たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

自作童話『コスモスゆれて』(5)

2014年08月14日 22時43分31秒 | 自作童話
 やがて、家の灯りがみえ始めたとき、マサオは、ほっと安どの吐息をついた。やっとついたのだ。だが、どこにも灯りはついていない。ああ、やっぱりぼくは捨てられた子なんだ。マサオは、がっかりした。やっぱり家に入るのはよそう。どろんこのすがたを父さんや母さんにみられるなんていやだ。きっとどんなにかはずかしいだろう。

 だが、マサオの小さな頭は、それ以上のことを考えるには、あまりにつかれていた。マサオは、よろよろとげんかんの前に坐りこむと、そのまま深いねむりに入った。

 目をさますと、ラヴェンダーのとてもいい香りがする。母さんのにおいだ。マサオは目をあけた。ぼくはあったかいふとんの上にねている。マサオは昨夜のことをすっかり思い出した。そうか、きっと母さんがぼくを見つけてねかせてくれたんだ。その時、母さんが戸をあけて入ってきた。

「母さん・・・」
 マサオは、しゃにむに母さんのうでにしがみついた。母さんは、だまってマサオを抱きしめた。マサオは、しばらくのあいだしゃくりあげていた。それから、
「ごめんね、母さん」
といいながら、もう一度母さんにしがみついた。
「もうなにもいわなくてもいいわ、お兄ちゃんがそんなに泣いたりしたら、赤ちゃんがびっくりするわよ」
 
 母さんの布団の横では、ちひろが気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。マサオは、母さんの腕からはなれると、ちひろのまるまると太った小さな手にそっとさわった。
「ごめんね、ちひろ」

 
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つたないお話はこれで終わりです。

一応市の文芸祭の入選作品でした。
主人公が男の子なのにどことなく女の子くさいのは作者自身の投影かと評された記憶があります。

読んでくださり、ありがとうございました。


ずっと先に自費出版した童話集から載せてしまうかもしれません。


コスモスの写真は、インターネットからダウンロードしました。


自作童話『コスモスゆれて』(4)

2014年08月10日 15時43分10秒 | 自作童話
 マサオは思わず身震いした。あの白いものがぼくを追いかけてくる。おそろしさのあまり、マサオは手にもっていた棒切れをおとし、一目散にもと来た道を走った。

細い道を出ると思いきってうしろを振り返ってみた。だれも追いかけてはこない。マサオはほっとため息をついた。ひたいにはあぶら汗がにじみ、手はべっとりしている。くしゅん、大きなくしゃみをする。手足がぶるぶるふるえているのがわかった。なんだか急に寒くなってきた。

母さんは今頃どうしているだろうか。みんなもう眠ってしまったにちがいない。今は何時だろう。家を飛び出してからどれくらいたったろうか。すっかり時間がわからなくなってしまった。いつの間にか剣はなくなっており、右のてのひらの中では、パンダのチョコレートが粉々になっていた。それを少しずつ口にはこんだ。

空を見上げると、雲の絶え間より月の光がもれ出ている。なんて素晴らしいお月さんなんだろう。あの白くみえるのはうさぎだろうか、きっと仲良くおもちをついて食べてるにちがいない。ぼくのお団子はどうしたろうか。ちゃんと戸棚に入れてしまってあるだろうか。

マサオは思わずしゃくりあげた。ラヴェンダーの香りのする母さんの腕の中が恋しくてたまらなくなった。マサオは母さんがお化粧しているところをながめるのが大好きだった。長く垂れたしなやかな髪の毛をなで上げ髪に結い、うっすらと口紅をつける。マサオは、母さんのすてきな唇に余分なものをつけないほうがいいと思った。しかし、余分なものも、やっぱりきれいな色をしているから、つけたほうがよけい素敵にみえるのだろう。そして、母さんはラヴェンダーの香りのする香水をかける。まるで、コスモスの女王みたいだ。そうだ、母さんは女王さまのようにいげんがあってやさしい。ぼくのことをなんでもわかってくれる。お誕生日に、真珠の首飾りをあげたときもとても喜んでくれた。それが、にせものだってわかっても、やっぱり「ありがとう」といってくれた。

