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売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

『幻影2 荒原の墓標』第14回

2014-04-18 13:33:19 | 小説
 先日、読者の方と話す機会がありました。その方は私の作品を、『宇宙旅行』『幻影』『幻影2 荒原の墓標』の3冊を読んでくださいました。
 なかなかよく書けていると褒めていただきましたが、官能的な描写が少ないので、もう少しそんな場面を書くほうがいいのではないか、とアドバイスをいただきました。私が苦手にしていることなのですが……

 『幻影2 荒原の墓標』の第14回を掲載します。


            

 その日の夜遅く、というより、翌日の未明に、美奈は三浦の訪問を受けた。美奈は仕事が終わってから、恵、アイリ、リサとなじみのファミレスに寄り、自宅に帰ったのが午前三時近くだった。三浦も被害者の人間関係の聞き込みで、今回の相棒、小幡署の柳刑事と歩き回り、小幡署に戻ったのは、夜遅くなっていた。関係者の聞き込み等の捜査では、これといった進展はなかった。捜査はまだ始まったばかりなのだし、これからだと三浦は自分を鼓舞した。
 事件当時は、長雨が続き、川が増水していたから、遺体は上流から流れてきた可能性もある。殺人現場、もしくは遺体を遺棄した現場はもっと上流かもしれない。上流での目撃者捜査、痕跡捜査で、何か手がかりが見つかるかもしれない。幸い事件の翌日から、梅雨の中休みで、晴天が続いている。
 小幡署に戻り、捜査本部でその日の捜査の報告や打ち合わせなどが終わったら、もう日付が変わっていた。三浦は捜査で疲れていたので、捜査本部となっている部屋で少し仮眠を取った。目が覚めると、美奈から携帯電話にメールが届いていた。
「昨日は申し訳ありませんでしたm(_ _)m。北村先生が重要参考人、ということを新聞で知ったので、私としても、知らぬ顔はできませんでした。先生、大丈夫だったでしょうか? 今仕事を切り上げ、これから友達としばらくファミレスで歓談します」
「返信遅れました。捜査本部でしばらく仮眠を取り、今目を覚ましました。北村先生は無事に釈放しました」
 美奈からのメールを受信してから、一時間半ほど経ってから、三浦は返事を送った。美奈は自宅への帰路の途中だった。美奈は信号待ちの間に、「今、帰る途中です。あと一五分ほどで自宅に着きます」とメールを打った。三浦は 「もしご迷惑でなければ、これからお伺いしていいですか? 今守山区の小幡署なので、三〇分以上はかかりますが」 と返信した。美奈には何ら異存はなかった。すぐに返信したいが、こういうときに限って、なかなか信号が赤にならなかった。
 真夜中の三時ごろ、三浦が美奈の家を訪れた。
「すみません。こんな遅い時間だというのに。刑事が一般人を訪問する時間じゃないですね」
「いいえ、私だってさっき戻ったところなんです。一般人だなんて、そんな他人行儀なこと言わないで。ここは三浦さんの自宅だと思ってもらってかまいませんから。でも、やっぱり全身いれずみのソープレディーでは、三浦さんも迷惑かしら。近所の人は、みんな私の仕事やタトゥーのこと、知ってますから」
「世間の噂など、気にすることはありませんよ。全身にいれずみがあろうが、ソープレディーをやっていようが、美奈さんは美奈さんです。僕は美奈さんが、本当は優しい心を持った、すばらしい女性であることを知っていますから」
 三浦は美奈から出されたコーヒーをすすった。美奈も一緒にコーヒーカップを手にしていたが、三浦の言葉に、つい目頭が熱くなってしまった。
「美奈さんが淹れてくれたコーヒーは、うまいですね。署で飲むインスタントとは大違いです」 と三浦はまず美奈のコーヒーを褒めた。
「ただ、タトゥーはもう消せないので、僕も美奈さんの全身のタトゥーを受け入れますが、できれば、ソープの仕事だけは辞めてほしいなと考えています。以前、『鳳凰殺人事件』で、北村先生の作品と徳山久美の事件のことを聞いたとき、何となく北村先生は美奈さんのお客さんなのだな、と感じましたが、昨日、はっきりそう聞いたとき、僕もやはり穏やかではいられませんでしたから」
 三浦にそう言われると、美奈としても返す言葉がなかった。
