あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

誌上のユートピア・うらわ美術館 つづきその5

2008-06-03 17:57:18 | 美術展
Ⅳ章 「方寸」と創作版画の出発

うらわ美術館の会場で、この「方寸」という美術雑誌を初めて見た。
何と素敵な表紙絵の雑誌だろう!
ずらりと並んでいる様も圧巻だ。
この本を所蔵している、
小野忠重版画館の所蔵印の版画カットも素敵。
なにしろ、「方寸」のロゴがめちゃくちゃ格好いい。
活字と写真、版画やカットがデザインも秀逸、
バランスよく配置されて、色数は少ないけれど、
だからこそ使い方が効いている。

 ・「方寸」1907~1911 35冊刊行
  美術・文芸雑誌の雑誌として、石井柏亭、山本鼎、森田恒友の
  3人によって創刊された。
  西欧で「ココリコ」「ユーゲント」という雑誌があることに
  影響されて、デザインからもそれが伺える。
  図録の解説に
  「日本近代の美術と文学の両方に関心をもつ人間にとっては、
  金字塔のような存在である」(橋秀文氏)
  という一文があったが、これが全てを表現していると思った。
  後に北原白秋と「パンの会」を開催し、
  画家・文人の交流の場となり、
  パリのセーヌ河に思いを馳せ、隅田川河岸のレストランに拠点を持つ。
  ずっと後もその「パンの会」を目指して「皿」という雑誌が出た。
  かの川端康成、横光利一、「パンの会」メンバーだった木下杢太郎、
  長田秀雄、吉井勇などが名を連ねた。
  「方寸」を目指す雑誌が時間が経った後にも生まれる事は、
  その存在の大きさを知ることになる。

 ・「屋上庭園」1909~1910
  「パンの会」の機関紙。
  北原白秋達が黒田清輝の絵を創刊号で表紙絵に使ったり、
  白秋は「おかる寛平」を寄稿するが、
  それが発禁の原因となり、あえなく2号刊行しただけで廃刊。
  その前に、石井柏亭と、山本鼎の挿絵をいれた
  「邪宗門」を上梓するが、
  この絵と詩が、もの凄いインパクト。(紹介画像)
  白秋は童謡を沢山書いた夢見る詩人ではなかったか?
  今となって、もの凄い情念の強い人だということが思い知らされる。
  2行だけご紹介。
  「邪宗門」
   われは思ふ 末世の邪宗切支丹でうすの魔法
   黒船の加比旦を 紅毛の不可思議を・・・・

  南蛮趣味という、宗教趣味に対する憧れを文学にしてしまうのは
  白秋の魔法ではないか?すごいシュール。
  その後、耽美趣味の
 ・「朱欒」ざんぼあを刊行。1911~1913
  そのプロデュースで白秋の才能を発揮する。
  拙いカットも自分で描いたり、
  集まってきた文学人は大正文学の重鎮メンバー。
  魅力ある文芸誌ではあったけれど、白秋自身の恋愛沙汰で
  あえなく終刊。

他には、
石井柏亭の「東京十二景」の浮世絵の香する艶っぽい女性図。
おもわず滝田ゆうを思い出した、織田一磨の石版の「東京風景」
ことごとく、甘美でいい時代だったのだなぁと、しっとりする。

西洋画とアール・ヌーボーの嵐に巻き込まれた日本で、
西欧志向の熱狂の渦巻きから、自身の姿に変容していく様は
実に楽しいし、充実感あふれ、活気あふれている。
なにより表現が素敵で、都会的で、かっこいい。

後々にも多大な影響を与え続ける「方寸」
ほんの胸の中の小さな場所ではなく、
絶大な広場となって、
いつまでも雑誌作りの憧れ、
金字塔であり続けてもらいたいと願った。

ようやく、Ⅰ~Ⅳ章が終わりました。
後Ⅴ、Ⅵ章。ここまできたので、終わりまで頑張ります。
後もう少し、つづく。  

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2 コメント

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頑張ってください (とら)
2008-06-05 19:13:21
わたしは、第1章と第2章は別々に書きましたが、第3章以降はまとめて流してしまいました。今は、反省しています。
勢いのあるうちに、熱の冷めないうちに、続けてアップしてください。
明日から、また旅にでますが、日曜日に帰ってきますので、そのときに[FIN]と書かれていることを期待しています。
返信する
とら さま (あべまつ)
2008-06-06 23:10:14
こんばんは。
檄文ありがとうございます。
頑張って、終了できるよう勤めます。
とらさんに言って頂けたので、お尻に火がつきました。笑
この展覧会は、美術界に疎い私にとって、
とても良いテキストになってくれました。
様々な画家さん達が糸に繋がってくれたようです。

今度の旅も、記事になること、楽しみにさせて頂きます。お気をつけて~
返信する

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