時々新聞社

慌ただしい日々の合い間を縫って、感じたことを時々報告したいと思います

広がる直接雇用

2007年02月24日 | 格差社会
本紙でも何度かにわたって取り上げてきた問題に、偽装請負、非正規雇用の問題がある。
これらの問題を解決することは、特に、若年層でのワーキングプアを解消し、青年たちに夢と希望を切り開くことになると主張してきたが、その動きが徐々に全国に広がっている。
本紙で取り上げた光洋シーリングテクノ、日亜化学をはじめ、いすゞ、富士通や松下の関連会社など、直接雇用への動きが確実に広がっている。一部には、契約期間が短かく、一部の派遣社員の直接雇用にとどまるなど不十分さは残っているが、直接雇用が広がっていることは、大変うれしいことである。
さて、地方自治体などでも、この動きが始まっている。
栃木県野木町が町立保育所に人材派遣会社から受け入れていた保育士12人を直接雇用するとの記事が出ていた。町は人材派遣会社と業務委託契約を結んでいたが、保育士側は「実質的に派遣状態で働く違法な偽装請負が行われている」などと主張。受け入れ期間が労働者派遣法で直接雇用を求められる3年を超えていたため、直接雇用を求めていたが、これに対して、町側は偽装請負の事実は認めていないが、保育業務を行うには直接雇用した方が効率的と判断し、12人全員を最大5年の制限付きの嘱託職員として採用することになったという。
国や地方自治体は、財政難を理由に、本来自治体などが行うべき仕事を何でもかんでも民間委託を行い、派遣や請負として非正規労働者を受け入れる動きや民間への業務の丸投げが全国に広がっている。しかし、地方自治体などは本来、今回のように直接雇用を行い、偽装請負や非正規雇用を進める民間企業の模範となるべきであろう。安かろう悪かろうで良いはずがない。
付け加えて言えば、国や自治体が削減すべき経費は、予定価格の95%以上といった高額で落札される公共事業費、大型開発予算や種々の委託経費であり、首長や議長の官舎や公用車、何に使われているかわからない政党助成金や政務調査費、無駄な軍事費などであろう。
現在、若者の3分の1を占めるといわれる非正規雇用を完全に解決するだけで、若者の年収が上がり、ワーキングプアと呼ばれる貧困層の解決に大きく踏み出すことになる。また、これによって、消費も上向き、結婚や子育てもできるようになり、少子化対策にとってもプラスに働くことだろう。
さて、国民もそろそろ、安ければよいという考えから脱却すべきであろう。
安い製品のウラには、多くの労働者の血肉を削られるような偽装請負や非正規雇用が存在し、読者諸兄の子息や知人、友人などもこの非正規雇用の渦に巻き込まれる可能性が高いのだ。また、非正規雇用者の賃金の低下は、正規雇用者の賃金の低下を招き、不安定な雇用をますます促進し、雇用の保障さえ行われなくなるのは、今までの社会の中で見てきたとおりだ。
また、マンションの耐震偽装問題も、地方自治体で行われていた検査を民間委託できるように法律を「改正」したことが事の発端だ。安い物には安いなりの理由があるのだ。
閣僚や政権を握る与党議員などは、「民間でできることは民間で」と声高に主張し、多くの国民がその主張に熱狂したが、その結果削られたものは、国民、住民への直接的なサービスだけであり、「おいしい無駄遣い」はそのままの彼らの下に温存されている。結局、バカを見たのは国民や住民だ。国民も、そろそろこの仕組みに気づくべきであろう。

「椅子取りゲーム」社会

2007年02月14日 | 格差社会
開会中の国会で、野党が格差問題で安倍内閣を追及しているが、やはり多くの国民が様々な形で格差を実感している証拠であろう。
非正規雇用、偽装請負、ワーキングプア、フリーター、母子家庭、生活扶助、負け組など、10年前には話題にもならず、あるいは、存在すらしなかった言葉もあり、この数年間の格差の広がりというのは、やはり現実に存在するのだろう。
野党の追及に対して、安倍内閣は、再チャレンジできる社会を作るというが、いまの社会にどんな仕組みを新たに作ろうというだろうか?
子供の頃に、椅子取りゲームというのがあった。音楽に合わせて椅子の周囲を回り、音楽が止まると、一斉に椅子を奪い合い、何人かは必ず椅子からはみ出すというゲームである。
いまの社会は、この椅子取りゲームに似ている。
自分は、悠々あるいは幸いにも、椅子に座っているが、椅子の数は限られているので、必ず座れない人たちが存在する。この人たちは「負け組」と呼ばれる。何とか努力して椅子に座れるようになると、別の人が椅子を失うことになる。昔も椅子の数には限りがあったが、それでも椅子の数はそれなりに準備されていた。ところが、バブル崩壊後は、椅子がどんどん少なくなり、座れない人が大幅に増えている。これが、今の社会の仕組みではないか。
椅子に座れない人の中には、犯罪に走ったり、日々ギャンブルなどに明け暮れたり、虚無的な人生を送っているような者が存在することを編集長はよく知っている。こういう輩(やから)に椅子を与える必要があるとは思っていない。
しかし、生まれながらに、または何らかの事情によって精神や身体に障害を負ったり、病気になったりして、満足に働けなくなることもあろう。突然の倒産やリストラによって働き手の収入が途絶えることもあるだろう。夫の死や離婚などによって、女手一つで子供を育てなければならない家庭も多いだろう。高齢になれば、病気にもなり、介護も必要になる。今はカラ元気のある閣僚諸氏も、あと20-30年もすればオムツをあてがわれるようになるだろう。要するに、誰でもが遭遇する社会の一コマ、その一コマにおいて、人間として普通の生活が送れるように、十分な数の「椅子」を準備することが政治の役割だ。
ところが、安倍内閣が進めていることは、まったく逆行している。障害者「自立支援」法も、「経費削減」しか頭になく、援助は減らしながら、障害者や家族に自助努力を求めるだけだ。生活保護費の母子加算の削減も然りである。
一方では、「改革」を続行し、経済成長路線を続けることによって、大企業が潤い、その結果、中小企業やそれらで働く国民の生活も向上するという、まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」式の遠大な構想を国会で答弁するのがこの内閣の本質である。
椅子を減らす一方で、企業が潤えば、そのうちにそのおこぼれが中小企業や国民に回って、少しは暮らしも良くなるだろうという姿勢では、格差社会を解決することは絶対にできないのである。

