日本では中国や欧米に比べてゆるい規制しかしてないのに、新型コロナ感染症(COVID-19)の感染者、重症者、死亡者いづれも圧倒的に少ない。PCR検査数が少ないので、感染者数が見かけのものだというのは分かるが、それを考慮しても、いまのところ被害は予想外に小さい。
日本の最近での年間死亡者数は約130万人である。その原因の1位は悪性新生物(約37万人)、2位は心疾患(約20万)、そして3位は肺炎(約11万)である。肺炎の原因は様々であるが、多くは細菌あるいはウィルス感染によるものである。現時点でCOVID-19による肺炎の死者は825人である。今冬のインフルンザの激減や、年寄が病院に近づかなくなったことによる普通の肺炎患者の減少は、COVID-19による死者数を十分にトレードオフしていると思える。
山中伸哉京大教授は橋下徹氏との対談で、日本で感染者や死亡者の少ない現象の原因をファクターXと称している (文春オンライン、 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200520-00037919-bunshun-life)。これを究明することが、COVID-19の対策になる可能性があるそうだ。ファクターXについては、BCG説、体質説、衛生習慣説、対応政策説などがあるが、どれも説得力に欠けている。
最近、これにヒントを与えてくれる注目すべき論文が、分子生物科学のCell誌に投稿(査読中)されたので紹介する。
Alba Grifoni et al. (2020) Targets of T cell responses to SARS-CoV-2 coronavirus in humans with COVID-19 disease and unexposed individuals. Cell 11420, DOI (https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.015)
この論文は、風邪 (common cold)を引いたことのある人はCOVID-19に一度も罹患していなくても、血液中にSARS-CoV-2に対する免疫活性を持っていると報告している。サンプルとして2年以上前に普通タイプのコロナウィルスの風邪に罹った人の血液が用いられている。そのほぼ半数が、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を認識するCD4-T細胞を持っていたそうだ。これは、COVID-19において、どうして多くの人が軽症ですみ、一部の人が重症化するのかを説明するのに都合の良い仮説である。COVID-19で罹患してもウィルスに対する免疫ができないという考えを否定すると述べている。
もし、この著者らの仮説(風邪を引くと新型コロナウィルスに免疫を持つ)が正しければ、昔、流行した風邪のあるタイプのコロナウィルスによって日本人の多くがSARS-CoV-2に対する免疫を獲得している可能性がある。これがファクターXかもしれない。
(Mail on lineに論文の解説あり。https://www.dailymail.co.uk/news/article-8335169/People-suffered-COLD-past-protected-against-COVID-19.html)
追記1)(2020/05/26)
COVID-19でSARS-CoV-2に感染した人の多くは、まずIgG抗体が出来てIgM抗体の生成が少ない。普通は、まずIgM抗体ができてからIgG抗体ができるクラススイッチが起こるのに、そのようになっていない。児玉龍彦東大教授は、SARS-Xウィルス(仮定)が日本を含めた東アジア沿岸部に流行ったことがあり、その免疫が残っている可能性を主張している(https://www.youtube.com/watch?v=8crwEQN_DbA)。
追記2) (2020/06/22)
BCGは結核菌のみならず、様々な細菌、真菌、ウイルスに対して防御効果を付与することが以前から気付かれていた(オフターゲット効果)。
東京23区2~3月 必要な統計公表遅く、対策左右も」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59508030U0A520C2NN1000/
同様に、名古屋市では二月三月で百人超の超過死亡。
データが無ければ、存在しないことにできる。それが統計データで以て社会を把握することの危うさ。