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今日もArt & Science

写真付きで日記や趣味を勝手気ままに書くつもり!
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あるいは寺田寅彦の様に!

ちょっといっぷく17 N@C60四方山話

2009-03-03 16:11:50 | ESR

Nc60cashe
図1 CAChe:MM3で求めたN@C60の構造。

 C60の殻の中に窒素原子1個が入り、電子スピン状態S=3/<wbr></wbr>2を示す。 T1、T2が非常に長く、量子コンピュータの記憶素子として有望視されている。T1は室温で100 μsで5度Kでは数秒もある。グロー放電で作成されるが収率が悪く現在C60の0.01%程度。そのために、他の物性データはまだない。

Nc60

図2 MOPAC UHF AM法でS=3/2状態のスピン密度分布を計算してみた。窒素原子を含む面でカットしてみると窒素上に密度の濃い、あたかもd軌道のよな分布が見られる。これが3本線の分裂をもたらすスピン密度分布なのである。しかし、自由原子のそれに比べると1/3~1/4しかない。要するに2/3以上がC60の骨格上に分布していることになる。

 中央の窒素原子の替わりに燐原子が入ったP@C60、またC60に替えてC70を用いたN@C70、なども単離されており、N@C60と同程度のT1が求められている。従って、極低温ではあるがQ-ビットとして有望な素子が現れたと考えてよいであろう。国内でも最近収率を上げる試みがなされ始めた。

 C60は1980年代の半ばに煤の中から見つかった。はじめは学者の興味本位で始められた研究が最近ではビタミンC60という名の化粧品が出現するまでになっている。当化合物N@C60はどうも新側面を示しているようである。S=3/2をもつ窒素原子が室温でも安定に存在し、お互いに磁気相互作用をするということは驚異である。電子スピン共鳴(ESR)という物理現象を使ってアップスピンをダウンにして情報を記憶させることは究極の量子ビット(図3)なのである。

Qbit

図3 量子ビットに情報をESRを用いて書き込んだところ(クリックで拡大)。極低温ではあるが、1秒以上、この状態が持続(メモリーの保持)する。

ESRの出番である。


携帯ESRの応用(6) プラズマ処理でできるラジカル

2009-02-23 19:06:28 | ESR

 物質は温度上昇とともに固体から液体に、液体から気体にと状態が変化する。気体の温度が上昇すると気体の分子は解離して原子になり,さらに温度が上昇すると原子核のまわりを回っていた電子が原子から離れて,正イオンと電子に分かれる。この現象は電離とよばれる。そして電離によって生じた荷電粒子を含む気体をプラズマという。

Plasmac

図1 プラズマ状態を示す模式図(クリックで拡大)。プラズマ状態では荷電粒子の間にクーロン力が働く。クーロン力ははるかに遠方まで力をおよぼす。そのため,1つの粒子の運動は多くの粒子に影響をおよぼし、中性気体にはみられない様々な現象が現れる。

 プラズマはもはや馴染みの科学で、蛍光灯、ネオン、最近ではプラズマテレビがある。伝統的にはプラズマは固相、液相、気相、と並んで「第四の相」と分類されていたが、この分類がやや曖昧な部分がある。現在では、プラズマ現象と固・液・気体間の第一種相転移の概念とはまったく別のものとして確立され、プラズマ物理では炎やオーロラなどの電離気体から固体中の電子振動(プラズモン)まで、広い範囲の現象が取り扱われている。

 プラズマはラジカルの宝庫である。プラズマはガス状態ラジカルのESR観測に製造方法の一つとしてよく利用されたが、近年、表面改質、膜形成、エッチング等のドライプロセスとして広く用いられており、特に非平衡プラズマによる半導体デバイスの製造プロセスとして研究開発および産業応用が進んでいる。一方、熱プラズマも従来から超高温熱源として利用され、溶接、溶断、溶解、精錬等の産業応用を対象として研究が続けられてきている。大きく分けて以下のプラズマ作製法が利用されている。

1、高周波マグネトロンスパッタリング法

2、マイクロ波プラズマCVD法(PECVD法)

