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フセイン元大統領に死刑判決

2006-11-06 10:48:49 | Weblog
 イラク高等法廷は5日、フセイン元イラク大統領に対して死刑判決を下した。

 罪状は、82年にあったシーア派村民148人の虐殺に関与したとするもので、他に3人の旧政権幹部も死刑判決を受けた。

 これで直ちに死刑が執行されるわけではなく、被告側が控訴院に刑への不服を訴えれば、控訴院の審査に結果をゆだねることになる。9人の裁判官からなる控訴院が判決に問題ありと判断すれば、判決の変更ないしは差し戻しとなる。

 ただし、イラクでは表面上は司法の独立が保たれているが、実際には米政府やイラク現政権の影響を強く受けており、控訴院が別の判断を下すとは考えにくい。

 フセイン元大統領は他にもう一件、「アンファール作戦」と呼ばれるクルド人虐殺事件でも起訴されているが、控訴院の判断次第では、そちらの結論が出ないままに刑が執行される可能性もある。

 イラク現政権幹部はほぼ全て、早期死刑執行を望んでいるとされており、このまま行けば来年にも執行されることになる。ただし、死刑執行は、スンニ派社会に多大な影響を与えることになり、ブッシュ政権もこの流れを止めようか止めまいか、大いに悩むことだろう。後は、国際社会の反応も関係してくる。多くの人権団体が裁判への国際的関与を訴えており、対イラク戦争への大義が疑われている現状では国際世論に影響を与えかねない。

 2つの虐殺を旧政権が行なったことは紛れもない事実だ。そこにフセイン元大統領を含む旧政権幹部が深く関わっていた可能性も高い。だが、旧政権を知る私とすれば、こういった作戦に独裁者であったフセイン元大統領が直接関わった、又は命令を下したとは考えにくい。

 独裁者とは、ムソリーニやヒトラーもそうであったが、そのような一つひとつの作戦などに直接関与するものではない。周辺の者が独裁者の意を察して手を下すのが常なのだ。気が利かぬ側近は、要職から外されるか、殺害される。それが、独裁政権の実態である。

 それは身近な例で、旧日本軍を考えてみれば分かりやすい。旧日本軍がアジア各地で行なった大虐殺や虐待などの蛮行に昭和天皇や東条英機が直接関与するシステムではなかった。

 「戦争裁判」において、旧政権の個別の作戦を取り上げるやり方は、そういった意味でとても無理がある。フセイン元大統領の行なった独裁政治に対する嫌悪感を持つことと、それを裁判という手法で裁くこととは意味が違うのだ。その辺りが整理されないまま報道されているから、日本のみならず欧米を加えた“国際世論”は、「邪魔者は早く始末しちまえ」となりがちだ。ここは一つ、冷静な目でこの問題を見直すべきだ。