「すき家」のアルバイトに残業の割増賃金

2007年01月12日 | 格差社会
先日の毎日新聞に、ゼンショーが経営する牛丼の「すき家」で働くアルバイト(約1万人)に残業代の割増賃金が支払われるようになったことが報じられていた。
アルバイトやパートの労働条件が改善することは、ワーキングプアと呼ばれるバイトやフリーターの処遇が改善されるということであり、さらには正社員の待遇の改善にとってもプラスとなり、大変喜ばしいことである。
労働基準法では、残業には25%の割増賃金が義務付けられているが、アルバイトには残業時間分の時給は支払われるものの、割増賃金は支払われないことが多い。明らかな違法行為であるが、黙認されているケースが多いのが現実だ。
そのような中で、ゼンショーがなぜ今回のような措置を行ったのか?
その背景には、アルバイト店員の一部(15名)が個人加盟の労働組合に加盟し、経営者側と交渉した結果であることも報じられていた。
労働者一人一人は、当然のことながら会社に対して立場的に弱者である。それゆえに、法律が遵守されないケースも多いのだが、労働組合などを結成し、労働法制を楯に会社側と交渉することが重要である。
すき家で労働組合に加盟したアルバイト15名には、会社からの様々な嫌がらせが始まっているという。
勇気ある組合員の決意と努力で、全国のすき家のアルバイトの処遇が改善されたわけだ。この組合員たちに拍手を送るとともに、自らの生き方に自信を持ってこれからも頑張って欲しいと願っている。同時に、すき家のアルバイトのなかに、労働組合がしっかり根を張るとともに、この動きが、不法な労働条件の下で働くことを余儀なくされている他の企業のアルバイトやパートにも広がることを願っている。
ちなみに、この組合は、「首都圏青年ユニオン」というそうだ。おそらく、青年でなくとも相談に乗ってくれるに違いない。
アルバイトやパートであっても一定の条件を満たせば、有給休暇も取得できる。劣悪な条件で働いている青年や女性がもしこの記事を見ていたら、ぜひこの組合に相談することをお勧めしたい。
自分の人生は、自分で切り開いていくものである。自分の人生を振り返って、恥ずかしくない生き方をして欲しいと思っている。

労働者のたたかいと世論の勝利

2006年12月16日 | 格差社会
以前にも、松下電器の関連会社が、「偽装請負」を中止し、請負労働者を直接雇用に切り替えたとの記事が出ていたが、今度は、いすゞ自動車が、派遣労働者のほぼ全員1361人を3ヵ月間の期間従業員として直接雇用したとの報に接した。製造業では、1年以上働いた派遣労働者を直接雇用する義務があり、10月からほぼ全員を期間従業員に切り替えたそうだ。藤沢工場(神奈川県藤沢市)の954人、栃木工場(栃木県大平町)の407人が対象になるらしい。
しかし、雇用の契約期間が3ヵ月間と短く、期限切れの来年1月に、延長の再雇用契約を締結することになるという。
直接雇用によって、今まで派遣会社や請負会社にピンはねされていた給料の一部(おそらく5割以上)が労働者に直接支払われることになるため、給料は倍以上になるだろう。ワーキングプアからの脱却の一歩にまずは祝福を送りたい。
しかし、直接雇用とはいうのも名ばかりで、来年1月には早々に契約が切れ、その後の雇用の保証はない。当事者たる労働者たちは、とても安らかに新年を迎えるという心境ではあるまい。いすゞは「契約延長をお願いしていく方針」と表明しているが、この言葉を100%信用するわけにはいかない。
大企業は、長い間「偽装請負」という違法行為を犯しながら、請負労働者を食い物にして、儲けを積み上げてきた。けっして企業の「良心」に期待してはならない。
労働者は、会社に気に入られて契約を延長してもらおうなどと考えてはいけない。会社に媚を売っても、生活は守れない。とは言っても、別にケンカ腰になる必要はない。
法律や社会的道義に基づいて、勇気を奮って、堂々と自らの権利を主張しない限り、どん底の苦しみを味わうことになるのが、今の日本社会の現実である。また、それが人間として後悔のない人生を歩む唯一の道である。
契約を延長させ、更に「契約」社員ではなく、文字通りの直接雇用を実現するためには、労働者自身の雇用を守るたたかいと世論の後押しが不可欠なのである。