3、ヘリコン波プラズマスパッタリング法

4、高周波イオンプレーティング法

Nc60_4

典型例1 N@C60の作製法とそのESRスペクトル(特開2005-53748)

 最近、N@C60が注目されている。C60の殻の中に窒素原子1個が入り、電子スピン状態S=3/2を示す。 T2が非常に長く量子コンピュータの記憶素子として有望視されているのである。図2のようなプラズマ発生装置で作成されるが収率が悪く現在C60の0.01%程度。この収率を上げるために、鎬を削っている。ESRスペクトル測定と解析が有力な情報を提供している。

図2 N@C60生成用にプラズマ発生が用いられているグロー放電の装置(クリックで拡大)。

 

Nc60_3

図3 量子コンピュータ用メモリーとして脚光を浴びているN@C60のESRスペクトル(クリックで拡大)。

シャープな3本線は1個の窒素原子の核スピンによる分裂。Hfcc通常のスピンプローブの3分の1程度。あとはC60上に分布しているもよう。

典型例2 プラズマによる高分子膜表面改質例ー岐阜薬科大学葛谷昌之博士の総説(表面技術Vol56,642、2005)より抜粋

Esr

図4 アルゴンプラズマにより表面改質された高分子膜表面のESRスペクトル(クリックで拡大)。破線はシムスペクトル。

 プラズマによってできるラジカルは意外ときれいな(単一ラジカルに近い)スペクトルを示す。ラジカル化エネルギーの小さいラジカル種がESRスペクトルに関与する模様。

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携帯ESR の応用(5) リビングラジカル重合

2008-10-14 13:47:45 | ESR

 リビングラジカル重合(Living Radical Polymerization)は比較的新しいテーマである。1980 年代にその端を発し、その後1990 年代半ばに種々の開始剤系が見出されて以来、近年の著しい発展により、重合系の多様化、制御能の向上、適応モノマーの拡張、重合機構の解明、複雑な構造をもつ高分子の精密合成、機能材料への応用など、多岐に渡る展開をみせている。いろいろな面での効率化も今後必要であるが、リビングラジカル重合の工業化も行われ、さらなる発展が期待されている。ここで、制御能の向上に一役買っているのがESR装置である。

Figure01

図1 従来型高分子重合とリビングラジカル重合との相違(大塚化学(株)HPより引用)(図をクリックで拡大)。

 従来の高分子重合は一般に開始反応、成長反応、停止反応、および連鎖移動の4つの素反応から成り立っている。いったん、開始ラジカルが生成すると、それがモノマーに次々と反応する成長反応が起こる。これにより生じた重合末端ラジカルは再結合反応や不均化反応による停止反応を受けて、デッドポリマーとなる。その結果、分子の長さのそろわないポリマーが生成する。

 他方、リビングラジカル重合とは重合過程において開始反応と成長反応のみから成り、連鎖移動反応あるいは停止反応などの成長末端を失活させる副反応を伴わない重合のことである。このような条件が成立すると、成長末端は重合中常に成長活性反応を保ち続けることから「リビング」生きていると呼ばれる。連鎖移動が起こらないことから、それぞれ長さのそろったポリマーが得られる。またリビングラジカル重合によって合成されたポリマー(A)の成長末端を利用して違うモノマー(モノマー)を添加することで、新しいモノマーのもとに重合が進行し、ブロックポリマーを合成することが可能である。

Photodomant

図2 リビングラジカル重合の例。TEMPOなどの安定フリーラジカルは空気中でも安定なラジカルであるが、炭素中心ラジカルとはカップリングによってドーマント種を形成する。この結合は過熱(又は光照射)すると元のラジカル対に戻り、重合を継続する。従って、安定フリーラジカルを指標にして、ESRにより、反応が追跡・評価できる。 

