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反日批判本 韓国でヒット…徴用工・慰安婦 通説に反証 非難も

2019/09/11 05:00 読売新聞
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ベストセラーとなっている学術書「反日種族主義」
ベストセラーとなっている学術書「反日種族主義」10日、ソウルの外国人記者クラブで記者会見する李栄薫氏=豊浦潤一撮影10日、ソウルの外国人記者クラブで記者会見する李栄薫氏=豊浦潤一撮影

 【ソウル=豊浦潤一】韓国の経済史学者ら研究者6人が、朝鮮半島を戦前に支配した日本を悪とする韓国の通説を覆した学術書「反日種族主義」を出版し、10万部を超えるベストセラーになっている。代表的な著者の李栄薫イヨンフン元ソウル大教授(68)は10日、ソウルの外国人記者クラブで記者会見し、「韓国社会の集団的な偏見を打ち破ろうとした」と執筆の理由を語った。

 ■翻訳出版も計画

 この本は7月初めに出版され、歴史的資料を基に、徴用工、慰安婦、竹島など日韓の対立要因となった問題を説明している。日本での翻訳出版も計画されている。

 内容の4割を占める慰安婦問題をめぐっては、韓国内で初めて、慰安所の法的根拠や慰安婦制度の変遷を通史として研究している

徴用工については、韓国大法院(最高裁)が昨年10月、日本企業に賠償を命じた確定判決に触れ、判事たちが原告の言い分が事実かどうか検証せず、「国の根幹を揺るがすでたらめな判決」を下したと記した。

 その上で、日韓の歴史問題が積み重なったのは、韓国人の精神文化の根底に、客観的な議論を許さず、隣国の日本を悪とみなす種族(部族)主義があるためだと分析した。李氏は記者会見で「非科学的な歴史認識のままでは韓国の将来に希望はない」と語った。

 ■売り切れ続出

 「反日種族主義」は、日韓関係の悪化が深刻な状況で出版されたことから、各書店で売り切れが続出した。李氏は本の内容が「新たな歴史解釈を渇望する成熟した市民の欲求を満たしたからではないか」と分析した。

 韓国で日韓の歴史問題のタブーを扱った著作としては、世宗大の朴裕河パクユハ教授の学術書「帝国の慰安婦」(2013年出版)がある。朴氏は、慰安婦たちが「日本軍と同志の関係にあった」と記し、元慰安婦への名誉毀損きそん罪で起訴され、現在上告中だ。「反日種族主義」はより広範なテーマで「神話化、権力化した歴史認識に対する挑戦」(中央日報コラム)を試みたと評価されている。

 ■「吐き気がする本」

 そのため、反日左派のチョ国グク法相は就任前の8月5日、フェイスブックで「日本政府の主張をオウムのように繰り返している」、「吐き気がする本」などと非難し、李氏が3日後に、新聞で公開質問状を出すなど論争に発展した。

 韓国の一部の歴史家の間では「反日種族主義」について「自分たちの主張に合致する歴史的資料だけを引用している」といった批判もある。韓国で歴史認識は、最も敏感な政治問題でもあり、論争は熱を帯びている。

 イ・ヨンフン 1951年9月、韓国南東部の大邱(テグ)市生まれ。2002~17年、ソウル大経済学部教授。旧朝鮮総督府が実施した土地調査事業など経済史の専門家。16年からソウルで市民講座「李承晩学堂」の校長を務める傍ら、18年からユーチューブ放送「李承晩TV」を通じて歴史講義を行う。著書に「大韓民国の物語」など。