase leveled off at about 5milliwatts and then at about 20 milliwatts. These results suggested that the ubisemiquinone radical from QP-N was heterogenous, consisting of at least twop opulations of stable ubisemiquinone radical(s). It is suggested that two kinds of QP-N exist in NADH-Q reductase.

 


有機ラジカル電池、その後 (after blog 06/07/2011)

2013-10-18 10:25:14 | ラジカル

ICカードに内蔵可能な超薄型有機ラジカル電池

(An ultra-thin, 0.3mm thick, organic radical battery compatible within standard IC cards of 0.76mm thickness.)

~ 回路基板と一体化することで、厚さ0.3mmを実現 ~

2012年3月5日
日本電気株式会社 (NEC)

http://www.nec.co.jp/press/ja/1203/0504.html

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図1 有機ラジカル電池を用いたICカード 

NECは薄くて曲げられるなどの特長を有する二次電池「有機ラジカル電池」(注1)において、ICカード(規格厚0.76mm)に内蔵可能な厚さ0.3mmの超薄型電池を開発した。有機ラジカル電池は、薄型・柔軟性・高出力性・高速充電が可能など、リチウムイオン電池をはじめとする他の二次電池にはない特長を活かし、ICカードの高機能化や電子ペーパーなどへの適用が期待されている。しかし、従来の薄型化は0.7mmが限界であり、0.76mmの規格厚を有するICカードへの適用は困難であった。
今回、印刷技術を用いて回路基板と電池を一体化することで、従来比1/2以下となる厚さ0.3mmを実現した。これにより、大きな電力を必要とする画面表示機能や、通信機能、高度な暗号化処理機能をICカードに搭載することが可能となるなど、幅広い用途への適用を実現した。

開発した電池の特長を
以下に纏めると、

1、回路基板と一体化することで、厚さ0.3mmの超薄型を実現
電池を包み込む外装材として、回路基板にも利用可能な厚さ0.05mmのポリマーフィルムを使用。印刷技術により負極を回路基板上に直接形成すると共に、負極の上にセパレータ(絶縁体)、ラジカルポリマー正極などを積層して作製することで、厚さ0.3mmを実現。なお、従来の電池では、外装材として利用していたアルミラミネートの厚みだけで0.2mmを要していた。
また、回路基板上には小型電子部品も実装可能であり、電池に加えてアンテナ、ICを実装した回路基板を用いることで、電池を内蔵した規格サイズのICカードが実現可能。

2、高出力性と充放電の繰り返し耐性を両立し、高い実用性を実証
3cm角、厚さ0.3mm、電池容量3mAhの試作品において、体積あたりの出力密度5kW/L
(注2)の高出力性を確認。試作品を利用することで、1回の充電により表示画面の更新2000回、連続フラッシュ発光360回、位置情報送信35回などが可能。
また、充放電サイクル試験では、携帯電話用リチウムイオン電池と同等の性能である、500回の充放電で初期容量比75%の容量の維持を確認し、高い実用性を実証。

NECは、有機ラジカル電池の実用化・適用領域の拡大に向けて、引き続き研究開発を強化していくそうである。

(注1) 2001年にNECが提案した、プラスチックの一種である有機ラジカル化合物を電極活物質に用いた電池。有機ラジカル化合物と炭素繊維からなる複合正極に電解液を浸透させることで、ゲル状のフレキシブルな電極を実現している。ラジカル部位の酸化還元反応により充放電を行う。高出力性(一度に大きな電流を放電可能)という特長を持つ。なお、有機ラジカル電池の研究開発の成果の一部は、2006年6月~2011年3月に行った経済産業省・NEDOのプロジェクト「先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」(高性能、高機能電池用部材の開発)」によるもの。 (see Archive 06/07/2011)

(注2) kW/Lは、電池の体積あたり出力可能な電力.

