Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

055-その後

2012-11-28 22:16:43 | 伝承軌道上の恋の歌

 研究所の外ではすっかり日がくれていた。とにかく逃げなきゃ。タクシーを乗り継いでようやく見慣れた景色に巡り会うと息を切らして僕達はこじんまりとした神社の縁側に並んだ。僕やアキラの自宅ももはや安全とは言えない。途方に暮れて僕は白い息を吐いた。
「アキラ、トトは…?」
 僕は未だ意識の朦朧としたままのアノンを抱えて僕は言う。ウケイに鎮静剤のようなものを打たれたのかも知れない、アノンはまどろみつつ何度か少し意識を戻してはまたぱたと遠のくのを繰り返していた。
「それが何度も電話してるんだけど連絡取れないんだ」
 アキラは携帯の画面を見つめる。
「心配だな。トトには巻き込まれるような理由は何もないのに。しいていえば僕の知り合いってことくらいだが」
 嫌な予感がする。思えば少しでもトトを関わらせるようなことはさけるべきだった。
「…ん、うん…」
 アノンが再び。アノンが目を醒まそうとしてる。
「アノン…」
 僕が少しでも安心させようと額に手を触れて撫でていると、アノンは突然はアノンははっと目を見開いて意識を取り戻してみるみるうちに気を失う寸前の怯えきった表情になる。がたがたと震えだしそして僕に目一杯に抱きつく。無重力の中で身体を保とうと何かにすがるようにあらん限りの力で。
「…うっ…アノン…」
 女の子のものとは思えないあまりの力で息が詰まって苦しくなる。
「…あ、ああ」
 アノンの悲鳴は声にならない。両手で引き剥がそうとするが、硬直状態になってまるで動かない。
「…大丈夫。大丈夫だ」
 どうにか伸ばした手で彼女の背中をやさしくなでてやる。
「僕達は外に出られたんだ。助かった。だからもう大丈夫だ。怖いことは何もない」
 するとアノンはようやく力を抜いて、僕の顔をまるで初めて見た動物みたいに間近で見つめる。でも、それも続かずに今度は許しを乞う子供のように顔を歪めて
「ヨミ、ヨミ…」とかすれた声を喉から振り絞っている
‐ヨミを助けなきゃ
そう僕に伝えてる。
「ああ、分かってる。ヨミを救うんだ。だから安心しろ」
僕はアノンを抱きしめた。ヨミを救わないと…どうにかして彼女を救わないとアノンの命が必ず代償になる。アノンはそれを知って自ら犠牲になろうとした。でも、そうはさせない。なぜかは分からないけど、そうしなければヤエコの死も無駄になるようなそんな気がするんだ。
「アノンちゃん、大丈夫だから、ね?」そう言ってアキラもアノンの頭を撫でる。
「シルシ君、どこに行く?」
「そうだな…」
 しかし、どこに隠れる?僕のアパートはもう帰れない。
「とにかく今は逃げるんだ。できるだけ長く」
 『…一週間。一週間待つんだ』ウケイの言葉が重たい頭の中で頭痛を伴って響いてた。アキラも関わってしまった以上、その身に危険が及ばないとも限らない。それにこの界隈じゃ有名人のアノンを連れて歩きまわるのもまずい。かと言ってどこか遠くに身を隠してしまえばトトの無事を確かめることができなくなる。とにかく少し休めて考えられる時間が欲しい。
「アノン、立てるか?」
 アノンは軽く頷いて縁側から降りると、よろけながらもどうにかその場に立った。
「アキラが買って来てくれた服があるからアキラに手伝ってもらってくれ。僕もしばらく外すから…」
 アキラに目配せして、僕はアノンに背を向けると、不意に袖口が少し引っかかった。振り向くとそこに僕の袖口を片手で摘んでいたアノンがいた。
「アノン、どうした?」
『ウケイ』そうつぶやいている。
「ウケイ?ウケイ先生のところ…いや、しん…さつ、じょ?診察所…を知ってるのか?」
 僕が聞くとアノンがうなづいた。
「…しかし、危なくないのか?やつらに知られてる可能性だって…」
 やつら。僕はウケイ先生に習ってそう呼んだ。でも、アノンは僕を見上げ乞うような目で首を振ってる。
「分かった。とにかく行けばいいんだな…」

…つづき

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