ワーキングプア2を見て

2006年12月11日 | 格差社会
10日の夜、NHKの「ワーキングプア2」という番組を見た。
前回の放映も見たが、反響は随分と大きかったようで、1回目の放映に対して手紙、FAX、メール等で1400件もの投書があったという。今回はその第2弾だった。
この番組を見て、読者諸兄はどのように感じられただろうか?
平穏に暮らしていた若い夫婦。突然の離婚で、昼夜2ヵ所の職場を掛け持ちしながら、深夜2時まで働きづくめで二人の子供を育てている若い主婦。
父親が倒れたため、パートで働きながら生活を支えている姉妹。調理師の資格を取っても上がった時給はたったの10円。
夫を亡くし、必死で店を守ってきたが、店の家賃さえ支払えなくなり、店を閉め、「甲斐性のない親だ」と涙ながらに娘との暮らしを余儀なくされる母親。
安い外国人労働者との競争に立ち行かなくなり、収入は減る一方。パートで家計を支える妻の務め先は、その外国人たちの研修施設の賄い。
80歳を過ぎ、空き缶拾いをしながら暮らしを支える老夫婦。
年金をすべてつぎ込んで介護施設に妻を入所させ、公園清掃のわずかな収入で生活をつなぐ70代の夫。
いずれも、私たちの回りにどこにでもありそうな風景ではないか。
あるいは、今は健康で何の不自由もなく暮らしていても、家族の病気や失職などで、誰でも陥る可能性のある現実である。
今回は放映されなかったが、ホームレスの実態や若いフリーターの暮らしなど、もっと悲惨な現実も存在する。こういう実態は枚挙にいとまがないはずだ。
これが「世界第2位」の経済力を有する日本という国の「美しい」現実だ。
このような状態がどうして生まれてきたのかは、番組の中で内橋克人氏が述べていたように、「大企業ばかりが利益を独占するような仕組みが間違い」なのだ。
日本という国は、ことごとく大企業に甘い国だ。
今までにも本紙の中でたびたび指摘してきたように、政府・与党がこの間に進めてきた財界の意向を汲んだ規制緩和、派遣可能業種の拡大や偽装請負の放置による非正規雇用者の増大、法人税の減税の一方で年金、介護健康保険などの掛け金の値上げ、所得税の定率減税の廃止など、弱者から徹底的に絞り上げる政治のあり方だ。
日本は、「世界第2位」の経済力がある。人口が減少傾向にあるとはいえ、それを支える勤勉な国民がおり、高い教育水準や技術もある。それが、大企業の儲けの道具になり、国民のために使われていないことに最大の問題がある。
そして、それらは財界が政治献金という賄賂を贈って、政府を動かし、実現してきたものだ。
大企業に対する法的な規制を強化する以外に解決の道はない。そこに多くの国民が気づくべきだ。
そして、そのためには、財界応援の自民・公明の政治ではなく(もちろん、財界に政治献金を公然と要求する民主党による政権でもない)、野党らしい野党が議会で力を付け、国民が政治に関心を持ち、声を上げ、行動し、それを監視することだ。
来年は、いっせい地方選挙や参議院選挙がある。地方政治や国の政治を大企業本位の政治から、国民に目を向けた政治に転換できるチャンスである。
この番組を見て怒りを感じた多くの国民には、反撃のチャンスが与えられている。読者諸兄の賢明で、的確な判断を期待したい。

