阿部ブログ

日々思うこと

社会インフラ・ヘルス・モニタリング

2013年05月28日 | 雑感
東京大学の工学系研究科・総合研究機構、藤野陽三教授のお話をお聞きする機会を得た。

藤野教授の学歴は、
・昭和47年4月 東京大学大学院工学部土木工学科卒業
・昭和49年3月 東京大学大学院工学系土木工学専門課程修了,工学修士
・昭和51年9月 ウォータールー大学工学部博士課程修了,Ph.D

藤野教授の専門は、橋梁の設計・建設。特に橋を中心とした社会基盤構造物の計画・設計・モニタリング・マネジメントが専門領域で、この他、動的外乱に対する応答予測と振動制御、長大橋の風に対する応答予測,風工学、橋梁の耐震,地震工学、都市の安全,知動化空間などの研究活動も行っている。
今まで携わったプロジェクトは国内では、
 ①本州四国連絡橋(瀬戸大橋,明石海峡大橋,多々羅大橋など)
 ②東京レインボーブリッジ
 ③横浜ベイブリッジ
 ④鶴見つばさ橋 
 ⑤名港トリトン 
 ⑥白鳥大橋(北海道 室蘭)
 ⑦東神戸大橋
 ⑧碓井橋(長野県)などがある。

また海外では、
 ①ロンドンのミレニアム橋(歩行者に振動制御に対するアドバイサー)
 ②香港のストーンカッター橋(設計パネルのメンバー)
 ③バングラディシュのパドマ多目的橋(JICAのFSアドバイサリ委員会委員長)などがある。
橋梁以外ではヒースロー空港新管制塔の風に対するアクティブ制御とその装置に対するアドバイサーを務めてもいる。

藤野教授の言いたいことは、インフラのヘルス・モニタリングと言っても、ありきたりだが結局イイモノを作るに尽きる。米国の友人曰く、競争入札で作った橋梁が一番弱く、劣化が早いと言っていた。今後の社会インフラ整備を考えると日本も一般競争入札は止めるべきだと考えている。利益を生むためには必然的にコストを削減せざるおえなく、出来上がったインフラは脆弱性を秘める事となるが、それは作った当事者もわからないからだ、と言うこと理解した。

藤野教授の話の概要を以下に列記する。

・米国では、1940年代から本格的なインフラ整備が行われ、既に1970年代から劣化が問題視されており、現在、橋梁だけで60kmに達するインフラを、年間半分の30万kmの目視点検を義務付けて実施している。日本は義務ではない。
・また2007年から定量データを集める「長期橋梁性能プログラム」がスタートし、20年間にわたりデータを収集分析する。この間に廃棄される橋梁については解剖的解明処置が行われる予定。米国の素晴らしい所は、20年と言う長期に渡りプロジェクトを遂行する点にあり。日本の国土交通省が行う同様のプロジェクトは高々5年に過ぎない。結局、データ収集期間が短い為にデータの任意修正と推測を織り交ぜての分析となる為、実質的に役立つデータとはならないだろう。

・解剖的解明とは、取り壊す橋に人工的に損傷を与え、振動などの構造特性にどのような影響がでるかを調べ、橋梁の状態評価を行うこと。EUでは具体的なプロジェクトとして動いており、オーストリアのウィーン=ザルツブルグ間の高速道路を跨ぐPC橋が高速道路の拡幅に伴い撤去されることになり、この機会を期に解剖的解明がなされた。つまり人工的に橋梁に変状を加え、それに伴う橋梁挙動の変化を詳細にモニタリングした。

・このPC橋の4本の橋脚のうち1本について、仮の支柱を併設し荷重を移した上で切断し、PC床版上面近くのテンションケーブルの切断がどのような影響与えるのか。橋の動特性や構造特性に及ぼす変化を実地で計測し、損傷の程度との定量的な関係についてのデータが得られている。アメリカ、EUなど先進国では、橋梁の状態評価は共通する課題であり、様々な実測データを共有することが必要とされている。