Tokyo, March 5, 2012 - NEC Corporation (NEC; TSE: 6701) announced the development of an ultra-thin, 0.3mm thick, organic radical battery (ORB; *1) compatible within standard IC cards of 0.76mm thickness.
The adoption of these ultra-thin ORBs featuring greater flexibility, higher power output and faster recharging speeds than existing rechargeable batteries, including lithium-ion batteries, is expected to enable advanced new functions in IC cards, electronic paper and other technologies. Conventional ORBs of 0.7mm thickness are difficult for IC cards of standard 0.76mm thickness to adopt. These new, 0.3mm ORBs are less than half the thickness of existing units, a size reduction accomplished by using printing technologies to integrate circuit boards with batteries. As a result, IC cards embedded with these batteries can be used for a wide range of functions, including displays, transmission and advanced encryption processing.

Key features of this newly developed organic radical battery are as follows:

 
  1. Ultra-thin 0.3mm thickness realized through integration with circuit boards 
    These batteries are externally wrapped with a polymer film of 0.05mm thickness that may also be used with circuit boards. Moreover, the 0.3mm thickness is achieved through printing technologies that enable negative electrodes to be directly formed on circuit boards. This is created in combination with separators (insulation) on the negative electrodes and laminated radical polymer cathodes. Conventional batteries use an aluminum laminate as external material that is 0.2mm thick.

    Battery-equipped circuit boards can also be outfitted with small electronic components, such as antennae. Circuit boards that are equipped with these batteries and electronic components enable the production of standard size IC cards with built-in batteries.
  2. Demonstrates both high power output and resistance to repeated charging and discharging
    Battery prototypes feature a 0.3mm edge, 3cm thickness, 3mAh capacity and 5kW / L 
    *2 high-output power density per unit volume. Prototypes are capable of 2,000 display screen updates, 360 consecutive flash firings and 35 location transmissions on a single charge. Furthermore, charge-discharge tests indicate that the batteries maintain 75% of their initial charge-discharge capacity after 500 cycles, equivalent to the performance of lithium-ion batteries for mobile phones.

Notes

*1 Organic Radical Battery (ORB)
NEC first proposed using an organic radical compound as a battery's active electrode material in 2001. Charging occurs through the radical compound's oxidation-reduction (redox) reaction. ORB advantages include their extremely high power (large current discharge at one time). Research and development was partially carried out by the "Basic Technology Development for Fiber Materials Having Advanced Functions / Development of Battery Components to Enhance Performance and Functionality" project, sponsored by the Ministry of Economy Trade and Industry (METI), as well as the New Energy and Industrial Technology Development Organization (NEDO).

*2 kW / L is a battery's possible electrical power output per unit volume.

(解説試料: Explaining Document )

http://jpn.nec.com/techrep/journal/g12/n01/pdf/120121.pdf

 (NEC技報 Vol.65 No.1/2012 )

 


複合体Ⅰに生成するFeSとセミキノンラジカルのESR詳細

2013-09-25 13:36:10 | ラジカル

大腸菌から単離された複合体IにおけるFeSとセミキノンのESR信号詳細

JBC288, 20, 14310 (2013)

図1に示す単離複合体I試料のEPRスペクトル(8.28 mg / ml)は2核クラスタおよび4核クラスタ8種類が重畳する様子を示している。 同試料を嫌気6 mMのNADH(a)又は20mMのジチオナイト(b)で還元した。 EPRスペクトルは、40Kと2 mW(A)または13 Kと5 mW(B)で記録した。図には各FeSクラスターから生じるEPR信号の位置が示されている。

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図1 単離複合体I試料のEPRスペクトル(8.28 mg / ml)。 同試料を嫌気6 mMのNADH(a)又は20mMのジチオン酸(b)で還元した。 EPRスペクトルは、40Kと2 mW(A)または13 Kと5 mW(B)で記録した。各FeSクラスターから生じるEPR信号の位置が示されている。他のEPR条件は、マイクロ波周波数、9.45 GHz、変調周波数、100 kHzで、振幅変調、0.6 mT