日亜化学で請負労働者の直接雇用が実現

2006年12月07日 | 格差社会
もう先月の話になるが、日亜化学が、勤続年数3年を超えた請負労働者を直接雇用に切り替えることを決めたという記事を新聞で見た。うれしいニュースである。
日亜化学というと、青色ダイオードで一躍有名になったが、会社があるのは四国の徳島県阿南市という所である。この阿南市は、実は編集長の母親の生まれ故郷であり、親戚も多い。徳島県の南部にあり、面積が広い割りには人口は6万人くらいで、典型的な農村地帯である。以前には、造船業なども盛んだったが、今はどうなのだろう。
さて、話が逸れたが、市政は敷いてはいるものの、これといった産業もない土地柄であるがゆえに、地元を代表する日亜化学が今までの請負労働者による生産(単なる請負ではなく「偽装請負」だったのだが、)をやめて、正規雇用者を増やし、自前で技術のある従業員を育てることになったことは、地元の経済発展にとっても極めて効果的である。この決断を歓迎したい。
しかし、会社がこの決断に至ったのは、なにも、日亜化学が「偽装請負」を真摯に反省したわけではなく、お上(徳島労働局)からのキツ~イご指導があったからにほかならない。
以前に本紙で紹介したように、同じ徳島県内で「偽装請負」が行われていたトヨタの下請け(光洋シーリングテクノ)において、請負労働者が組合を結成して、正規雇用への道を切り開いている。
そういう土壌があったからこそ、日亜化学の請負労働者の声に応えて、労働局も指導をせざるを得なかったし、会社もこれに従わざるを得なかったのである。
請負は、国際競争力の向上というスローガンの下で、自給1000円前後で、使いたい時に、使いたいだけの労働者を借受け、しかも使用者責任を回避できるため、企業にとっては誠に都合の良い労働形態であり、企業はこれをテコにして不況下でも空前の儲けを積み上げてきた。
しかし、こんな不法、異常なことがいつまでも続けられるわけはない。
企業が製造した製品の多くを購入するのは、最終的には労働者とその家族であり、この労働者の賃金を不法に削減し、ワーキングプアを大量に生み出しながら、自社の製品だけはどんどん売ろうというのはどう考えても虫が良すぎるし、最終的な帳尻は絶対に合わなくなるはずだ。
以前の記事の中でも書いたことだが、企業の理不尽な扱いにも我慢をしている労働者は多い。法律に疎く、泣き寝入りしているケースも多いだろう、所詮は「負け組」「負け犬」だと自身を卑下することもあるだろう。しかし、徳島で示された2つの例は、労働者が声と行動を起こすことによって、企業の不法は必ず正せるということを示している。
個人で加盟できる労働組合もある。全国各地で行われている労働相談もある。ぜひ、一人一人が声を上げ、行動する勇気を持って欲しいと思っている。
日亜化学は、渋々ながら労働局の指導を受け入れて、請負労働者の正規雇用に乗り出したが、このような動きが、編集長の故郷である徳島から全国に広がることを願っている。

偽装請負の受入れ企業に断罪を

2006年10月21日 | 格差社会
偽装請負については、本紙でもたびたび取り上げてきた。これは、この請負形態が、労働者派遣のもっとも悪質な方法であり、現在の所得格差の広がりの大きな要因になっているからである。
なぜ、企業は派遣ではなく、違法な偽装請負に走るのであろうか。それは、1)派遣の場合は、受け入れ企業が安全衛生について、全責任を負わなければならず、そのコストが発生すること、2)1年以上継続した派遣労働者を正社員として雇用しなければならないこと、この2点の規制があるために、企業は派遣ではなく、請負、しかも偽装請負に走るのである。
現在開会されている国会でもこの問題が取り上げられたが、厚生労働省はこの違法な請負を受け入れている企業の公表を拒んでいる。偽装請負が違法であるとして、その解消を指導しておきながら、違法行為を行った企業名の公表には応じないという信じられない態度を取り続けている。
そのような中でも、共産党の市田氏の参議院予算委員会での質問が光っていた。
クリスタルグループの労働者の派遣先を独自に調査し、その企業名を公表しながら政府の姿勢を追及した。
それによると、キャノン(7事業所):3033人、松下電器グループ(13):2701人、ソニー(5):1485人、東芝(4):855人、この他に、リコー、ダイキン、テルモ、三洋電機、日立、日産、シャープなどの70事業所で11,753人、合計約2万人もの偽装請負が行われているとのことである。これによって、通常、企業が負担すべき年金、保険料などを含む金額3,500円を2,500円に節約でき、この中から派遣会社が1,500円をピンハネし、労働者には1,000円が渡されるという。
クリスタルグループだけで、これほどの偽装請負が行われていることに驚かざるを得ない。というのも、クリスタルのように製造業に労働者派遣を行う企業は、613社(2004年3月)から8016社(2006年3月)へと、この2年間で10倍以上にも増えているからである。日本全体で、一体どのくらいの偽装派遣が行われているのかと考えると背筋が寒くなるばかりである。
また、共産党の公表した資料には、トヨタグループの名前がないが、以前に本紙で報道したとおり、トヨタ関連の部品会社で偽装請負で派遣されていた労働者に直接雇用の道が開けたが、こういうことを考えると、国会で明らかになった実態はまさに氷山の一角であろう。
その証拠に、年収300万円以下の労働者数は、1507万人(2000年)から1692万人(2005年)と5年間で200万人も増えているのである。
これに対して、もっと驚くのが財界・大企業の姿勢である。
政府の経済財政諮問会議(座長:安倍首相)において、偽装請負受け入れNo.1企業、キャノンの御手洗会長(経団連会長)は、「3年経ったら正社員にしろと硬直的にすると、たちまち日本のコストは硬直的になってしまう」と述べ、「請負法制に無理がありすぎる」、「これを是非もう一度見直して欲しい」と発言していたことが明らかになった。
以前にも述べたように、派遣社員を1年以上続けると企業に直接雇用の義務が生じるとの規制があるが、財界や大企業の要望によって、この規制も来年3月からは3年以上に延長された。御手洗氏が「もう一度見直して欲しい」といっているのは、この期限を無期限にしたり、偽装請負そのものを「適法」なものにせよという要求である。
このように、ワーキングプアと呼ばれるような労働者を生み出してきたのは、財界・大企業である。そして、大企業に現在の法律をきちんと守らせることによって、何10万人ものワーキングプアを救うことができるのである。ましてや、派遣、請負に対する規制をちょっと強化するだけで、今日本で問題になっている所得格差をかなり是正できることは間違いない。
格差社会にセイフティネットを作るのが政府の目標であるのなら、真っ先にこういった偽装請負を受け入れている企業に対して、強力な行政指導を行うべきであろう。

