道徳の教科化 規範意識の涵養につながるか(1月12日付・読売社説)
社会のルールを守る規範意識を涵養(かんよう)し、他人を思いやる気持ちを培うことは大切だ。子供たちに対する道徳教育の充実が欠かせない。
文部科学省の有識者会議が、正規の教科ではない小中学校の「道徳の時間」を「特別の教科」にして、授業のレベルアップを求める報告書をまとめた。
政府の教育再生実行会議が昨年2月にいじめ防止対策の一つとして教科化を提言し、それを踏まえて検討が重ねられてきた。
教科としてきちんと位置付けることで、教育現場に道徳の重要性を再認識させ、指導の改善を図ろうとする方向性は妥当である。
戦後の道徳教育は、国家主義的色合いが濃かったとされる戦前の「修身」へのアレルギーから、必要以上に軽視されがちだった。
現在、道徳の時間が週1コマ設けられているものの、教科書はなく、教え方は現場任せというのが実情だ。学校や教師によって、取り組み状況に差も見られる。
他の教科の補習などに振り替えられているケースもあり、かねて形骸化が指摘されていた。
ただ、教科化を実現するにあたっては、課題が多い。
例えば、どのような教材を用いるかだ。報告書は、教材を安定的に供給する観点から、検定教科書の導入を提案した。
道徳の教科化に対しては、国による特定の価値観の押しつけにつながるとの批判が根強くある。民間の教科書会社に製作を委ねることにより、こうした懸念を払拭する目的もあるのだろう。
だが、教科書会社の創意工夫を尊重するにしても、仮に、偏った価値観や特定の主義主張に基づく教科書が作られた場合、どこまで認めていくのか。
今後、具体的な検定基準を策定する際には、様々なケースを想定し、幅広い議論が求められる。
道徳の授業は、学級担任の教師が担当することになる。それなら大学の教員養成課程や教育委員会の研修を見直す必要もあろう。教師が適切な指導方法を習得できるようにすべきだ。
道徳は子供の内面にかかわる分野だけに、成績評価が難しい。
報告書が、国語や算数・数学など通常の教科のような数値評価ではなく、学習の様子を記述式で評価する方法を検討するよう促したのはうなずける。
優劣をつけるのではなく、子供一人ひとりの努力や成長の足跡を丁寧に記録する。そんな評価の在り方を工夫したい。