 信号強度はNADH還元とジチオナイト還元でほとんど同じである (Fig 1A(a) 、 (b))。 4核クラスタN2, N3, N4のEPR 信号は二核錯体の信号が重畳し、複雑なスペクトルを示す。NADH還元とジチオナイト還元双方でも観測された(13K および 5 mW) (Fig. 1B)。これらのクラスタのgz値および線幅からは目立った相違は観測されなかった。しかし、gz = 2.05 、2.03,での信号強度およびgy ~1.94での信号強度はジチオナイト還元の方がNADH還元よりも目立って大きかった。NADH還元とジチオナイト還元での大腸菌複合体N6 信号における 6倍の違いは NADH還元ではできないがジチオナイト還元で出来るN7による信号が災いしている。 電子移動道から20.5Åも離れているためである。 N6a、N6bは 歴史的にはESRサイレントであると信じられていた。 本研究で初めて、近くで 重なった信号であることが分かった。g = 2.099 信号は204 mW では1.2 mWよりも目立って強い信号を示した 。これは緩和時間が速いことを示す。逆に、  g = 2.086 信号は1.2 mW で大きく、204 mWで小さい。 81 mW での差スペクトルでは2本のピークがある。N4に加えて、N6aが複合体1に存在することを強く示している。Yano 等は P. denitrificans Nqo9 ( E. coli NuoI 同族体) にあるサブユニットでN6a ,N6bの外側対は gz,x = 2.08、 1.89 で、内側対はgz,x = 2.05、 1.92であることを示した。 14 Kで外側対は緩和が速く(P1/2= 342 mW)、内側対は (P1/2 = 8 mW) であった。 g = 2.099信号をN6aと 同定してg = 2.086 をN4 と同定した。 N6bからくる内側対の信号 gzはN2のそれと完全に重畳した。そこで、異なる温度、異なるMW電力、さらに、シム法を併用して解析を挙行した。複合体ⅠのFeSクラスタの還元レベルはジチオナイトの方がNADH還元より大きかった。 20K、5 mW (Fig. 6)で差ESRスペクトルで4核クラスタの寄与を決定した。又、差スペクトルで他の4核クラスタの寄与を最小にするためでもある。20K, 5 mW でN2は十分還元されることを信用して ジチオナイト還元、NADH還元、さらに差スペクトルをそれぞれシムレートした。用いたg値は表1に示されている。

表1 シム解析に使用した複合体1ESR信号のg値

ESR信号         gx       gy       gz
N1a            1.922     1.953     2.000
N1b            1.934     1.942     2.027
N2             1.903     1.903     2.050
N3             1.885     1.939     2.027
N4             1.894     1.940     2.088
N6a            1.895     1.935     2.093
N6b            1.939     1.939     2.048
N7             1.900     1.941     2.049

差スペクトルで余分のESR信号が現れた: g = 2.05、 1.93の信号である。これはN3 (gz,y,x = 2.03, 1.94, 1.88, Fig. 6B (a)), N4 (gz,y,x = 2.09, 1.94, 1.89, Fig. 6B (b)) およびN7(gz,y,x = 2.05, 1.94, 1.90, Fig. 6B (a))でもシムできなかった。これは厳密な嫌気条件で還元して出来るN6bが存在することを強く示唆している。それの性質はN2信号の性質とは全く逆で、好気的でNADHでも完全に還元される。しかし、N2 およびN6b 信号は 軸対象で高温でも観測できる。スペクトル Fig. 6B(c), (赤線) はN6の軸対象ESRシムを示している。これはN2のgz値と重なる。

Fig6

図2. (A)   dithionite (a) またはNADH (b) で還元された複合体1のESRスペクトルとシム合成。ジチオナイト還元とNADH還元の差スペクトル (c) 。スペクトルは 20K、5 mW測定。点線はここのFeSの和を示す。 (B) 4核クラスタのシムスペクトル。

