麻生太郎首相の発言がまた論議をかもしている。
19日、全国都道府県知事会議で地方の医師不足への対応を問われると、麻生氏は、「自分で病院を経営しているから言うわけではないが、医者の確保は大変だ。(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い。うちで何百人扱っているからよく分かる」「正直これだけ(医師不足が)激しくなれば、責任はお宅ら、お医者さんの話ではないのか。お医者さんを『減らせ減らせ、多すぎだ』と言ったのはどなたでしたか」と述べたと伝えられている。
どうも、この御仁、お坊ちゃま癖が幾つになっても抜けないのだろう。言葉の意味を吟味したり、相手に与える影響を考えることなく発言するのが目立つ。
だが、今回の発言の裏には、日本医師会と自民党との長い歴史があることを忘れてはならない。
日本医師会は、自民党の集票マシーンとして、また強力なスポンサーとして支援する代わりに様々な面で優遇されてきた。いわば、持ちつ持たれつの関係できたのだ
避妊薬の使用禁止を含む優生保護法(現母体保護法)、医師の数など、医師会の圧力によって国民が悪影響を受けたものは少なくないと言われる。
医師の数については、既存の医師にとっては少なければ少ないほど「おいしい」から“お願い”という形で数の制限に圧力をかけ続けてきた。だから深刻な医療問題の責任の一端は医師会にあると麻生氏は言いたいのだろう。
選挙の度に各地の医師会は強い影響力を見せ付けてきた。当然のことながら長年、自民党は医師会に頭が上がらなかった。この流れは、かつての「医師会のドン」武見太郎(1904年-1983年)が築き上げたものだが、長年続いてきた。
ところが、両者の間に軋みが出始めると、一挙に関係が悪化した。そして今年7月、日本医師会は「社会保障費(年間2200億円)の削減」を巡って自民党と決裂、全国紙に福田総理(当時)を名指しで批判する意見広告を出して、事実上の訣別宣言を出している。民主党や国民新党への接近も現実のものとなっている。
そういう事情があるから麻生氏とすれば医療問題でマスコミに政府自民党ばかりが叩かれる現状に我慢がならず、「医師会よ、オレたちに責任の全部を押し付けるなよ」と本音が出てしまったのだろう。
これ一つを取ってみても分かるように、国民や消費者不在の政治が長く続けられてきたのだ。
オバーマ次期大統領ではないが、まさしく日本も今、「Time for change(変化の時)」を迎えている。