たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

2011年『フェルメールからのラブレター展』_「手紙を読む青衣の女」

2019年04月30日 23時42分52秒 | 美術館めぐり
ヨハネス・フェルメール
《手紙を読む青衣の女》
1663-64年頃、油彩、カンヴァス、46.6 × 39.1cm
アムステルダム国立美術館

「フェルメールは、1660年代初頭から半ばまでの円熟期には、部屋の片隅に立つ女性をモティーフとした作品群を制作した。部屋は、左上からさし込む光にあふれている。様々な日常的な営みが描かれるが、どれもが構図の均衡、色調と色彩の調和、詩的な慎みを示した傑作である。家庭の親密さをほのめかし、女性の私生活を彷彿とさせる作品群。どの女性も落ち着いて穏やかだが、内なる感情に満たされた忘我の瞬間にいるようだ。《手紙を読む青衣の女》では、丈の短い青の上着を着た女性がテーブルのかたわらで手紙を読んでいる。その後ろ、奥の壁には大きな地図が掛かっている。手紙の主題-手紙を読む、書く、受け取る、送る、口述する-は、オランダで手紙のやり取りが急増した時期に創案され、普及し、風俗画の中の一つの大きなジャンルとなった。現代のEメールの流行に似ている。

 だが、手紙を読む女性像の中で、この作品のように、うっとりするくらいに美しく忘れがたいものはほとんどない。手紙の内容を知るすべはないが、背景から輪郭の浮かび上がる彼女の姿勢、特に手紙をしっかりと握りしめた両手、伏目の眼差し、開いた唇は、彼女が完全な没頭状態にあることを示す。テーブル上の真珠の首飾りのかたわらに見える2枚目の手紙は、おそらくは、旅行中の人物からの長い信書であろうことは、奥の壁の地図によって暗示されている。それは《士官と笑う娘》や他のフェルメール作品に描き込まれた地図と同じもので、バルタザール・フローリスゾーン・ファン・ベルケンローイェが制作し、ウィレム・ヤンスゾーン・ブラウが出版したいわゆる1620年のホラント州と西フリースラント州の地図である。とはいえ、フェルメールは作品の構図に合わせて常に地図の大きさを調整している。ここでは、女性は構図のちょうど中央に立つ。赤外線写真から細部の慎重な修正が確認できるが、フェルメールは、完璧に均衡のとれた構図を生み出すために、地図の幅を引き伸ばし、さし込む光を控えめにし、女性の上着の毛皮飾りを取り除いたようだ。女性の上着と椅子のクッションの青色は、画中の至るところで輝く光が帯びる青みで補われている。」

(2008年『フェルメール展-光の天才画家とデルフトの巨匠たち-』公式カタログより)


「フェルメールの青には、きわめて高価なラピスラズリという貴石からつくられるウルトラマリン・ブルーが使われている。伝統的に天上的なもの、聖なるものを表すために使われてきた顔料、画家はふつうの人々を描くために惜しみなく用いた。本作でも、妊婦を包む上着と椅子に用いられ、さらには背後の壁にもうっすらと青が引かれている。背景の地図とその前に立つ女性の頭部が同系色で描かれているため、それら青い色彩がひときわ際立つ。そのため、ありふれた光景のなかに静謐な光と精神性が満ち、手紙を読む女性の姿が、神の恩寵を受けた聖母の姿にも見えてくる。」

(『小学館ウィークリー西洋絵画の巨匠フェルメール』より)

週刊 西洋絵画の巨匠 4 フェルメール (小学館ウイークリーブック) [分冊百科]
小学館
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「手紙からを読む青衣の女」は2010年-11年に修復が施され、ウルトラマリン・ブルーが色鮮やかによみがえりました。

2011年、東日本大震災と原発事故が起きた日本によくこんな貴重な絵がやってきてくれたもんだとありがたく思いながら拝見した展覧会でした。

激動の平成最後の投稿は、光あふれるフェルメールとなりました。
同世代のご夫妻が紡がれていく令和ができるだけ穏やかな光あふれる時代となりますように・・・。