 ラジカル重合性化合物、あるいはこれらを含む混合物は、熱、過酸化物、金属イオンなどが作用してラジカル重合が進み、関連する蒸留塔、反応塔、リボイラーなどの熱交換器、液送配管、装置内などに重合物が付着し、熱伝導の低下、液送配管内の閉塞など、操業上大きな支障となる。場合によっては、操業を停止して重合物の除去を行う必要が生じ、莫大な費用と時間を要する事態になることがある。この問題を解決するために、重合禁止剤を添加して重合を抑える方法が用いられていた。重合禁止剤には、芳香族アミン系化合物、ヒドロキシルアミン系化合物、フェノール系化合物、キノン系化合物、亜硝酸系化合物などが広く用いられて来たが、近年、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)(図2参照)に代表される立体障害基を有する安定フリーラジカルが、極めて高い重合禁止効果を有することから注目されだした。安定フリーラジカルは、立体的に大きい基がラジカルに隣接しているが故に安定フリーラジカル同士が結合することはほとんどないが、ラジカル重合性化合物からのラジカルとは速やかに反応して重合を抑えることができる。このようにして安定フリーラジカルのラジカルは消費されていくので、濃度不足の状況になると重合抑止効果はなくなり、重合抑制剤を加えない場合と同様の状況に陥る。工業的には、安全運転の観点から安定フリーラジカルは多量に使用することが多く、必要以上に加えられ経済的な問題があった。そのため、プロセス条件の変動に合わせて安定フリーラジカルを添加することができるように、当化合物濃度を短時間で測定することのできる方法が強<txf ly="0300" lx="1100" wi="080" he="250" fr="0003"></txf>く求められていた。
 ラジカル重合性化合物を扱う系は、ラジカル重合性化合物を製造、精製、貯蔵、輸送する工程であり、具体的にはラジカル重合性化合物の蒸留塔、分留塔、貯蔵タンクなどである。ESRは、静磁場中に置かれた電子スピンがマイクロ波をかけることにより共鳴する現象であり、不対電子、すなわちラジカル化合物を検出し、そのマイクロ波の吸収強度がラジカル濃度に比例することを利用して安定フリーラジカル化合物の濃度を推定することができる。ESRは、測定する試料に特別な前処理をすること無く、共存する他の化合物の影響を実質受けずに安定フリーラジカル化合物のみを選択的に、かつ高感度に測定できる。ESR測定装置は特に限定するものではないが、例えば、小型の筐体の中に磁気回路、マイクロ波回路、電子回路および測定の制御、信号処理のためのコンピューターシステムを組み込んだ物であり、市販の装置、例えば、キーコム社製ESR10XA型などが使用できる。ESRの測定は、通常、対象とするプロセスから少量の試料を採取し、これをESR測定装置内の測定セルに移し測定する。また、蒸留塔や分留塔のプロセス流体中にバイパスラインを設置して、例えば、バイパスライン途中に三方電磁弁を付けてタイマーをセットして、連続的、あるいは定期的にプロセス流体を採取して、ESR測定装置内の測定セルに送り、測定することもできる。

 安定フリーラジカルに由来するラジカルと、ラジカル重合性化合物に由来するラジカルが存在するが、安定フリーラジカルに由来するラジカルは安定に存在するが、ラジカル重合性化合物に由来するラジカルは不安定で寿命が非常に短く、実質検知できない。従って、ESRで検知するラジカルは、安定フリーラジカル由来のラジカルのみと考えてよい。ESRはラジカルの電子スピンを測定する装置であり、測定対象の組成に関係なくラジカルのみを選択的に測定する事ができ、しかも非常に敏感であることから採取試料の前処理なくプロセスから採取した液をそのまま測定に供することができるという大きな利点がある。当然、精度も高くなる。反応剤や反応条件を適切に選択することで、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、ジエン、ビニルエスエル、ビニルアミド、塩化ビニルなどさまざまなラジカル重合性モノマーに対して分子量制御が可能となっている。これらの重合系は、速度論的には?解離?結合機構、?原子移動機構、?交換連鎖移動機構の3種類いずれかに分類される。重合系は、

