田舎の倉庫

Plala Broach から移植しました。

純水~吉田修一著「パーク・ライフ」

2011年10月24日 | 読書三昧

以前読んだ「悪人」が面白かったので、芥川賞(127回)受賞作という同氏の作品を読む気になりました。何か無味無臭の純水を飲んでいるような妙な小説でした。

物語~日比谷公園が生活のアクセントになっている若いサラリーマンの主人公が、停車した電車の社内から見た「死んでからも生き続けるものがあります。それはあなたの意志です」という日本臓器移植ネットワークの広告を見て、「あれって、ゾッとしませんか?」と、うしろに立つ女性に話しかけてしまったことから物語ははじまるのだが・・・

主人公の何気ない日常と、時々に訪れる公園で出会う人々との淡い交流を描いているのですが、文字も文章も洗練されているためか、最後までサラッと読まされてしまいました。

従って、本書によって何か人生の教訓のようなものを得られるはずもなく、単に、現代を生きる若い世代の混沌とした日常と気分を映した私小説と言ってよいでしょう。ご参考までに、同賞選考委員の代表的な評価を関連HPから転載します。

高樹のぶ子氏~「無理がない。意図的に力を加えたり主張したり整えたりする作意が見えない。」「人間を見る目が随所で鋭く光り、たった一行で、さりげなく決定的なインパクトを読者に与える。」「それにしてもこの透明な気配はどこから来るのかと考え、若い主人公の周辺に性の煙霧が無いせいだと気付いた。性欲が無ければ、遠近のバランスや歪みや濃淡が消えて、文学はかくも見晴らしが良くなるのだ。」