「あるひ、おうさまが だいじんに いいました。
「わたしの ひつじを 2せんびき、いちばで うって おくれ。
うれた ひつじの だいきんと、わたしの ひつじを 2せんびき、わすれずに もって かえるのだよ。」
「おかねも ひつじも もって かえれですって?」
だいじんは、こまって しまいました。
「どうすれば、おうさまの いうとおりに できるだろう。」
かんがえこんで いる だいじんに、むすめが いいまっした。
「ひつじを いちばへ つれて いって、けを かりとって うれば いい。
かりとった けの だいきんと、ひつじを もって かえれます。」
だいじんは、むすめに いわれたとおり、ひつじの けの だいきんと、ひつじを つれて かえりました。
「よく できたぞ、だいじん。おまえに ほうびを やろう。」
にっこりした おうさまに だいじんは いいました。
「ごほうびは むすめに、 やって ください。おかねと ひつじを もって かえるには どうすれば いいか、かんがえたのは むすめです。」
「なんと りこうな むすめだろう。いちど あって みたい。」
おうさまは、また だいじんに いいつけました。
「ふくを きて、はだかで、うまには のらずに、あるきも しないで、むすめを しろへ よこしなさい。」
さて、どうしたら いいのでしょう。
むすめは あみに からだを つつみ、ちいさな ろばに のりました。ふくは きて いても はだかです。ろばに のっていても、あしは じめんに さわります。
「たしかに りこうな むすめだ。」
おうさまは、むすめが きに いって、おきさきに する ことに しました。
「ひとつだけ やくそくして おくれ。わたしが さいばんで きめた ことに、けっして おせっかいを しないと。」
けっこんしきが おわると、おうさまが いいました。
あるひ、おきさきに なった むすめは、なきながら あるいて いく おとこのこを みつけました。
「いったい どうしたのですか。」
たずねると、おとこのこは なきながら こたえました。
「こうしを とられて しまいました。ぼくの うしから うまれた こうしいたのに、ずるい おとこが、じぶんの うまから うまれた こうしだと いったのです。おうさまは さいばんで、おとこの いう ことを しんようしました。
「では もういちど、さいばんを ひらいて もらいなさい。」
つぎのひの さいばんで、おとこのこは いいました。
「こいが いきなり とびだして、ぼくの ひつじを ばっくりと まるごと たべて しまいました。」
「そんな おかしな ことが あるものか。」
おうさまは、めを まるく します。
「それなら、ぼくの こうしが しらない おとこの うまから うまれたのも、おかしい ことでは ありませんか。」
「なるほど そのとおりだ。きのうの さいばんは とりけそう。こうしは たしかに おまえの もの。」
「ばんざい。おきさきさまの おかげで、こうしを とりもどせたぞ。」
おとこのこに わけを きいた おうさまは、かんかんに おこって おきさきに いいました。
「おまえは やくそくを やぶって、おっせかいを した。もう しろに おいては おけない。」
「それでは おわかれいたします。でも さいごに、おわかれの パーティーを ひらかせて ください。」
おわかれの おさけを のみながら、おきさきは おうさまに いいました。
「ひとつだけ おねがいが ございます。しろを でて いく ときに、わたしの いちばん たいせつな ものを、もって かえらせて くださいな。」
「いいとも。おまえの いちばん たいせつな ものを、ひとつだけ もって いくが いい。」
おさけに よった おうさまは、ぐっすり ねこみました。
おきさきは、おうさまを ばしゃに のせると、じぶんの いえに はこびました。
「どうして わたしを こんな ところへ つれて きたのだ。」
めを さました おうさまに、むすめは にっこり わらって こたえました。
「いちばん たいせつな ものを もって かえっても いいと おっしゃったでは ありませんか。」
「おまえは なんと りこうで やさしいのだろう。わたしが わるかった。ずっと おきさきで いて おくれ。」
おうさまは いって、それからは なんでも おきさきに そうだんするように なりました。」
(いわさきちひろ・おはなしえほん③『りこうなおきさき』昭和59年9月10日第1冊発行)