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日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

私の視点 なぜ問わぬ小泉政権の戦争責任

2006-11-12 00:40:13 | Weblog
 ブッシュ政権の母体である共和党が対イラク戦争の失敗を問われて中間選挙で惨敗、上下両院で民主党に多数派の座を譲った。その政策の失敗の責任を取らされる形で、ブッシュ政権の「対テロ対策」の担い手であったラムズフェルド国防長官が、事実上の更迭に追い込まれた。

 私が言うまでもなく、アフガニスタンやイラクの戦争は泥沼化し、足を抜こうにも抜けない状態になってしまった。英語で言う「bog down」というやつである。内戦状態のイラクは言うまでもなくアフガニスタンでは大分前からお伝えしているように、多国籍軍は行き場を失い駐屯基地で身を潜めている状態だ。

 いよいよこれでブッシュ大統領は政治的にも絶体絶命の窮地に追い込まれようとしている。対イラク戦争を仕掛ける前の勢いはどこへやら、あの猿顔が情けなさも加わり、さらにアホ面に見えてくるのは、恐らく私だけの感じ方だけではなかろう。

 ラムズフェルド氏の更迭は、トカゲの尻尾きりの典型だ。何とか責任逃れをしようとするブッシュ大統領の悪あがきでしかない。あれだけの殺戮と破壊をしておいて、国防長官一人の首切りで済まされるはずがないのだが、彼の頭ではそこまでしか考えが及ばないのだ。

 だが、この戦争の責任は、アメリカ政府が取れば済むことではない。米軍と戦列を共にした国々にも責任がある。小泉政権も例外ではない。重大な責任を負わねばならぬ立場にある。ところが、責任論が湧き上る前に小泉氏、ちゃっかりと自衛隊を引き揚げて、何事もなかったかのように、ニコヤカに手を振って首相官邸から去っていった。その辺りは、「風の流れを読める」小泉氏とそうではないブッシュ氏の違いだ。

 そんな小泉氏を見て、戦争責任の追及の矢を放つ役割のマスコミは何をしたか。結論から言えば、何もしなかったといっても過言ではない。小泉氏の行く手をさえぎり、責任を追及する姿勢すら見せなかった。これが、一人でも自衛隊員に死者が出ていれば、「責任」「責任」と騒ぎ立てたに間違いない。

 確かに、犠牲者の有無は重大な問題だが、それによって問題の本質が変わるわけではない。その辺りをマスコミ関係者は誤解している節がある。

 だから小泉氏の巧みな演出に、論点をぼかされたマスコミは、「日中関係悪化の責任」「郵政改革の成果」「対北朝鮮政策の功罪」などといった角度から小泉政権の評価をしていた。「小泉外交」を包括的に、また長期的な視野に立ってきちんと分析する動きはついぞ日本のマスコミには見られなかった。それどころか、最後になっても衰えぬ人気を見て「小泉政権の人気の秘密」などといったばかげた論評をするものも少なくなかった。

 イラクに派遣した自衛隊が誰も殺さなかったから善しとするのか。自衛隊員に死者が出なかったから成功と言えるのか…日本のマスコミを見ていると、そんな皮肉の一つも言いたくなる。

 確かに、自衛隊員は現地住民を殺すことはなかったし、ゲリラの銃弾に斃れる者も出なかった。だが、我々報道する者が一番目を向けなければならないのは、占領軍として派遣された自衛隊員の安全とか活動内容ではないはずだ。イラクにたまたま生まれたというだけで軍事攻撃に晒され、生活権を侵害されるだけでなく、生きる権利さえ奪われている現地住民の現状に最大の関心を払うべきと私は考える。

 その辺りの視点がぶれているから報道機関は権力側の情報操作に踊らされ、論点のずれた報道をしてしまうのだ。

 イラク戦争は、自衛隊が無事帰って来たから「もう済んでしまったこと」ではない。現地では、今もまだ多くの人が傷つき、命を落としている。「テロ退治のための正義の戦争」と定義付けて進んで参戦した日本にも重い責任がある。もしイラクの住民たちが将来、国際法廷に戦争責任を問うことにでもなれば、被告席に小泉首相が連座させられることもあるのだ。もちろん国際法廷が開かれるまでには様々な条件が付くので、その可能性は少ないが、私の言いたいのは、日本にも重い戦争責任があるということだ。

 今からでも遅くはない。マスコミは、我が国を「誤った戦争」への参戦に導いた小泉政権の責任と原因を追及するために特別ティームを作ってきちんと総括作業をする必要がある。戦争を始めたアメリカであれほど「戦争否定」の意思表示がされ、責任の所在が取り沙汰されているのに、それに追随した日本ではイラク戦争は今や「歴史の一ページ」になってしまった。このままでは、日本にとって大きな転換点であったはずの「自衛隊派遣」が、まともな検証をされることなく幕引きされてしまう。それは、まさしく為政者であった小泉氏が最も喜ぶ形だ。

 イラク参戦を無事終えたことで、ニッポンは平和国家から国益のためなら軍事力行使も止むを得ないとする“普通の国家”になった。それも将来は核武装も視野に入れようというのだから、末恐ろしい。

 我が国を、戦争を体験した先達の多くが口にする、「いつか来た道」を暴走させないためにもここは一つマスコミに踏ん張ってもらいたい。いや、そうしてもらわなければ日本に明るい将来はない。