海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

沖縄の地殻変動

2010-02-24 09:17:26 | 米軍・自衛隊・基地問題
 昨日23日付琉球新報の一面トップは、〈普天間移設 辺野古区が「陸上」反対 全会一致で特別決議〉という見出しの記事だった。〈政府内で浮上している名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ陸上案に対し、同区(大城康昌区長)は22日、普天間代替施設等対策特別委員会(古波蔵廣委員長、委員10人〉を開き、同案に反対し、同案に決定しないよう政府に要請することを全会一致で決めた〉という。〈近隣の豊原と久志も同調し、久辺3区の連名で25日に沖縄防衛局に要請文を手渡す〉とのことだ。
 辺野古区特別委員会の古波蔵委員長は、区の有力者として辺野古新基地建設を推進してきた中心人物だ。特別委を構成している区の行政委員の多くも推進する立場だった。日米両政府が辺野古現行計画を断念していない現在、名護市長選挙で負けたとはいえ、古波蔵氏らも現行計画をまだあきらめてはいないだろう。そういう意味では、この辺野古区のキャンプ・シュワブ陸上案に反対する特別決議も、現行計画実施を求める駆け引きが裏にないかどうか、注意してみておく必要がある。
 ただ、そうであっても、久辺3区がキャンプ・シュワブ陸上案反対の特別決議をあげること自体は意義がある。政府への要請文には〈「…国策として決定したとしても反対の実力行動も辞さない」〉という強い表現が含まれているという。稲嶺市長に続いて久辺3区も陸上案反対の意思を表明することで、民主党や国民新党には大きな圧力となるはずだ。

 2月21日付朝日新聞に載った〈沖縄、頭越し決着を警戒 普天間移設 政府、県内案に軸足〉という見出しの記事に、次のような首相官邸高官の声が記されている。

〈地元の意向が優先される見通しは今回もない。「地元との合意は最後の局面」(首相官邸高官)。すでに鳩山政権内では、まず米国の反応を見極め、それから連立政党や地元の合意ーーとの手順が語られ始めている。別の首相官邸高官は「どこに移設すると言っても受け入れ先は反対する。死ぬ気で反対してこない限り、地元の意向は反映されない」とさえ話す〉

 前衆議院議員の保坂展人氏が自らのブログでこの一節を紹介してから、普天間基地「移設」問題に関心を持っている人たちのブログでも話題になっている。〈死ぬ気で反対してこない限り、地元の意向は反映されない〉という発言は、高圧的かつ挑発的であり、保坂氏ならずとも一読してムッとする。
 ただ、この首相官邸高官の発言は、鳩山首相や政府にとってマイナスにしかならないだろう。このような扇情的発言は沖縄県民の感情をいたずらに刺激し、怒りと反発を生じさせるだけだ。首相官邸高官がそう言うなら、死ぬ気で反対してやろうじゃないか、という人だって出てくるだろう。
 仮に地元の意向を無視して政府が「県内移設」を強行し、工事に反対する住民を力尽くで排除しようとして、住民から死傷者が出たらどうなるか。普天間基地だけでなく、沖縄の米軍基地全体の撤去運動さえ起こりかねない。日米安保体制が根底から揺らぎ、工事を強行した政府の責任が問われ、民主党を中心とした政権は危機に瀕するはずだ。
 〈死ぬ気で…〉云々と発言した首相官邸高官は、そういう事態を引き受けるだけの腹をくくって発言しているのだろうか。そうではあるまい。「移設」問題がうまく進んでいないことへの苛立ちと焦りから、感情任せに言っているだけだろう。こういう発言をすることでこの首相官邸高官は、地元を説得する論理と方法を持たない自らの無能さを示しているのであり、沖縄に対する傲慢な姿勢と併せて、発言への責任が問われるべきだ。

 今日24日に「米軍普天間飛行場の早期閉鎖・返還と県内移設に反対し、国外・県外への移設を求める意見書案」が沖縄県議会本会議に議員提案され、自民党・公明党を含めて全会一致で決議される予定だ。当初は退場して決議に加わらない予定だった共産党が、一転して賛成に回ることになったのは、支持者からの強い批判があったのだろう。
 この全会一致決議を仲井真知事も無視できないはずだ。この期に及んでも仲井真知事が「県内移設反対」へ明確に転換しきれなければ、孤立を深めて沖縄のお荷物知事と呼ばれるだけだ(実態はとっくにそうなっているが)。
 沖縄では日に日に普天間基地の「県内移設」に反対する気運が高まっている。自民党や公明党も賛成して全会一致であげられる県議会決議の重みを、日米両政府は正確に受け止めなければならない。いつまでも沖縄に基地を集中させ、固定化できると考えるなら大きな間違いだ。
 この沖縄の地殻変動とでもいうべき動きは、たんに民主党を中心とした新政権が誕生したから起こったものではない。政権交代はきっかけにすぎない。1995年9月の事件以来続くうねりが底流にあり、この15年での沖縄、日本の社会状況の変化とそれがもたらした沖縄県民の意識の変化、東アジアの政治・経済・軍事状況の変化など多様な要因が複合することによってもたらされている。沖縄県内で基地をたらい回しするという、小手先細工ですまされる状況ではもはやないことを、日米両政府は認識すべきだ。
 

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