北アルプス各地の山小屋が営業の準備のため、そろそろ山へ向かう時期です。そんなニュースもあるので、笹本稜平著「春を背負って」を読みました。奥秩父の山小屋を舞台として、そこに集う人々の生き方や心の交流を描いた小説で、「春を背負って」、「花泥棒」、「野晒し」、「小屋仕舞い」、「疑似好天」、「荷揚げ日和」の6つの連作短編集です。前半の短編の方が、テンポのよさやサスペンスがあって、読み応えがありました。ハードバップを背負っている一人。
GRANT STEWART (グラント・スチュアート)
IN THE STILL OF THE NIGHT (Sharp Nine 2006年録音)
グラント・スチュアートは、1971年トロント生まれで、ニューヨークで活動しているテナー・サックス奏者ですが、リーダー作が多数あり、また来日も何度かしていて、日本で一定の人気があるのではないでしょうか。僕は、このアルバムの収録曲が気になって買ってみたのですが、企画がよく、曲順も飽きないように工夫されていて、1曲目の「In The Still Of The Night」から、最後まで一気に聴き通しました。
メンバーは、グラント・スチュワート(ts)、タ―ド・ハマー(p)、ピーター・ワシントン(b)、ジョー・ファンズワース(ds)。タ―ド・ハマーは、スチュワートとの共演が多く、気心が知れている相手です。ワシントンとファンズワースも、エリック・アレキサンダーとの共演など、ハードバップの演奏が多いので、うってつけのメンバーです。
曲は、スタンダードが主です。「In the Still of the Night」(夜の静けさに)、「Theme for Ernie」、「Wives and Lovers」、「Autumn in New York」(ニューヨークの秋)、「If Ever i Would Leave You」、セロニアス・モンク作「Work」、ビリー・ストレイホーン作「Lush Life」、「Loads of Love」の全8曲。「Loads of Love」は、あまり聞きませんが、リチャード・ロジャースの作品です。
現代ハードバップの佳作。スチュワートは、ソニー・ロリンズからの影響をいわれることが多く、トーンやフレーズにそんな感じもありますが、デクスター・ゴードンを思い浮かべるところもあります。スピードのある切れのいいフレーズは、スチュアート(ts)の持ち味だと思われ、アップテンポの「In The Still of The Night」では、そのへんがよく聴けます。「Wives and Lovers」では、スチュアートのテーマの吹き方が変化に富み、ハマー(p)もスインギーで魅力的。「Autumn in New York」や「Lush Life」といったバラードも味わい深い。
【笹本稜平著 「春を背負って」(文春文庫)】
この小説は、木村大作監督によって映画化されて、2014年6月に東宝系で公開されました。舞台を、原作の奥秩父から立山連峰に移しています。