マサオは、家に向かってとぼとぼと歩きはじめた。
家々の灯りは、ほとんど消えていた。わずかに、二階の窓からカーテンを通して灯りのもれてくる所があった。受験勉強というのをしているのだろう。

突然、びちゃんと水がはねあがって、マサオの顔にかかった。きのうの雨でできた水たまりに足を踏み入れてしまったのだ。マサオはシャツのそでで顔についた泥水をぬぐった。なんだか体じゅうじめじめしていて気持ちが悪い。のどがかわいてきた。さっき食べたチョコレートの甘みがまだ口の中に残っている。つばを飲みこむと、チョコレートの甘いのとまじありあって、よけいに気持ちが悪くなった。

今夜の風は、少しもマサオにやさしくしてはくれない。それどころか、ピシャリピシャリとマサオのほおをうちつける。今やマサオは寒さのためにすっかりうちひしがれ、こわさも怒りもすっかり忘れてしまっていた。足がだるい。早く家につけばいいのに。月がまたもや雲にかくれて見えなくなった。どうしてお月さんは、あんなにのろのろと動くのだろう。早くぼくに姿を見せてよ。だが、今夜の月はとくべつゆっくり動いている。


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高校三年生の夏に書いたお話の続き。こうして書くにはあまりにも稚拙で恥ずかしいようなものでしたが、ここまで書いてしまいました。
あと一回で終わります。





自作童話『コスモスゆれて』(3)

2014年07月28日 09時09分16秒 | 自作童話
 家々の灯りが小石の道を所々照らしている。ぼくはひとりぼっちなんだ、でもさびしくなんかない、マサオはつぶやいた。

もうどれぐらいたっただろうか、ふと月を仰ぐと、月は雲にかくれてみなくなってしまっている。ひんやりとした風がマサオのからだをなでてゆく。マサオは一瞬びくっとした。まるで妖怪女の、おそろしくとがったつめのある指でそっとさわられたみたいだ。

道端では大好きなコスモスの花が揺れている。マサオは、その中の一本をポキッと折った。なんてたくましい花なんだろう、コスモスは。このまえの台風のときだって、屋根より高い大きな木がかたむいたのに、この花は風にたおされてもおきあがった。ぼくも強くならなくちゃいけない。ぼくはこれからひとりで生きてく決心をしたんだ。
(マサオは、ゆうきをふりしぼって歩いて行く。)

やがて、細い通りに出た。目の前には、大木がふさがっている。ここを通りぬけると、神社がある。今夜はそこでとまることにしよう。マサオはどんどん前へ進んだ。マサオのまわりでは木々がざわめいている。妖怪たちがささやきあっているんだろうか。もしかしたらぼくを殺そうとしてそうだんしているのかもしれない。そうしたら、ぼくは、氷の山をかけのぼってお姫さまを助けてあげた騎士みたいに、勇かんにたたかってやる。

母さんは、ぼくが三時半になんかおきれっこないといった。姉ちゃんもちひろもぼくを笑った。ぼくは、みんなにぼくがおとなだってことをみせてやるんだ。

マサオは、足もとに何かしらふれるのを感じた。ぎゃっ、思わず声を出してしまった。なんだ木のはしくれか。マサオはそれを拾うとベルトにはさみ、刀を抜くまねをした。
よし、これがあるから大丈夫だ。妖怪だってなんだって、どこからでもかかってこい。片っぱしから切りたおしてみせるぞ。マサオは、ももを思いっきり高くあげて歩いた。

と、目の前を何かしら黒いものが通りぬけてゆく。今のはなんだったろう、きっと野良犬にちがいない。ひょっとすると仲間がいっぱいいるかもしれない。ぼくをゆうれいとまちがえてほえかかってきたらどうしよう。なにいってるんだ。そんなときには、この剣で切りたおしてやればいいじゃないか。