(a)ニトロキシド、TEMPOなど

(b)金属触媒、Ru、Cu錯体、Te化合物など

(c)チオエステル、

による重合の3つが主であり、それぞれ上記3種類の機構に分類され、いずれも広範囲のモノマーに対して有効で、制御能が優れている点が共通の特徴である。リビングラジカル重合系は、反応制御剤、触媒、移動剤の設計・改良や新しい重合系の開発に基づく制御能の向上、重合の加速、触媒量の低減、触媒の担持、適応モノマーの拡大など、なお発展段階にある。

 精密高分子合成に関しては、末端官能性、ブロック、グラジェント、グラフト、星型ポリマーや、さらなる特殊構造ポリマーが種々のモノマーから合成されている。また、配位・イオン重合におけるリビング重合や重縮合・重付加などと組み合わせることで、これまでにない新たな精密制御構造ポリマーが合成可能となっている。これらの精密制御高分子は、多くの分野への波及効果があり、他分野との融合も重要となってきている。例えば、ミクロ相分離構造やミセル構造などの高次構造制御や、光・温度応答性部位の導入による機能性材料、シリカ・金属・金属酸化物・炭素微粒子、カーボンナノチューブなどの異種化合物・材料表面からのグラフト重合による新規材料、バイオコンジュゲーションによる医用材料への応用へと展開されている。工業的には、シーラント剤、熱可塑性エラストマー、界面活性剤、接着剤、分散剤、高分子固体電解質、光・電子材料への応用が検討され、工業化に至っているものもある。

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水素ガスのOHラジカル消去能再考

2008-07-28 16:53:38 | ESR

 当ブログを書き始めてからもう一年になる。昨年7月30日のことである。それより遡る5月8日、主要新聞が挙って「水素が活性酸素を除去する」と報じた。水素を使って体に有害な活性酸素を効率よく除去することに、大田成男、日本医大教授(細胞生物学)らが成功し、米医学誌「ネイチャーメディシン」 (電子版)に2007年、5月8日発表した。これは抗酸化物質の歴史に名を留める画期的な発見である。理由の第一は、OH・ラジカルは生体外部から制御できないと考えられていた。反応性が高く、無差別に生体物質と反応する。しかし、水素ガスの重要性はこの活性酸素OH・と選択的に反応し、無害のH2Oにすることにある。第二はガス状態でしかも電荷を持たない点に注目したい。恰も麻酔ガスのように雰囲気に少量溶け込ませることにより、発生するOH・ラジカルを無害にすることができるのである。

 大田らは培養した細胞を用いて、水素ガスによる・OHの消去効果を、DMPOを用いたスピントラップ法で確認している(図1参照、装置はキーコム社製ESRX10を使用)。

Oh_1_2

 

図1aは銅イオンを用いたFenton反応系(Cu2+ + H2O2)をテストしたもので、4本線の出現は明らかにOH・が発生していることを示している。図1bは培養細胞存在下での結果で明らかに細胞存在下でもOH・が発生し、DMPOでトラップされていることを物語る。ところが、水素存在下では4本線強度が明らかに50%以下に低下したのである。水素ガスは、O2-・、NO・、発生系では効果がなかった。

 また、水素は活性酸素が持つ酸化とは逆の作用をする。ラットの細胞に薬剤を加えて 活性酸素を作ったあとに 水素を加えると活性酸素の中でも 悪質なヒドロキシラジカルがほぼ半減し 死滅する細胞もほぼ半分になった。また、脳の血流を一時的にとめて 活性酸素を発生させたラットに2%の水素を含んだ麻酔ガスを吸わせると 脳の炎症が収まり、6匹中4匹は 両足を動かせるまでに回復した。水素を与えないラットは 足が動かなくなるなどの症状が悪化した。

 

 丁度一年経った現在、健康産業流通新聞が7月18日号(第707号)で2頁にわたる特集「水素水」を組んでいる。この一年で、二十社を超える会社が抗酸化の真打、「水素」を製品化している。商品群は大きく3種に分類される。第一は水の電気分解によって水素ラジカルを発生させる生成器、第二は化学反応で発生させるステイック、マグネシウムやカルシウムなどの発生源をカプセル封入したサプリやコスメ、第三はアルミパックなどに水素ガスを充填させた水素水などが揃っている。なかには、ESR法を駆使して抗酸化能を評価しているものもあるから嬉しい。