格差根絶のために行動を

2006年10月18日 | 格差社会
所得格差の最大の要因となっている派遣労働であるが、その中でも特にひどいのが偽装請負である。
本紙でも何度か取り上げてきたが、今日は明るいニュースに接したので、紹介しておこう。
キヤノンの工場で働く請負労働者が、違法な「偽装請負」の状態で働かされてきたとして、労働組合を結成し、18日に正社員として雇用するようキヤノンに申し入れたそうである。この中には、キヤノンで10年間も働いている労働者もおり、「正社員になって、いいものづくりをしたい」と訴えている。
宇都宮光学機器事業所でレンズの製造などに携わる4人が18日昼、労働組合東京ユニオンのメンバーらとともに、東京都大田区のキヤノン本社を訪れ、要求書を会社側に手渡したという。
要求書によると、組合に入ったのは17人で、全員が今年5月までの1年間は派遣労働者として働いたが、それ以外の期間は、キヤノンから製品の生産を請け負った人材派遣会社の労働者として働いた。ところが、その間も「実際はキヤノン側の指揮命令を受ける偽装請負が続いていた」という。
このような偽装請負は、実質的には派遣状態とみなされる。17人は1年以上働いているので、労働者派遣法で定めるメーカー側の直接雇用の申し込み義務が適用されると主張している。
キヤノンで6年半働いているという男性(31)は「世界一のレンズを自分たちが造っているという誇りがある。できることなら正社員になってこれからもそれを造り続けたい」と述べた。
キャノンでは、宇都宮工場や子会社の大分キヤノンなどで偽装請負が発覚し、労働局から昨年文書指導を受けた。今年8月には「外部要員管理適正化委員会」を設置し、年内をめどに偽装請負の解消を目指しているとのことである。
このニュースを見て、編集長は2つのことを痛感せざるを得なかった。
1つは、昨年の時点で文書による是正指導を受けておきながら、未だに解決をしていないキヤノンの姿勢についてである。その気があれば、すぐにでも解決できることではなかろうか?サボタージュもいいところである。企業の社会的責任ということが言われるようになって久しいが、日本の大企業は、こういう最低限の自浄作用さえ失っているのが現状であり、誠に情けないかぎりである。
もう1つは、日本社会の抱える問題や矛盾について、評論家のようにあれこれと批評をするのは大変やさしいことである。肝心なのは、それらの問題を実際に解決することだろう。今回の事例のように、声を上げ、行動を起こすことなくして、自らの生活や社会のあり方も変えられないということである。
個人の努力も大切であり、これは私も否定はしない。しかし、さまざまな社会の矛盾を生み出している政府や官僚機構、企業などは、財政的にも組織的にも巨大なものである。これに対して、個人はあまりにも非力である。同じ志を持つもの同士が、力を合わせることなくして、個人の幸福は得られないのである。
まだ、この17人が正社員としての地位を確保したわけではない。17人全員が今後の人生をキヤノンの正社員として過ごせるようになることを心から願っている。