一じんの風がさあっと吹き抜けていった。木々のささやき声はますます大きくなり、どよめきに変わった。大木がゴリラになった。枝は妖怪の手になりぐんぐん伸びてくる。ぐんぐん伸びて、ぼくに向かってくる。大きな目をつりあげ、ぼくをにらみつけている。裂けそうなほどに大きな口をあけてぼくをのみ込もうとしている。

負けるもんか、負けるもんか、つかまれてたまるもんか、マサオはめくらめっぽうに棒きれをふりまわした。
おや、あの木のすぐそばに白いものがゆらゆらしている。足がない、だんだんぼくの方に近づいてくる。
アッハハハハ・・・、妖怪たちが、どす黒い声で笑っている。老女のしわがれ声がきこえる。


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高校三年生の私が書いたつたないお話の続きでした。

アン・シリーズを繰り返し読んでいた夏、縁側で原稿用紙に汗をたらしながらほんとうに楽しく書いた夏、家族は幸せだと信じて疑うことなどなかった夏。

その時間は、大切な幸せな記憶として私の中に今もずっとあります。

今の混乱はかなり苦しくなってきていますが、自分にとって納得できる終着点を目指して
もうしばらくがんばっていくしかありません。
お星さまになった妹と両親が見守っていてくれると信じてふんばっていこうと思います。

自作童話_『コスモスゆれて』(2)

2014年07月05日 16時15分37秒 | 自作童話
ようやくまた週末になりました。
生活のリズムをつくることができずに苦しい日々が続きますが、なんとかやっています。
一昨晩、歯の痛みが止まらずほっぺたがはれあがってしまいましたが、抗生物質を飲んで
落ち着いてきました。
知り合いの旦那さんがやっている歯医者さんによくしていただいて、感謝です。
ずっと緊張感を強いられていますが、終わりはまだ見えません。
心身ともにきついので、少し息抜きもしつつやっていこうと思います。

今月末頃の大きな山場で方向性がみえれば、週に一回か二回、生活のリズムをつくる意味も含めてなにか始められたらと思いますが、今はわかりません。
精神医学など、もう一度おさらいしたいと思っていますが、もう少し先ですね。

つたない物語の続きをよろしかったら読んでください。

モノクロの絵は、童話集を自費出版した時、当時の友人が描いてくれた挿絵です。



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「ぼくはもう大人だい。十才になればもう立派なおとなだって、ケンちゃんがいったよ。ケンちゃんちじゃあ、ぜったいにケンちゃんを子供だなんていわないんだ」

 マサオは、けんめいになって父さんと母さんに挑んだ。だが、二人とも微笑むだけで、いっこうに許してはくれない。

「大人だったら、そんなわがままはいいませんよ。マサオはお兄ちゃんなんでしょ。だったら、お兄ちゃんらしくしないとちひろに笑われるわよ」

 母さんの膝の上では、十か月になるちひろが一生けんめいにおっぱいを吸っている。まるでリンゴあめみたいな真っ赤なほっぺただ。

「ほうら、たくさん飲んだわねぇ、お兄ちゃんを見てごらん、ふくれっ面をしていておかしいんだから」

 ちひろは気持ちよさそうに、母の膝の上で笑った。マサオは、最大の侮辱をうけたような気がした。そうだ、父さんも母さんもぼくのことなんかなんとも思ってやしないんだ。今ではぼくがどうなったてかまわないのさ。ちひろが生まれてからは、みんながちひろに夢中になっている。もうぼくはいらなくなったんだ。

「今夜はぜんぜんねてなんかやらないから。そうして、これからだって好きな時にねて好きな時に起きるんだ。だれのいうこともきかないからね」

 マサオは憤然として立ち上がった。

「やらないから、なんてことばを使うもんじゃない」と父さんがさとした。しかし、マサオはきく耳をもたない。なんとしてもぼくを子供扱いするつもりなんだな。よーし、負けるもんか!ぜったいに今晩は一晩中おきていてやる。そうだ、大好きな小石の道を散歩しよう。芝生の布団にねたら気持ちがいいだろうなあ。お月さんとも話ができるんだ。どんなことを話そうか。

