特集陳列 佐竹本三十六歌仙絵
2006年9月5日~10月1日
東京国立博物館 本館特別1室
佐竹本三十六歌仙絵は、1月に出光美術館(記録)、小大君を再度、大和文華館で(記録)で拝見しました。今回は、小野小町が展示されるというので、いそいそと会いにいきました。
今回展示されていた佐竹本は、
重文 佐竹本三十六歌仙絵巻断簡(住吉明神) 1幅 松永安左エ門氏寄贈 A-10570
重文 佐竹本三十六歌仙絵巻断簡(小野小町) 1幅 個人蔵
重文 佐竹本三十六歌仙絵巻断簡(壬生忠峯) 1幅 原操氏寄贈 A-12054
右近番長壬生忠峯
右衛門府生 泉大将定国随身也
はるたつといふばかりにやみよしのの
やまもかすみてけさは見ゆらん
壬生忠峯は随身だったと気づきました。随身庭騎絵巻を観たときには、随身って誰と思いましたが、壬生忠峯も随身だったとは。
9/20-10/1の間は、
重文 佐竹本三十六歌仙絵巻断簡(藤原興風) 1幅 個人蔵
も展示されています。
住吉明神は、下巻の巻頭。人物像の前にやはり神様が冒頭ということらしい。拡大写真のパネルで解説してあったので、小野小町の裾の模様が青が剥落してしまったこととか、壬生忠峯の顔の辺りの描き方が似絵の技法とよくわかりました。(壬生忠峯)黒装束に緌(おいかけ)をつけた冠を被り武官らしいきりりとした面構えで彼方を見やっている。目鼻や眉、髭などを精細に書き込んで個性的な表情を作り出すのはまさに似絵の本領。とこと。
佐竹本三十六歌仙絵巻(模本) 1巻 中山養福模 江戸時代・19世紀 A-1602 2巻のうち巻下
が展示されていました。いままで余り摸本など注意して見ていなかったのですが、色調など江戸時代の頃はまだ残っていたのでしょうか、小野小町など比較すると、たしかに裾の模様が赤以外の青で藻草模様が入っています。赤ばかり目立つオリジナルの印象とは違い、摸本は本当に艶やかです。とはいえ、それほど色を想像したり、別の岩絵の具をもちいた訳ではないので、オリジナルと本当によく似通っています。鎌倉時代13世紀に、こんなに華麗な絵巻を作成していたのかと、侘びさびとは違う、艶やかな日本文化の伝統が伝わってきます。
佐竹本三十六歌仙絵巻の断簡は、御殿山にあった益田鈍翁の屋敷の中にあった書院・応挙館で行われた。応挙館の写真が展示されていました。
さて、佐竹本三十六歌仙絵を取り巻く、そのほかの歌仙絵です。五島美術館の「秋の優品展 絵画・墨跡と李朝の陶芸」で、いくつか歌仙絵をじっくりと拝見したので、すこし楽しめるようになりました(拙BLOG)。今回もすこし勉強のため、メモしてきました。
後鳥羽院本、業兼本、時代不同歌合絵はどちらにも展示されていますが、今回の展示の目玉は、稚拙な人物絵の光長本、彩色の綺麗で南朝の文芸史を知る上で貴重な宣房本でしょう。東北院職人歌合絵巻は、釈教三十六歌仙絵巻、いずれも筆致が確かで興味深いものです。女房三十六歌仙絵巻は、下絵ながら描線が美しいです。
五島美術館の現在開催している「秋の優品展 絵画・墨跡と李朝の陶芸」での歌仙絵は、単に美しさからいえば、時代不同歌絵合絵ですら、優品を選んで展示していたようで、東博の展示より楽しめるかも気がします。五島美術館では、9月26日から10月22日には、佐竹本三十六歌仙絵 清原元輔像も展示されます。
後鳥羽院本三十六歌仙絵巻断簡(藤原元真) 1幅 鎌倉時代・1紀 松永安左エ門氏寄贈 A-10587;書画双方を後鳥羽院と伝える歌仙絵だが、実際には鎌倉後期の制作になる。撰歌は佐竹本とは異なり、書風と歌仙の姿は軽妙。これは和歌観の変化、さらに歌仙絵自体が稀少品から賞玩対象に移り行く状況を示す。とのこと。
業兼本三十六歌仙絵巻断簡(源順) 1幅 鎌倉時代・13世紀 A-15;端正な歌仙の姿や書の配置に古様をとどめる一方、書画ともに簡素を進めて新風を吹き込んでいる。特に歌仙絵には似絵の速写的な趣が強い。新旧両様を巧みに摂取したその画面形式は、後の歌仙絵に好んで継承された。とのこと。
時代不同歌合絵
