(今日の写真は、厳冬の岩木山の頂上近く、ある岩稜の間から垣間見えた八甲田連山だ。ほぼ東に見える。本文を参考にしながら、この写真を見て貰えると、南北に走る脊梁山脈「衝立」という意味がよく解るかも知れない。
まさに神聖なる神々しい輝きではないか。それにしてもこの写真を撮った時は寒かった。私は時計型の気温形を、いつもヤッケの上腕に巻き付けているのだが、そのデジタル表示が氷点下34℃を指していた。鼻孔内にも「粘々(ネバネバ)」感があり、気温の低下は実感していたが、実際数値を見て、少なからず驚いたものだ。)
津軽の人たちは「岩木山に向かって手をあわせて祈る(拝む)」ことはあっても「八甲田山に向かって手をあわせて祈る(拝む)」ことはまずない。
これは大きな間違いであり、過ちである。八甲田山地が津軽地方に与えてくれる「恵み」とその仕組みを理解したならば、津軽の人たちは、自然に「岩木山に手をあわせてから、八甲田山に向かっても手を合わせる」ようになるだろう。特に、農業に勤しむ者たちにとっては、心情的なものとしての行為となるはずである。
■八甲田山にも手をあわせ、合掌しよう(2)■
(承前)
◆ 八甲田山地とは… ◆
■■ 太平洋側を進む台風の衝立効果 ■■
「衝立」「防風」効果を考える前に、「台風」についての概要を理解しておこう。今ここでは、凝結に伴って発生する熱を原動力する台風(注)の発生のメカニズムについては触れない。三陸沖などの太平洋岸沿いに進んでくる台風にだけ注目する。
一般に、台風は日本の南海上で発達し日本列島に接近・上陸すると衰える傾向にある。これは、南海上では海水温が高いが、日本列島に近づくと海水温が26度未満となり、台風の発達は収束傾向となるからである。
さらに、高緯度帯の寒気の影響を受けて台風の雲形も「渦巻き型」が崩れ、温帯低気圧の雲形へと変化するからである。さらに上陸すると山脈や地上の建物などによる摩擦によって台風はエネルギーを消費し、急速に勢力が衰えるようになる。ただし、「温帯低気圧」に変わってから、それ以上に発達するという例外もある。
台風は、8月が発生数では年間で一番多い月である。9月以降になると、南海上から放物線を描くように日本付近を通過するようになり、三陸沖などの太平洋岸沿いに進むものが多くなる。しかし、温帯低気圧に変わった後も、「位置エネルギー」等の原因によって再発達する場合もある。青森県が大きな打撃を受けた1991年9月の19号台風(別名:りんご台風)はこれである。
台風は巨大な空気の渦巻きで、地上付近では上から見て「反時計回り」に強い風が吹き込んでいる。そのため、「進行方向に向かって右の半円」では、「台風自身の風」と「台風を移動させる周りの風」が同じ方向に吹くために、風が強くなる。
逆に「左の半円」では「台風自身の風が逆になる」ので、右の半円に比べると風速が小さくなる。
また、台風接近の進路によって風向きの変化が異なる。ある地点の「西側」または「北側」を「台風の中心」が通過する場合、「東→南→西」と時計回りに変化する。ある地点の「東側」や「南側」を「台風の中心」が通過する場合は「東→北→西」と反時計回りに変化する。ただし、周りに山などがあると、必ずしも風向きがこのようにはっきりと変化するとは限らない。
「台風の中心」が八戸沖を進んでいる場合は、八戸側、つまり八甲田山の東側は、「進行方向に向かって左の半円」に位置するので、「進行方向に向かって右の半円」に位置する場所よりも風速は衰えている。
さらに、「台風の中心」が東側にあるのだから風向は、「東→北→西」と反時計回りに変化する。「東→北→西」という風向の変化を「八甲田山」を基準にしてとらえると、東からの風は「八甲田山」にぶつかり、風速全体を収斂させ、さらに、津軽地方に流れ込む「風量」を少なくする。西からの風に対しては、その逆の効果が考えられる。北からの風の場合は余り、この効果は期待出来ない。