「偽装請負」の根絶を

2006年10月05日 | 格差社会
「偽装請負」で急成長してきた企業が、今回事業停止処分を受けた。
この企業は、クリスタルグループに所属するコラボレートである。
この会社は、先日、本紙の「偽装請負」の記事で紹介した光洋シーリングテクノにも労働者を「派遣」していた企業である。
報道によると、クリスタルグループは、バブル崩壊後の15年間で年商を10倍近くに伸ばし、売上高が国内だけで5000億円を超え、グループ企業は昨春の時点で200社以上、従業員は12万9000人を数える隠れた大企業だそうだ。コラボレートが手がける製造請負はその中核部門だったが、「偽装請負」に対する批判の高まりなどによって、抜本的な転換を余儀なくされた。
クリスタルは、1974年に京都市で設立され、当初は工場の清掃の請負が主な事業だったが、やがてメーカーの人手不足(実質は人員削減)を補うために、製造請負に乗り出したという。
生産量の増減に合わせて人数を自由に調整でき、人材育成のコストも減らせる。人件費を抑制したい不況下の企業にとって、不法な製造請負(「偽装請負」)は都合の良いことだらけであった。
こういう「偽装請負」が労働者の給料を下げ、企業の収益を生み出す根源になってきたわけである。
一方、こういう「偽装請負」解消の動きに対して、企業側はその是正に消極的であり、ただ収益を上げるためだけに「偽装請負」を温存し、以前に本紙で紹介したように、日本を代表する世界的企業が法律違反を承知のうえで、「偽装請負」を続け、バブル期にも達成できなかったような莫大な収益を築いてきたのである。
最近では、賃金の安い外国人労働者との競争も激しくなり、請負単価もどんどん下落し、それにつれて派遣される労働者の給料も低下の一途をたどっているのである。
しかし、考えてもみよう。労働者の給料をどんどん削って、収益を上げるようなやり方や企業が自前で人材を育てないようなやり方を一体いつまでつづけることができるだろうか。また、低賃金で働く労働者が日本中に蔓延した時に、一体誰がその商品を購入できるというのだろうか。
熟練した労働者はどんどん少なくなり、技術力は低下し、「安かろう悪かろう」の製品が大量に市場に出回ることになりはしまいか。実際に、トヨタの大量リコールやソニーの製品回収といった最近の事例を見れば、一目瞭然ではなかろうか。この10年間、日本の技術力は、企業収益に反比例するようにどんどん低下し、国際市場でもその評価と信用を低下させてきたのである。
このような手法について、企業全体として反省する時期が来ていると思われるが、個々の企業は価格競争の中に置かれているため、解消に踏み出しにくい側面はある。しかし、「高くても優れている」商品を提供し、繁栄している企業は多い。このような方向にこそ、企業の未来があるのではなかろうか。
また、法律によって企業全体を規制し、このような「偽装請負」を根絶し、ワーキングプアと呼ばれるような低賃金の労働者をなくし、それによって消費を拡大することが日本経済の健全な発展にとって最も望ましいと思われる。
かつて、フォードは自社の労働者に他社の2倍以上の給料を支払った。やがて、その労働者たちがフォードの自動車を購入し、瞬く間にフォードを世界一の自動車会社に育て上げた。そのような思い切った資金循環を作り出さない限り、日本経済の成長は望めないと思われる。

偽装請負とワーキングプア

2006年10月01日 | 格差社会
派遣と請負の違いについて調べてみた。
A社が受け入れ会社であり、B社が派遣、請負会社とする。
B社がA社に労働者を派遣し、A社の社員が労働者を指揮、監督する場合は、「派遣」とみなされ、労働者派遣法によって規制される。一方、B社が業務そのものを請け負い、使用者としての責任を負い、B社の社員が労働者を指揮、監督し、業務に責任を負う場合は、「請負」と呼ばれ、職業安定法により規制を受ける。
派遣の場合は、労務単価×人数×日数で計算されるのに対して、請負では、業務に対するその他の経費が発生する。
したがって、請負には実体が求められ、労働者を派遣するだけの「人貸し」だけの「請負」は、請負ではなく、「偽装請負」となり、職業安定法に違反する行為である。
このような「偽装請負」が蔓延する理由は簡単である。
派遣社員に対しては、同一の職場で1年間(2007年3月からは3年間)働けば、A社はこの派遣労働者を直接雇用する義務が生じるのに対して、請負ではその必要がなく、熟練した労働者を安い経費で「雇用」できるからである。
日本を代表するトヨタ、キヤノン、松下電器やその関連企業などでは、この「偽装請負」が蔓延し、安い労働力をテコにしたボロもうけが日常化していたわけである。
派遣される労働者の年収は、正社員の3分の1程度、残業がなければ額面で300万円にも満たないワーキングプアとなり、いま世間で話題になっている格差社会の縮図のような状況が1つの企業内に出現するのである。大企業に勤めているから勝ち組だなどとけっして思ってはならないのである。
トヨタの会長、キヤノンの会長は、財界の総本山、日本経団連の前および現会長の企業であり、こういう「偽装請負」は、財界が主導して、意図的に法律違反を犯してでも進めてきたものである。そして、自分のお膝元でワーキングプアを作り出し、これを日本全国に広げてきた張本人である。
格差社会の原因については、本紙でもたびたび指摘してきたように、労働者を派遣できる業種を際限なく拡大してきたことにある。さらに、財界、大企業は違法な「偽装請負」まで行って、この格差を拡大してきたのである。
一方、明るいニュースもある。
全国で広がる「偽装請負」に対する批判の声もあって、厚生労働省もやっと思い腰を上げ、今年9月4日に初めて偽装請負を是正するための「通達」を出し、本格的な是正が進み始めた。
トヨタの下請けの光洋シーリングテクノ(徳島県)では、「偽装請負」の労働者が労働組合を結成し、交渉の結果、直接雇用を実現した。年収はおそらく2倍以上になるであろう。
「自分だけは何とか格差社会の下流にならないように」という思いは誰しも持つ思いである。しかし、そう願い、個人として努力するだけでは、社会を変え、自らの生活を変えることはけっしてできないのである。
財界、大企業が熱望し、自民党などの財界応援政党が進めている大きな格差社会の流れを食い止め、推し戻すためには、かつての日本がそうであったように、同じ志を持つものが力を合わせて声を上げ、行動を起こし、社会や政治を動かす以外に打開の道はないのである。

格差社会は当然?