後鳥羽院の撰になる「時代不同歌合」は、古今の歌人百人の和歌各三首、計三百首からなる。「時代不同歌合絵」は、中世を通じてたびたび制作され、膨大な規模で遺品も多い。現在はその多くの断簡となっている。こういった「時代不同歌合絵」が佐竹本のようない歌仙絵の成立の契機になったという説がある。
時代不同歌合絵巻 1帖 鎌倉時代・14世紀 A-19;2巻の絵巻の上巻と推測される。 19.20,21番は、小町と正三位家隆。12,13,14は業平朝臣と後京極??、15,16.17は??と丹後、18,19,20は、伊勢と藤原清輔。(番号がおかしな気もします。)
時代不同歌合絵巻断簡(源重家) 1幅 鎌倉時代・14世紀 A-12; 一歌仙に一首のみをそえる彩色本。
時代不同歌合絵巻断簡(在原行平) 1幅 鎌倉時代・14世紀 A-10488 ;歌仙を墨のみで描き、その上方に和歌三首を墨書する。
光長本三十六歌仙絵巻断簡(藤原元真) 1幅 鎌倉時代・14世紀 A-14;絵を土佐光長(1185-90頃に活躍)とする極めからこの名が。和歌を二首が掲げることから二首本とも称し、4断簡が伝わる。親しみ易い歌仙の表情や一種稚拙な描写に妙味がある。歌仙の位署(経歴など)は、上畳本のそれを簡略化している。とのこと。本当に稚拙な表情の人物絵です。
俊成本時代不同歌合絵巻断簡(素性法師) 1幅 鎌倉時代・14世紀 A-11;書は筆者とされる法性寺流の藤原俊成(1114-1204)は、千載集の撰者も務めた。俊成本自体の成立は鎌倉後期とされる。繊細な描線は白描絵巻の伝統を感じさせる。とのこと。
為氏本三十六歌仙絵巻断簡(柿本人麻呂) 1幅 鎌倉時代・14世紀 A-12288;御子左為氏(みこひだりためうじ)(1222-1286)筆とする近世の鑑定からこの名がある。御子左家は平安末期以来の和歌の宗匠家。絵は古朴で穏やかな表現を特色とする。この人麻呂像は、藤原兼房(平安後期)の夢想像の系統。
宣房本三十六歌仙絵巻断簡(清原元輔) 1幅 鎌倉時代・14世紀 A-12346;書の筆者を万里小路宣房(までのこうじのぶふさ 1253-1336)と伝えるがその子息藤房(1291-1375)を筆者とみなす藤房本(後醍醐本とも)もあり、濃彩で位署が詳細など共通点が多く、共に南朝の文芸史を知る上で貴重である。とのこと。今回の(佐竹本を除く)歌仙絵の中で一番彩色が綺麗でした。
西行法師像 1幅 室町時代・16世紀 ベルナルト・V・A・レーリンク氏寄贈;遺品の少ない西行画像のひとつ。歌仙絵の伝統を引き継ぐ精緻な技法で描く。賛は伝 後小松天皇。とのこと。
柿本人麻呂像 1幅 鎌倉時代・13世紀 松永安左エ門氏寄贈 A-10580
三十六歌仙絵巻(模本) 烏丸光広 奥書本 1巻 狩野養信他模 江戸時代・天保11年(1840) A-1650
狩野養信による摸本で烏丸光広による奥書(寛永14年(1637)記)も写している。歌仙の歌や略歴、書風、絵姿などが後鳥羽院本と多く共通し、後鳥羽院系統の流行を偲ばせる貴重な作品。女房歌仙は華麗に描写され、中世の謹厳な原本を推測させる。
重文 東北院職人歌合絵巻 1巻 鎌倉時代・14世紀 A-1399; 職人歌合絵の最古の遺品。序文によると建保二年(1214)東北院の十三夜の念仏に集まった職人たち催した歌合せに基づくという。奥書に花園院(1297-1348)の所蔵品もあり、筆者も花園院自身とみなす説があり、北朝の文芸史を考える上でも貴重。
重文 釈教三十六歌仙絵巻 1巻 南北朝時代・14世紀 A-10486;類似三十六歌仙絵の一つ。勧修寺栄海の撰。他にも断簡が伝わるが、ここでは、達磨、聖徳太子、僧正菩提、行基を描く。筆勢を生かした描写。とのこと。
女房三十六歌仙絵巻(模本) 1巻 江戸時代・19世紀 A-6881; 類似三十六歌仙絵の一つ。この作品は装束の色目も細かく記入した粉本で、歌仙絵制作の実態を窺わせる。歌仙の姿や衣の文様などが土佐光起(1617-1691)筆「女房三十六歌仙画帖」(三井文庫)とほぼ一致する。とのこと。
(18日)
2006年9月5日~10月1日
東京国立博物館 本館特別1室