これが、「八甲田山」の太平洋側を進む台風の衝立効果である。
(注):「凝結に伴って発生する熱を原動力」:
上昇流に伴って空気中の水蒸気は凝結し、熱(潜熱)を放出する。軽くなった空気は上昇して、併せて地上付近では周囲から湿った空気が中心に向かい上昇し、さらに熱を放出しエネルギーを与える。
「温帯低気圧」:
温暖な空気と寒冷な空気の接触等による有効位置エネルギーが変換されて、運動エネルギーとなり、それが「発達」するエネルギー源になっている。
■■青森市(浪岡地区を含む)ではなぜ降雪量が多いのか■■
「八甲田山」は夏泊半島の基部から、その山なみを起点としている。青森市の東には「東岳:684m」もある。私はこの山から「八甲田連山」が始まっているのだろうと考えている。
北から南に縦断している山脈が「八甲田連山」である。気候・気象的に大事なことは、この「北から南に縦断している」ことなのである。青森市は「八甲田山」の山麓に位置している。
青森市が周辺の藤崎町、板柳町、五所川原市、弘前市に比べると遙かに降雪量が多いことも、これに起因しているのだ。
冬、寒気を伴った北西の季節風が、日本海の湿った空気をたくさん集めて日本列島を「横断」して行く。そして、太平洋に出る頃には、すっかり「スリム」になり、寒気は同じだが季節風はカラカラに乾燥している。
それでは、「たくさん集めてきた日本海の湿った空気」はどこに置き忘れたのだろう。この「置き忘れたもの」が「雪・降雪」なのである。そのメカニズムはこうである。
「寒気を伴い、日本海の湿った空気をたくさん集めている北西の季節風」は「北から南に縦断している」八甲田山、つまり、「衝立」にぶつかる。そこでまず、重い湿った「雪」を青森や浪岡に降らせる。稜線を越えた雪は「稜線の東面」に吹き溜まる。残りは寒気と風だけである。
「南部地方」はゆえに、降雪は少なく、空風が強く冷たいのである。
『何だ、「八甲田山」はいい面だけかと思ったら「大雪の元凶」だったのか』など言ってはいけない。この積雪が「八甲田山」を昔から大切な「水甕」にしてきたのである。
まさに神聖なる神々しい輝きではないか。それにしてもこの写真を撮った時は寒かった。私は時計型の気温形を、いつもヤッケの上腕に巻き付けているのだが、そのデジタル表示が氷点下34℃を指していた。鼻孔内にも「粘々(ネバネバ)」感があり、気温の低下は実感していたが、実際数値を見て、少なからず驚いたものだ。)
津軽の人たちは「岩木山に向かって手をあわせて祈る(拝む)」ことはあっても「八甲田山に向かって手をあわせて祈る(拝む)」ことはまずない。
これは大きな間違いであり、過ちである。八甲田山地が津軽地方に与えてくれる「恵み」とその仕組みを理解したならば、津軽の人たちは、自然に「岩木山に手をあわせてから、八甲田山に向かっても手を合わせる」ようになるだろう。特に、農業に勤しむ者たちにとっては、心情的なものとしての行為となるはずである。
■八甲田山にも手をあわせ、合掌しよう(2)■
(承前)
◆ 八甲田山地とは… ◆
■■ 太平洋側を進む台風の衝立効果 ■■
「衝立」「防風」効果を考える前に、「台風」についての概要を理解しておこう。今ここでは、凝結に伴って発生する熱を原動力する台風(注)の発生のメカニズムについては触れない。三陸沖などの太平洋岸沿いに進んでくる台風にだけ注目する。
一般に、台風は日本の南海上で発達し日本列島に接近・上陸すると衰える傾向にある。これは、南海上では海水温が高いが、日本列島に近づくと海水温が26度未満となり、台風の発達は収束傾向となるからである。
さらに、高緯度帯の寒気の影響を受けて台風の雲形も「渦巻き型」が崩れ、温帯低気圧の雲形へと変化するからである。さらに上陸すると山脈や地上の建物などによる摩擦によって台風はエネルギーを消費し、急速に勢力が衰えるようになる。ただし、「温帯低気圧」に変わってから、それ以上に発達するという例外もある。