 なぜ水素ガスがOH・ラジカルのみを消去するかを再考してみよう。水素分子は2個の水素原子からなり、水素引抜反応を起こすと、2個の水素原子ラジカルになる。

     H-H  →   H・ + H・            (1)

   -5.1822kcal             2 × 52.102kcal

   RE=109.386kcal

右辺と左辺のエネルギー差をMOPACで求めると、ラジカル化エネルギー(RE):109.386kcalとなる。

同様に水分子:H2Oから水素原子を引き抜くと:

     H-O-H  →  H-O・ + H・        (2)

     -60.945kcal         0.633kcal      52.102kcal

   RE=113.680kcal

右辺と左辺のエネルギー差(ラジカル化エネルギー):113.680kcalとなる。

 今、考慮中の系にH2とH2OとOH・が共存しているとしよう。OH・ラジカルはH2、H2Oのどちらから水素を引き抜くか?例え4kcalの差であっても、自然はH2との反応を選んで、無害のH2Oになり、残ったH・も次のOH・と反応する。結局、企業の宣伝文句ではないが、98%ものOH・ラジカルを消去することになる。

 因みに、H2O2(過酸化水素)、または、H2CO3(炭酸水)がOH・ラジカルと共存する場合はどうか?

     H2O2  →  HOO・ + H・           (3)

     -28.345          -11.795   52.102kcal

          RE=68.652kcal

     H2CO3  →  HCO3・ + H・         (4)

     -150.817     -87.094   52.102kcal

          RE=115.825kcal

答えは簡単で、過酸化水素からHOO・を作るが炭酸からラジカルを作らない!

 水素ガスは未来のクリーンなエネルギー源として注目されているが、生体内もクリーンにしてくれそうである。

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携帯ESRの応用(4) 照射食品検知

2008-06-13 10:14:46 | ESR

 今年に入ってにわかに食品問題がクローズアップされだした。中でも日本にとって問題山積しているのが照射食品である。照射食品とは肉、果物、香辛料などに放射線を照射することにより、殺菌、殺虫、発芽防止した食品を言う。日本では1974年からコバルト60のγ線照射によるジャガイモの芽止めが認められているが、それ以外は全く禁止されている。 しかし、世界的には、

①害虫やカビ、腐敗菌による収穫後の被害と食糧の損耗を防ぐ、

②食品の衛生化と食中毒防止の対策、

③遠隔地からの農産物に対する検疫の手段、として欧米やアジア各国など50余カ国で200種を越える食品に対して照射が許可されている。 さらに近年、

④環境面から従来使用されているガス燻蒸や化学処理が制限されるようになった、

こともあり、食品照射が世界的に広がりつつある。多くの食品を海外に依存しているわが国にとっては一大事なのである。照射食品と明記されているものはまだ良いとして、ひそかに照射された食品が輸入され、知らず知らずのうちに食べているとしたら恐ろしい。

002_3 表1 平成17年度、世界における食品照射、処理量、および経済規模(放射線照射利用促進協議会、平成20年度、第一回大会・講演会要旨より)(クリックで拡大)。

 日本原子力研究開発機構は2007年度内閣府委託事業「放射線利用の経済規模に関する調査」を受託・実施し、調査報告書をまとめた。その中に表1に示す調査結果がまとめられている。これによれば、世界の食品照射処理量は約40万トンで、経済規模は1兆6千億円と求められている。中国、米国、ウクライナが照射量ビッグスリーで、総量の80%に達している。対象となる食品は肉、香辛料、穀物が多く、中でも中国の穀物、香辛料、ニンニクに注目されたい。昨年末から今年にかけて中国製の餃子が大問題になったが、餃子の農薬汚染は氷山の一角で、15万トンに達する食品の放射線照射はもっと注目されるべきである。表1の意味するところについて書き出したらきりがない。いづれゆっくり検討することにして、ここでは照射食品の見分け方、放射線量の見積もりについてESR法の適用とその限界について述べてみたい。