2006年09月12日 | 格差社会
格差社会に関するブログなどを見ていると、議論の本質を履き違えて、「格差があるのは当たり前」などという的外れな主張を行っているものがある。
編集長も、まったく格差のない社会、万民が平等な社会というのはあり得ないと思っている。万民が平等な社会なんて、想像しただけでも気味が悪くて仕方がない。
いま、世間で議論になっている「格差」問題というのは、格差の存在の是非、善悪や漠然とした格差の広がりを論じているのではなく、以前から存在した格差が、この10年の間にどんどん拡大し、日々の生活にさえ困窮する家庭、義務教育さえ普通に受けられない子供たち、正規社員として就業できない青年たち、再就職できない一家の大黒柱、医療や介護も受けられない老人たち、100万世帯を超えた生活保護世帯など、人間としての最低限度の生活さえ保障されず、もはや個人の努力などでは解決不能な例が増大していることについて、多くの良識ある国民が懸念を表明しているのである。
以前は、徴収された税金が、教育や医療、福祉などに使われ、一定の格差の縮小が行われてきた。しかしながら、所得税の最高税率の引き下げ(75%→37%)、法人税率の引き下げ、マル優の廃止、消費税の導入、相続税の軽減など、所得の再分配機能を低下させる政策が次々に実行されたことが、格差を拡大する最大の原因になってきたのである。
本紙において何度も論じてきたように、労働市場での規制緩和によって非正規雇用者が増加し、今や3人に1人が、派遣社員、請負、フリーターなどの非正規雇用者であり、その年収は正規雇用者の数分の1の水準である。この規制緩和で、富を集積してきた企業に対して、必要な規制を行わない限り、格差は絶対に縮小しないのである。
自民党の杉村太蔵などは、自らのブログの中で、「ニートやフリーターが増えるのも小泉改革の責任だって。 えっ、マジかよ?」などと述べているが、このような認識では、現在の格差の広がりを是正することはできないのである。
冒頭に述べたように、相応の所得格差が生まれることを編集長は否定しない。しかし、現状のように、人間としての最低限度の生活さえ確保されない人たちが多数存在する社会はあまりにも異常ではないか。このような異常なまでの格差は子供の世代に引き継がれ、階層が固定化され、教育や職業選択の機会均等さえ保たれない。人生のスタートはできる限り平等であるべきだ。にもかかわらず、生まれた時から人生に希望が持てない社会というのはいかがなものであろう。これでは逆に、労働意欲も減退し、社会の活力も失われるのではあるまいか。
格差是正のためには、まず低所得者層の底上げが必要である。そのためには、企業に対する規制を強化し、正規労働者の雇用の促進、サービス残業の根絶、残業時間や労働時間の大幅短縮、最低賃金の引き上げなどを企業の社会的責任として、法的に規制して実行させることである。トヨタなどで行われていた違法な偽装請負などはつい最近厚生労働省が行政指導を行い、解決への道筋ができたではないか。これらのことはやる気があればすぐにでもできることばかりである。
また、ホームレスや障害者、母子家庭、病人などの社会的弱者に対しては、さらにきめ細やかな施策を講じる必要があることは言うまでもないことである。
さらに、付け加えるならば、この10年間にわたって、このような愚策を推し進めてきた自民・公明の連立与党の責任を広く明らかにし、今後のあらゆる選挙では、このような政党には絶対に1票を投じないことである。国民の良識ある態度に期待したい。

格差社会への対応

2006年09月10日 | 格差社会
昨夜のテレビ朝日で放映された「緊急特番!!仰天格差社会ニッポン!」という番組を見た。
それなりに、現代社会の矛盾を告発する内容になっていたが、結論はどうもいただけない。
番組の中で、森永卓郎が今のような格差社会が出現した原因について、以前は派遣労働に対する業種が特定されていたが、その後の規制緩和、派遣労働法の「改正」によって、一般事務労働はもとより製造現場にいたるまで、ほとんどの業種に拡大されたことが述べられていた。
以前にも本紙の中で格差社会について論じたことがあるが、規制緩和の名の下に、派遣労働があらゆる業種に認められるようになったことが、現在の賃金格差、収入格差の根本的な原因である。
収入の格差はそのまま結婚や子供の教育、健康、老後の生活資金などの格差につながっていることは明瞭であろう。
これに対して、番組が提供した答えは、余りに貧弱なものであった。
女性のコメンテーターは、生活保護制度を取り上げ、それを就労や教育支援などのバックアップ機能を兼ね備えたものにする必要があると主張していた。この主張には、一定賛同できるものがあるが、そもそも、生活保護などがなくても自立できる、働く意思のある者がきちんと正規職員として働けるような社会の仕組みを作ることが重要なのではなかろうか。
また、都会のサラリーマン暮らしを捨て、田舎で自給自足に近い農業に取り組み、年収300万円でも豊かな生活が送れるという例が紹介されていた。この例などは、森永氏の著書(「年収300万円時代の経済学」)に対応した内容である。
確かに、豊かさというものは、経済的な基盤によってのみ成り立つものではなく、編集長もこうした田舎生活に憧れている一人である。しかし、個人の努力や工夫によって、格差社会を乗り切れるという主張には賛同しがたい。
このような格差が生まれた最大の原因は、森永氏も主張しているように、規制緩和によって、派遣労働の業種をどんどん拡大し、さまざまな業種で企業が安い労働力をふんだんに利用できるようになったことが最大の原因である。また、偽装請負など、違法な派遣労働を野放しにしていることに最大の原因がある。「規制緩和」という言葉を聞くと、庶民の多くは何か新しいことが行われると期待をするが、この労働者派遣法の実態は、企業の儲けにとって不要あるいは邪魔な「規制」を撤廃しただけの話であり、賃金の切り下げに道を開いた最悪の法律「改正」であったことは間違いない。
読者諸氏は、ボトム10という言葉をご存知だろうか。ある外資系企業では、能力主義を導入し、成績評価の悪い(言い換えれば、会社にとって都合の悪い)10%の社員に露骨な退職干渉などを行っている。個々人が努力しても、社員全員が平均点以上の成績を取ることは理論上まったく不可能である。ボトム10を退職させた後には、また新たなボトム10が出現し、退職を強要されるという悪循環を生むのである。
したがって、個人の努力次第で、年収が下がっても生活できるなどという番組の結論はどうもいただけないのである。
個々の国民は、自らの努力や能力開発を怠ってはならない。それは当たり前である。しかし、多くの国民が、現在の格差社会に矛盾を感じているのなら、規制緩和の名の下に行われてきた派遣労働、不安定雇用を元に戻して、企業に対する規制強化を改めて行うよう政府に要求することなくして、現在の格差社会を解決することは不可能であろう。