 マサオは、食卓をはなれると勉強机のある部屋へと駆け込んでいった。白い布団の上はとても気持ちがいい。でも今夜ぼくは寝ないんだからかんけいない。時計の針はちょうど八時を指している。九時になるとさちこ姉さんは、お風呂に入りこの部屋を出て行く。その時にそっと抜け出していこう。

 九時5分前になった。マサオは先ほどの誓いどおり部屋を抜け出した。手にはサラダベークを二枚もっている。お腹がすいた時のためにと思ったのだ。もしこのまま戻ってこなかったらどうだろう。父さんと母さんも少しは悪かったと思うだろうか。いやそうは思わないにきまっている。思わなくったってかまうもんか。ぼくはそんなこと望んでやしない。ただ、ぼくがどんなに悲しい目にあったかをみんなにみせたいだけだ。

 素足で歩く小石の道はなんて気持ちがいいんだろう。マサオはどんどん歩いて行った。家の灯りがだんだん遠くなってゆく。もうすぐぼくのいなくなったことがわかるだろう。母さんはどんな顔をするだろうか。いや、だれもぼくのいなくなったことに気づきはしない。ぼくはいらない子なんだから。


 

自作童話『コスモスゆれて』(1)

2014年06月25日 15時52分33秒 | 自作童話
高校三年生の頃に書いた童話の下書き原稿が出てきたので、何回かに分けて書いてみます。
もう出てこないとあきらめていたので、残っていたとわかって嬉しいです。

市の文芸際で入選しました。入選作自体はコピーを取っておくなど高校生の私が思いもつかなかったのでありませんが下書き原稿とほぼ同じだったと思います。

新潮文庫の百冊で村岡花子訳の『赤毛のアン』に出会い、アン・シリーズ10冊を読破。

その後、モンゴメリさんの自叙伝『険しい道』を繰り返し、繰り返し読みました。
教員生活を送りながら、詩や小説を書き続け、出版社に送り続けた姿にあこがれました。

書くことが大好きで、アン・シリーズに触発されて心から楽しんで書いた作品です。
夏休み、縁側で汗をかきながら書いたことを今でもおぼえています。

実につたないものですが、よろしかったら読んでください。

家族は幸せだと思っていた高校三年生の夏。
その記憶は大切に私の中にしまっておこうと思います。


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「絶対にいけません」

父さんはきっぱりといった。

「だってみんないくんだよ、よっちゃんもケンちゃんも、よういちくんも、どうしてぼくだけ行っちゃいけないの」

 マサオは、けんめいにいいはった。

「そんな朝早くから汽車の写真をとりにってけがでもしたらどうするんだ」

「そうよ、ブルートレインなんて別に明日でなくったってみることできるんだから。それに、マサオちゃん、そんなに早く起きられないでしょ」

 マサオは、がっくりと頭をたれた。父さんと母さんの意見が一致していることは明らかだった。明日の朝、ブルートレインの写真をとりにいくことはあきらめなければならない。マサオは、父さんと母さんをじっとにらみつけた。二人とも憎らしいほどに平気な顔をして夕食を食べている。マサオの目は怒りでいっぱいだった。

 マサオとよっちゃんとケンちゃんとよういちくんは、大の仲良し、そして、みんな汽車や自動車が大好きなのである。マサオたちの通う小学校の近くには線路が走っている。午後四人は、運動場であそんでいた。そのとき、ケンちゃんが、線路を指して「あそこを毎朝四時ごろ、ブルートレインが通るんだぜ。そいで、ぼく、あしたの朝写真をとりにいくんだ」、と得意顔でいった。「すごいなあ、ぼくもいきたいや」。みんなが口々に言った。

「じゃあ、みんなで行こうよ。明日の朝三時半に線路んとこへ集まるんだぜ」

 マサオの心はうきうきとした。明日の朝が待ち遠しくてたまらなかった。父さんにカメラを借りよう、きっとすばらしくてすてきな写真がとれるにちがいない。ところが、たった今にべもなくいけないと言われたのだ。父さんも母さんも汽車のことなどてんで問題にならないという顔をしている。そうだ、さちこ姉さんならわかってくれるにちがいない。マサオはすがりつくように、さちこ姉さんのほうを見た。だが、姉さんはただ笑っているだけで、マサオに味方してくれるような気配は少しもない。さちこは、無邪気なマサオをながめて、かわいいもんだなと思っているのだった。だが、マサオは、子供扱いされているのだとしか感じない。

