安倍政権の誕生以来、改憲論議が高まっているが、改憲を容易にしたい思惑から、先ずは、改憲手続きを定めた96条を変えるという。つまり、改憲発議を現行の2/3から1/2と垣根を低くするのだ。
しかし、自民党など改憲派の真の狙いは、戦争放棄と軍隊の不保持をうたった第9条の改定にあるから、その点、彼らがどんな改憲案を示しているのか、私たちはこれを良く読んでみる必要がある。
さて、その改憲案だが、のっけから次のような記述にぶつかり驚く。
「改憲案第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。」
元首で象徴?という訳のわからない規定だが、本当に天皇を「元首」にするのかと問いたい。
現行憲法は、「主権在民」が基になっているわけだが、天皇を「元首」とした場合、主権在民との整合性はどうなるのか。「天皇は神聖にして犯すべからず」という戦前の憲法(大日本帝国憲法)にかぎりなく近づくことを恐れる。
続いて、第三条が追加され、国旗、国歌を規定するという。
「改憲案第三条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。」
その制定の経過や、それが先の戦争の象徴だったことを考えると、この規定を憲法に書き込むことにどれだけの国民が同意するだろうか。
ところで、改定の本丸、第9条を見てみよう。
改憲案第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
改憲案第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
「力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない」としつつ、国防軍を持つというのは論理矛盾ではないか。
それよりは、現憲法下で、「持つべきではないが、必要最小限の自衛隊の存在を認める」とした現在のあり方の方が理にかなっている。
過去の侵略戦争への真摯な反省を示していない勢力が、憲法を改定して「国防軍」を持つと言い出したら、かって日本の侵略により辛酸をなめた近隣諸国は黙ってはいまい。
戦後、平和憲法の下、長年かけて培ってきた世界における日本の信用は一挙に失墜するに違いない。そんな危険な道に踏み出して良いのか。
もうひとつ重要な問題がある。
自民党の改憲案では、現憲法第97条の下記の規定を「削除」するという。国民は納得するだろうか。
現憲法第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
改憲案には、他にも国民を縛る危険な条項が含まれている。この際私たちは、自民党の「改憲案」をよくよく読んでみようではないか。改憲案は、ここにあります。