 日本原子力研究開発機構が中心になり、食品照射データベースがまとめられている。食品のESR測定は次に示す検知法に採録されている。

ESR検知法(Detection method):

http://takafoir.taka.jaea.go.jp/dbdocs/min005001.htmlより抜粋)

  • 照射食品照射検知法の現状(総説)
  • 照射食品の検知法に関する国際的動向
  • 照射食品の検知法に関する共同研究計画 -最終会議報告-
  • ESR法による照射骨付き鶏肉の線量の推定
  • 照射鶏肉の炭化水素法及びESR法による検知
  • 照射セルロースに特有なラジカルのESRピークによる照射イチゴの検知
  • ESR法およびアルキルシクロブタノン法による照射魚類の検知についての一考察
    -ニジマスを例として
  • 電子スピン共鳴分光法によるγ線照射黒胡椒中の有機フリーラジカルの加熱による変化
  • 電子スピン共鳴法によるセルロースを多く含んだ照射食品のラジカルの検出
  • 加熱調理によるセルロースを多く含んだ照射食品中のラジカル減衰挙動
  • 照射食品検知の紙類によるスクリーニング法 
  • 放射線照射小麦粉中に誘導されるラジカルの熱減衰挙動-電子スピン共鳴分光法による検出- 
  • ESRによる照射殺菌朝鮮人参の検知 
  • 照射緑茶の電子スピン共鳴法による検知 
  • 照射小麦粉に誘導される有機フリーラジカルの加熱時の挙動 
  • 二種のグルコースポリマーの照射処理により新規に誘導されるラジカルの解析 
  • X-band ESRを用いた殺菌胡椒のラジカルの評価    
  • 酸素フリー雰囲気でのESRによるγ線照射で衛生化したアガリクスの分析 
  • 電子線照射した生薬のESR法による検知

 放射線、中でも主にγ線により、物質は電子とホールが生成する。1秒以内の初期状態では、これらが周囲の物質と反応し、ラジカル化エネルギーが小さい物質をラジカル化して蓄積する。ほとんどの食品は酸素と反応して複数のラジカルが生成し、ESR信号を示す。鉄、マンガン、銅といった遷移金属イオンやビタミン類、ポリフェノール、などの有機化合物ラジカルの他に、加工に伴うメカノラジカルが含まれている。これらの信号源に加えて、放射線照射由来のラジカルによるESR信号が放射線量に比例して現れる。ラジカル種ごとに生成・消滅速度が異なるが、目的に応じ、これらを利用して地質年代測定や線量計さらに、照射食品検知に利用されている。

(例1)ESR法による照射骨付き鶏肉の線量の推定(田辺寛子 :食品照射 第32巻 p.2 (1997) より抜粋・編集)

実験:

 市販国産の手羽元鶏肉に、コバルト-60(60Co)線源(185TBq)を用いて、線量率0.5~4kGy/hrで室温または低温でγ線照射を行った。その後、これから骨を取り出し、骨幹中央部を切り取った。次に骨髄腔の骨髄及びスポンジ状の海面骨を削り取り、水洗・脱水乾燥させた。これをニンニクつぶし器、乳鉢等を使用して粉砕し、篩にかけ、一定の粒度とし、さらに一昼夜真空乾燥した。その約100mgをX-バンド用ESR試験管に入れ、日本電子(株)製電子スピン共鳴装置RE-2X型によりESR測定を行った。測定条件は、ESRシグナルが飽和しないように、中心磁場:335mT、掃引幅:7.5mT、モジュレーション幅:0.32mT、タイムコンスタント:0.03sec、掃引時間:4min、マイクロ波出力:1mWとした。

 線量付加法の試料は、手羽元鶏肉に初期線量として一定線量照射後(3kGy、1kGy、0.5kGy、0.25kGy)、骨の処理をし、ESR測定を行った。その後、同一測定試料に対し、1kGy再照射-ESR測定を繰り返した。または、数個の照射試料を粉砕後、均一に混合・等分し、数段階の線量を同時に照射した。