「このサラダもおいしいわよ、お食べなさいマサオちゃん」

 母さんがやさしく言った。

「そんなもんいらないや」

 マサオは叫んだ。

「あら、こんなにおいしいのに。もっとたくさん食べなきゃ大きくなれないのよ」

 さちこが、横から口をはさんだ。

「そうですよ、マサオちゃん、うんとたくさん食べて大人になったら、写真だって好きなだけとれるのよ。だから、明日はがまんしなさいね」

 母さんが言った。

自作童話 『ある雨の日に』

2014年03月19日 13時06分19秒 | 自作童話
 マサオは はなをすすり上げ なきじゃくっていた 母さんに たたかれたほっぺたが まだ 少しあつい なんだよ 母さんのばか!

マサオは どうして 母さんが おこったかわからない。
おひるごはんのときだった。

日よう日のおひるには 母さんは いつもやきそばとかおこのみやきとか オムライスなんかを つくってくれる。なのに きょうは 朝たべのこしの つめたいごはんと みそしるだけだった。マサオのすきなハムも 目だまやきも出てこない。なんだ つまんないの。マサオはがっかりした。たのしみに していたのに。

「あーあー きょうは たったこれだけ なにか ほかに なあい?」

マサオがいうと 母さんはいった。

「いやなら たべなくたっていいよ」

「わかったよ たべてやるよ」

マサオはふてくされていった。
ピシッ!
そのとき マサオは はじめて 母さんにぶたれたのだった。
マサオは しゃくりあげると 手で なみだをぬぐった。
雨が はげしく トタンのやねをうちはじめた。
(ああ おなかが すいたなあ)
マサオは 少し さむくなってきた。そういえば 母さんのかお かなしそうだった。
そんな気もするなあ。
マサオは ふとんにもぐりこむと かおをまくらでかくした。

目をさますと あたりは もうまっくらだった。足おとを立てないよう そっと あるいて
だいどころを のぞいてみた。
あっ コトコト コトコト お父さんが ねぎを きざんでいるみたいだ。

「どうしたの 父さん」

「母さんが かぜをひいたらしい だから しずかにしてなさい こんやは 父さんのつくったラーメンと かんづめだ」

そういうと 父さんは たまごをゆではじめた。

ぼくが いけない子だったから 母さん かぜを ひいちゃったのかなあ。
マサオは 母さんがねているへやの ふすまをあけた。母さんは 白いタオルを ひたいにのせて じっとしていた。

マサオは そっと まくらもとへよった。
母さんは からだがえらかったから おひるごはんを つくれなかったんだね。
ぼく しらなかったんだ。母さんが あたまが いたいってこと わからなかったんだ。

「ごめんね 母さん」

マサオは 母さんの耳に 口をちかづけて 小さな声でいってみた。
母さんは 小さな ねいきを たてていた。
もう あんなこと いったりしないよ。雨がやんだら 母さんの すきなコスモスをとってきて そばに おいとくよ。
だから 早く よくなって。

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商業高校を卒業して二年目、19歳の私が書いた小さな童話です。
地方新聞に掲載されて、原稿料5,000円もらいました。
その原稿料で買ったのが、モリー・ギレン著 『運命の紡ぎ車_L・M・モンゴメリの生涯』だったと思います。

その後も自作童話は2本新聞に掲載され、21歳のときに童話集を自費出版しました。
銀行で忙しく働きながら、枯れそうな心を潤すかのように仕事以外の時間は
書くことに必死でした。楽しくて楽しくてたまりませんでした。
それは今思えば自宅通勤で、家事を母が全部やってくれていたので出来たことでした。

父も母も元気で家族は幸せだと思っていた頃、その記憶はずっとわたしの心の中に幸せな時として、ずっとあり続けます。

写真は、春のプリンス・エドワード島 グリーン・ゲイブルズの庭からの景色です。