 オアシスでは、貴重な戦力であったミドリとルミが退職し、残ったケイとミクにかかる期待は大きかった。最近オアシスに若い娘(こ)たちが入店し、新陳代謝が活発になっている。入れ替わりが激しい業界では、二年以上勤務しているミクは、もう古株ともいえる。新しい人材が次々と入り、ミクもいつまでもナンバーワンという名にあぐらをかいていられなかった。もちろんミクはあぐらなどかいているのではなく、客の接待には真心を尽くし、仕事に努力を惜しまないでいる。
「ごめんなさい。私もそう思って、最近、いろいろ会社の面接を受けたのですが、やっぱりタトゥーのことを言うと、すべて断られてしまいまして。よほどばれるまでは隠していようと思ったのですが、これだけ大きく彫っていると、黙って入社するのは気が引けますし。健康診断なんかで、すぐばれますからね。何とかタトゥーを受け入れてくれる勤め先を見つけられないかな、と思っているのですが、今のところ、全くだめです。いくら覚悟の上で入れたとはいえ、やっぱり厳しいです」
美奈は少し前まで、公休日にはハローワークなどに行って、仕事を探していたことを三浦に打ち明けた。
仕事を探しているのは、姉の真美が、美奈がソープランドに勤めていることにあまりいい感情を抱いていないので、姉への手前を繕うためもあった。それが仕事を探しているうちに、タトゥーを容認してくれる、いい仕事が見つかれば、実際に勤めてもいいと思うようになった。もし美奈を採用してくれる会社があれば、オアシスを辞めるのではなく、土日祝日や平日の夜七時以降はオアシスに勤めるという、両刀遣いでいくつもりだ。少し身体はきついが、以前マルニシ商会というOA機器や文具の販売会社に勤めていたときは、そうしていた。美奈としては、タトゥーがあっても、一般の会社で雇ってもらえるかを知りたいという気持ちもあった。
 ただ、今はコンパニオンとして高収入があるので、是が非でも職を得なければというような、切羽詰まったものではなかった。
ハローワークの受付の女性に、あとで会って話をしませんかと誘われ、喫茶店で待ち合わせたことがあった。就職に関して何かいい情報を持ってきてくれるのかなと期待していたら、妙法心霊会という宗教団体への入信の誘いだった。その教団の春日井道場は、ハローワークの近くにある。その人には、タトゥーがあることを受付のときに打ち明けていた。最初は世間話や、 「タトゥーがあると、やはり就職は難しいようですね。でも大丈夫。きっといい仕事が見つかりますよ」 などと、ハローワークの業務に関係しそうなことを話した。しかしそのあと、 「私はぜひとも木原さんに幸せになってもらいたいから、思い切ってお話しすることにしました」 と本来の目的を切り出した。そして教団の素晴らしさを長々と聞かされた。
「あなたもぜひとも絶大な力を持つ御守護霊をいただき、幸せをつかんでください。必ずいい仕事が見つかります」
 彼女は熱心に美奈を勧誘した。
「私、もう素晴らしい守護霊がいるので、その件でしたら、大丈夫です」
 美奈はやんわりと断った。
「もう心霊会に入信しているのですか? それならそうと、早く言ってくださいよ。どこの支部、法座会に所属しているのですか?」
 その女性は、こんなに延々と説明させておいて、と恨めしげに言った。そうはいっても、ほとんど美奈が口を挟む間がないほどに、彼女一人で教団、守護霊のことをしゃべりまくっていたのだが。
「いいえ、そうじゃないですが、私には千尋さん、多恵子さんという素晴らしい守護霊様が二人もいらっしゃるのです。だから、もう守護霊をいただく必要はないのです」
 美奈が重ねて断ると、その女性は 「そんないい加減な守護霊ではだめです。おかしな憑依霊を信じると、罰(ばち)が当たって、大変なことになりますよ」 と語気鋭く迫ってきた。美奈としてはあまりことを荒立てるつもりはなかったので、下手(したて)に対応したが、千尋や多恵子のことを 「おかしな憑依霊」 と言われ、内心おもしろくなかった。
「罰が当たってどうなっても知りませんからね。いれずみのように、自分の意志で身体を傷つけることは、魂を傷つけることと同じで、仏罰(ぶつばち)によって、死んでから無間(むげん)地獄に堕ちますよ」
結局相手は憤慨し、自分の分のコーヒー代をテーブルの上に置いて、その場から立ち去った。入信を拒まれて、手のひらを返すように態度を変化させたその女性に、美奈はあきれてしまった。その後、美奈はもうハローワークには行かなかった。
千尋は 「心霊会の守護霊は、まだ十分浄化されていない低級霊が多いようです。さっきの女性の守護霊というのは、彼女の先祖霊ですが、まだ彼女を守護できるだけの力を持っていませんでした。それを知らずに、教団に一生懸命奉仕や金銭の供養をしている彼女も、導かれて入信する人も気の毒です。タトゥーをすると魂を傷つけるというのも、間違いです。肉体はあくまで魂の入れ物でしかありません。それより、魂に悪想念をこびりつかせることのほうが、はるかに大きな罪悪です。美奈さんは将来、ぜひとも作品の中で、霊界の真実などを紹介してください。私も正しい霊界の真相を美奈さんに教えますから」 と美奈に語りかけた。
