alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

中枢性感作症候群(Central sensitization syndrome)

2015-05-26 | メモ

クリフォード・ウォルフの『ペイン』の論文
中枢性感作:診断と痛みの治療のための含蓄
Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain
Clifford J Woolf
Pain. 2011 Mar; 152(3 Suppl): S2–15.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3268359/ 

クリフォード・ウォルフが1983年の『ネーチャー』の論文で、「中枢性感作(Central sensitization)」について初めて指摘した(※1)。

※1:
Evidence for a central component of post-injury pain hypersensitivity.
Woolf CJ.
Nature. 1983 Dec 15-21;306(5944):686-8.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6656869/ 
http://www.nature.com/nature/journal/v306/n5944/abs/306686a0.html 

【臨床的に関連する疾患】
関節リウマチ:Rheumatoid arthritis (RA)

変形性関節症:Osteoarthritis (OA)

顎関節症:Temporomandibular disorders (TMD)

線維筋痛症:Fibromyalgia (FM)

雑多な筋骨格系疾患:Miscellaneous Musculoskeletal Disorders
肩インピンジメント症候群(shoulder impingement syndrome)や片側の上腕骨外側上顆炎(lateral epicondylalgia)など。

頭痛:Headache

神経因性疼痛:Neuropathic pain

複合性局所疼痛症候群Complex regional pain syndrome (CRPS)

手術後疼痛:Post-surgical pain

内臓過敏症候群: Visceral Pain Hypersensitivity Syndromes
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome)など。

これらは、いずれも鍼がむかしからよく使われてきた領域である。
まず、「中枢性感作(Central sensitization:セントラル・センシティゼーション)」は、1984年以降に出てきた新しい考え方で、重要であるが、概念がやや混乱して用いられている。

 現在は、fMRIを用いた研究で、得気した鍼が「ペイン・マトリックス(pain matrix)」 と呼ばれる領域や「デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network:DMN)」を変化させる可能性が言われている。
 特に、ハーバード大学のヴィタリー・ナパドウの手根管症候群の研究やキャスリーン・フイらの得気(深く刺して響かせた鍼)の研究が重要である。

  この分野では、2014年に以下の論文が発表されている。

ペンシルバニア大学のジョシュア・バウムルさんの論文
「真電気鍼と偽電気鍼における期待:信じれば、そんなことが起こるの?」
Expectancy in Real and Sham Electroacupuncture: Does Believing Make It So?
Joshua Bauml,et al.
J Natl Cancer Inst Monogr (2014) 2014 (50): 302-307.
http://jncimono.oxfordjournals.org/content/2014/50/302.full 

キャスリーン・フイは、「深く刺して得気した鍼」は脳のデフォルト・モード・ネットワークを活性化し、脳をリセットする作用を報告していますし、イギリスの研究者は「深く刺した得気した鍼」がペインマトリックスと呼ばれる海馬を含む部分を刺激して、「痛みの記憶・認知・情動」に働きかけるので、鍼は慢性痛やPTSDなどに効果的なのではないかという仮説を発表しています。

 さらに、最近の結果では、「浅い偽鍼」のほうが「深い得気した鍼」と比較して、高い効果を示したという研究が発表されました。しかも、ここでは、「患者の予測・期待」が大きな要素を占めていることが判明しました。同程度の「鍼への期待」を持っている患者では、「深く刺して得気した鍼」のほうが鎮痛作用は強いです。
 しかし、「鍼への大きな期待」をもっている患者の場合、「浅い鍼」のほうが、「深く得気した鍼」よりも、普通では説明できないぐらい劇的に鎮痛効果が高くなったのです。この結果は、日本の「ひびかさずに浅く刺した鍼」の効果をうまく説明できます。

 重要なのは「鍼への高い期待」をもった患者の場合、「浅く刺した無痛の鍼」が「深く刺した得気した鍼」よりも劇的に高い鎮痛効果をもたらすことです。それは現実の臨床で起こっているのです。逆に、「鍼への高い期待」をもっていなければ、「浅い鍼」は劇的な鎮痛効果を出せません。
 これは「鍼はプラセボか?」という問題を追及していって、最先端の部分で、発見された、きわめて奇妙な現実です。 「鍼はプラセボか?」という問いに、「イエス」か「ノー」かの二分法で答えられるヒトは、この問題をまったく理解できていないのです。 

以下、引用。
「そして、近年、メタ分析は、片頭痛への偽鍼が、片頭痛へのプラセボ経口薬よりも効果的であることを発見した。偽鍼への反応は、鍼はプラセボ効果以上のものでは無いのではないかという懐疑論を導いたにも関わらず、挿入しない鍼、または痛み刺激など異なるメカニズムの偽介入を考慮する可能性をかなり残している。」
Indeed, a recent meta-analysis found that SA was much more effective than sham oral pharmaceutical placebos for migraine prophylaxis . Although the response to SA has led skeptics to consider the acupuncture effect no more than placebo, it remains quite possible that the sham interventions being studied are non-inert or acting via a different mechanism .

「fMRIの研究で、コン(とテッド・カプチュク)は、期待を操作した健康人に痛みを誘発して、電気鍼と偽鍼を受ける実験をおこなった。この研究では、真鍼は、偽鍼よりも、痛みの情報処理をする部分で、はるかに大きな反応を引き起こした。面白いことに、電気鍼の鎮痛効果は、患者の『期待』によって増強されることが発見された」
In an functional magnetic resonance imaging study, Kong et al. applied an expectancy manipulation model to healthy volunteers receiving EA or SA for experimentally induced pain. The study found real acupuncture elicited a greater response in brain regions involved in pain processing than SA . Interestingly, they found that the analgesic effect of EA could be augmented by expectation.

「ハリスたちは、真鍼が、痛みの情報処理に関わる脳の特定領域(帯状回、尾状核、扁桃体)におけるミュー・オピオイド・レセプターを増加させることを発見した。そして、偽鍼が引き起こしたのは少しの減少だった。これらの発見は、真鍼と偽鍼の間に、異なるメカニズムがあることを示唆している」
Harris et al. found that real acupuncture increased mu-opioid receptor binding potentials in specific brain regions (cingulate cortex, caudate nuclei, and the amygdala) that are involved in pain processing, while SA may have caused a small decrease. These findings suggest divergent mechanisms underlying acupuncture and SA.

「高い期待をもった患者で見られる印象的な偽鍼の反応は、そのような患者は、『得気』や電気鍼なしでの、やさしい刺激の鍼からでも利益を得られるのではないか?という挑発的な疑問を引き起こさせる。そして、伝統鍼灸師は、異なるスタイルの鍼をおこなっている。例えば、日本の鍼や、中国の『毛刺』である。それらの鍼は、わずかな刺激さえ無しに極めて浅く挿入される。」
The impressive response seen in SA among patients with high expectancy raises the provocative question of whether such patients benefit from the gentle stimulation of needles without seeking “de qi” sensation or electrostimulation. Indeed, traditional acupuncture employs many different needling manipulation styles. For example, in Japanese acupuncture or “mao ci” technique in Chinese acupuncture, the needles are inserted superficially with little to no stimulation.

 


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