・日本において重要なのはストックマネジメント(センシングなど)とリスクマネジメント(地震など)、それにアセットマネジメントを加えたトータルなインフラのマネジメントシステムが必要。

・インフラのヘルス・モニタリングの重要なポイントは、どこに当たりをつけたら良いか?を判断・決定し、実際に計測して分析、そして必要な処置を施す事。問題は見えない部分にあり、今までの橋梁崩落事故の殆どは、目視出来ない部分の劣化、若しくは設計ミスによるものであった。またモニタリングの場合、何を測定するのか?測定したデータは誰が分析するのか、どこにセンサーを付けるのか?この問題解決は難しく、自分も解を持ち合わせていない。

・さらにセンサーのコストが問題。良い精度を得るには高価なセンサーが必要となり、コストが嵩む。コストが嵩むと少量のセンサーしか付ける事が出来ずに、全体像の把握に役立つデータを得る事が出来ない。安いセンサーだとデータが粗く使い物にならないと言うジレンマを抱えている。センサーの価格がワンオーダー下がると、インフラのセンシングは普及する可能性がある。

・明治以来、100年以上にわたって、社会インフラの整備が行われ、今や国や地方自治体などの公的機関が所有して社会インフラは1,000兆円を超える規模となっている。戦後、高度経済成長期、特にオリンピックを契機とした時期には、膨大な数の社会資本が整備が行われ、当時は短期間に大量に安く造る必要があったので、品質的かつ強度的に問題のあるインフラが数多く生まれる要因となり現在に至っている。

・これは橋梁も同じで、明治以降に橋の建設数が多かったのは、1923年に起きた関東大震災後の震災復興の時期と、1964年の東京オリンピック前後。この2つの最盛期に造られた橋の補修費を比較すると、80年前に造られた古い橋に比べて、40年前に造られた橋の補修費の方が多いのです。今でも関東大震災の震災復興で作られた永代橋が今だに現役なのは、先程述べたように「イイモノ」を造ったから。つまりセンシング以前にやる事がある。

・そうは言っても社会インフラの経年劣化に伴う事故が多発し、東海・東南海・南海地震の発生など地震災害を含め、安全・安心な社会を維持する為には、構造物の健全性を定量的かつ客観的に評価することが可能な構造ヘルスモニタリングシステムの構築が重要。

・インフラのリスクは「ハザード」と「脆弱性」によって決定される。全国に張り巡らされたインフラ群を対象としたハザード、脆弱性についての要素技術を統合し、モニタリング、データ送信・処理に関わる実用性の高いシステムを構築し、インフラ・リスクの統合的評価手法の確立を目指すべく活動を続ける。

・インフラの特に劣化した都市基盤における災害や事故防止による安全・安心の実現に向けて、リスクを定量的に評価・監視し合理的なリスクマネジメントを支援する統合センシングシステムを開発する。また国土強靭化にも関係するが、長期的防災保全の最小化、災害事故の事前防止・影響波及の最小化と言う目的を達成する為に、
 ①インフラ、特に重要な都市基盤のリスクをリアルタイムに監視し、
 ②そのリスク特性を明らかにした上で、合理化かつ迅速に必要な対策を講ずる。

・この為に、インフラの「ハザード」×「脆弱性」をセンシングし、それを統合したリスク評価を行う基礎的技術を確立し、光系センシング、電気・磁気系センシング技術に関する基盤技術の高度化を図り、社会実装に向けたシステム開発を行う事。特に前述のようにセンサーのコスト低減が重要である。またセンサノードを増加させ、そのネットワーキングを適切に運用管理し、データの分析と結果の伝配送技術の洗練化も必須である。

以上だが、事例として面白いと思ったのはロンドンのミレニアム橋だった。これは後日書いてみたい。

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