 美奈はそんなハローワークでの出来事も三浦に話した。
「そうですか。やはり大きなタトゥーがあると、就職も厳しいのですね」
 最近、タトゥーを入れているタレント等も増えてきたとはいえ、一般にはまだタトゥーが受け入れられていないことを、いやが上にも感じずにはいられなかった。憧れのスターが入れているからといって、同じように軽い気持ちでタトゥーを入れてしまった女の子が、後々彫ったことを後悔する、ということも多い。
 かくいう三浦自身も、大きなタトゥーを入れた女性と結婚を前提として付き合っていることが上層部に知られれば、刑事としての将来に大きな支障が出るだろう。けれども、三浦はそれでもよいと思っている。
「たとえなかなか就職先が見つからなくても、僕が美奈さんの生活を支えてあげますよ。これからの人生、共にしませんか? 美奈さんさえいやでなければの話ですが。もちろん刑事の安月給では、今の美奈さんの収入の半分にもなりませんけど」
 三浦は照れながら思い切ったことを言った。美奈はプロポーズともとれるこの三浦の言葉が、最初は信じられなかった。それが空耳でも聞き違いでもなく、現実に三浦の口から発せられた言葉なのだと理解できると、美奈は天にも昇るように嬉しかった。
「いやだなんて……。嬉しい。でも、本当に私なんかでいいんですか?」
「もちろんです。その場の雰囲気で口から出た言葉なんかじゃ、決してありません。昨日、美奈さんから電話があってから、ずっと考えていたことなんです。いくら仕事とはいえ、美奈さんをいつまでも今の状態にしておいてはいけないと。もちろん美奈さんの都合もあるでしょうから、今すぐ仕事を辞めるというわけにはいかないでしょうが。でも、ある程度の区切りがついたら、今の仕事を辞めてもらいたい。そして、一緒になってほしいんです」
「私みたいな女と一緒になると、警察でまずいんじゃないですか?」
「僕は警察幹部になるより、鳥居さんのように、一生ヒラの刑事で、事件を追い回すほうが性に合っていますから、上の忠告など、聞くつもりはありません。事件で疲れ、傷ついたときには、いつも美奈さんにそばにいてほしい。最悪の場合は、仕事を変わってもいいと考えています」
 ヒラの刑事といっても、鳥居は正確にいえば階級は巡査部長で、刑事としては部長刑事である。だから若い刑事たちから、 「デカ長さん」 と呼ばれることもある。鳥居は現場畑で徹底的に鍛え上げられており、今さら昇進試験を受けて、警部補、警部に昇進しようという気持ちはなかった。三浦は巡査長だ。
「嬉しい。私、俊文さんのこと、心から愛してます」
 美奈は三浦さんではなく、俊文さんと呼んで、三浦の胸の中に飛び込んだ。三浦は美奈の身体と心をしっかり受け止めた。美奈は三浦の胸の中で、しばらく泣いていた。そして、幸福感に酔いしれていた。
「ただ、お店を辞めるのは、もう少し待ってください。葵さんとさくらさんが辞めてまだ三ヶ月なので、あとしばらく続けていたいんです。店長さんから期待されていますから。別にそんな義務はないんですが、もう少し店長さんの気持ちに報いたいんです」
「美奈さんは義理堅いんですね。そこがいいところでもあるんですが。ところで美奈さん、作家目指して作品書いているのですね。あれから進みましたか?」
三浦は話題を美奈が書いているミステリーのことに移した。
「はい、あと少しで完成です。事件の謎に迫るクライマックスで、四〇〇字詰め原稿用紙に換算して、五〇〇枚を超えました。北村先生が完成したら見せてくれ、と言われるんですが、やっぱり私の拙(つたな)い作品をプロの先生に見せるのはちょっと気後れします」
「五〇〇枚か。すごい大作ですね。でも、北村先生の推薦を得られれば、デビューできるかもしれませんよ。僕が読ませてもらった分は、なかなかよくできてると思います」
「だけど、万一何かの拍子に、先生が私のお客さんだったなんて知られたら、またゴシップ週刊誌に何を書き立てられるかわかりませんし。先生には迷惑かけられません」
 二人はしばらく美奈の作品の話などをしていた。警察でのやりとりの描写などは、三浦のアドバイスを受けている。そうこうしているうちに夜明けが早い七月上旬の空は、東の方がわずかに青みがかってきた。三浦はざっとシャワーで汗を流して、少し眠ることにした。

