母が亡くなって、もう10年が過ぎた。
一人残った父は、母の衣類や持ち物を、きれいに整理して
全部残している。
でも、そろそろ処分しようか、と言うことになった。
衣装箱やタンスに、ぎっしり詰め込まれた衣類を見ると、
おしゃれだった母の衣装道楽ぶりが窺える。
大して高価な服はないが、面白い服が出て来た。
年老いてからは、体も小さくなり、既製服では袖も着丈も
長かったようで、
袖口や裾を折り返し、手縫いで手直しがしてあった。
首は、大きく開きすぎるのを嫌い、
襟ぐりにゴムを通していたり、付け襟がしてあったり、フリルが付けられていたりと工夫がされている。
人一倍寒がりだった母のズボンや服は、丁寧に裏打ちがされている。
ズボンには、下着のズボン下が裏から重ねて縫いつけられているし、
服は背中や肩に、別布の当て布がされている。
80歳前の母の、そのユニークな発想には感服する。
それらを1つ1つ広げては、懐かしがったり、可笑しがったり、
そして、これを着ていた姿を思っては涙してしまう。
「お母さん ごめんね。もう片付けるね」
心の中で謝りながら、ゴミ袋の中に詰めた。
プレゼントしたのは何時だったか、母にプレゼントしたコートが出て来た。
今、私が袖を通しても可笑しくない。
私もいつの間にか、これをプレゼントした時の母の年齢に近づいたという事なのか・・・・
和ダンスの中にも、着物が好きだった母の着物がたくさん残っている。
私の入学式や卒業式、参観日など、大事な行事の日には、
いつも着物姿だった。
それは、いつも粗末な服の母が一変して、子供の目にもきれいな母に
なったようで嬉しかった。
この着物は、そんな思い出と一緒にリフォームしたい。
私のこの先の、大きな目標が出来た。