 

セミキノン信号

 精製した大腸菌複合体Ⅰのセミキノン信号SQ信号は他の研究室で検出されたことはなかったが、我々が始めて20Kで検出に成功した (図 3A(a), g = 2.00 領域参照)。このg = 2.005 SQ信号のMW電力特性を150Kで調べた。150KでもN1aのgz = 2.00成分が残りSQ信号と重畳した。それで、SQ信号を分離する為に差スペクトルを取った。 さいわい、完全にN1a は軽減された。 一方、ジチオナイト還元ではSQ信号が消えた(図3(c))。結局、大腸菌複合体1のSQ信号の分離に成功した(図3, 上右)。線幅 (ΔHpp) ~12 Gで,中性セミキノン構造 (QH?) を示している。一般に、余分のプロトン化はキノン環のスピン密度が非対称の摂動のために線幅が増加することが知られている。MW電力飽和解析を行うと、P1/2 = 1.85 mWでは、単一信号として90% 以上であることがわかった。ΔHpp >15G の信号=フラボSQ成分は存在しなかった。複合体Ⅰが電位差滴定で還元されたとき 、フラボSQ成分のΔHppは大体 24Gであった。  さらに。ascimicin (100 μM)存在下ではSQ 信号は60% に 減少している (図3 (b))。 このSQ信号は複合体1における酸化還元と結合したプロトン汲み上げ機構に関与していると思われる。

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図3 (左)、単離複合体IのEPRスペクトル。EPRスペクトルは、150 K、1.2 mWで記録した。複合体I(15μM)のascimicin(強力な大腸菌の阻害剤)不在下(a)、存在下(b)でNADHで還元した(c)は、ジチオン酸塩で還元した。(右)、ascimicinの不在(d)又は存在(e)におけるNADH還元-ジチオン還元スペクトルの差スペクトル。 二核クラスタ、N1a とN1b のEPR信号は 40K、2 mW で観測された.

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呼吸鎖系のFeSクラスターおよびESRスペクトル

2013-09-10 11:41:31 | ラジカル

Photo_3(クリックで拡大。下記URLをクリックすると個々の構造図が詳細に見える)

図1 呼吸鎖全体図

http://www.dbp.akita-pu.ac.jp/~esuzuki/pbc/Folder7/ET/chain.html)。

最近の呼吸鎖系の研究成果は素晴らしい。図1に示したように、ようやく呼吸鎖の全体像が見えるようになり、呼吸鎖を構成するタンパク質や補酵素群のほとんどは内膜に埋め込まれて存在することがわかるようになった。シトクロムcは膜表面に結合している。これらを結晶構造解析の結果を複合体ごとに図1に示されている。H+として運ばれた水素は複合体 I から膜間スペースへ移動し、同時にユビキノン(補酵素Qへ2個の電子が渡される。一方、FADHとして運ばれた電子も複合体 II からユビキノン(補酵素Q)へ渡される。還元型ユビキノンの水素は複合体IIIとの連鎖で2H+として外れて膜間スペースへ移動する。同時に、電子は複合体IIIに渡される。複合体IIIに渡された電子はミトコンドリア膜表在性のシトクロムを経て複合体IVに送られる。複合体IVは、還元型シトクロムを酸化し、生じた電子が酸素分子に渡される。1/2分子のOがマトリックス内の2個のH+と結合すると1分子の水がつくられる(実際は4電子で水2分子が生成する)。複合体Ⅰ、Ⅲ、Ⅳで合計10個のH+が複合体の隙間を通って膜間スペースへ運ばれる。これによって生じるH+の濃度勾配が内膜をはさんでの膜電位を生み出す。