美奈は葵とさくら、トヨに、近いうちにオアシスを辞めると三浦と約束したことをメールした。恵にはオアシスで会えるので、直接話すつもりだった。
 葵もさくらも美奈の知らせに驚いた。以前、美奈は繁藤に結婚をエサに一〇〇〇万円をだまし取られそうになったことがある。しかし今度はまじめな刑事である三浦が相手なので、繁藤のときのような、金目当ての詐欺である心配はなかった。ただ、刑事と全身いれずみのソープレディーで、うまくいくかどうかを心配した。
 日本国憲法第二十四条では、 「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」 とある。しかし警察官の場合は、結婚相手に対しての身元調査などがある。そしてふさわしくない相手ならば、上司などから忠告を受ける。これは実質的な制約ともいえる。もっとも国の最高法規である憲法の規定があるので、結婚自体を阻止されることはない。それでも警察という組織にそぐわない結婚を強行した場合は、以後の昇進などは絶望的となるかもしれない。
 それでもかまわないと三浦が断言してくれたと伝えると、葵もさくらも美奈のことを祝福してくれた。

オアシスでの仕事が終わり、美奈は 「今日は二人だけで話がしたいから」 と恵をなじみのファミレスに誘った。今日はアイリは公休日だった。
「三浦さんのことね」
 ファミレスに着いたら、恵が口火を切った。
「もう知ってるんですね」
「うん。葵さんからもさくらからも、電話をもらったから。あの二人に話せば、何でも筒抜けよ。私には会って直接話すつもりで、メールをくれなかったんだと思ってた」
「ごめんなさい。メグさんだけ報告遅くなっちゃって。今日会えるから、会って直接話すほうがいいと思って」
「気にすることないよ。やっぱりこういうことは、直接会って話したほうがいいもんね。でも、おめでとう。とうとう美奈の念願かなったのね」
「ただ、今の仕事、続けることができなくなって」
「そりゃあ当然でしょう。結婚してもこの仕事を続けることを許すような旦那なら、私がぶん殴ってやるわ。で、いつごろの予定?」
「まだ時期なんかは話し合っていないんです。私もあと少しだけこの仕事続けたいと思うから。せめて年内はやろうと思います。葵さんやさくらさんが辞めて、すぐに私まで辞めては、お店にも申し訳ないし。それにせっかく美貴(みき)(アイリ)さんや裕子(ゆうこ)(リサ)さんとも親しくなれたんだし」
「私たちのことより、彼氏のほうが大事だよ。私はもちろん、美貴や裕子だって、仕事辞めても、これからもずっと友達として付き合っていけるんだし。お店に対しても、美奈は十分尽くしているんで、そんな義理立てすることない。でも、三浦さんと結婚するのなら、絶対この仕事続けることは無理なんだから」
「それから、私、ずっと考えていたんだけど、三浦さんとはしばらく籍は入れないでおこうと思ってるんです」
「何で?」
「だって、私と正式な夫婦になれば、三浦さん、警察ではもう昇進の望みがなくなっちゃうんだし。私は内縁でもかまわない。彼の愛情さえしっかりつかんでいれば」
「その古風なところ、何となく美奈らしいわね。でも、そんな悠長なこと言ってたら、三浦さん、逃がしちゃうかもしれないよ」
「大丈夫です。私、彼のこと、信じてますから」
 以前、美奈は守護霊となった千尋から、将来必ず三浦とは幸せな家庭を築くことができるという予言をもらっている。ただ、紆余曲折も多々あるので、どんなことがあっても三浦を信じなさいとのことだった。やはり警察官である三浦と幸せな家庭を築くためには、いろいろな障害が待っているのだろう。しかしハッピーエンドが約束されているので、美奈はどんなことがあっても負けないぞ、と決意している。
「ああ、いいなあ。私も早くいい男(ひと)探さなくっちゃあ。この仕事、もう五年もやってるし。オアシスでは最古参の部類だもんね。やっぱり仕事と恋愛は別だから」
 恵はそう言いながらも、仕事も楽しんでいた。もちろん客の接待には、真剣に取り組んでいる。
 美奈は昨日の出来事を、北村弘樹のプライバシーに関わることを除いて、恵に話した。三浦も仕事とはいえ、美奈が他の男とベッドに入っていることに、穏やかならぬ気持ちを抱いていることを言うと、 「そりゃあ当然よ。そうじゃなかったらおかしいわ。三浦さんもそこまで言ってくれるなら、私のことなんか気にしないで、この仕事、辞めるべきよ。私は寂しいけど、やっぱり美奈のためだもん」と、恵は珍しく涙を流した。そんな親友の涙を見て、美奈は我慢できなくなり、泣き出した。
「ごめんなさい、メグさん。葵さん、さくらさんに続いて、私まで辞めちゃったら、メグさんひとりになっちゃう。だから私……」
「相変わらず優しいのね、美奈は。でも、私は大丈夫。今は美貴や裕子とも親しくなれたし。それ以外にも、たくさん友達がいるから。それより、美奈は三浦さんを大切にしなくちゃあ。美奈が辞めても、私たちはずっと親友よ。一生ね。葵さんも、さくらも。それに美貴も裕子も」
「メグさん、ありがとうございます。私、本当にすばらしい親友と出会えました。でも、私、もうしばらく、今年いっぱいぐらいはオアシスで働きます。三浦さんも待ってくれると言ってましたから。このこと、まだ美貴さんや裕子さんには内緒にしておいてください。美貴さんや裕子さんとも、私がオアシスにいるうちに、もっと友情を深めたいです」
「そうね。私だっていつまでもこの仕事、続けられないから。私もせいぜいあと二年、ってとこね。それまでに次の就職先を見つけなきゃ。永久就職ができれば、一番いいんだけど。将来オアシスの同期会作ろうよ。葵さん、さくら、美貴、裕子はもちろん、ほかにも誘って、賑やかにやろうよ。玲奈さんにも声をかけて。美奈と私が発起人ね」
「同期会、いいですね。ぜひ作りましょう」
二人は同期会のことで盛り上がった。そして、美奈の小説が今クライマックスで、間もなく完成する、ということを話した。
「オアシス辞めたら、今度は作家としてがんばってね。本が出たら、私もオアシスの従業員みんなに紹介するから。店長にオアシスの人数分買ってもらって、全員に配ってもらおうかな」
 恵はそう言って美奈を激励した。