格差社会

2006年08月18日 | 格差社会
勝ち組、負け組、希望格差、縦並び社会、下層社会、下流社会、ヒルズ族、セレブ、…等々。最近、格差を言い表す言葉が次々と生まれている。
現時点で、それなりの資産を有し、家族や親戚も健康で、定職に就き、月々の収入があり、日々の生活にまったく困っていない人は、「きちんと働けば格差なんて関係ない」、「自分だけは負け組になることはない」と思っているのではなかろうか。
確かに健康で、定職を持って働いている限り、日々の生活に困ると言うことは通常はありえないことである。
社会の中には、ギャンブルや浪費によって自らの生活を破綻に追い込んでいる例があることを編集長はよく知っている。ここでは、こういう特殊な例について論じるつもりはない。
現在、編集長は、とあるマンションの管理組合の理事長をしているが、管理費の滞納の多さに驚いている。いずれの滞納者も普通に生活している人ばかりだ。
現在の社会は、家族の病気、入院、世帯主の失職などで、数ヶ月、数年のうちには管理費の支払いにさえ困るようになるのだ。
病気、会社の倒産、リストラ、就職浪人など本人の意志とは関係のない理由で、生活に行き詰る家庭が増えているのは確かであろう。
以前は、派遣や請負が可能な業種は限られていたが、規制緩和の影響でその業種はどんどん広がり、労働経済白書によると、正規雇用は1996年に3800万人だったが、2005年には3333万人に減少。一方で、非正規雇用は1996年の1043万人から2005年には1591万人に増加。非正社員は5人に1人から、3人に1人の割合になった。そして、非正規雇用の多くは若年者である。
最近は話題にもならないが、耐震偽装問題、JR西日本の列車事故、最近起きた埼玉でのプール事故など、「民間にできることは民間に」とばかり、安かろう悪かろうの民営化、民間委託を進めた結果がこの社会現象である。
特に、定職に就けない、同じ業務をこなしていても正規職員の半額にも満たない給料で働かざるを得ない社会のあり方というのはいかがなものであろう。
「きちんと働けば格差なんて関係ない」、「自分だけは負け組になることはない」と思っている人の家族や親戚、知人の中にも学校の卒業後に定職に就けなかった子弟は多いのではなかろうか。あるいは、障害を持って生まれたり、人生の半ばにして事故や病気によって健康を損ない肉体的あるいは精神的な障害を受け、定職に就けない人、定職を放棄せざるを得なかった人は意外に多いのではなかろうか。このような人生にありがちなさまざまな困難によって、数ヶ月、数年のうちに多くの国民が生活に困窮する社会というのはいかがなものであろう。それともそのような境遇に実際に身を置いてみなければ、その際のくらしが実感ができないほど、人間の創造力は貧困なのであろうか。
憲法に明記された健康で文化的な最低限度の生活を保障することこそ政治の責任であろう。
しかしながら、この10年間に進められてきたことは、「規制緩和」の名の下に、大企業の業績向上のための非正規雇用の拡大、リストラ減税、安易な民間委託など、結局は財界の言いなりになってどんどんと規制緩和を進めただけではないか。その結果、神武景気を上回る景気回復とはいうものの、景気がいいのは大企業のみであり、個人の生活はそれとは程遠いのが実感ではなかろうか。
格差社会という言葉の裏には、大企業が不良債権という莫大な借金を解消し、更にもうけを積み上げて来た一方で、庶民の暮らしが切り捨てられ、勝ち組=大企業と負け組=庶民といった構図があると思われる。
政府が進めてきた規制緩和の舞台裏については、別稿にて考えてみたい。