「時は江戸時代中期、徳川吉宗の治世。
九州の緑深き里、山々に囲まれた三日月藩藩主の次男、天野紀之介(あまのきのすけ)は、夜ごと城を抜け出しては星の観測に夢中になる奔放な少年であった。ある夏の星逢(七夕)の夜、紀之介は、蛍村の少女、泉(せん)、その幼馴染の源太(げんた)と出会い、星観の櫓を一緒に組み上げる。その日以来、紀之介、泉、源太は、夜ごと星探しに夢中になり、身分を超えて友情を育んでゆく-。しかし、別れの時はあっけなく訪れる。江戸藩邸に住む紀之介の兄が急死し、紀之介が嫡子として江戸に行くことが決まったのである。互いへの淡い思いを告げられぬまま、紀之介は泉を残して旅立っていくのだった。
江戸に到着した紀之介は、名を晴興(はるおき)と改め、三日月藩の正当な後継者となった。少年の才覚を鋭く見抜いた将軍吉宗は、晴興を自分付の御用取次に取り立てる。7年後の星逢の夜、帰藩した故郷で泉に再開する。激しく惹かれ合う二人・・・。だが、すでに泉は、幼い頃から彼女を見守ってきた源太のもとに嫁ぐことが決まっており、晴興にも、吉宗の姪、貴姫との縁談話が持ち上がっていた。泉の晴興への思いを知る源太は、自らの思いを封じ込め、晴興に貴姫との縁組みを断って泉をもらって欲しいと懇願するが、晴興にその道を選ぶことなど許されるはずもなかった・・・。
幕府で政治手腕を発揮するようになった晴興は、享保の改革を進める吉宗の求めに応じ、財政難を解消し強い国を作るため、強硬な態度で政治に臨まざるを得なくなる。その改革は激しい年貢の徴収と民の暮らしの圧迫に繋がり、やがて各地で一揆が頻発し始める。反乱の気運が高まっていたのは、泉と源太の住む三日月藩も同じであった。凶作が続き、人々が命を落としていく現状に耐えかねた源太は、泉の反対を振り切り一揆の準備を進めていた・・・。一方、吉宗は、晴興に自らの手で三日月藩の反乱を平らげ民を裁くよう命じる。
ついに三日月藩で一揆が起きる。
逃れられぬ運命の中で、晴興が選んだ己の生きる道とはー。」
昨日アクセスランキング3位だった2015年12月13日の記事、「孤独の海をただよう」、自分でも読み返しました。書かずにはいられなくて、書くことしかできなくって、書く以外にはなくって書いたものでした。この時から1年と4か月。次のことは全くわかりませんが、自分、よくここまで立て直したくることができたと思います。こんな時があったのが遠いことのようにも思えます。
http://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/52c48b98ec1b001dc1c30814c6c6a938?fm=entry_awp
さて、宝塚。『星逢一夜』(作・演出:上田久美子)、中日劇場公演を2月26日にライブビューイングで観劇してから繰り返し制作発表会の映像をYoutubeでみています。
天野晴興(紀之介):早霧(さぎり)せいな
泉:咲妃(さきひ)みゆ
源太:望海風斗(のぞみふうと)
この三人の演技のぶつかりあいが凄まじくて、物語が進んでいくにつれてどんどんつらくなっていくのに、涙をあふれさせながらもどんな展開になっていくのか、かたずをのみながらみないではいられないような、役者にも観客にものすごい集中力を求めてくる作品。同じく上田久美子さんの作品『金色の砂漠』の東京千穐楽ライブビューイングで、花組の明日海りおさんが、最後の挨拶で、芝居とはなにかを根本から問いかけられた、毎日土俵入りする力士のような気持ちで舞台に立ってきたというような話をされていましたが、役者の根幹を揺さぶりとてつもないエネルギーを求める上田さんの作品を一日2公演、演じていくのは大変なことだったろうと思います。役を演じているというよりは、役柄そのままのキャラクターが舞台の上に立っているかのような感覚でした。
舞台は三人が子ども時代に出合う場面からスタート。待ち受ける運命を知らずに、というような内容の語りが入ったのですが、全部終わってからそういう意味だったのかと納得。早霧せいなさん演じる晴興、和服が端正な顔立ちにほんとによくお似合いで美しい。江戸についたばかりの頃はなまりがひどくて笑われたのが、吉宗に才覚を見い出されてめきめきと手腕を発揮して三日月藩に帰ってきた時には凛々しい立ち姿。泉の気持ちを知っている源太が、自分の許婚でありながら晴興に惹かれていることを知っている泉を嫁にもらってほしいと懇願する場面、百姓を続ける源太の、自分の気持ちを抑えて泉の幸せを一番に思う姿がなんとも優しくて痛々しくて涙。晴興の立場で百姓の泉と結婚するなど許されるはずがありませんでした。
さらに時は流れ、泉と源太は結婚して三人の子どもに恵まれ、つつましやかな生活を営んでいますが、きびしい年貢の取り立てに一揆の気運が高まる中、源太は一揆の頭となっていきます。三日月藩で起こった一揆を裁くために帰藩した晴興と源太の再会。晴興は頭であるお前なら一揆を止められるだろうとなんとか一揆をやめさせるよう説得にかかりますが、源太は、おれにはもう止められないと答えます。下手な憐みなどいらないというような台詞もあったかな。対立する立場となった晴興と源太。棒切れで始まった二人の対決は、晴興が真剣を源太に投げつけ、自らも真剣を抜いて、文字どおり真剣での対決となります。子どもの頃星逢の夜、運命に導かれるように出会った二人の真剣勝負は、源太が晴興に切られて幕を降ろします。女性が演じる男性同士の友情と憎しみが交錯する場面、最大の見せ場であり緊迫感が高まりました。源太を切ることで一揆を収束させ、源太一人の罪として他の農民たちにはなんのお咎めもなしとしようとする晴興の心を源太はわかっていたのでしょうか。源太が潔くて哀れで涙。結果晴興は幕府の任を解かれ陸奥へ行くことを命じられます。
子どもの頃、三人で組み立て星を観測した櫓で再会した晴興と泉。夫である源太を殺めた晴興に、陸奥になど行かせはしない、逃げてほしいと泉は懇願しますが、三人の子どもが母の姿を探し求める声をきいて現実に戻ります。晴興と共に旅立っていきたい想いを心の奥にしまい込み、母として百姓としてつつましやかな日常へと戻っていきます。晴興も自分の気持ちを心にしまい込みます。この場面のふたりの演技のぶつかりあいもすさまじくて涙。
わたしのまずしい言葉では全くこの作品がもつ力を語ることができていません。一人でも多くの方に観ていただきたい作品。宝塚ファンだけではもったいない。吉宗が国を盤石にしていくためには犠牲もやむを得ないというような場面だと今に通じるリアリティを感じました。物語の世界を成立させるために、史実とは異なる点もいくつかあるようですが、物語なのに実在したかのような錯覚を起こさせるだけの力を持つ作品。DVDが発売されているようなので買っちゃおうかな・・・。
書き足りない感ありますが、『星逢一夜』はひとまずこれでおしまい。『ロミジュリ』、『フランケンシュタイン』、『金色の砂漠』、まだ書けていないので後日書きたいです。観劇していない方には、あまりわからない、つたない観劇日記でした。最後に、宝塚はすごい!