あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

白洲正子から、車谷長吉へ

2007-02-09 10:56:20 | つらつら思うこと
白洲夫妻の武相荘に集合して、
あの環境で、いろり端で語る人の中に、
私の好きな、車谷長吉氏も加わっている。

好きだというと、
あの変人の、いやったらしい、
粘着質な茅葺き家の裏の陽のあたりの悪い所が好きなは虫類系の、
しかし、得体の知れない何かを持っている、
そこに変なジェラシーさえ感じる、
そういう人だけど、
あなた、好きなの??

といぶかる声も聞こえてきそうだが、
そういう人がいることを看過できないのだ。
左脇下にぽつんとしたほくろがあるように。

小説家になるということは、悪人になるということだ、と車谷氏はいう。
「くるたまに」さんと時々呼ばせたり、
下品なおじさんを哀しげに描くと、それが自分だったりする。
自虐性質満載。
だから、精神も煩って、10年近くの闘病を暮らしている。
切ない真面目な悪人だ。
でも、あなただけじゃない私も相当の悪人だ。
悪人を楽しまなければ、本当の悪人になれない。
車谷氏は、申し訳なく、悪人をお詫びしながら生きているようだ。
私は、いいんだ、仕方ないや、とやり過ごせている。

何故、そんな人が白洲邸の炉端に座っているのか。
一座語っている人は、車谷氏の他、水原水苑という女流作家?
コピーライターの中畑貴志、次の日は、中畑氏の代わりに、
演劇評論家の渡辺保氏。

正しいNHKの司会アナウンサーおばさんも、
この人達にはぁと相づちをうつばかりで、
見ている人々はこのおばさんと同じだった。

中畑氏の骨董コレクションを去年松濤美術館で見ている。
驚きの物ばかりで、この人はいったい何もの??
と思ってしまった。
彼は、それでも精神は健全だと思った。
うっしっし~~いいの、持ってるでしょ?
と言いつつ、白洲正子の蛇に撒かれて、喜んでいる感じがするから。
いい人だ。

水原女史が解らなかった。
女史が醸し出す不思議感は、一体なんだろう?
自堕落な悪人をしていないからだろうか。

演劇評論家の渡辺氏は、直球の的当てにいつも真ん中大当たり。
すかっとする。
氏のことはまったく知らなかったが、
先日の日曜美術館で、ギメからきている浮世絵の解説者側に座って、
実際の歌舞伎の有り様を披露してくれたりで、引き込まれた。
演劇は、現場で観る物だと思った。
その時代の歌舞伎を見てこその役者絵なのだろうな、とも。

そういうメンバーが、白洲正子に連綿と恋文を語っていた。
もしかして、
車谷氏の孤独感と、白洲正子の孤独感の暗闇が合致したのだろう。
孤独を埋めるのに、
白洲正子は能があったし、古典文学や、西行や、明恵上人が側にいてくれた。
車谷氏は精神を病んで、それでも文筆をやめないで、
悪人となって、孤独を背負って、小説を生み出している。

孤独の闇の色。
その色が近い人達の集まり。
そこにいろりがある。

ぱちぱちと音を立てて、静寂のような、饒舌のような。
骨董が無口な人を語らせている。
なんなのだろう、骨董って。
しかし、憎たらしいぐらい、素敵なのだ、かっこいいのだ。
それを選んだ、白洲正子の眼光を一度でいいから
浴びて、縮こまってみたかった。
ま、今でも残されたものの欠片、文章、などなどから、今でもおびただしい
閃光が炸裂していることは、言うまでもないけれど。

TVに写る様々な孤独の色に見とれながら、
嬉しく、じっと側で楽しんだ。

しかし、西行が解る日がやってくるのだろうか、と気が遠くもなった。

車谷長吉(くるまたに ちょうきつ)
  「鹽壺の匙」(しおつぼのさじ)新潮文庫 三島由紀夫賞受賞 
  「武蔵丸」          新潮文庫    
  「愚か者」          角川書店