台風は、8月が発生数では年間で一番多い月である。9月以降になると、南海上から放物線を描くように日本付近を通過するようになり、三陸沖などの太平洋岸沿いに進むものが多くなる。しかし、温帯低気圧に変わった後も、「位置エネルギー」等の原因によって再発達する場合もある。青森県が大きな打撃を受けた1991年9月の19号台風(別名:りんご台風)はこれである。
台風は巨大な空気の渦巻きで、地上付近では上から見て「反時計回り」に強い風が吹き込んでいる。そのため、「進行方向に向かって右の半円」では、「台風自身の風」と「台風を移動させる周りの風」が同じ方向に吹くために、風が強くなる。
逆に「左の半円」では「台風自身の風が逆になる」ので、右の半円に比べると風速が小さくなる。
また、台風接近の進路によって風向きの変化が異なる。ある地点の「西側」または「北側」を「台風の中心」が通過する場合、「東→南→西」と時計回りに変化する。ある地点の「東側」や「南側」を「台風の中心」が通過する場合は「東→北→西」と反時計回りに変化する。ただし、周りに山などがあると、必ずしも風向きがこのようにはっきりと変化するとは限らない。
「台風の中心」が八戸沖を進んでいる場合は、八戸側、つまり八甲田山の東側は、「進行方向に向かって左の半円」に位置するので、「進行方向に向かって右の半円」に位置する場所よりも風速は衰えている。
さらに、「台風の中心」が東側にあるのだから風向は、「東→北→西」と反時計回りに変化する。「東→北→西」という風向の変化を「八甲田山」を基準にしてとらえると、東からの風は「八甲田山」にぶつかり、風速全体を収斂させ、さらに、津軽地方に流れ込む「風量」を少なくする。西からの風に対しては、その逆の効果が考えられる。北からの風の場合は余り、この効果は期待出来ない。
これが、「八甲田山」の太平洋側を進む台風の衝立効果である。
(注):「凝結に伴って発生する熱を原動力」:
上昇流に伴って空気中の水蒸気は凝結し、熱(潜熱)を放出する。軽くなった空気は上昇して、併せて地上付近では周囲から湿った空気が中心に向かい上昇し、さらに熱を放出しエネルギーを与える。
「温帯低気圧」:
温暖な空気と寒冷な空気の接触等による有効位置エネルギーが変換されて、運動エネルギーとなり、それが「発達」するエネルギー源になっている。
■■青森市(浪岡地区を含む)ではなぜ降雪量が多いのか■■
「八甲田山」は夏泊半島の基部から、その山なみを起点としている。青森市の東には「東岳:684m」もある。私はこの山から「八甲田連山」が始まっているのだろうと考えている。
北から南に縦断している山脈が「八甲田連山」である。気候・気象的に大事なことは、この「北から南に縦断している」ことなのである。青森市は「八甲田山」の山麓に位置している。
青森市が周辺の藤崎町、板柳町、五所川原市、弘前市に比べると遙かに降雪量が多いことも、これに起因しているのだ。
冬、寒気を伴った北西の季節風が、日本海の湿った空気をたくさん集めて日本列島を「横断」して行く。そして、太平洋に出る頃には、すっかり「スリム」になり、寒気は同じだが季節風はカラカラに乾燥している。
それでは、「たくさん集めてきた日本海の湿った空気」はどこに置き忘れたのだろう。この「置き忘れたもの」が「雪・降雪」なのである。そのメカニズムはこうである。
「寒気を伴い、日本海の湿った空気をたくさん集めている北西の季節風」は「北から南に縦断している」八甲田山、つまり、「衝立」にぶつかる。そこでまず、重い湿った「雪」を青森や浪岡に降らせる。稜線を越えた雪は「稜線の東面」に吹き溜まる。残りは寒気と風だけである。
「南部地方」はゆえに、降雪は少なく、空風が強く冷たいのである。
『何だ、「八甲田山」はいい面だけかと思ったら「大雪の元凶」だったのか』など言ってはいけない。この積雪が「八甲田山」を昔から大切な「水甕」にしてきたのである。