ここで、注目すべきは6個のFeSクラスターが並ぶ複合体Ⅰのサブユニットである(図2)。複合体IはNADHの2つの水素と電子をFMN(又はCoQ)に渡す。

NADH + H+ + FMN(CoQ)→ NAD+ + FMNH2(CoQH2) DGo' = -71 kJ/mol。

複合体Iを電子が通過すると,4つのH+が膜間腔へ運ばれる。複合体Iは42のサブユニットから成る複雑な構成のため研究の進歩は遅い。複合体1はフラビン(FMN)酵素や少なくとも6つのFe-Sを含む。CoQは膜内を自由に動き回れる。複合体Ⅰを電子が通過すると,4つのH+が膜間スペースへ運ばれる。複合体Iはロテノンやアミタールで阻害される。

Sazanov2010nature(クリックで拡大)

図2 Thermus thermophilus の呼吸鎖複合系Ⅰの構造(左)とFeSクラスターの配列の様子と電子の流れ(右)(4.5Å分解能)。

(左)複合体Ⅰの分子構造 (PDBID: 3I9V)と膜領域のαーヘリカルモデル。Fe-Sクラスターは赤と黄色の球で、、FMNはマゼンタの球で表示した。 各サブユニット毎に命名され、異なる色で示されている。

(右)プロトン転位のモデルによると、FMN (マゼンタ)を経由して、 NADH の 2個の電子を一連のFe-S クラスターに渡される。 図では空色線矢印で示している。  電子移動はターミナルクラスター N2を経て, キノンQ(濃紺)に渡される。その際、膜より10Å離れる。2個の電子移動は疎水領域で構造変化と共役している。それはNqo4 4つのへリックスの束 (緑円筒 ) と Nqo6 へリックス H1 (赤)で観測される。 これらの変化は 両親媒性へリックスHL (マゼンタ)に伝播され3個の不連続へリックス(赤)を傾けることになる。各プロトンチャンネル内の残基の配置を換えるとプロトンの転位を引き起こす。第4のプロトンは二つの主ドメインの境界に転位する。

ミトコンドリア複合体Ⅰや バクテリアNDH-1では非共有結合性FMNおよび8-9個のFe-Sクラスターを含んでいる。大西グループの命名法に従えばN1aとN1bは2核クラスターで、 N3, N4, N5, and N6 は4核クラスターで、ESRを与える。 ある種のバクテリアでは、さらに2種の4核クラスター (N7とN6 )を含む。N1a、N1b はサブユニットNqo2/NuoE/ FP24k aおよびNqo3/NuoG/IP75kに位置する。 N3 はNqo1/NuoF/FP51kに位置する。.  クラスター N4, N5,  N7 は サブユニット Nqo3/NuoG/IP75kにある。クラスター N6 (2[4Fe-4S]) はサブユニット Nqo9/NuoI/TYKYと結合している。 N2 は多分、サブユニットPSST/Nqo6/NuoBに包含されている模様。

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図3 T. thermophilus複合体Ⅰの親水部分の構造。(A)側面図、(B)酸化還元中心の配置図(スケールは左図と同じ)。

以下工事中

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図4. 単離された複合体ⅠのESR。嫌気条件下でNADH(a)、またはジチオナイト(b) で還元。

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図5  (A) ジチオナイト(a) またはNADH (b)で還元された 複合体IのEPRスペクトルを比較、と差スペクトル(c)。 それぞれシムスペクトルを重ね合わせて表示(点線)。 (B) 4核クラスターのシムESR信号。スペクトルは同じスピン量で規格化  (a-c).

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図6. (左) 単離した複合体1のESR信号。ESRスペクトルは150 K 、 1.2 mWで観測.。複合体 I (15 μM) を NADHで還元。 ascimicin(強力な大腸菌複合体Ⅰ阻害剤) (a)なし 、 (b)あり。 ジチオナイト で還元の場合は(c)。 (右)(a)-(b)=(d), (a)-(c)=(e)の差スペクトル.

(Semiquinone and Cluster N6 Signals in Bioenergetics: J. Biol. Chem. published online March 29, 2013)

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