阿部ブログ

日々思うこと

オイルサンド と トリウム溶融塩炉 と バナジウム

2011年09月12日 | 日記
多胡敬彦氏の最新著書『石油崩壊』を読んだ。とても読みやすく新幹線の中で一気呵成に読了。
面白かったのは、太陽光や風力、それと原子力は“電気しか生み出さない”。

成る程~石油はプラスチックなど様々な製品の原料となり、将に今の文明を支えているが、今はやりの再生エネルギーはその通り電気しか生まない。しかも原子力は、電気の他、やっかいな放射性廃棄物を大量に生み出す。

それと北米共通通貨アメロの話や、米国のクラッシュプログラムによる債務返済関連では、実はドルには2種類あり、符牒のあるドルと無いドルがあるとか?
いや、面白い。

最後には、やはりシェールガスなど非在来型石油・ガス資源に紙面を費やすと思いきや、同書の最終部には、トリウム溶融塩炉について書いてある。これには驚いた。
まあ、何故今までトリウム原子力が注目されなかったのか、とか中国がトリウム溶融塩炉の開発に乗り出したとか、ごく普通の内容ではあるが、何故トリウムか。

しかし、多胡氏の提案は、非在来型石油資源である「オイルサンド」の生産にトリウム溶融塩炉を使うというアイディア。
カナダのオイルサンドの80%は地下数十メートルに存在する。このオイルサンド層に対し最初垂直に、それから水平に掘削する。
この穴にパイプを通し、水蒸気を送り込んで高温で蒸し、油分を溶かして回収する、所謂「SAGD法」と呼ばれる採掘手法が用いられている。
この水蒸気を送り込む際に、当然地上では水を沸騰させる必要があり、これに燃料代などのコストがかかるのだが、多胡氏によるとこの水蒸気に変わり、トリウム溶融塩炉から出る高温の溶融塩を用いるて油分を溶解し回収するというもの。

オイルサンドの生産にトリウム溶融塩炉を用いる事により、高温高圧な水蒸気にする天然ガスが不要で、「水」が不要、しかも溶融塩は500度~600度に達する超高温で生産性が高まる。
確かに水が不要とは言わないまでも、最小にできるのであれば、NHKオンデマンドで見たオイルサンド生産地域の悲惨極まりない環境汚染を軽減出来るだろう。

オイルサンド生産に必要なのは一にも二にも『熱』が必要で、これにトリウム溶融塩炉などの原子力の最大特徴であるエネルギー密度の高さを利用するのは利に叶っている。

『石油崩壊』と言う書籍からトリウム溶融塩炉の話がでるとは意外だったが、サンドオイルの生産に役立つのだ~という多胡氏のお考えは斬新である。

さて、トリウム溶融塩炉の熱で生産性を挙げる事が出来ても、実はオイルサンドには、レアメタルのバナジウム (vanadium)が含まれており、サンドオイルから抽出された原油のバナジウムはポルフィリン化合物として揮発性を持ち、製油によって重油に移行するが、これがタービンなどでの燃焼時に酸化物となると、鋼材表面の不動体皮膜を低融点化させる高温腐食現象、所謂バナジウム・アタックを引き起こしガスタービン・エンジンで非常に高価なフィンを傷めるケースが多く大きな課題となっている。更にバナジウムは触媒毒となるため、燃料重油中のバナジウムは十分除去されるのが望ましいが、バナジウム除去技術は確立されていない。

バナジウムはは原子番号23、元素記号V。バナジウム族元素の一つ。灰色がかかった銀白色の金属(遷移金属)で、主要な産出国は南アフリカ、中国、ロシア、アメリカで、この4か国で90%超を占める。バナジン石などの鉱石から算出されるが、上記の通り原油やオイルサンド(原油分を含んだ砂)にも多く含まれている。しつこいが、オイルサンド(極めて粘性の高い鉱物油分を含む砂岩)やオイルシェールから得られる重質油の燃焼灰にも希少なバナジウムが含まれているのだ。

さて世界中に埋蔵されているオイルサンド、オイルシェールから得られる重質原油は5兆バレル以上と推定されており、原油代替の石油燃料資源として注目を浴びている事は衆知。
大規模なオイルサンドは、カナダ・アルバータ州、ベネズエラ東部のオリノコ地域やコンゴ、マダカスカルにも分布している。
特にカナダ産オイルサンドからの重質の合成原油にはバナジウムが66ppm、残渣に249ppm 含まれている事が判明しており、カナダのオイルサンドから得られた油分には160ppm 程度のバナジウムが含まれているとの報告もあるようだ。
更にベネズエラのオリノコ河流域に埋蔵されている“オリノコタール”の資源埋蔵量は膨大で推定可採埋蔵量約2700億バレルの超重質油だが、バナジウム濃度は400~500ppm に達する。

いずれにせよ、オイルサンドを高性能タービンでも利用するためにも、貴重な元素であるバナジウムを除去する必要がある。