華麗な女房装束に、流れるような漆黒の髪が映える、優雅この上ない女人の後ろすがた。歌人としても名高い小野小町が、詩作にふける一瞬をとらえたこの作品は、佐竹本三十六歌仙絵の中でも白眉の1点といえましょう。
古来の名だたる歌人(歌仙)たちの和歌に、その絵姿を描き添える「歌仙絵」は、中世より連綿と制作されてきました。この佐竹本は、数ある歌仙絵のなかでもっとも古く、また優れた逸品として知られ、もと、秋田の佐竹侯爵家に伝来した由来からこの名で呼ばれています。この度の特集では、拡大写真のパネルも用いて、やまと絵の粋を凝らした佐竹本を細部までご覧頂き、書と画が織り成す歌仙絵の世界をご紹介します。
佐竹本三十六歌仙絵は、1月に出光美術館(記録)、小大君を再度、大和文華館で(記録)で拝見しました。今回は、小野小町が展示されるというので、いそいそと会いにいきました。
今回展示されていた佐竹本は、
右近番長壬生忠峯
右衛門府生 泉大将定国随身也
はるたつといふばかりにやみよしのの
やまもかすみてけさは見ゆらん
壬生忠峯は随身だったと気づきました。随身庭騎絵巻を観たときには、随身って誰と思いましたが、壬生忠峯も随身だったとは。
9/20-10/1の間は、
も展示されています。
住吉明神は、下巻の巻頭。人物像の前にやはり神様が冒頭ということらしい。拡大写真のパネルで解説してあったので、小野小町の裾の模様が青が剥落してしまったこととか、壬生忠峯の顔の辺りの描き方が似絵の技法とよくわかりました。(壬生忠峯)黒装束に緌(おいかけ)をつけた冠を被り武官らしいきりりとした面構えで彼方を見やっている。目鼻や眉、髭などを精細に書き込んで個性的な表情を作り出すのはまさに似絵の本領。とこと。
が展示されていました。いままで余り摸本など注意して見ていなかったのですが、色調など江戸時代の頃はまだ残っていたのでしょうか、小野小町など比較すると、たしかに裾の模様が赤以外の青で藻草模様が入っています。赤ばかり目立つオリジナルの印象とは違い、摸本は本当に艶やかです。とはいえ、それほど色を想像したり、別の岩絵の具をもちいた訳ではないので、オリジナルと本当によく似通っています。鎌倉時代13世紀に、こんなに華麗な絵巻を作成していたのかと、侘びさびとは違う、艶やかな日本文化の伝統が伝わってきます。
佐竹本三十六歌仙絵巻の断簡は、御殿山にあった益田鈍翁の屋敷の中にあった書院・応挙館で行われた。応挙館の写真が展示されていました。
さて、佐竹本三十六歌仙絵を取り巻く、そのほかの歌仙絵です。五島美術館の「秋の優品展 絵画・墨跡と李朝の陶芸」で、いくつか歌仙絵をじっくりと拝見したので、すこし楽しめるようになりました(拙BLOG)。今回もすこし勉強のため、メモしてきました。
後鳥羽院本、業兼本、時代不同歌合絵はどちらにも展示されていますが、今回の展示の目玉は、稚拙な人物絵の光長本、彩色の綺麗で南朝の文芸史を知る上で貴重な宣房本でしょう。東北院職人歌合絵巻は、釈教三十六歌仙絵巻、いずれも筆致が確かで興味深いものです。女房三十六歌仙絵巻は、下絵ながら描線が美しいです。
五島美術館の現在開催している「秋の優品展 絵画・墨跡と李朝の陶芸」での歌仙絵は、単に美しさからいえば、時代不同歌絵合絵ですら、優品を選んで展示していたようで、東博の展示より楽しめるかも気がします。五島美術館では、9月26日から10月22日には、佐竹本三十六歌仙絵 清原元輔像も展示されます。
時代不同歌合絵
後鳥羽院の撰になる「時代不同歌合」は、古今の歌人百人の和歌各三首、計三百首からなる。「時代不同歌合絵」は、中世を通じてたびたび制作され、膨大な規模で遺品も多い。現在はその多くの断簡となっている。こういった「時代不同歌合絵」が佐竹本のようない歌仙絵の成立の契機になったという説がある。
狩野養信による摸本で烏丸光広による奥書(寛永14年(1637)記)も写している。歌仙の歌や略歴、書風、絵姿などが後鳥羽院本と多く共通し、後鳥羽院系統の流行を偲ばせる貴重な作品。女房歌仙は華麗に描写され、中世の謹厳な原本を推測させる。
(18日)