田舎の倉庫

Plala Broach から移植しました。

本をつんだ小船

2008年02月26日 | 読書三昧

2月26日

今日もニセコは、吹雪模様です。
気温はすこし高くなって寒くはありませんが、立春を過ぎても、尚、
毎日雪が降り続くと、少々滅入ってしまいます。

宮本輝氏に「本をつんだ小船」という著作があります。
同氏が青春時代(14-18歳)に読み、共に生きた32冊の名作を紹介した
エッセイ集です。

ここには、

 ・ジョセフ・コンラッド 「青春」
 ・ファーブル 「昆虫記」
 ・宇野千代 「おはん」
 ・水上勉 「飢餓海峡」
 ・チェーホフ 「恋について」
 ・カミュ 「異邦人」
 ・井上靖 「あすなろ物語」
 ・ドストエフスキー 「貧しき人々」
 ・老舎 「茶館」
 ・泉鏡花 「高野聖」
 ・ドルトン・トランボ 「ジョニーは戦場へ行った」
 ・中野重治 「雨の降る品川駅」
 ・フォースター 「インドヘの道」
 ・ツルゲーネフ 「はつ恋」
 ・深沢七郎 「檜山節考」
 ・ゴーゴリ 「外套」
 ・樋口一葉 「にごりえ」
 ・北杜夫 「どくとるマンボウ航海記」
 ・サマセット・モーム 「雨」
 ・島崎藤村 「夜明け前」

などの名作が含まれています。

これらの名作を同氏は、苦しく暗い生活から逃げるように、ただやみく
もに読みふけったと記しています。後に、著名な作家となる同氏の青春
時代をほろにがい思い出と共に克明に記録する感動の記録でもあり
ます。

同氏は、この本のなかで、

 ”私は本を読むのが好きだった。勉強も嫌い、スポーツも嫌い。兄妹も
 なく、友だちもあまりいない。父は借金取りから逃げて家に帰ってこ
 ない。母は希望を喪って昼間から酒にびたり、目を離すと市電のレー
 ルの上を歩いていたりする。当時は、そんな生活だったのである。

 そんな私という小舟には、古今東西の本が積まれていた。私は何も持
 ていなかったが、読みたい本がたくさんあった。それらは、図書館で
 借りたり、少ない小遣いをためて古本屋で買ったりしたのだった。

 私は、いかなる本を読んで、よるべない時代をすごしたのだろう。
 それを書き留めておくことも悪くはない。それで、いわば少年時代の
 読書録なるものに私は〈本をつんだ小舟〉と題して、そのときどきの
 自分にまつわる光景とともに、幾つかの小説のことを書きしるすこと
 にしよう。”

と述べ、このエッセイを編む目的を記しています。

同じような青春時代、自分はいったいどのような本を読んでいたのかと
今振り返ってみると、何も思い出せないのは恥ずかしいかぎりです。
人生で最も多感だった時代に、思い出に残るような名作を何ひとつ読ん
でいなかったことに愕然とさせられます。

一方、同氏は、「木曽路はすべて山の中である。・・・」の名文で始まる
「夜明け前」を手にしたときのエピソードにも触れています。

 ”しかし、私は、読んでも読んでも、少しも先に進んでいるようには思
 えない膨大な量の長編小説に辟易し、高校を卒業するまで3度挑戦し
 たが、そのたびに挫折した”と。

私たちも同様の経験をたびたびしていますが、著名な作家になるような
人でさえ、いわゆる名作と言われる長編の読了には、それなりに苦労し
ていることを知り、親近感を持った次第です。

小生も、「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」「源氏物語」「夜明け前」など
で同様の経験をしているので、これにめげず再挑戦したいと考えて
います。