結果と考察

Fig0004eb0001 図1 未照射、及び0.5kGy、1kGy、3kGy照射した骨のESRスペクトル。

 未照射、及び0.5kGy、1kGy、3kGy照射した骨のESRスペクトルをFig.1に示す。照射線量の大小に係わらず、g⊥=2.002 とg//=1.997(g値は不対電子の吸収位置を示す)の付近に主シグナルを持っている。これは骨の無機成分であるヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)中に電子捕獲によって生じる5)。未照射試料にはこのシグナルは見られず、繊維状タンパク質であるコラーゲンのシグナル(g=2.005付近)が見られ、照射でできるスペクトルとは容易に識別できる。したがって、照射食品であるか否かを判定するにはヒドロキシアパタイト由来の信号を観測するだけで十分である。どれだけ照射されたかを判定するには次の線量付加法を用いる。因みに、当ラジカルトラップは非常に安定で年代測定にも利用されている。

Fig0004f20001  図2 線量付加法による前処理の見積。 

 骨付き鶏肉に3kGy照射、骨の処理をして、骨の粒子を2区分に分けESR測定をし、その後その各々に1kGy再度照射及びESR測定を繰り返した線量付加法の結果を示す。その結果、外挿法(直線を負の方向に延長し、信号強度ゼロの付加線量)3.9kGy、2.9kGyとかなり異なった値を示した。照射とESR測定を繰り返し行うために、ESR管から試料を出し入れしている。そのため測定時には、その都度試料位置が異なり、それが測定値の変動の原因になっていると思われる。しかし、鶏肉の場合、照射上限は7kGyと定められており、照射処理がどの程度であるかを大まかに見積もるには十分である。

(例2) 照射セルロースに特有なラジカルの ESR ピークによる照射イチゴの検知(後藤典子、田辺寛子:食品照射, 37巻, pp. 12-16(2002)より抜粋・編集)。

  種子(イチゴ、胡椒、など)の照射食品の検知法として、照射セルロースに特有なラジカルを ESR で検出する方法が知られている。この原理によるヨーロッパ規格が 2000 年改定され、イチゴから種子を分離する方法についての記述が追加された。この規格では 1.5kGy 照射したイチゴを 3 週間検知可能としている。しかし、イチゴへの照射線量の上限は 3kGy の国もあるが、1kGy とする国が多いので、1kGy 以下の照射の検知を試みた。

Fig00500100002001

図3 照射イチゴの種子が示すESRスペクトル。主ピーク A と照射セルロースに特有のラジカルによるピーク C1、C2 。 

 照射イチゴの種子を分離し、ESR を測定すると、図3ののようにポリフェノール由来の主ピーク A と照射セルロースに特有のラジカルによるピーク C1、C2 が検出される。高磁場側のピーク C2 はマンガンマーカの影響を受けるので、解析には低磁場側のピーク C1 を用いた。数種類の未照射イチゴについて ESR の測定を行なったところ、照射セルロースに特有なラジカルによるピーク C1 付近に、わずかなピークがあった 。これと照射試料のピークとを区別する方法を検討した。図4のように、マンガンの第 3 番目のピークと g 値 = 2.0046 のピーク A の間をベースラインに接する直線 (?) を引き、この直線からのピーク高さ (S) を求め、吸収線のない高磁場側のベースラインからノイズ幅 (N) を求め、S/N 比を検討した。

Fig00500100002003s 図4 照射セルロース由来ラジカルの強度(S)の求め方。

 0.5kGy 以上照射されたイチゴでは、室温で 3 日後、冷蔵で 21 日後、冷凍で 60 日後までは検知できた。また、電子線照射した場合、電子の透過力が小さいため均一な照射条件の結果ではないが、種子の表面に分布するセルロースに起因する特有のラジカルピークがγ線の場合と同様に検出できた。 

 

(以下、工事中)

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