           7

「おい、久美に続いて、山下まで殺されてしまったぞ」
「いったいこれはどういうことだ」
「ひょっとしたら、俺たちのことをかぎつけ、復讐しようとしているやつがいるんじゃないのか?」
「でも、久美を殺(や)ったやつは、もう捕まったんじゃなかったのか? 確か山岡とかいうやつだった。行きずりの殺しだったそうだが」
「もし警察が山下と俺たちの関係に気づくと、やばいことになるかもしれないぞ。今回の事件には俺たちは無関係でも、以前のことがある。久美の件は解決したようだが、もし久美とのことも気づかれると、さらにやばい」
「俺たちとの関係は知られないように隠してきたつもりだが、万一気づかれたらまずいな」
「まあ、そんなに簡単に山下との関係がわかることはないと思うが。しかし、こうして俺たちが集まっていることがわかるだけでもやばい。これからはなるべく電話やメールですませ、顔を合わさんようにしたほうがいいんじゃないのか?」
「携帯電話やメールだと、通信記録が残ってしまうんじゃないか?」
「単なる偶然ならいいが、もし俺たちが知らない敵がおり、一人ひとり復讐しているのなら、危険だ」
「でも、久美の件については、もう犯人は捕まっている。やはり、偶然が重なっただけじゃないのか」
「だが、ちょっと聞いた話では、北村何とかという小説家が書いた本に、俺たちの名前が出とるということが話題になっているそうだが、どういうことなんだ? そんな作家は全然知らんがや。だが、殺された山下は、そのことを気にして怯えとったぞ。あいつはけっこう本読むの好きだったからな。俺もあんまり山下が言うんで、ちょっと読んでみたが、そんなもん偶然だで、気にするなとは言っておいたんだけどな。しかしやっぱり俺たち四人のうち、三人の名前が出とるんで、ちょっと気持ち悪いがや」
「俺も小説なんか趣味じゃないから、あんまり読む気にはならんかったけどな。久美は推理物とか好きで、よく読んどったみたいだな。今朝聞いたニュースでは、その作家は事件には全く関係がなく、偶然の一致だということだ」
「その作家がどうのこうの、そんなもん、関係ない。もし犯人が俺を襲ったら、誰であろうと、逆に返り討ちにしたるぜ。この無敵の拳でよ」
「そうはやるな。相手の正体がわからんうちは、うかつに動かんほうがいい。とにかく、当分の間は十分注意しないとな。夜の一人歩きなどは、極力避けるようにしよう。もし何か情報がわかったら、また集まろう」