アニメ化記念、という訳でもありませんが。

「オレ達はただ積極的に係わろうとしないだけ……
顔を近づけてみる程　悪趣味じゃないって事だけで……
他人の悲惨さを見て……手を貸さないって所……
見殺しにしているって点では変わらない……一緒……
金を送れば救われる人間が　この世界中にそれこそ幾らでも溢れているというのに
オレ達は見て見ぬふり……決して金は送らない
結局自分の物欲や快楽に金を使っている……
つまり……とことん……知った事じゃないんだ
他人が幾ら飢えようが……死のうが……苦しもうが……
知った事じゃない……
連中はそこん所をはっきり自覚……開き直っている分
オレ達より正直かも知れぬ……そう……
９９．９％……人は人を救わない……
なぜなら……人は人を救わなくても……その心が痛まないから……！！」

　これは「賭博黙示録カイジ」から主人公カイジの独白の引用ですが、正鵠を射た言葉だと思っています。作者である福本伸行氏とは思想的に共感する部分が多く、私が最も好きな漫画家の一人です。

「言うまでもなくこの地上は苦しみのたうつ怨嗟の声に溢れておる
十人百人のうめきが……一人の豊かな生活を支え……
一人の豊かさがその十人・百人の希望だ……それがこの世の仕組み……
わしはその冷酷必然を認め　常に自らにいいきかせておる　ところが……
世の中にはそれではいかん助けなければ等と……言い出す輩もおって……
わしは実に……こういう連中が嫌いでの……
もし本気でそう思っておるのなら　さっさと金を送ればいいのだ
グズグズ言わずに……ピシピシ送るべしっ……！
が……なぜか奴らはそれをせんのだ
そっちに話が及ぶと突然ほおっかむり　曖昧な逃げ口上に徹する
わしは……そういうクズにならぬようにも戒めておる
つまり……わしは生涯人を助けぬ……と
そう……ハッキリ決めておる……！
無論……金はある……湯水のようにあるがわしは助けん……！
なぜだかわかるか……？
ククク……実にここ……ここが肝心……！
ここだ……っ！まさにここ……！
見ての通りだ……見ての通り……折れた足をいじられると彼は痛いが……
わしは痛まない……！
カイジくんも痛くはなかろう　ククク……
この一事だ……この一事だけが真実……！
ここをどこまで理解してるかで　人の成否は分かれる……！」

　といぅ兵藤会長の台詞にもあるように、人に限らず全ての生き物は他者を傷つけ殺し奪い喰らっても自身は痛みません。痛むような気がするというのは精神が脆弱で甘ったれであるからで、そんなモノは幻痛に過ぎないと私は考えます。見知らぬ他人が飢えようと野垂れ死のうと当然の事ながら知ったことではありませんし、仮に近しい相手、たとえば友であろうとパートナーであろうと、痛みも喜びも当人のモノであり、直接的な私の痛みや喜びではありません。近しい相手が喜んだり悲しんだりすれば、その事実が私の理念と矜恃に基づいて心を動かすというだけの話であり、直接的に感情や思考を共有している訳では無いのです。
　さて、何故急にこんな話を持ち出したか、というとですね。これらの台詞の意味を改めて実感させられる出来事があったから、でして。
　先程我が愚弟が気味の悪いニヤケ顔で彷徨いていましたので理由を尋ねました所、なにやら抱き枕カバーを注文したらしいのです。ちなみに私の弟というのは今でも「職場に突然魔物が現れて、いけすかない同僚や上司が無駄な抵抗をして喰い殺されて行く中、突然自分の中に眠っていた神秘のパワーが目覚めて魔物を撃滅、大活躍！ついでに魔物を追ってきたエルフ耳の美少女に一方的に惚れられて異世界に旅立ち、そこでは自分は無条件に勇者様で救世主！」なんて事を結構本気で願い信じている生粋のダメ人間ですから、その抱き枕カバーなる物が真っ当な代物である道理も無く……「ナナエル　抱き枕」で検索してみると、その時の私の脱力感を推察して頂く事も出来るのではないかな、と。
　弟はコレを９セットも注文したらしぃです。自分で稼いだお金を何に使おうと勿論当人の自由であり、干渉するつもりはありません。が、とりあえず肘は入れておきました。他人が何をするも自由、そして私がそれにどう反応するかも自由。強いモノが勝ち敗者を喰らう……つまり、そういう事なのでしょう。