日々の暮らしにたっぷり悪が潜んでいることを知ります。
ひとり暗い部屋で読んでください。
束芋的な、スパイシーな一時がやってきます。

白洲正子
  「西行」  新潮文庫
  「明恵上人」講談社文芸文庫 

あぁ、なんと無知で、未熟な浅い。を実感します。

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6 コメント

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どうぞよろしく (fuku(ginsuisen))
2007-02-12 10:55:53
コメントありがとうございました。
こちらにもお邪魔してみました。
>あの変人の、いやったらしい、
>粘着質な茅葺き家の裏の陽のあたりの
>悪い所が好きなは虫類系の、
>しかし、得体の知れない何かを持っている、
>そこに変なジェラシーさえ感じる、
最高ですね、この表現。

武相相・・行かれましたか。
あの寒さに閉口しました。
知人は、仕事で白州さんに会ったそうです。
夏の暑さと蚊の応酬に閉口したそうです。

あの番組での私の収穫は車谷さんです。
テレビは怖いですね、人間生をモロに見せてしまいます。そういう意味で紫苑さんはつかめませんでした。
能楽堂でもよくみかけますが・・

またお邪魔します。

得体の知れない世界 (雪月花)
2007-02-12 15:22:41
あべまつさん、こんにちは。
この番組はもちろん録画しながら見ていました。出演者の方々の顔ぶれを見ますと、白洲さんの懐の深さが知れますね。わたしなど、番組見始めてすぐに水原紫苑さんをハネてしまいましたけれど、白洲さんは相手の口から出る言葉や態度だけでその人を判断しなかったようなので、そのあたりに得体の知れないものを感じてしまいます。「白洲さんから○をもらった人」という区別の仕方に腹を立てつつも、何か気になってしまうから口惜しいですね(笑
白洲さんの足跡だってかなり偏りがあるのに、それを堂々と世間に通してしまうあの凄みはいったい何なのかしら‥
fuku(ginsuisen) さま (あべまつ)
2007-02-12 22:14:13
ようこそお出で下さいました!

車谷氏の著作をもう何年前になりますか、
三島賞を取った、「塩壺の匙」を読んで、驚いたのです。この人、何者だろうと。

武相荘には、友人関係者の中でもアタシ一人まだ行っていないのです。鶴川、遠いのです。
もうそろそろ行き時かもしれません。

白洲正子にハンコを押された人々、本当に今も凄いのか、こちらも手を抜くわけにはいかないと、妙に力が入ってしまいます。(笑)
どうぞ、これからもヨロシクお願い致します。

能のこと、勉強したいと思っています。
やはり、白洲さんを学ぶなら、敷居が高くとも、通らなければなりませんね。頑張ります。
雪月花 さま (あべまつ)
2007-02-12 22:34:00
こんばんは。
雪月花さまもきっとご覧になっていただろうと思っていました。
白洲さんがいいと仰ったのが全て私もOKとは思わないのですが、目の付け所、そこが壺にはいるのです。
それだけが私を踊らせます。

いろり端の空気が交わらない所が可笑しかったですね。武相荘に行って、土鍋料理が出るのなら、円座となって、ざっくりして欲しかったです。

対象物を凝視して、えぐり返し、我が物としていくところは、誰にも出来ない技だと思っています。
悲しいけれど、足元にも及びません。
仕方なく、庶民で良かったと思っています。(笑)
敷居はないです (fuku(ginsuisen))
2007-02-13 09:50:10
また、お邪魔しました。
あべまつさん、白州さんの本を読めばわかるように、
能は、決して敷居は高くありません。
敷居を感じるのは、見る側の意識の問題ではないかと思います。・・・これは私の戒めでもあります。
私も、入るまでは、わからなかったことです。
どうぞ、いらしてください。最も、誰を見るかで大きく左右されますが。余計ごと失礼しました。
fuku(ginsuisen) さま (あべまつ)
2007-02-13 16:23:08
こちらへは、何度でもお気軽にお立ち寄り下さいませ。歓待です。

能への誘い、ありがとうございます。
確かに、お茶にしても、骨董にしても、歌舞伎にしてもともかく入らなければお話になりませんよね。

薪能や、能面、装束、そういったところには、何度となく観てきてはいるのですが、
向こうから、いらっしゃいの声を聞き逃さないようにしたいと思っています。
その時は、助けて頂きに寄らせて頂きますので、ヨロシクご教示お願い致します。

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